301
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彷徨う者とは未帰還となった探索者が、肉体をそのままに魔物となって迷宮に現れたものを指す。
怨念か、未練か。
迷宮の呪いか。あるいはそれを祝福と呼ぶものもいる。
何が探索者をそうさせるのだろう。
ランタンが魔精の活性を感じ取るのと同時に、首無しの騎士王が跳ね起きる。
ランタンとリリオンともに虚を突かれた。思考の空白を本能が埋める。二人は反射的に距離を取ろうとする。
だが騎士王の無手の右が、素早く振り上げられる。狙われたのはリリオンだった。気付いた瞬間にランタンは後傾する体勢を踏み留まって、リリオンを狙った右手に迫る。無手であることは安堵の材料にならない。
首を失えども玉座を追われたわけではない。王は未だに王である。
その手に気が付けば槍が握られている。
帰還の槍。
鋭い槍の穂先がリリオンの脇腹に滑り込んだ。リリオンの表情が歪む。槍はそのまま左の鎖骨に向かって振り抜かれるかに思われる。
ランタンが槍を追い越す。
掌打がリリオンの胸骨を叩いた。強引にリリオンを穂先から逃がしたのだ。途端に出血し、服に血が染みる。染みが広がる。
ランタンは反転し、騎士王に打ちかかる。
リリオンを切り損なって上段まで振り抜いたはずの槍はそこにない。高々と挙げた右手は空であり、槍は左手に握られている。
手首の反し。古い探索者証が揺れる。地擦りの穂先がランタンの脚をすくい上げる。狙いは体勢の崩しと、大腿動脈の切断。
ランタンは片脚を引いた。半身になってやり過ごした槍は、ランタンの鼻先を掠めて前髪を散らした。騎士王が戦鎚の間合いから外れ、ランタンは肩を内転させてどうにか距離を稼ぐ。
足らない。
重心が浮かされ、まともに距離を詰めようと思えば二手遅れる。
引いた左足に発生した爆発がランタンを押し出す。足らない距離を埋め、戦鎚が鎧の胸を強打する。
騎士王は首を落としても止まらなかった。しかしそれはそれほど驚くべきことではない。予想はしていたことだ。不死系の魔物は肉体の破壊によって滅びないことがある。
ただ復活までの間がいやらしい。首を落とされて、この騎士王は一度死んだ振りをしたのだ。普通は首を落とされて平然としているというのに。
その姑息さは、使えるものならば何でも使う探索者らしさの現れのように思える。
彷徨う者。
記憶を引き継いでいる可能性。
あるいは探索者というものを識った可能性。
騎士王は胸を打たれて踏鞴を踏むが、背後から接近するリリオンへの牽制を怠らない。背後へと槍を横振りにした。がら空きになったが、ランタンは踏み込みを躊躇う。警戒が途切れない。
頭部を失うことで、視力聴力以外の感覚器が働いている。それは全方向へ向いている。
魂は肉体という器に随う、と言うことだろう。
騎士王は槍に引きずられるように反転した。ランタンに背を向け、リリオンに正対する。そして今度は槍がランタンの眼前にある。
拉いだ膝関節が、自らの速度に耐えきれずねじ切れたのだ。咄嗟にランタンを横払いにしようとしたが、ランタンは体を沈めて半歩踏み込んだ。
狙ったのは手首と、探索者証の隙間だった。
針穴を通す正確さで探索者証の隙間に鶴嘴を通し、力任せに腕を引いた。
騎士王の四肢が遠心力に引っ張られて、身体が開いた。
リリオンが踏み込んだ。猫のように足音がしない。脇腹の傷口から、どぼ、と押し出されるように出血があり、手に馴染まぬはずの魔剣が燕のように翻る。
左肘と、両膝の関節を音もなく断ち切った。
首を落として止まらない不死系魔物を止めるには、その核となる何かを砕くのが最善の方法だが、その何かを見つけられるとは限らない。ならばどうするかと言えば、機械的に行動力を奪うことが次善の策であるとリリオンは理解していた。
