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「ありがたいありがたい。いや財布をなくして困っていたんだ」
「土産を売って金にすればよかったのに」
「はっはっはっ、他人様のものに手をつけようとは思わんよ。それに野宿には慣れている」
ハーディとは数える程度の日々を、いや数えるほどの時間を過ごしただけの仲であるが、ランタンはこの騎士に一目置いていた。
自らも体感したその強さにはもちろん、疑り深いランタンですらすぐに信用させてしまうような人柄をしている。
馴れ馴れしさを、不快に思わせない男だった。
「やあ、これは! 館も見事なら、風呂場も立派だな!」
ハーディは遠くの山々を見通すみたいに額に手をやって、素直に感嘆して見せた。
声が山間にこだまするみたいに、ハーディの驚きの声が浴場に響いた。落ち着きのある低い声だが、そこには無邪気さのようなものを感じさせた。
玄関広間に飾られた迷宮由来の品々にも、同じように興味を示していた。
「おお、なんと見事な。星が沈んでいるぞ。これも迷宮のものか?」
「ああ、そうだよ」
のしのしと封星石で作られた湯船に近付くと、湯の底できらきらと輝く星を拾おうかとするように縁を跨ぐ。
「こらぁっ!」
ランタンの怒声が響いた。
ハーディは片脚をあげた状態で器用に振り向く。驚いたような懐かしむような表情が、何故か戸惑うランタンを見つめた。
「こら、なんてお袋に言われて以來だな」
「いつもローサに言ってるから、つい。――まず身体を洗ってからだ。そのままだと湯が穢れる」
戸惑いながらも心底嫌そうな顔をしてランタンが言うので、ハーディは苦笑しながら頷く。
「それはすまない。作法を心得ぬ無礼を許してくれ。――して身体を洗う時はまずは右手か先か? それとも左手か?」
「お母さんに教えてもらった通りにすればいいよ」
「あいわかった。頭からにしよう。痒くてかなわん」
ハーディは真面目な顔をして言った。噂では出自不明の男である。没落貴族の跡取りとも、大貴族の落とし胤とも言われている。
「っていうかお母さんいたんだ」
「女より生まれぬものなどおらんだろう」
「魔物なんかは迷宮から生まれるよ」
「それも穴から生まれるのだ。さして変わらん」
鎧を脱いでもその堂々たる印象は少しも薄れることはない。それどころか鋼の肉体が露わになることで、よりいっそう迫力が増すようだった。
あの時リリオンに割られた鎖骨はすっかりと元通りらしいが、皮膚には生々しい傷跡が残っている。
だがそこに不格好さや、恐ろしさというものがない。戦いというものをすっかり内包して完成した、類い希な肉体だった。
「そこに立って。で、そこのタイルを踏んで」
「これか? お、おお――!」
それは改良したシャワーだった。床のタイルを踏むと、天井から降り注ぐようになっている。驟雨のように降り注ぐ温かなシャワーにハーディは目を丸くする。
「これは便利だ。魔道か?」
「いや、単純な重力式だよ。液体は上から下に流れるものだろ」
「それもそうだな」
「そこの石鹸使って」
「む、ぜんぜん泡立たんな」
乱暴に髪を掻き回すハーディに対し、ランタンは心の中で、汚すぎるからだよ、と念じる。
どのような旅だったのか。王都からそのままティルナバンに直行したのか、それともこの一年を遍歴の騎士としてあらゆる所を旅したのか。
シャワーがハーディを打つほどに、その足元には黒々とした汚れが流れ落ちた。もともとは濃い茶金だった髪も、旅の汚れで茶色いんだか灰色なんだかわからなくなっている。
泥男という魔物をランタンは想像した。いくつか種類がいる探索者に化ける魔物の一種だ。ハーディに化けた泥男の化けの皮がシャワーによって洗い流されているのかもしれない。
そう思えるほどの汚れだった。
