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カボチャ頭のランタン  作者: mm
17.Holy Days
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 目蓋を開くと海水が目に染みる。

 耳に音を立てて海水が流れ込んでくる。すっかり耳の中が海水で満たされると不思議と遠くの音がよく聞こえた。

「ランタンさま」

 同じように潜っているルーが囁いた。

 唇の口元から気泡が漏れ、それがぱちぱちと音を立てて弾ける。

 なに、と応えようとするが口の中に海水が滑り込んで声にならない。ランタンは結んだ唇から海水を押し出すように吐いた。口の中がしょっぱい。

 ルーは泳ぎが上手い。沖の方を指差して、魚のように身を翻しランタンに寄り添った。

 ランタンの身体が安定したのは、ルーが海流を遮ったからだった。指差した先に魚の群が見えた。青い海に溶け込むような、青や緑の体色をしている。

 波に弄ばれ、漂うように泳いでいる。

 ルーが水を蹴った。水に屈折するルーの身体が一回りふくよかに見える。柔らかな身体がより柔らかそうだった。

 ルーが魚よりも優雅に海中を進む。それに気が付いた魚が進路を変更するが、ルーは揃えた両足を一蹴りしてその先に回り込んだ。槍のように腕が伸びる。

 指先が魚の(えら)に差し込まれ、海中に血が漂った。指先を鰓の内側に引っ掛けて魚を捕まえると、魚群が散り散りになって逃げていく。

 左右の足をゆっくり蹴ってルーが戻ってくる。緑の髪が海藻のようだった。ぼうっと見惚れていると、あっという間に抱きかかえられてしまう。ルーはそのままゆっくりと浮上した。

 陽射しが眩しい。

「ぷはぁ、――ランタンさま、ずいぶん息が保ちますのね」

「はぁはぁ、――それルーが言う?」

「わたくしとランタンさまでは種族が異なりますもの」

 そう言ってルーは捕らえた魚を掲げた。

「食事の足しにいたしましょう。さてそろそろ戻りましょうか。お任せしっぱなしではリリララさまが拗ねてしまわれます」

 血汚れを洗い流すだけのはずだったのに、海水浴がずいぶんと楽しくてリリララのことをすっかり忘れていた。

 気が付けばずいぶんと遠くにある浜の方を見るとリリララは膝を抱えて座っている。待ち惚けているだけにも見えるし、ルーの言う通りに拗ねているようにも見える。

「どちらからお戻りになられますか?」

 海上か海中か、と尋ねているのだ。ランタンは少し迷った挙げ句、海中を選んだ。海面を歩くことは新鮮な面白さがあったが、透き通る海の中は美しかったしより自由な感じがした。

「では息を」

 大きく息を吸い込んで潜る。

 そのままルーに手を引かれて泳ぎ、浜へと戻った。

 ざぶざぶと波を蹴って砂浜に上がると、リリララは立ち上がった。砂岩の柱を四隅に立て天幕を張った簡易的な日除けからわざわざ出てくる。

 海から上がっても繋がったままの手に視線を向けて、左の口角を吊り上げるみたいに唇を曲げた。

「ずいぶんと楽しそうなことで」

「ごめんごめん」

 耳に入った水を抜きながら謝るランタンにリリララは大きなタオルを(ほう)った。受け取ったランタンの腕からルーがそれを広げ、少年の肩を覆う。

 抱きつくようにして身体を拭った。ルーが自分の身体を拭うのはすっかりランタンの世話を終えてからだった。

「もう飯はできてるぜ。少し煮すぎたけどな」

「だからごめんって。ほったらかしにされて拗ねてるの?」

「……拗ねてねーよ」

 言いながらリリララは指を鳴らした。

 砂紋の浮かぶ砂浜が複雑に隆起して形を変える。それは砂岩で作られた椅子だった。促されてランタンが腰をかけると、リリララはその足元に(かしず)いた。濡れた足を汚す砂を丁寧に払って、それから手付かずの料理をランタンへとよそった。