胴体と、それに繋がる右腕だけになって、それでも騎士王は最後に槍を放った。ほとんど指先だけの力だった。
狙ったのはランタンでもリリオンでもない。なにも狙っていなかった。その先にはただ空間があるだけだ。
――全てに意味があるとするならば、その行動にも意味があるはずだった。
槍の行方をランタンは視線の端に追う。鶴嘴を探索者証の隙間から抜き、リリオンの出血を確認、地に伏せる騎士王の肉体から何かが抜ける。
一瞬、ランタンの視界がちらつく。見えないものを見たような気がする。帯状のものだったようにも思えるし、流れのようなものだった気もする。見間違いかもしれない。それほど稀薄なものだった。
ぞわ、とランタンの肌が粟立ち、リリオンが猫のように身を竦める。
その感覚は死神の出現時に感じたものに似ている。
槍はランタンの視界から不意に消える。
視線で追いきれなかったわけではない。流れ星が燃え尽きるように、色を失い、形を失い、それは溶けるように消失した。
槍は王の下に帰還する。そして騎士王の右手は空のままだった。
譲位である。
槍は大釜の脇で立ち尽くしていた探索者の右のこめかみ付近に出現した。それは放たれた速度をそのまま保っており、探索者の頭部を貫通し、押し込むかのように大釜の縁を乗り越えさせて、その内に呑み込んだ。
騎士王から抜けた何か。
きっとそれこそが最終目標の核なのだろう。肉体は器であり、器を壊す探索者こそがそれの求めるより強い器である。
探索者はもしもの時の予備体だったのだろうか。それとも何かが求めた器に足る素質があったのか。
困った。
器たる肉体を破壊することはできても、何かに干渉することが未だにできずにいる。非物質的なものに対して有用であるはずの魔道は、その力を呑まれている。
「大釜を壊す!」
「うん!」
ランタンとリリオンがほとんど同時に大釜に打ちかかった。その内側で何かが煮込まれて、ぶくぶくと泡立っている。
遮るものはないはずだったが、今はそこに槍があり、肉体がある。
探索者によって真一文字に構えられた帰還の槍が戦鎚と魔剣の両方を尽く受け止めていた。
生まれたばかりの赤子のように濡れている。ぬらぬらした青い液体が急速に乾いてゆく。硝子のようにきらきらしたものが剥がれ落ち、溶けて消える。
探索者の装束はそのまま、胸に空いた穴は塞がれ、その肌は死者であったころよりもより青ざめているが、青々とした血が巡っているのだろうと思わせる青さだった。
将来を嘱望された若き探索者の表情は、しかしやはり無貌である。
「――ふっ」
最終目標の、男の口から息が漏れた。
それは言葉ではなければ、笑ったわけでもない。二人を押し返すべく込めた力が作用して肺が収縮しただけだった。魔精の匂いのような、血の匂いのような、腐臭のような、つんとした臭いがする。
リリオンの足元が滑った、出血が太ももを染め、脹ら脛を伝い、靴底を濡らしたのだ。
ランタンは男の制圧力をどうにかいなし、槍を潜って更に踏み込む。頭上に石突きが振り下ろされるが、それは誘い込んだものだった。戦鎚に一撃を受け止め、狙いは大釜から変えてはいない。
男ごと吹き飛ばすつもりの横振りは、鐘を撞くような一撃である。
「むんっ!」
ランタンの喉が唸る。
男は恐るべき膂力を有している。ランタンが押し込んでいるのにびくともしない。もしやこれは騎士王よりよほど手強いのかもしれない。
蟲毒。
ランタンは己が口走った言葉に舌打ちをする。
騎士王を倒し、その呪いはより強力になって男に宿った。
「ええい!」
リリオンがランタンの影から探索者に斬りかかる。それを探索者は腕で受けた。肌を青い結晶が覆っている。それは切り裂かれるほどに厚みを増して、リリオンの力を受けきった。
