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露天掘りの穴底へと落ちていった魔物を巨人の戦士が引き上げた。彼の通った道には青々とした魔物の血が点々としている。
この魔物だけが特別なわけではない。この地では魔物すら巨大だった。
魔物を投げ下ろすと、それはずしんと音を立てて地面を揺らした。戦士は額の汗を拭った。
戻ってきた戦士に仲間が水を渡した。
彼らは魔物を取り囲み、さっそくそれを解体しはじめた。慣れた様子で皮を剥ぎ、腹を開いて内臓を抜き、骨を外し部位ごとに分け、積もった雪で血を拭う。
そして何よりその頭部の断面を興味深そうにしていた。
黒く炭化し、その下からじゅくじゅくと血が染みている。
魔道を使えない彼らに、このようなことは到底できない。
興味は魔物からランタンへ移った。
巨人に取り囲まれたランタンは端から見れば絶体絶命のように見える。
「どうなっているんだ?」
「たいしたもんだ。小さい人間のくせして」
彼らは自分たちですらてこずる魔物を一撃で倒したのが、自分たちよりも数倍も小さい人間であることに驚いた。
生活をともにする駐留兵は、彼らからしてみれば赤子よりもか弱い存在だった。
こういうひどく強い人間がいることを噂には聞いているが、目にするのは初めてのことだ。
戦士たちにランタンの存在など目に入っていなかっただろう。ランタンはあくまでも、リディアの遺児であるリリオンの付属物にすぎなかった。
「魔道というやつだろう。一体どうやったんだ?」
「砲のようにどこかに火薬でも仕込む穴があるのか?」
「なにを食べたらあんな事ができるんだ? 黄鉄でも食べているのか?」
ランタンは巨人の戦士に、猫の子のように襟首を捕まれて、その掌に乗せられてしまった。そして猫の子の雌雄を確かめるみたいに、突かれたり裏返されたりする。
「ええい、乱暴にするな! やめろやめろ、関節はそっちに回らん! 構造はお前らと同じだ!」
ランタンは人に慣れぬ幼獣のように暴れた。彼らからすれば少し捻ったぐらいだろう。だがランタンは危うく腕を肩ごと毟り取られそうになった。
怒鳴られた戦士は面食らった顔をする。
あの魔物を圧倒したくせに、少し捻ったぐらいで大げさに痛がる生き物が不思議なようだった。
ランタンは巨人の掌の上で、腕組みをして彼らを睨みつけた。
「すまん、すまん。ちょっとそこで爆発してみれくれ」
「ここで? 手がなくなるぞ」
「それはそっちで加減をしろ」
ランタンは片眉を吊り上げ、結んだ唇を歪めた。
それから溜め息一つ、それを合図とするように地団駄を踏むみたいに足を踏み鳴らした。
小さな爆発が起こった。
「おお!」
戦士は驚きの声を上げた。
小さいとは言え、その爆発をまともに食らえば普通の人間には耐えられない威力だ。生身ならば内臓が破裂し、鎧を身に着けていても運が悪ければ致命傷となる。
だが戦士はしっぺをくらったみたいに、驚きと区別の曖昧な程度の痛みを感じただけのようだった。
彼らの掌はぶ厚く角質化しており、ランタンの爆発はそれを僅かに削っただけだ。
「なるほどなあ」
「……なにがなるほどなんだ」
ランタンは爆発痕に爪先を蹴り込んで、巨人の掌から飛び降りた。蹴った爪先が靴越しに痛い。凍った大地よりも硬い皮膚だった。
戦士たちはそろってその掌を覗き込んでいる。
「たいしたもんだ。あんなに小さいのに」
そんなことを言いながら頷き合っている。
巨人族は長命の一生をこの地から出ずに終える。
毎日、毎日、与えられた仕事をこなすばかりだ。それが彼らの長年の営みだった。
四季もない常冬の地での暮らしは、きっと代わり映えのしないものなのだろう。この空を覆う灰色の雲のように。飽くことすら忘れてしまうかのように。
