331 迷宮
331
迷宮の地下十五階は真っ白でなにもない空間だった。
階段を下り、そこに足を踏み入れた四人はあまりの白さに眩しそうに目を細め、次の一歩を踏み出すのを躊躇った。汚れどころか、自分たちの影もない床である。
距離感は曖昧で、なんだか落っこちそうな気になった。
階層を無数の部屋や通路に切り分ける壁がない。壁は四方を囲むだけで、階層を一つ使った大きな部屋だった。
隠し通路や部屋がないかと、四人は手分けして壁を伝いながらそれを叩いたり引っ掻いたりする。けれど本当に何もないことが判明するだけだった。魔物さえ存在しない。
「昨日のうちに、無理してここまで降りてこればよかったな」
一つの部屋としてはこれまでの探索で最大の広さだが、階層の広さとしてみればさしたるものではない。今までの半分以下だ。
天井には蛍光灯もなく、構造材そのものが白く淡い光を発している。あらゆる方向から光は注がれ、そのせいでランタンたちの影さえ床に落ちることはなかった。
一切の汚れを許さぬような部屋だった。広々としているが窮屈さを感じさせる。
清潔さを通り越して、病的な潔癖さがあった。
もしこれがランタンのいた世界の一端であるのなら、なるほどランタンが綺麗好きだったのにも頷ける。ランタンは次第に大らかになりつつあるが、それでも時折そういった潔癖さを見せる。
それはこのようなものに育まれたからかもしれない。
清潔さはランタンにとっては普通のことなのだ。そしてきっとランタンの世界では、ランタンは綺麗好きとは言われなかっただろう。
リリオンは不思議な気持ちになった。
迷宮を探索することで、いや迷宮そのものによって、ランタンをより知ることができたような気になれたことが。
さらに念入りに部屋を探索すると、まったくなにもないわけではないことを発見する。
部屋の中心には太い柱がある。それはおそらく昇降機に違いない。だが扉はどこにもなく、やはりただの柱にしか見えない。叩くと中が空洞であることがわかり、耳を寄せると低く太い機械の駆動音を耳にすることができる。
壁に一つの電話機が備えられている。
そして魔精の霧が部屋の片隅で渦巻いていた。それは天井まで届く大きさだったが、まったく同じ色をしているのですっかり同化している。近付かなければ気付かない、部屋の隅に溜まる綿埃のようだった。
部屋の一角はそれに覆われており、その先は浸食されたように壁や天井が失せ、最終目標の座す最下層へと繋がっていた。
戦いの備えをし終えると、ローサがふて腐れた様子で壁に向かい、電話機をいじっていた。
螺旋の電線に指をくるくると巻き付けたり、受話器を顔に当て、また戻し、また当てと何度も繰り返している。傍目に見ると神経症のようにも見えて心配になる。もしかしたら頭上に耳が付いている自分をまったく無視した電話機の造りに腹を立てているのかもしれない。
足元の床を前脚の爪でがりがりと切り刻んでいる。少しの歪みも許さないつるつるした床があっという間に見るも無惨な有様になっていた。
迷宮の潔癖さに対する反抗のようだ。
「ローサ!」
ランタンの呼びかけに振り返る。
そこにある期待を隠しきれない表情に、ランタンは僅かな罪悪感を覚えながら魔精鏡を投げ渡した。
それはローサが対最終目標戦に参加できないことを意味している。
ローサはそれを胸に受け取って、まったく隠そうともせずに頬を膨らませた。
取り残されるくやしさとさみしさだ。
「また今度な」
ランタンは無情に告げた。この場での甘やかしは命に直結する。兄として、そして指揮者としての言葉だった。ローサは絶対服従のその命令を、不承不承に受け入れる。
ローサはまだ探索者見習いの運び屋である。