探索帰りのランタンもそんなハーディの隣で、しかし彼から充分に距離を取って身体を洗った。
比べれば大人と子供である。だがそこに刻まれた傷は同じように生々しい。
いったいどのような探索だったのか。
右のふくらはぎと太ももに浮かんだ青痣は黒々としており、脇腹の傷は濡れることによって再び出血した。左の脇腹に三本線の切り傷がある。その一番上は肋骨の下端をなぞるように背中にまで回り込んでいる。
赤い血が湯に溶けて、脚を伝って洗い場の床に広がった。
「ずいぶんやられたな」
「まあ、この程度はしょうがない。必要経費だ。そっちだって傷だらけじゃないか」
「はっはっ、だらけと言うほどではないだろう。この程度は傷に入らんからな。傷というのはやはりこれだろう」
「ああ、――リリオンがごめんね」
「尋常の勝負さ。あれは賞賛するしかなかろうよ、――うおっ!? なんだこれは!」
ハーディは左の鎖骨を指し示し笑ったかと思えば、突然、真横に跳びすさった。
踏まれていたタイルが解放されて、しとしとと幾筋かの雫を漏らしながらシャワーが停止した。流されずその場に取り残された汚水に、奇妙な生き物がいる。
それは湯の浄化のために飼われている不定型生物だった。
ハーディの足に絡みつき損ね、汚れた湯の中を這っている。
それは檻の隙間から蛸のような足を幾筋も伸ばしていた。それはもう檻に囚われてはいなかった。まるでヤドカリのように檻を肉体の一部にしている。
「それはブーちゃんだ」
「ブー……?」
「ローサが名前をつけたんだ、正しくはブロブ。ブロブのブーちゃん。そういう鳴き声らしい。僕は聞いたことないけど。害はないから無視していいよ。汚れを食ってくれるいい奴だよ」
つい先日に巨大化のあまり檻を破って、牙を剥いたが当然、ランタンに一蹴された不定型生物である。
その際に体積の半分以上を喪失している。以來ブロブがほどほどの大きさを保っているのは、巨大化すればランタンに攻撃されると学習したからかもしれない。
巨大化の理由はランタンをはじめとする探索者の残り湯を餌にしている所為かと思ったが、どうやらローサも隠れてこれに餌をやっていたらしい。はたしてどちらが原因なのか。
おそらくどちらもなのだろう。
魔道ギルドからは回収の申し出もあったが、ローサがこれを拒んだので続けて浴場で飼い続けている。
ブロブが這っていた汚れた湯は、もうすっかり透明になっている。凄まじい浄化能力だった。今はランタンの方へと這い寄って、流れ出た血を啜っている。
ランタンは脚でブロブを押し退かした。
ハーディは檻を掴んでブロブを持ち上げる。
でろんと垂れた八つの脚が、のたのたとうねっている。それを興味深そうに観察する。透明な肉体の内側に、宝石のような核が透けて見える。
ううむ、と唸った。
「魔物の調教師の素質があるのかもしれんな。竜種や獣系の調教師は聞いたことがあるが、不定型生物か。調教師は軍では引く手数多だぞ。食いっぱぐれんな」
「調教師ね。ローサとしては友達らしいよ。誰とでも友達になるのはあの子の悪い癖だな」
「なに、いいことではないか。友人が多ければ、見知らぬ土地でも宿に困らん」
ハーディは灰色の瞳を人懐っこく細め、肩を揺らしながら笑った。
「いつ友人になったんだよ」
「つれない奴だな。そんなんじゃあ女にモテんぞ」
「結構」
「しまった。言う相手を間違えた」
ランタンは先に湯に浸かり、ハーディは伸びっぱなしになっている髭を剃っている。短刀のような剃刀がぞりぞりと小気味よい音を奏でる。髭が散るほどに、それを目当てにブロブがハーディの足元にまとわりつく。
ランタンはそれを見ながら、髭の生えぬ己の顎を撫でた。たまにリリオンに顔剃りをしてもらうが、やはりあれぐらい生えていた方が気持ちよさそうだ。
「あ、やってしまった」