槍がランタンを押し返した。そしてリリオンの斬撃を受けた腕をそのまま振り払った。
「ふう、ふう、ふう――……」
肩で息をするリリオン。流れる血は粘性を帯びて、だが止まってはいなかった。
「塞いでこい」
「いやよ」
この場から追い出されまいと、リリオンが意地を張った。しかしその出血は無視できぬものである。
「なら六十秒で止めろ。あと――」
言葉を継ぐ、その余裕を与えられなかった。いや、余裕があっても自分はなんと言っただろうか。
男が迫ってきていた、ランタンは地面を蹴って迎え撃つ。
始めの二十秒、ランタンは呼吸をしなかった。
槍の刺突。その一つ一つが絶死の一撃である。額を狙い、目を狙い、喉を狙い、臓腑を狙う。切り裂かれる大気が悲鳴に似た風音を発生させ、紙一重に躱すランタンの肌が爆ぜるように裂ける。
避けることだけに集中したその二十秒に繰り出された槍撃の数は百では足らない。
ひゅる、と呼吸をする。空っぽになった肺に自然と空気が滑り込んでくる。
ふと力を抜いた。
ランタンはあえて無防備になる。心臓を狙わせた。
「くっ」
狙い通りに突き込まれた穂先。これを弾く。その瞬間に槍は鎌首をもたげて喉を狙う。読み負けにランタンが表情を歪める。頸動脈を鋼がかすってゆく。
そうして始まった次の二十秒をランタンは打って出た。
発生させた爆発は目眩ましであり、肌を濡らす己の血を乾かすためのものだった。ランタンの肌から焦げ付いた血が剥離し、流れる血は固まって傷を塞いだ。
その熱は男をも炙った。普通の魔物ならば血が沸騰するが、そうはならない。魔精から魔道となったそれは、本来は不可逆的なものだ。
だが少し呑まれた、とランタンは悟った。
戦鎚と槍が交錯すること五十と八。
最後の二十秒となった。
ランタンの肌が上気し、眼差しが真紅に染まる。再び満たされた肺の酸素が爆発的に消費され、暴力的なほどの運動量に変換される。
雷光のごとき猛攻だった。
最下層を満たすものは途切れることのない鋼の音色だった。
男が完全に受けに回った。回らざるをえない。ランタンの一撃があまりにも重く、受けた槍が弾き飛ばされて男の肉体が振り回される。鎧のごとく男を覆う青い結晶が粉砕されては復活し、あたりに雪のように積もった。
押し切れるか。
「――っ!」
ランタンの掌から再出血し、ずるりと戦鎚が滑って手中から失われた。
それを見逃す男ではない。
本能だった。
爆発。
この戦いの中で意識的に封じていたものだった。
ランタンの探索経験の中で、これほど爆発を制限されたことはない。それは常にランタンを助けるものだった。これだけを頼りに迷宮を攻略したことはもう懐かしい過去であり、これがなければランタンは最初の迷宮に辿り着くことさえできなかっただろう。
ランタンの魔道は学んで覚えたものではない。感情の発露である。
ランタンから発生した力の暴発は極大の炎と熱を、光と音を発生させた。
だが男は平然とその中に踏み込んできた。
「あ」
炎が萎み、熱がぬるまり、光が弱まって、音だけが虚しく残された。
男が力を増大させた。
ランタンは欠伸をするみたいに口を丸く開いて、接近する男の懐に自然と入り込んだ。
近すぎる。畳んだ肘を水月に打ち込んだ。それもまた反射だった。だが男はやはりびくともしない。肘に痺れがあるだけだった。
器だ。
探索者の肉体は、何かを入れる強固な器。
「はあああああっ!」
男を吹き飛ばしたのはリリオンの拳だった。
振りかぶった拳が男の鼻面を捉えて、後方へと吹き飛ばした。男はぼたぼたと鼻血を垂らしながら起き上がる。リリオンの拳から白い骨が突き出ていた。
少女の手を、女の手が覆った。