けれども探索の度に戦闘に参加する頻度は増えているのも事実である。
群の中に最後の一匹や弱個体、半死半生に追い込んだ手負いに、先手必勝不意打ち奇襲の一撃目。それらはランタンの指示だった。確実な戦闘にのみ参加させている。そしてローサはランタンの期待によく応えていた。
だがさすがに最終目標はまだ早い。しかも今回は外からの観測ができなかった。そう言うことはたまにある。最下層内のどこかに隠れているのだ。そのため情報がまったくない。
「……ローサ、おばあちゃんになる」
唇を尖らせて拗ねるように呟かれた言葉にランタンは思わず声を出して笑った。
ずいぶんと気の利いた皮肉だった。
「はっはっはっ、どこで覚えたんだ? そんな言い回し」
絡んだ痰を切るようにランタンは胸の辺りを叩いて笑いを抑え、ローサをほっとさせるような笑みを向ける。
「でも安心しな。探索者はそう簡単に老いることはできないよ」
長く探索者をしているものは皆、若々しい。魔精による肉体の強化は、若さを保ち寿命を長らえさせる。
だがそれを実感できる探索者は少ない。なぜなら老いるよりも早く、迷宮で果ててしまうからだ。今日もどこかで若い命が散っているだろう。一人や二人ではなく、無数の命が迷宮に呑まれている。
探索者は長生きできない。
気の利かぬランタンの洒落をもちろんローサは理解しなかった。
「縁起でもない」
笑ったのは苦笑したレティシアだけだった。リリオンに至っては大きく口を開いて欠伸をしている。それを横目に見たランタンは、半ば本気で言った。
「リリオンも留守番にしようか」
「やだ」
リリオンは欠伸を噛み殺した。頬を叩いて、とろんとした目を瞬かせるが、目の奥から眠気を追い出すことはできない。
睡眠時間が短かった。リリオンはランタンの分も夜番をした。
ランタンが押しつけたわけではない。リリオンがランタンを起こさなかったからだ。
それはランタンの役に立ちたい一心だった。
例えば荷物運びはこれまで、ランタンとリリオンで分担しており、身体の大きいリリオンはより多くの荷物を運んだ。しかしその役割をローサが担うようになって、探索でのリリオンの役割は純粋な前衛戦士となった。
魔道を扱うことのない純粋戦士である。
多くの探索者はここに属している。特殊な技能を身に付けぬがゆえに戦場の最前線で命を張るのを宿命づけられた存在だ。
そして探索者としての自分の役割を理解した時、武器の破壊という力の制約によって全力を振るうことを許されないリリオンは、役割を果たせていない自分に気が付いてしまった。
探索者としてそれはあまりにも不完全だった。
不足を補うこと。
リリオンは気付け薬を口に含み、躊躇いなくそれを噛み砕いた。強烈な刺激が一気に眠気を吹き飛ばした。大きく目を見開いて、照れくさそうに微笑む。
「できるんだな?」
「できる」
リリオンはランタンの言葉に頷いた。
リリオンができると言えば、ランタンはそれを信じるしかない。リリオンの短慮は起き抜けにもう叱った。
夜ごと寝室で結ばれる度に、自分たちが大人になったように錯覚する。
事実、ランタンの目から見てもリリオンはずいぶんと大人びた。ローサの世話を焼くリリオンは姉と言うよりもむしろ母親のように見えることがある。
だが大人びてもリリオンはまだ少女のままだった。悩んで変なことをする。
「おばあちゃんになっちゃうわよ」
リリオンの言葉にランタンは腕組みをして、肩をいからせた。
「ならないよ。睡眠ばっちりの僕がいるんだぞ。そんな風にだらだらとした戦闘にはならない」
そしてランタンも、やはりまだ少年である。
「たいした自信だな」
三人のやり取りを見ていたレティシアが穏やかな口調で口を挟んだ。