 料理は簡単なものだった。腸詰肉と野菜のスープ。炙ったパンにチーズ。いくつかのジャムの瓶。たっぷりの真水。

 スープは野菜が溶けてしまってポタージュのようになっている。どろりとしたそれを口に運んだ。

「――おいしいよ」

 リリララはほっとした顔をする。

「これはどうなさいますか?」

 ルーが捕らえた魚を差し出した。ランタンの顔ほどの大きさがあって食いでがありそうだが、いっそ毒々しい青い体表をした間抜け面の魚だ。

「料理はリリララが作ってくれたこれで充分。だからそれは食事の後に開いて干物にしよう。ほら二人とも一緒に食べようよ。あとルーは先に上を着て」

 食事をしながらこれからのことを話し合う。

「今は島のこの辺り。当初の予定はこのまま島を一周だったけど、たぶん代わり映えはしないと思う」

「まあ、そうだろうな」

「でだ。予定変更で島の中心部へ入っていこうと思う。その場合の選択肢は二つ」

「山か、それとも森かですわね」

「そう。島の南側の山をうろうろするか、それとも北側のこの森をうろうろするか。この迷宮はまだ最下層の場所がはっきりしない。せめてこれの位置か、あるいはその手がかりを見つけたいと思う」

 ランタンはそう言って森を、そしてその奥にある山を振り返った。

 山は遠くから見ると岩肌も剥き出しで、一見して最下層をその内に隠しているようには見えない。

 もちろんくまなく歩き回れば怪しいところも見つかるだろう。実際に山際を下山するあいだにも地割れや風穴などを見つけることはできた。その穴底に最下層がある可能性はある。

「僕の勘では森の方が怪しい」

 しかしランタンの探索者としての経験は山に最下層がある可能性を否定した。開放型迷宮の探索経験はまだ少ないが、それでも迷宮であることに変わりはない。

 それを信頼しているのか、リリララもルーも頷いた。

「でも森の中にはあの戦士の種族が住んでいるはずだ」

 そこでランタンは少し眉を顰めた。

「どうかしたか?」

「もしかしたら集落があるかもしれない」

 あの蛮族の戦士は魔犬を飼い慣らしていた。

 以前まで魔物の集団というのは、ただ数の問題でしかなかった。しかしこのような迷宮の場合、このような魔物の集団の場合は、数以外の背景を考慮しなければならない。

「森の浅いところをうろうろしてたってことは、あの戦士は斥候で、それに番犬を連れてたってことは」

「文明を持ってるか」

「うん。あれだけ好戦的だったから、もちろん戦闘は避けられない、んだけど……」

「ランタンさま?」

 困った顔をするランタンに、ルーが不思議そうに首を傾げた。

「変なことを言うようだけど。例えばさっきのは戦士だった。だから戦闘になるのはいい。でも集落の場合は、それ以外の階級もいるでしょ? もしそうだった場合、ちょっと抵抗があるかもしれない。殺すことに」

「……戦士階級以外っつーと。神職だとか、労働者だとか。そういう戦闘職以外ってことか?」

「いや、それらはいざとなれば向かってくるよ」

「ランタンさまが気になさっているのは子供の存在ですか?」

「……まあ、そう。変だよね。魔物なのに。迷宮を攻略してしまえば、まあしなくてもなんだけど、迷宮は崩壊してそれらの全滅は避けられないんだけど」

 どんどんと声が小さくなり、ランタンは自分自身に戸惑うように肩を丸めた。

「お優しいこと」

 ルーの言葉に揶揄するような響きを感じたのは、ランタンが自分の言葉を変だと思っているからだった。

「では、そのように作戦を組み立てましょう」

 ルーは何気なくそう言葉を繋げた。

「いいの?」

「いいも何も、ランタンさまがこの探索の指揮者ですわよ。ねえ、リリララさま」

「変なところで気を使うよな。戦闘を避けられない閉鎖型とは違うんだ。理由はどうあれ、戦闘を極力避けるって方向に間違いはないぜ。それに赤ん坊の首を捻るってのは、気分のいい話じゃない。魔物とは言えな」