ハーディは口元を囲うように整えていた髭を勢い余って剃り落としてしまったようだった。気持ちよさとは、歯止めの利かないことだ。
ハーディは曇った鏡を拭い、そこに映った己の間抜けな顔を情けなく見つめ、諦めたように髭を綺麗さっぱり剃り落とす。
それだけでずいぶん顔立ちは若くなる。ハーディは気恥ずかしそうに顎を触りながら、湯船の縁を跨いだ。
ざあざあと音を立てて湯が溢れる。
湯船の半分も流れ出たのではないかと錯覚させるのは、男の大きさのせいだろう。
「おお、これはたまらん」
ハーディは丸太のような足を伸ばし、後ろに倒れ込むように背筋を伸ばした。肉体の軋みが聞こえた。それは蓄積された疲労そのものの音だった。
「旅の疲れが癒されるな。このままのんびりしたいものだが、急かした上に待たせては悪い」
女性陣は先に風呂を済ませた。だが唐突な来訪とは言え客は客、ハーディを待たせるわけにもいかないので探索の汚れを落とすだけでさっさと上がり、食事の用意をしてくれている。
「それもそうだな」
ハーディは肩まで湯に浸かったかと思うと、じゃぶじゃぶと顔を洗い、すぐに立ち上がった。ランタンも名残惜しく思いながら湯から上がった。
「それ着ていいよ」
ハーディの着替えは、時折泊まりに来るベリレのためのものだった。濃い藍色の室内着は彼の巨躯を覆い、しかしその力強さを隠さなかった。肩や背中、胸がぱんと張り詰めている。
「何から何まで悪いな」
ハーディはまだ濡れた頭を掻きながら、さすがに申し訳なさそうに言った。
それも無理はない。
食堂に用意された夕食は豪勢だった。探索終わりの栄養補給である。
作ったのはガーランドだが、作れる料理の種類はまだまだ少ない。これもリリオンが書き置いていった手順をなぞっただけである。だが余計なことをしていないので味は保証されていた。
麦酒で茹でられた豚肉とその蒸気で蒸かしたかぼちゃ。茹で汁で作られた野菜と豆のスープ。豚の油で炒められたキノコと、溶き卵を落とした粥。
「魚ってあんまり食べないな。内陸だし、川魚も市場に並ぶ程じゃないし」
そしてハーディの土産の鮭の干物だった。皮目にうまそうな焦げが浮かんでおり、銀色の鱗に塩が吹いている。赤々とした身は炙られて溶け出した脂が淡く染みている。
「おお、美味そうだ。宿代には充分だよ」
「それはよかった。では風呂の代金も払おうか」
ハーディはそう言って、どこからともなく酒瓶を取り出した。ルーがごく自然な仕草でそれを受け取り、それぞれの杯を酒で満たした。
綺麗な色の葡萄酒だった。
「突然の来訪にもかかわらず、このような歓待をありがたく思う。探索の無事まことに喜ばしい」
畏まった言い回しにランタンは思わず笑った。リリオンは目を白黒させているし、ローサは料理しか見ていない。ルーは慣れたような微笑みを浮かべるばかり、ガーランドは毒味するように酒杯の匂いを嗅いでいる。
「そちらの旅のご無事も何より」
ランタンは仕方なく、演技じみた口調で口を挟み、さっさと杯を掲げた。
「再会と安心して食べられる料理に、――乾杯! ローサ、もういいよ」
「いただきます!」
先手必勝と言わんばかりの勢いで、ローサは拳大ほどもある茹でたばら肉を口に運んだ。
頬をぱんぱんに膨らませて猛烈な勢いで咀嚼する。とろとろになった脂と肉汁が口の端から滴り落ちた。
「もうローサったら」
リリオンが手拭いでその口元を拭ってやる。ローサは食事の邪魔をされた猫のように顔を背けるが、リリオンの長い腕からは逃れられない。
探索後の食事はいつもこうだ。空腹はもちろん、家の食事という状況が少女を安心して食に没頭させるのだろう。
リリオンもローサの世話をしながら、山と盛られた肉の塊を口に運ぶ。
そのあまりの勢いにハーディは驚いたようだった。
「はやく食べないと食いっぱぐれるよ」