結局、ローサは兄と姉に憧れ、その役に立ちたく、リリオンはランタンのために、ランタンはリリオンのために戦うのだろう。
そして私も。
レティシアは鞘を払って剣を抜いた。
「事実だからね」
ランタンが衒いもなくそう言うよりも先に、レティシアは口元に笑みを浮かべている。
「頼もしいことだ。ではそれを証明してもらおうか。留守番をしないからにはリリオンもだ。ほら、ローサもふて腐れていないでよく見ておくといい。でないと本当に、あっという間に終わってしまうかもしれない」
レティシアは竜尾で床を叩いた。
ぴしりと網目状に罅が入る。
場の空気がぴりりと引き締まった。
少年と少女の顔つきが、探索者の顔つきに変わった。
ランタンはローサを手招きする。乱暴な手つきでその頭を撫でる。
「いい子で待ってな。運び屋の一番の活躍の場は帰り道だ」
ランタンが言った。
「さあ、行こうか」
三人は霧を抜けた先に一瞬、目を眩まされた。
それは地下十五階とまったく同じ、それを鏡写しにしたような一部屋だった。
いつ霧を抜けたのか。その瞬間も化かされたように曖昧だった。霧の向こうからでは捉えることのできなかった最終目標の姿が、生身の視界でも捉えることができない。
三人の視線が鋭く部屋中を切り裂き、視覚ばかりではない探索者のあらゆる感覚が部屋の隅々に注意を払う。
機械音。
そして高まった緊張を和らげるような、ちん、と気の抜けた鐘の音。
部屋の中央にある柱の一部が左右に分かれた。
昇降機の扉が開いた。
その瞬間に、何かが飛び出してきた。
リリオンが磁石で引かれ合うかのように前進した。予定通りランタンは左に、レティシアが右に回り込む。
目を凝らした。
姿を捉えることが難しい。
ガーランドのように透明なわけではない。
それは鏡だった。人の形をしているが部屋の白色を全身で反射し、空間に溶け込んでいる。
曖昧な輪郭線を視線でなぞる。五本の指、髪も表情もない、手に何かを握っている。いやそれは握っているように見えるが、それさえも肉体の一部に違いない。
今この瞬間こそ人の形をしているが、不定型生物のように特定の形を持たない魔物だ。
妖しげな銀色の魔物。
リリオンはその水銀妖を明確に認識していない。だが金属の持つ冷ややかな気配を頼りに迷わず剣を払った。
斬り結んだ。
甲高い音が鳴り、ばちっと火花が散った。
その光に輪郭がもっとはっきりする。
水銀妖はリリオンと比べるとずいぶんと小さい。頭一つ二つほどの小躯は、ランタンと似ているかもしれない。そしてランタンと同じように、リリオンの膂力を真っ正面から受けきっている。
「むんっ!」
リリオンが力の拮抗を嫌って後肢に残した体重を制圧力に使った。水銀妖はその瞬間に力を緩める。リリオンの上体が泳ぐ。肩から先、腕をしならせて受け止められていた剣を無理矢理に振り抜いた。
水銀妖が背を後ろに反らし、天井を見上げるみたいに横払いをやり過ごす。地を這うような沈墜。リリオンの爪先を踏むような踏み込みから、上体を起こし様に手の得物を斬り上げる。
その胴払いにリリオンは自分から飛び込む形になった。直撃は死を意味する。
その間にランタンが割って入る。
戦鎚で受け止め、しかし押されてリリオンの体温を背中に感じる。
瞬間にランタンの肉体から爆発が巻き起こった。
だが水銀妖はそれを恐るべき身のこなしで躱した。銀の肉体に炎の揺らめきが煌々と反射する。大きく後ろに跳んでいる。そしてランタンとリリオンも同じように後ろへと距離を取った。
次の一手は悪手となるかもしれない。
レティシアの竜眼が紫電に染まっていた。額から突き出た二本の角の間に今にも破裂しそうな雷球が浮かんでいる。これまでの時間に溜め込んだ力だった。