そんな中でランタンの存在は興味深いものだったのかもしれない。
肩を寄せ合う巨人の戦士たちの姿は、どことなく無邪気さを感じさせた。
そんな彼らをよそにリリオンは探索に向けて目を瞑っている。鞘に収めたままの大剣の腹に額を押し当て、黙り込んでいる。
ランタンはその隣に腰掛ける。それでもリリオンは目を閉じたままだ。
シーギスを待っていた。
彼は一度集落へ、探索に必要な道具を取りに戻った。彼も一緒に探索へ行くことになった。
「お前たちに、それも迷宮で死なれたら、俺はリディアに会わす顔がない」
それが彼の言い分だった。
彼はリリオンの母リディアに最後の言葉を託された戦士だった。リリオンへの遺言を。
リリオンはその言葉に随って巨人の集落から飛び出したのだ。
彼もまた後悔を抱いている。リディア一人を迷宮へ残し、地上に帰還したことを。
巨人族にしては小柄な彼は、まだどうにか迷宮に入ることができる。だが程なく彼にとっても迷宮は狭すぎるものになるだろう。これが迷宮へ挑む最後の機会となるかもしれなかった。
シーギスが戻ってきて、リリオンは目を開いた。
「リリオン」
「行きましょ。ランタン」
リリオンは迷宮口を見ていた。その先にある迷宮の深奥を。
ランタンはこういう目をした探索者を何人も知っている。
ある理由により迷宮に心を囚われた探索者だ。
探索者には迷宮の攻略を途中で諦めなければならないことがある。
怪我や仲間の死による戦力の低下。食料の喪失や装備の破損。遅滞による時間の不足。
その理由は様々だ。
だがそう言った理由での帰還は、まだどうにか心の折り合いがつく。
最悪なのは敗戦を確信するような魔物と出会ったときだ。
勇ましく戦って迷宮に散るか、全滅覚悟で背を向けて逃走するか、それとも誰かが、自分が囮になって仲間を逃がすか。
最後の選択であっても、生還率はそう高くないと言われている。実際のところはわからない。全滅した探索者たちが、どのような選択をしたかを知る術はないのだから。
語られるのは生者の言葉だけだ。
そして仲間に生かされた探索者は、かくて迷宮に心を囚われることになる。
仲間の仇を討つため、迷宮そのものに復讐するために探索者を続けることもあれば、仲間の死を見ることがなかったがゆえに、今もまだ迷宮で戦い続けている仲間を助けるために迷宮へ挑み続ける。
心のどこかで、仲間はまだ生きているのではないかと、それは祈りでしかないのだが、どうしても思ってしまうのだ。
きっとそういう願いが生み出した魔物が、未帰還となった探索者の写し身の魔物である彷徨う者なのだろう。
いくら姿が同じだろうと、しかしそれは魔物なのだ。
彷徨う者と出会った探索者は、覚悟を決めてかつての仲間に剣を向ける。そうやって生還し、そうやって迷宮の呪縛から解放される。
しかしそれもやはり生者の言葉である。
剣を向けられず、迷宮に呑み込まれた探索者も多いだろう。
「ああ、行こうか。リリオン」
もうそうなった時のために、ランタンは戦鎚を握る。
彷徨う者が出現するとは限らない。だがもしそれが出現したとき、それを討ち果たすのは自分の役目だとランタンは覚悟している。
その結果、リリオンがどれほど傷つこうとも。リリオンに嫌われようとも。
大地に穿たれた大穴はすり鉢状になっており、その壁面は螺旋となるように道がつくられている。
広々としているが巨人たちにとってはすれ違うことがやっとの細道であり、転げ落ちそうな急斜面だったが巨人たちにとっては緩やかな傾斜だった。
人間と巨人。
こういった認識の違いはいくつもあった。
その迷宮は穴の中腹に口を広げている。