「ああ、飯とはこういうものだったな。では遠慮なく」
ハーディはさすがに騎士といった振る舞いで料理を口に運んだ。畏まった食事を摂ることも少なくないのだろう。彼ほどの騎士ともなれば諸手を挙げて迎え入れる貴族は沢山いる。
「む、これは美味い。果報者だな、ランタンは」
ランタンは誇らしそうに脂で濡れた唇を拭った。
「それでハーディはどうしてティルナバンに? ただ旅の途中?」
「――途中と言えば途中だが、お前たちに会いに来たんだ」
「僕らに?」
「ああ。――俺は結局、あの巨人とは戦えなかった。期待には応えられなかったが、それでも王子は俺に良くしてくれた。だがなあ、どうしても俺は巨人とやり合ってみたいんだ」
巨人族の国から連れて来られたかの巨人は名をトールズと言う。
彼は今も帰らず大陸で暮らしている。王都近くで鉄道の敷設のための土木工事に従事する予定だったが、その予定は変更され今は旧伯爵領を封じ込めるための土塁工事に駆り出されている。
そしてハーディは傷も癒える頃、いても立ってもいられず彼に会いに行ったようだった。
戦いの後、リリオンとトールズは少しだけ語らった。
彼があの戦いの舞台に上がったのは、自ら志願してのことだった。見世物になることを理解してのことだ。それは一種の自己犠牲でもあったが、対岸に見える大陸を見てみたい、その地を踏んでみたいという思いもあってのことだった。
冬の王都だったが、彼はそこを暖かいとさえ思った。
元々ある人族への恨みが、更に一つ増える。自分たちを追い出して、このような場所を占有しているのかと思えば腹も立つのも当然だった。
羨ましさだった。
だがリリオンと剣を交えて、彼は何か変わった。
ハーディが見た彼は土塁工事に精を出していた。そこで全ての人間と仲良くなっているわけでは、もちろんない。
だが巨人族の名にふさわしい肉体を用い、魔道よりも余程早く土の壁を積み上げていく彼を認めるものは多かった。旧伯爵領から魔物が現れれば、率先して前線に出た。彼はともに働く仲間を守り、また彼のために戦う仲間もできた。
自分の有用性を示すことが、他の巨人たちが大陸で暮らせる一助になると思ったからだった。
「朝から晩まで、くたくたになるまで働いていたよ。さすがにあの姿を見ては、脳天気に遊んでくれとは言えん。だから別の巨人族に遊んでもらおうと思ったのだ」
鮭の干物をむしむしと毟ってくれているリリオンがぴたりとその手を止めた。
リリオンに会いに来たのか、とランタンは思ったが、しかし違った。
「リヴェランドに行ったんだよ」
それは大陸の最北に位置する軍港都市だ。海峡を挟んだ向こう側に、巨人たちの暮らす集落が存在する。
リリオンが小さく、やっぱり、と呟く。
鮭の干物は危うく歯が折れそうな程硬かった。寒風にさらし乾燥させた上で、さらに燻製したもののようだった。噛めば噛むほどに味が染み出す、北国の干物だった。それを毟るリリオンの手つきは懐かしさが見て取れるほど手慣れている。
この干物がリヴェランド産だと言うことを知っていたのだ。
「軍船に乗せてくれと行ったら断られた」
「そりゃまあ、そうだろう」
「ひと一人増えたぐらいで沈みもせんだろうに。――そこでふと思い浮かんだのはお前たちの顔だった。だから来た。その件についてアシュレイ代行官に口を利いてもらえないだろうか。第一王子はリヴェランドの王権代行官とはあまり仲が宜しくないのだ」
ランタンは微妙な顔をした。ハーディは怪訝そうに眉を寄せる。
「ダメか?」
ランタンはリリオンに目配せをする。ハーディの視線がそちらに向いた。
「その話、先日お姉さまに、アシュレイさまにしてきたところなの」
「なんと! そうなのか。お前たちも巨人の国へ?」
「ああ」