それは強力な力だったが、周りの仲間さえ巻き込みかねない範囲攻撃だった。
雷球が爆ぜ、強烈な雷撃が放たれた。
瞬間的に沸騰した大気が轟音を響かせ、雷撃が水銀妖に直撃した。
磨かれた銀そのもののつるつるしたその肉体が瞬時に沸騰し、蓄えきれない電流がその肉体から放射されて辺りの床や壁を砕き焦がした。
傍に寄れば側撃雷を喰らいかねない
三人は、それを放ったレティシアさえ近付くことができずにそれを遠巻きに眺める。
探索の目的はリリオンの武器の素材集めだった。高硬度の金属。
この最終目標は、しかし目的の最終目標ではなかった。リリオンが購入した金属球は、おそらく機動鎧の球体関節だ。それはかつてランタンの戦鎚の先にも使われたことのある素材である。
「やりすぎたか?」
「最終目標相手にやりすぎってことはない」
「……ねえ、あれ。ううん」
水銀妖はすっかりと黒ずみ、ぼこぼことした沸騰の痕跡だろう穴が全身に穿たれ、しかしさすがは最終目標である。未だに形と行動力を保っていた。
既に水銀ではないのかもしれない。身体を動かすと軋むような音がした。高熱を発しており、危うい金属の臭気が辺りに広がった。
「あれ、のあとは?」
「ううん、気のせい。なんでも、ないっ!」
ランタンの言葉をリリオンははぐらかした。
軋むような音と裏腹に銀妖は高速で三人に肉薄した。今は黒ずみ、反射も失われてすっかり形が見える。しかしそれでも一歩間違えば躱せぬような高速の一撃をリリオンが受け止める。金属が散った。形を固定された銀が砕けたのだ。
破片が散弾のようにリリオンの肌を裂いた。
銀妖がリリオンの一撃を受け、動きが封じられたその隙にランタンも殴りかかった。無防備な胴体に一撃を叩き込む。深い亀裂が入る。だが不思議と崩れない。関節を持たぬもの特有の奇怪な動きで、激しくランタンを蹴りつける。
「こいつ、重い!」
同じ体格であるが、相手は金属だった。そして雷撃の熱をまだ蓄えたままだ。蹴りを受けた脛が焼き印を押されたかのように焦げ付いた。
「リリオン、下がれ!」
レティシアの声にリリオンが後退し、取り残された銀妖にいくつもの雷撃が降り注いだ。
威力は先程の半分以下。だが数は十三。致命傷を与えるには充分だった。その筈だ。
しかし銀妖は手にした獲物でそれを次々に打ち払った。その速度に耐えきれず肉体がぱらぱらと剥離する。
己を顧みない、恐るべき身のこなしである。
熱が銀妖の周囲を歪ませていた。
「やっぱり……」
リリオンが小さく呟く。レティシアも何かに勘づいたかのように眉を顰めた。
ランタンだけが気付かず、それに突っ込む。瞳の中に炎が揺らめき、その小躯に陽炎を纏っている。
ランタンと銀妖が打ち合った。
互いに高熱である。肺の焼けるような一呼吸の間に十数と鋼が交差する。
それは事前の打ち合わせがあるかのようだった。呼吸が合いすぎる。頭で考えるより速く、肉体が動いた。未来予知に似て相手からの攻撃にランタンは戦鎚を差し出し、しかしランタンが戦鎚で打ち付ける場所にもすでに相手の得物があった。
骨も折れず血も流れず呼吸さえ必要しない銀妖との我慢比べにも似た打ち合いだったが、分はランタンにあった。
打ち合うほどに銀妖はぼろぼろと肉体を崩していった。吐息一つで砂像のように崩れそうな程の罅の入りようだったが、未だ形を保っているのは迷宮の主としての意地だろう。
意地っ張り。
――あるいはそこまで似せたのだろうか。
本能に思考が追いつく。相手の得物が差し出される場所と、自分が最大限力を発揮できる位置。ランタンは右肩担ぎからの渾身の一撃を叩き込んだ。
銀妖の手にする得物は、銀妖の肉体そのものである。武器破壊は、同時に肉体の破壊と同等の意味を持った。