ランタンたちにとってはひどく巨大な迷宮口だった。その大きさを見るだけで、この迷宮が大迷宮に分類されるものだと推測することができる。
だが巨人族の戦士、シーギスにしてみれば小さな迷宮だった。
彼はほとんど着の身着のままだったが、その頭部にだけ兜を被っている。
その理由は単純で迷宮の天井に頭をぶつけてしまうからだった。彼が先頭に立ち、迷宮を進めば天井が削れて崩れた。その破片が後続のランタンたちに降り注ぐのだが、破片の一つ一つは拳大ほどもある。
そうやって進んでいくと、程なく魔精の霧が現れた。
ここから先が本当の迷宮の始まりだった。
シーギスが振り返った。少し猫背になっている。
「これまで、あの日以来、この迷宮から魔物が出てきたことはない。でも中に魔物がいないとは限らない」
「わかっているわ」
急かすようにリリオンが頷き、シーギスは口元を引き締めた
霧を抜けても迷宮の姿形は変わらなかった。ほとんど同じ坑道めいた道が続いている。
天井は少し高くなっているが、その代わりに鍾乳石のような突起が所々突き出ている。
迷宮が人の心に応じるのなら、これは巨人族たちの想像力の乏しさの結果なのかもしれない。獣系迷宮が多いというのも、森の獣が彼らの最も近しい敵だからだ。
巨人族の世界は、あまりにも小さく狭い。
霧を抜けても魔精酔いはやってこなかった。リリオンは気付け薬を噛まずに飲み込んで、ランタンはそれを吐き出した。
外の冷気がまだ背中に感じられる。ランタンは振り返った。
濃い乳白色の霧がそこに滞留している。雪のようだと思う。
「さあ乗れ」
シーギスは彼が牽いてきた荷車を顎でしゃくった。
ランタンもリリオンもそれに乗り込んだ。荷車には水と食料、彼の武器が積まれている。
二人はそれらの隙間に身を沈ませた。頭上に毛布を張って落石に備える。
「よし、じゃあ一気に行くぞ」
そう言ってシーギスは猛然と進み出した。
二人の分の体重など彼にはあってないようなものだった。
初日、魔物と出くわすことはなかった。
巨人族は成人になると十メートル近くの巨体となる。人間の約五倍だ。
しかし五倍の歩幅は、単純に進む速度が五倍となることを意味しない。大きさは五倍だが、その力強さはそれどころではないからだ。
五倍の歩幅で、それ以上の体力と筋力を有する巨人族の歩みは馬を駆けさせるようなものだった。
シーギスは天井の突起を避けることなく破壊していく。降り注ぐその破片はランタンたちの遥か後方に落下した。二人は荷車にへばりつき、荷物が崩れないように気をつけるだけだった。
迷宮の道は整備されているわけではない。でこぼことした段差に車輪は大きく跳ねた。
巨木より作られた車輪は石の地面に轍を作った。大重量を支える車軸は巨木の芯材で、潤滑油はその樹皮に蓄えられたものだ。
物凄い速度で進む内に車軸が焦げつくような匂いを発した。その度にランタンは軸受けに水をかけた。
攻略に十日以上もかかるような迷宮を探索者ギルドは大迷宮と分類した。だが人間にとっての大迷宮は、巨人族とっての小迷宮でしかない。
シーギスは一日で人が進む距離の何倍も進み、翌日もまったく同じように迷宮を進んだ。
まるで疲れを知らないようだった。
シーギスは確かに急いでいたが、それは全力ではなかった。
会話をする余裕すらあった。
「リディアは強かった。二振りの剣を自在に扱って、あっという間に魔物を切り裂いていった。憧れたものさ、――口には出さなかったが」
「でもママは傷だらけで帰ってくることも多かったわ」
「あいつは一人で突出して、囲まれることもあった。何度もやめろと言ったが、聞いては貰えなかった。あいつ自身がそれを望んでいるようなところがあった。一人で全てを引きつけて、俺たちはおこぼれをもらうだけさ」
シーギスはそう言って自嘲するように鼻を鳴らした。