「無理をなさらないでください」
ヤナの手である。
「一人じゃ血がとまらなかったの」
リリオンが言い訳をするみたいに、ランタンに言った。ランタンが首を巡らせると、ヤナが額に玉の汗を浮かべている。魔精薬を使って力を底上げしている。その背後に多くの探索者の姿があった。
ジャックもいる。バロータらの若い探索者たちもいる。あの虎人族の戦士もいる。ピレアもいる。ランタンたちを送り出した全員が最下層に殺到していた。
「行け行け行け。動きを止めろ! そうすりゃランタンが殺るぞ!」
「おうおう。命を惜しむな。使いどころだ!」
「でも死ぬなよ。死んだらランタンにぶっ殺されるぞ!」
「うわあ、こえー!」
ランタンはびっくりしたような顔になる。
ランタンの脇を通り過ぎて、探索者たちは無謀にも男へと突撃していく。
「わたしも行ってくるからね!」
飛び出た骨を肉に埋め戻しただけのリリオンが、ヤナの手を振り解いて颯爽と身を翻す。
「大鎌を」
「こちらに」
ランタンはヤナとアデルの手からそれを受け取った。
これが今ここにあることも、きっと意味があることなのだ。本能的に爆発を用いてしまったことも。力を呑まれることも、それは干渉できない相手への干渉だった。
ランタンの力は男へ、最終目標へと流れ込み、それは一種の経路を形成した。
あの大釜では生と死が煮込まれている。そこでランタンの一部もどろどろに煮込まれている。
力の源はやはり大釜であり、男にはそこから力が注がれている。煮込まれることが、経路をつなぐ、あるいは結ぶ方法の一つなのだ。結ぶ。それは比喩ではない。大釜と男は縄で結ばれている。
ランタンの目にはうすらぼんやりとそれが見えている。男と大釜を、男と迷宮を結びつけるものが。魂を縛るものが。
「ランタンさま」
「頼みがある」
ランタンはアデルに顔を寄せる。ランタンが何事かを告げると、アデルの顔も、それを聞いていたヤナの顔もはっきりと強張った。だがランタンは有無を言わせない。血の乾かぬ手で女の頬を掴んだ。
「やれ」
「かしこまりました」
アデルもヤナも傅く。まったく無意識だった。
ランタンは男を振り返る。
大釜の破壊は必須。だが破壊するだけではいけない。大釜には力が満ちている。先に大釜を破壊しても、力の全てが器に注ぎ込まれるだけだ。
まずは器の破壊。
あるいは経路たる縄を断ち切る必要がある。
男は探索者たちに取り囲まれて、ランタンがそれを目にすることができない。探索者たちは男を逃がさぬように取り囲み、その中心にいるのはリリオンとジャック、そして色褪せた虎の戦士だった。
即席の連携ながら、普通の最終目標であれば既に討伐できるほどの攻撃を、男は完全に受けきって三人の連撃の隙間を縫って攻勢に転じてすらいた。
ジャックの大理石模様の毛皮が、色褪せた虎の毛がじわりじわり血に染まっていく。
リリオンの魔剣が男の頬を裂いた。不可視の刃である。頬から鼻を横切って、左目の下から耳を斜めに駆け抜ける。結晶防御を出し抜いた。どっと青い血が流れた。だが傷口に結晶が生成される。
顔から結晶を生やすその醜悪さは、むしろ哀れだった。
「道を開けろ!」
ランタンの声が響く。
言葉の意味を理解するよりも早く、探索者たちはざっと左右に分かれた。自分たちの間を駆け抜けていく少年の背中を見おくる。
ジャックがナイフを投擲した。それは左の足の甲を貫いて地面に縫い止める。槍の穂先が虎の戦士の背中から突き出る。戦士はそのまま槍をもっと深く差し込むように、男の右腕を捕まえて離さない。
男が暴れる。
魔剣を構えたリリオンの、その前にピレアが割り込んだ。男の身体に噛み付くみたいにしがみつく。
「お願い!」
男はピレアの抱擁に、暴れるのを止めなかった。動きが一瞬弱まったのは、女の振り絞った力の現れだ。