「――ありがとう」

「いーって、ご主人さまよ。もっと偉そうにああせい、こうせいって命令すりゃいいんだよ」

「じゃあ、おかわり」

 ランタンは空の器をリリララに突きだした。リリララは具が山となるようにスープをよそった。




 森に入った。

 最下層の手がかりを探すためだが、手がかりの手がかりがないのでまず森の中心へと向かう。

 群生した木々はその幹から幾つも気根を生やしており、空を隠すほど旺盛な枝張りに葉の緑が黒々するほど濃い色をしている。反面は花や実は色鮮やかだった。

 それがまた不気味な感じがした。

 もしかしたら植物系の魔物も混じっているかもしれない。気をつけなければ、いつの間にか蔓が首に巻き付いている可能性もある。

 潮風はすぐに木々に阻まれ、森の中はじめじめとして蒸し暑い。風がよどんでいる。足元は泥濘(ぬかる)み、木々の根が百万の蛇のようにのたうっている。

 ひどく歩き辛かった。

 先導するのはルーだった。彼女の生まれはこういった湿地林だ。彼女の故郷では地面には常に水が張っており、生活のほとんどは樹上で行っていたらしい。

 ルーはあえて木の根の上を選んで歩いて行く。泥濘みに足を取られないためであり、また足跡を目立たなくするためでもある。

 殿はランタンで、二人の間にリリララがいる。森に入ってからリリララの耳はずっと立ち上がりっぱなしで、左右の耳がそれぞればらばらに動いて忙しなく角度を変えた。

「足跡がありますわね」

 ルーが立ち止まって告げる。

 大地を耕したかのような足跡だった。

 残った足跡は蛮族のものであり、また魔犬のものであった。柔らかな泥濘みにまだ形が残っているので、この場所を通り過ぎてまだそれほど時間は経っていないだろう。

 そして少なくとも彼らの縄張りにもう入っているということだった。

「周囲にはいない。この足跡を遡れば、集落に着くかもな。それがあればだが」

 ランタンは指で空中に円を描く。

「こういう風にぐるっと回っているんなら足跡を追ってもいいね。遡ったら鉢合わせの可能性もあるかもしれないし」

「二巡目の心配より、折り返してくるほうが可能性は高くないか」

「そしたら後ろ取られるじゃん」

「あたしがいるんだ。取られねえよ」

「それもそうか」

 歩いていても立ち止まっても汗が噴き出してくる。

 ランタンは地図を広げ、現在地を記し、進行方向の矢印を書き加える。顎から滴る汗が地図を濡らした。それを丁寧に拭き取って、再び懐へしまう。

「じゃあこの足跡を辿る。ルー、よろしく」

「はい。慎重に進みましょう」

 背嚢の中で、揺れたりこすれたりして音が鳴りそうなものは全て毛布で包んである。

 次第にあたりが暗くなってゆくのは、森の奥に来たことと夜が近付いてきたからだった。

 森の中は様々な獣系の魔物が潜んでいる。

 それらの多くは非攻撃的なものだった。美しく囀る鳥たち大きな鼠や猪に似たもの、それらの狩猟者である中型の猫獣が頭上からこちらを見下ろしていた。

 念のため立ち止まり、二人に周囲を警戒させながらランタンはそれを見上げる。

 ――あっち行け。

 殺意と呼ぶほどではないが、攻撃的意志を向けるとそれは枝を揺らして逃げていく。その余波で鳥が枝から一斉に飛び立った。

「思いの外、敏感だな」

 ランタンは小さく呟く。その唇にリリララが指を当てた。しばらく集中して周囲の音を集めると、あらかじめ決めていた合図をルーに送った。それを受けたルーは二人を抱えると、そのまま木の幹を垂直に忍び歩きで上がってゆく。