リリオンは話を聞く度に、自分の知らない母親の姿を目蓋の裏に想像した。
シーギスは進む間中ずっと、リディアとの思い出を吐き出すように喋り続けた。
それがリリオンへのせめてもの贖罪であるように。
「もちろん、リディアを簡単に見捨てた訳じゃない。捜索を出したこともあった。だけど奥へ行くほど迷宮は狭くなっているんだ。大人たちには入れない。俺でさえ難しい」
その先に進めるのはもっと小さな、巨人族の子供だけだった。
だが歴戦の戦士であるリディアが未帰還となったのだ。その先に子供を送り込むことは、ただ命を無駄にするだけだった。
「一人だけ、その奥に行った。そいつは帰ってこなかった。それで捜索は打ち切りになった。迷宮は封印され、なんとなく誰もリディアのことを語らなくなかった。お前のことも」
すまない、とシーギスはもう何度目にもなる謝罪を口にする。
魔物の出現は相変わらずないまま、二日目の探索も終了した。
野営の際、食事を作るのはランタンの役目だった。
簡単に火をおこせるからシーギスには重宝がられた。
食料はランタンが討伐した魔物の肉だ。巨木の白い内樹皮で、その針のような葉とともに包んである。消毒作用と臭み消しの効果があった。それをそのまま石で覆うように囲み、これを熱して蒸し焼きにする。
シーギスは三分通りぐらいの焼き加減が好みだった。
ランタンとリリオンはよく火の通った外側を分けてもらい、彼は塊のほぼ生肉にそのままかぶりついた。肉汁と青い血が混ざり合った汁を啜り、赤々とした肉を獣のように食い千切った。豪快な食べ方だ。血を食うことで、この地で不足する栄養素を得ているのだろう。
二人は荷車に乗ったまま、そしてシーギスは迷宮の地面にそのまま横たわって睡眠をとった。
三日目も、同じように進む。
思い出の話もそろそろ尽きてくる頃だった。リディアは集落の外れで暮らし、シーギスが知る彼女は戦いの中ばかりだからだ。
「――それ、ほんとう!?」
リリオンが立ち上がって叫んだ。
そして荷車の揺れに体勢を崩した。そんな少女をランタンは抱きとめた。
「ああ、何人か聞いた仲間がいるんだ。剣を打ち合うような音が迷宮から聞こえるって。ここ最近はとんと聞かないが……、もしかしたら」
リリオンの肉体が温かくなる。
「聞いた? ランタン!」
それはまるで母親が生きていると聞かされたみたいな反応だった。振り返ったリリオンの表情はきらめいている。久し振りに見るような満面の笑顔だった。
「聞いたよ」
ランタンは頷いて、リリオンを膝の上に抱えなおした。そうしなければリリオンは今にも荷車を飛び降りて、自分の足で駆け出さんばかりだった。少女は落ち着きなく身体を揺らした。
ランタンはリリオンの背中に額を押しつけて、表情を隠した。
シーギスは今の話をするべきではなかったし、もしかしたらするつもりもなかったのかもしれない。
しかし彼にしてみればリリオンは自分自身の後悔が具現化したような存在だった。
愛なのか、尊敬なのか、友情なのか。しかしこれまでの思い出話からも、彼がリディアに強い感情を抱いていたことは理解できた。
落ち込んでいるリリオンをせめて元気づけようとしたのかもしれない。
そして実際にリリオンは元気を、ある種の希望をその胸に抱いた。
しかしその希望は裏切られるだろう、とランタンは思う。
死者は決して帰らず、迷宮は残酷だ。
「リリオン、あまり――」
期待するな、と告げようとしたランタンは言葉を飲み込んだ。
振り返ったリリオンの顔を見たら、そんな言葉を口にすることはできなかった。
「――はしゃがない」
「だって!」
「ここは迷宮だよ。迷宮では絶対服従」
ランタンは懐かしい約束を口にした。冗談めいて言おうとして、だが上手くはいかなかったと思う。