ランタンは死神の大鎌を振りかぶる。
縄である。茨のように男に絡みついている。ランタンの目に、どうしてか今ははっきりと見える。分かちがたく結びつけられ、だが不思議と結び目は存在しなかった。
ランタンは大鎌を振り抜いて、ピレアごと男を両断する。
死神の大鎌。王を討つための神器。それは目に見えぬものを、魂を切り裂くことを真意とする。
男の膝から力が抜け、ピレアを押し倒すように倒れた。
男と大釜を結びつけていた縄が、ふつ、と断ちきられる音を誰しもが耳にした。
戦いの音色が嘘のように静寂が満ちる。呼吸の音さえしなかった。
最下層の奥で、物言わず鎮座していた大釜に斜めの亀裂が走った。それは最初から二つに分かれていることを今思いだしたみたいに、ずるりと断面を滑らせた。
そして内側に満たされていた生と死が溢れる。
それが何であるかを認識できた探索者は存在しない。
何かとてつもなく恐ろしいものが迫ってくるのを肌で感じているだけだ。
ランタンの視界もなにも捉えていない。闇雲に大鎌を振るったところで、それを切り裂くことはできないだろう。
最下層には器たる探索者が大量に存在した。選り取り見取りだった。その何かは、自らを納めるべき器を迷った。
その一瞬の隙だった。
それは恐ろしい腕である。
荒縄を幾重にも束ねたような筋肉の隆起。闇を煮詰めたような漆黒の鱗は小さく、隙間なくびっしりと腕を覆っている。それは黒竜の腕のようにも見える。だがその手は人のそれによく似ていた。関節が一つ多い、禍々しい五指の間には皮膜が張っており、先端の爪は銀に輝いている。
その腕が目に見えぬ何かを鷲掴みにした。
腕の根元はアデルの杖に繋がっている。檻状の先端は内側から爆ぜるように拉げ、アデルは必死にそれを制御しようと杖にしがみついている。
魔を以て魔を制する。
杖に封じられたそれは、形を持たぬ妖精を貪るものである。
ずるずると獲物を咥えた蛇のように腕が杖の内に帰って行く。アデルが御したわけではない。劈くような咀嚼音が二度、三度と響き渡り、探索者たちは震え上がった。
「……お願い、……お願いよ! 静まり、なさい!」
アデルは必死に封じようとするが、それを嘲笑うかのように檻の内側からぬっと銀色の爪が。
ランタンはその闇を覗き込んだ。
そこにはリリオンが言っていた通りの、金色で、ぎざぎざした瞳孔の、とてつもなく恐ろしい何かがいて、ランタンはそれと目があった。
深淵を覗くものよ。
だが、深淵を覗き込んでしまったのは、はたしてどちらだったのだろうか。
「――引っ込んでろ」
杖を握り締めていたアデルだけが、唯一ランタンの真紅の瞳をまともに見ることができた。
見ることができてしまった。
アデルは腰を抜かしてへたり込む。
股ぐらが濡れ、不愉快な生ぬるさは幼いころ以来の感覚だったが、それを恥じる余裕すらない。
最下層の探索者たちも、それを囃し立てる余裕はなかった。
迷宮核の発現。それに伴う魔精酔いは、彼らが今まで体験したどの迷宮よりも酷いものだった。
「……死んだ人いる?」
ぐったりとしたランタンの問い掛けに、あちらこちらからどうにか反応が返ってくる。
「あー……死んだ。今さっき、死んだ」
「あたしもしんでる。おおええ」
「げえ、むしろ死にたいぐらいだ」
誰か一人が吐いて、連鎖的にそれが広がっていく。
「死んだと、思ったんだけど……」
男の下からピレアが這い出てきた。
「……生きてるのね。夢みたい」
そんなことを呟く。
気が付けばリリオンがランタンに寄り添って寝転がっている。
「痛い?」
ランタンは頷いた。
「全身痛いよ。リリオンは」
「おんなじ」
ちょっと笑っていう。
「じゃあこれは夢じゃないわね」