ランタンの狙い通り、銀妖の得物が破壊され、そこに繋がる五指が崩れ、その手首がぼろりと落ちた。肘の付け値まで亀裂が伸びる。
――勝機。
ランタンは獰猛に牙を剥く。
「だめーっ!」
「――ぐえっ」
そんなランタンの首根っこをリリオンが引っ掴み、ランタンが押し潰された蛙のように情けない声を出した。抗う間もなくリリオンがランタンに覆い被さる。そして入れ替わるようにレティシアが逞しい竜尾で銀妖を打ち払った。
銀妖が吹き飛ぶ。
そしてレティシアはランタンとリリオンごと雷の繭に包み込む。
次の瞬間に耳を劈いた破壊の音色は、他でもない銀妖の爆発音だった。
自爆だった。
四方へと弾け飛んだ銀の破片が恐るべき凶器となって部屋中を攪拌した。
それが戦いの終わりだった。
「――まさかとは思ったが、本当に爆発するとは。リリオンはいつわかった?」
「形がわかってから、確信したのはあの動き」
「確かに、あれはわかりやすい」
まだ耳にこびり付く爆発音の余韻から抜け出せぬランタンがめちゃくちゃになった最下層でぼんやりとしている。
まだ爆煙の消えぬ間に最下層へ入ってきたローサは、部屋中に飛び散った銀妖の破片を拾ってはランタンの膝の上に集めている。ランタンはその度にローサを撫でるが、まったく無意識だ。
「どういうこと? なんで?」
ランタンは子供っぽい口調でリリオンとレティシアに尋ねる。
「だってランタンにとっても似ていたんだもの」
「……似てないよ。あんな銀色じゃないし」
「だが爆発はするだろう。しかしランタンの似姿か。迷宮もいいところを突く。最も強く、最も手を出しづらい」
迷宮に探索者をまねる魔物が出現するのは珍しいことではない。特定の形を持たぬ魔物は、そういう手段をとることがある。
そして迷宮内で探索者を殺したそういった魔物が、何食わぬ顔でその探索者に成り代わって地上で生活を送っているというのは完全に否定しきれぬ噂話として定着している。探索者が恐れられる理由の一つでもある。
「もうちょっと可愛げがあったら私やリリオンは手出しできないところだったな」
「うんうん」
「……そん時にはきっちり僕が止め刺すよ。影も残してやらん」
ランタンは立ち上がり、しかしその膝の上に乗っていた銀の破片を全部落っことしてしまった。
どうやらまだ動揺しているらしい。ランタンはそれを一つ一つ拾い、袋の中にしまっていく。
「ああ、もうさっさと帰ろう。こんな迷宮。目的のものはなかったし、これも使えるかわからないし」
「そうね。またグランさんの所に持っていかないと」
「また探索するなら誘ってほしいな。だが仕事がなあ……」
「いらないなら、ローサにちょうだい」
袋の口を縛ってローサの荷物袋に突っ込んだ。
ぷるる、ぷるる。
「……!」
破壊され尽くした最下層で、奇跡的に形を保っていた電話機が突如鳴り響く。
四人は顔を見合わせて、ローサが駆け寄って受話器を取った。そしてそれを顔の横に当て、首を傾げ、受話器を置いた。
「なにもいわなかったよ」
「ローサの耳は頭上だろ」
「あ、そうだった!」
ランタンが頭を指差すと、ローサは照れくさそうに笑った。
そしてまた、ぷるる、と電話が鳴った。受話器を取ろうとするローサを押し退けて、ランタンがそれを取った。
耳に当てる。
声。
「――今からやっつけに行くわ。覚悟しておいて」
がちゃん、と叩き付けるように電話が切られた。
聞き間違うはずがない。
それは紛れもなくリリオンの声だった。
「なに? 何か言われたの?」
首を傾げるリリオンの顔をランタンは形容しがたい表情で見つめる。
ランタンは三人を急かして、リリオンがやっつけにくる前に迷宮から逃げ出した。