はあい、とリリオンは返事をした。ランタンはリリオンを強く抱きしめる。
三日目の夜に、遂に魔物が出た。
最初に気がついたのはランタンだった。
そして戦ったのはシーギスだ。
彼は剣も使うが、この迷宮ではそれを振り回すことができない。シーギスは荷車から大きな筒を取り出した。それは木製の大砲だった。
そして火薬でもって屑鉄の散弾を放った。
魔物の姿を確認するより早く、迷宮の闇に向かって。
木砲は大きな音を立て、真っ白い煙を上げ、そして正面にある全てを破壊した。
引き千切れた魔物の残骸が進んだ先に転がっていた。原形は留めていない。魔精結晶も見られない。何体いたのかもわからなかった。
たいした威力だった。
その日、魔物が出たのはそれだけだった。
しかし魔物の出現があったので、夜襲を警戒して交代交代で睡眠をとることになった。
最初に眠ったのはリリオンだった。
「リリオンの分は僕がやる」
「薬か?」
「ああ、少し――、少しはしゃいで疲れただろうから」
ランタンはリリオンを薬で眠らせた。もう明日まで目覚めないだろう。
「二人は恋人なのか?」
「そんなところ」
ランタンは頷き、首を傾げる。
「そう見えない?」
「さあ、人間はよくわからん」
シーギスはぼんやりと呟いて、木砲を磨いている。
それは恐るべき兵器だった。
長い年月をこの地で暮らしてきたのだ。
この極寒の地にさえ、硝石丘が形成されているのかもしれない。炭焼きも彼らの仕事の一つだ。坑道からは黄色い鉄、つまり硫化金属も取れるという。どのようにしてか硫黄を分離したのだろう。
彼らはそういったものを組み合わせて火薬を生成したらしい。
そしてその使い道を考えた。いや、逆だろうか。使う必要があり、火薬を作った。
「その武器は、なんのために?」
今度はランタンが尋ねた。シーギスは木砲を脇に置き、石の上で燃料もなく燃える炎を見つめる。
「生きるためだ」
「……人間は憎い?」
さらに尋ねると、シーギスはようやく視線をランタンに向けた。
「人間がそれを聞くのか。――さて、長老方や大人たちはたぶん憎んでいる。だが俺たちは、どうだろうな。……俺たちは人の暮らしを知らない。ずいぶんと贅沢をしているって聞くが、現実味はない。だから羨もうにも、よくわからん。憎もうにも、兵隊さん方はその甲斐がない」
「それ、人と戦うためかと思った」
ランタンは木砲を指差した。
「それも想定している」
シーギスは偽らず答えた。
「この大地で暮らしていると、たまに思う。なんのために? って。張り合いがないんだろう。ただ夢を見てるんだ。戦う夢を。そうやってあれやこれや考えて、わくわくしてるだけだな」
おもちゃだよ、とシーギスは低く笑う。
「いい威力だったね」
「だろう。だがあれじゃあ肉も毛も取れないな。狩りには使えん」
許可が下りるとも思えんがな、と呟く。
そしてシーギスは欠伸をして、木砲を枕に横たわった。
「時間になったら起こせ。さすがに疲れた」
「ああ」
ランタンはシーギスも起こすつもりがなかった。三日間、歩き詰めなのだ。さすがの巨人も疲労困憊だろう。明日もまた歩いてもらわなければならない。
シーギスは目を閉じ、ランタンに背中を向けた。
「……寝る前に一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「絶対服従。あれは、お前が人間で、リリオンが巨人だからか?」
「違うよ。僕が探索者としてのリリオンの師匠で、リリオンはぜんぜん、ぜんっぜんっ言うこと聞かない弟子だからだよ」
なるほどな、とシーギスは納得したようで、程なく彼はいびきをかき始めた。
魔物も近寄るまいという、大いびきだった。