リリオンの力に耐えうる金属がそこにあるかもしれないし、ないかもしれない。巨人鋼を求め、だがそれだけが理由ではなく、リリオンは故郷を思っていた。
曖昧な記憶はあれども、故郷というものの実感はもう遠く、幻のようだ。そんなランタンでさえ未だに、ふとした時に郷愁に囚われることがあった。
遠く離れた故郷の雪を、リリオンが今一度踏み締めたいと思っても不思議ではない。
そこには諦めてきた多くのものがまだ残っている。母親と過ごした家が、そのままにされているとトールズから教えてもらっていた。
さすがのハーディも本当に驚いたようだった。
「それで、返事は?」
「さすがにまだだよ。そんなにすぐに決められることじゃないから」
「むう、そうか。しかしお前たちに会いに来てよかった! 望みはありそうだ」
そう言ってハーディはぐいっと酒杯を呷った。ランタンは鮭をしゃぶりながら肩を竦める。
「まだわからないよ」
「いや、わかる。俺とお前たちの求めるところが一緒だったのだ。行けぬ道理がない」
ハーディは確信めいてそう言った。
この男がそう言うと、それが真実なのではないかと思えるから面白い。
食事を終え、ガーランドとルーが洗い物に席を立った。
残った干物を炙り直し、それでちびちび酒を舐める。
それからハーディはランタンたちに旅の話を聞かせてくれた。
旧伯爵領からリヴェランドへの旅路は、リリオンがティルナバンにやってくるまでの足跡ともしかしたら少し被っているのかもしれない。だがまだ幼かったリリオンは、その過酷な旅の詳細な記憶を残していなかった。
また旅の中で遭遇した戦いの話はローサをひどく興奮させた。野盗に襲われた話や畑を荒らす草食の獅子の話、沼地の大蛇と大亀の争いに割って入った話や圧政を敷く貴族を成敗した話、その貴族の娘に惚れられた話を。
「――あれ、ローサ眠たいの?」
ローサはぐしぐしと目を擦った。リリオンが顔を覗き込みながら尋ねると、否定するように首を振るが、半分ぐらいは頷いてしまっている。
「もっとおはなし、ききたい」
「すっかり話し込んじゃったけど、いい時間だな。いつもはもう寝てるか。ほら、無理せず寝ておいでよ」
「やー……」
ローサは必死に首を振ったが、もう目蓋を開くことも難しいようだった。探索の疲労も蓄積している。
「話は明日、聞かせてもらえばいいよ」
「あしたも、いる?」
「ああ、また話してやろう」
ローサはたっぷりと沈黙してから、こっくりと頷いた。
「ふふ、よかったわね、ローサ。ほら、ベッドに行きましょう。でもその前に歯を磨かないと」
「うん。……うー、おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
ランタンは差し出された頭を優しく撫でてやった。よろしく、と告げるとリリオンはよたよた歩くローサの手を引いて食堂を出て行った。
ランタンはひどく優しい顔でその背中を見送る。
「と、言うわけで明日も、いや――アシュレイさまの返事があるまで気にせず泊まってくれていいよ。金ないんだろ?」
ランタンはそう言って、リリオンが柔らかく解してくれた干物を噛み千切る。
ハーディは苦笑した。
「ありがたい。だが、一家の団欒に図々しく居座ろうとは思わんよ。金を稼ぐ術が見つかったら宿に移ることにしよう」
ハーディも同じように干物を口に咥えた。
「しかし納得がいった」
「何が」
「公衆浴場などで俺と鉢合わせれば、大抵の男は前を隠すものだ。己を恥じるようにな」
ハーディは椅子の背もたれに体重を預け、手放すことのなかった酒杯を置いて腕を組む。
「ううむ。一家の長ともなれば、さすが堂々としたものだな。――いい伴侶を得た」
うん、とランタンは素直に頷く。
今年一年お付き合いいただきありがとうございました。
また来年もお付き合いいただければ幸いです。
それではよいお年を!