 ルーは人一人の体重も支えられぬような枝から枝へと伝ってその場から、少しだけ離れる。ランタンもリリララも黙してただの荷物になった。

 そのまましばらく樹上に身を潜めていると犬の吠える音が聞こえた。遅れてどちゃどちゃと泥濘を踏む足音がそれに混じる。

 一斉に鳥が羽ばたいたのを不審がったのだろう。

「ごめん。見つかっちゃった」

「遅かれ早かれだな。気にするな」

「あの体格ですから樹上に追っては来ないでしょう」

「が、集落とやらはずいぶん近いはずだ」

 三人は枝の根元に瘤のように一塊になっている。ルーが幹に背を預けランタンを抱き、そんなランタンはリリララを抱いている。

 リリララは軽くランタンを叩き、その抱擁を緩めるように伝えた。

「奴らを追う。あたし一人で」

「危ないよ」

「あたしはそれが本職だよ。ぴょんぴょん跳ねるのは、むしろあたしの得意分野さ」

 リリララは薄べったい胸を叩いた。赤錆色の視線が笑むようにしてランタンを見つめる。ランタンは少し考えた挙げ句、わかった、と囁く。

「無事に僕の所に帰ってくること。それが絶対の条件」

「あいよ。では命令を」

「集落を見つけてきて。暗くなったら見つけられなくても帰ってくること」

「了解」

 リリララは満足気に頷くとルーと目配せをする。リリララだけがルーの重力圏から離脱し、その重みで枝が僅かにしなった。

「大人しくしく待ってな」

 リリララはそう言って枝から枝へと移ってゆく。魔道を使うルーほどではないが、しかしそれでも身軽だった。

 首を巡らせてリリララの背を追ったランタンをルーが抱え直す。

「心配ですか?」

「そりゃあね。何があるかわかんないし」

 しかし待つことしかできない。

 そのもどかしさにランタンは小さく身体を揺らした。




 やがて日が落ちた。

 蒸し暑さが過ぎ去り、ほのかに肌寒さを感じるようになった。

 あたりは真っ暗になって、リリララが帰ってこない。

 探しに行こうというランタンをルーはもう三回も説得して、四回目はきっと説得しきれないはずだった。

 その時だった。

 枝が揺れた。ルーの腕を解き、ランタンは身を起こした。

「ただいま、――って、なんて顔してんだよ」

 戻ってきたリリララは幾許か泥で汚れているが、怪我らしい怪我をしている様子はなかった。あからさまにほっとするランタンの表情を見て、呆れたような顔をする。

「帰ってくるのが遅いよ」

「なんだ。心配したのか」

「した。怪我はない?」

「ないない。ったく、そっちじゃなくて集落の有無を聞けよ」

 照れ隠しにぶっきらぼうな物言いをするリリララに、ランタンは尋ねる。

「あったの?」

「あった。が文明的とは言い難いな。家やらなんやらがある訳じゃないし、泥濘の中で猪みたいに泥だらけになって過ごしてたよ。数えただけなら二十と四のでかぶつが集団になっている。気にしてたようなガキはいねえ。全部、似たような戦士階級だな。犬っころはうじゃうじゃいたが飼ってるのか、共生してるのか」

「そうか」

「でも問題は、こういった集団が他にもいくつかあるかもしれないってこと」

「じゃあ、あんまり森の中をうろうろするわけにはいかないか。それを探して遅くなったの?」

「それもある、が。――ちょっと、いや、だいぶ冷えるな」

 夜になり澱んでいた風が動き出した。

 日中は海風が優位だったが、夜になると山からの吹き下ろしが優位になるようだった。山頂の冷たい風が、夜になって凍えるほどの冷気となって森の中を駆け巡った。

「野営できそうな所も見つけてある。報告はそっちに移動してからでどうだ?」

 リリララに従い、野営地へ移動する。その間にも気温は刻一刻と下がっていく。風は凍えそうなほどだった。

 案内された野営地は泥濘みの中にある小さな陸地だった。三人でくっつけば横になれるかもしれないが、寝返りも打てないだろう。しかし贅沢は言っていられない。

「ご主人さまを野ざらしにはしねえよ。ちょい待ち」

 リリララがそう言うと、三人の足元がゆっくりと沈み、同時に地下空間が広がってゆく。

 得意げになってリリララは振り返る。

「如何でございましょう」

「ほめてつかわす」

 冗談めかして言うリリララに、ランタンは半ば本気でそう言った。

 半球形の構造で立ち上がれるほどの高さはないが、手足を伸ばせて寝られるほどの広さがある。

「リリララがいると便利だ」

「素敵なお部屋ですわね」

 空気穴だけ残し天井を閉じ、その穴から光が漏れないように気をつけて魔道光源を吊り下げる。

 三人はあらためて車座になって、リリララの持ち帰った情報を地図に書き込んでゆく。

「湖、――淡水湖か」

「っそ。奴らの水飲み場だな。島の真ん中、ちょい西寄りかな。で、そっちの方からも音がしたから、あたしはそれは別集団だと判断した」

「でしたら湖を中心にいくつかの集団がいると仮定してもよろしいかもしれませんわね」

「いかにも怪しい湖だな。でも調べるのは難しそうだな」

「まあ探索の安全を期すなら集団の全滅を目指すべきだな。お優しいご主人さまには苦痛かも知れませんが」

「もう、それはいいって。それは今回の探索ではしない。湖だけ見つけたら帰るか」

 今回の探索はあくまでも偵察探索だった。蛮族戦士の数は気になるが、個体として戦闘能力はそれなりだ。余程のことがなければ後れを取らないだろう。それが知れただけでも充分だった。

「そうですわね。数を減らしても次回までに再出現されては意味ありませんし」

「だな。それから、これを。ちょい遅れたのはこっちのせいだ」

 リリララは懐から紙片を取りだした。

「やつらは文明を持たない、と思う。迷宮の気まぐれかも知れないけど、一応な」

「これは?」

「やつらが持ってた石版の写し」

「ああ、泥で版画したのか。じゃあ逆さ文字だ」

「読めるか?」

 それは迷宮文字だった。しかしランタンの読み解けるものではない。反転する左右どころか、どちらが文字の上下かもわからない代物だった。

「これはギルドに解読を頼もう」

 そう言うランタンは背筋を震わせた。冷気が地面の下まで伝わってきた。

「すごい風の音。……これは冷えますわね」

 木々が軋むような音を立てている。山風は森全体を吹き揺らしていた。




 それは誘惑に違いなかった。

「温め合うにはこれが一番なのですわ」

 ルーが背後から囁く。

 背に触れる膨らみは裸のそれだった。ぴったりと身を寄せて、しっとりとした脚を絡めてくる。ルーは(うなじ)を何度も、音を立てて唇で啄む。

「しょっぱい、……これは海の? それともランタンさまのお味でしょうか?」

「知らないよ」

 向かいにはリリララがいた。

 彼女もまた何も身に付けてはいない。ルーの提案に、リリララは少しも反対しなかった。

 しかし睨むようないつもの目つきを恥ずかしげに伏せて、ルーほど大胆ではない。だが小刻みに身体を揺らして肌を触れ合わせている。

 ランタンはリリララの細い腰を抱き寄せた。ルーの脚を絡ませたまま、閉じたリリララの脚に膝で割って入る。

 一見痩せすぎなリリララは、しかしその下半身は兎人族らしくよく発達していた。

 丸い尻から張りのある太ももがすべすべとしており、しかし足先は女の子らしく小さい。

「ふあ、ああ」

 ランタンの手が尾の付け根に触れると、リリララは甘い息を漏らし、ランタンの足を太ももでぎゅっと挟んだ。体温が上がるのがわかった。

 二人きりの時では、こうはならない。

 ルーの存在を、リリララは意識しているようだった。

 ランタンの背後でルーはどんな顔をしているのだろう。それを見ているリリララの顔は少し羨ましげでもある。ランタンは苦笑し、リリララの小さな後頭部を掴んだ。

「こっち」

 自分の方に顔を向けさせる。

「こっちを見て」

 そばかすの散った頬が赤い。汗に濡れた髪を撫で、頭上の兎の耳の付け根をくすぐってやった。

「あ、そこは。あ、あっ」

 リリララは面白いほど動揺して。鼻息荒くランタンを睨み付けた。小さな鼻にランタンは自分の鼻先をくっつける。赤錆の瞳が自分で一杯になる。リリララは息を止めた。

「たくさん働いてくれたからお礼して上げようと思って」

 悪びれることもなくランタンは嘯いた。

「して欲しいことを言ってくれたら。何でもして上げるよ。何でも」

 それは誘惑に違いない。

「あら、うらやましい」

 リリララは拗ねたように唇を結んだ。ランタンはその唇を指先で突いた。最初はからかうようだったが、頑なだったのでその隙間に指先を押し入れる。

 今度は指先をリリララの舌が突いた。

「これは僕の味? それとも海の味?」

 背後でルーがくすくす笑った。笑い声を押し殺すように背中に唇を押し当てた。

「ランタンの味だ」

 指を口に含んだままリリララは答える。前歯の間に指を挟み、もごもごと甘噛みを繰り返す。

「願いを聞いてくれんだな」

「なんなりと」

 リリララは一度目を瞑って、思考を巡らせた。

 それからふっと唐突に目蓋を開いた。

「なら夜の間だけでも、ずっとこっちを向いて、振り返らないでくれ」

「……寝返りは責任持てないよ」

「いいよ。……それから前にしたみたいに、ぎゅってして」

 ランタンはリリララの背に腕を回した。肺から息が絞り出されるぐらい強く抱きしめる。

 朝が来るまで解けることはない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 リリララの独占欲可愛いですね。
[良い点] あー! 好き。 [一言] 前回以上にえっちでとても良かったです。
[良い点] 塩の味? ダダ甘じゃねえか! [一言] 好きです
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