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カボチャ頭のランタン  作者: mm
13.Invitation To The Castle
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 ランタンは扉を蹴り開ける。鍵をぶち破るわけではない。両手が荷物で塞がっているための横着だった。

「レティ、これ。アシュレイさまの引越祝い。ちょっと遅れたけど、送っておいて」

 絨毯の上にそれを降ろすと、長い毛足が見事に潰れる。かなりの重量がある。

 それは柱だ。

 縦はランタンの身長ほどもある。金属製の円形で、表面に細かな溝が彫ってある。その溝に沿うようにびっしりと根が張っていたが、青々とした肉厚の葉がそれを覆い隠している、

 さまざまな種類のフラリウスの花が植え付けてあるのだ。大半はまだ蕾であり、しかしそれでも色彩豊かであることがよく判る。下方は暗く青の色合いが強く、上方へ行くにつれて明るく赤色に移り変わる。

 グラン工房に依頼して創らせた合金の柱である。根付いた金属の種類によって花は色を変えた。

「自分で届ければいいじゃないか」

 レティシアは多少眠たげな目をしながら言う。

「やだよ、重い」

 机の上に広げられている書き付けは騎士法改正の草案だった。

 騎士の行動規範となるべき規則や戒律はすでにあったが、かつてブリューズ政権時にはこれをやや蔑ろにするきらいがあった。万人を守るべき騎士が、市民に害をなすことさえある。

 そんな横柄な騎士たちの評判はあまりよくない。

 先の大雪でもよく働いたのは市民を守るべき騎士よりも探索者であった。また騎士団の中にはアシュレイを侮る風潮もあるらしい。

 ブリューズによって再開発された旧下街は見事に作られた街並みとは裏腹に治安が悪かった。

 これはブリューズが人を歯車のように見ていたせいだ。彼が生きていたら、そこに住むべき人々もきちんと用意しただろう。

 だがその前にブリューズは死に、街は半ば放置された。

 街には旧下街の住人は元より、移民たちも住み着いたが、生活基盤の稀薄さゆえに犯罪に手を染めるものも少なくない。

 一見するだけならば見事な街並みも、その中身はあの廃虚だらけの旧下街と大差のない有様である。

 大雪によって家屋を潰された家族に旧下街の空き家を用立てても難色を示されるほどだった。

 アシュレイ新政権にとって、そしてそれ以前からも、治安の向上はティルナバンの課題だった。

 そのためにもまず騎士の綱紀粛正を図るために、アシュレイより命を受けたのがレティシアである。

 ネイリング騎士団の精強さとその統率は誰もが知るところだった。

 窓から差し込む光はすっかり春の陽気に暖かい。しかしレティシアが眠たげなのはその所為ばかりではないだろう。

 机の下には没案が記された紙が幾つも丸められている。手本とするべく実家とも連絡を取り合っているが、なかなか納得のゆくものはできないらしい。

「私も結構忙しいのだが」

「お願い」

「しょうがないな」

 レティシアはすぐに頷いた。ペンを置いて、椅子に座ったまま大きく伸びをする。

 ランタンが来なければ、こんな風にペンを置くこともなかっただろう根の詰めようだった。

 背を反らすと豊かな胸が更に盛り上がった。ぎゅっと目を瞑るような瞬きは少し子供っぽい。肺を絞るように息を吐いた。疲労の色が濃い。

 ランタンは日向を避けて、壁に柱を立てかけた。

「しょうがないついでにこれも渡してあげて、魔道ギルドから」

 ランタンは小袋を渡す。ざらざらと乾燥した音がする。中には植物の小さな種が入っている。

「フラリウス・(リーチ)か」

「リーチじゃなくて、レチェ。古語で牛乳とかそんな意味らしい」

 それは魔道ギルドが交配して作った、あるいはランタンが作らせた新種だった。

 一夜で人の肌に根付き、刺青の顔料を養分に花を咲かせ、そして夜明けを待たずに枯れ落ちる。墨消しの花だ。

 アシュレイは肉体に魔道式を彫り込んでいる。それは周囲にある魔精をその身に取り込むためのものだ。魔精によって姿を変じた兄を弑するための覚悟の刺青である。

 だが、そんなものはいらない覚悟だとランタンは思う。

 アシュレイと風呂を一緒にする機会があって、ランタンはよりそう思った。

 ことさら刺青を隠そうとしなかったのは、ああいう状況を用意までして刺青を眼前に晒したのは、むしろそれを気にしていることの裏返しだ。

「よく見ているな」

「美人好きだもん。鏡見てみたら? 僕の好きなものが映ってるよ」

 ランタンは恥ずかしげもなく言う。レティシアは鏡のない方に向かって視線を逸らした。臆面もなく言われて照れたらしい。ランタンの視線に(つつ)かれて、レティシアは頬を掻いた。

「ええっと、姫さまに何かお伝えしておくことはあるか?」

「別にない」

「そんなことはないだろう。姫さまのために採取に励んでいたんじゃないのか。魔道ギルドにまで行って」

「いや、偶然。たまたま集めてたらそういう種類があるって知ったから、ついでに」

 レティシアは呆れたような、安心したような視線をランタンに向ける。

 ランタンの言葉は照れ隠しでもなく本当のことなのだった。

 アシュレイはきっとそれを告げられて笑うに違いない。ランタンらしい、と。

 だがもし、淑女を見たら口説くべし、と言うような騎士の古い作法をランタンが身に付けていたら、アシュレイはどう反応するだろうか。貴女のために、などとこの少年から言われたら。

「……さみしい」

 レティシアはぽつりと呟いた。

「なに急に。どうしたの?」

「ランタンが行ってしまうのがさみしい。引っ越したらこういう面倒事は自分でしないといけないんだぞ。ちゃんと出来るか?」

「ガーランドにやってもらう」

「リリララが嘆いていたぞ。出来が悪すぎるって」

 一流のメイドとなるべくリリララの指導を受けているガーランドであるが、残念ながら出来の悪い生徒であるようだった。あのリリララがやや苦手としている老メイド、ダニエラに泣きついたほどだ。

「もともとそっちはあんまり期待してないよ。ローサの護衛(おもり)役だもん。それに面倒なことがあったら顔出すよ」

 レティシアはがっくりと項垂れた。それでもいいと思ったのだ。

「さみしがって欲しいの?」

 ランタンはわざわざ筆記具を片付けて、机に腰掛けた。

「少しぐらいはな」

 レティシアはランタンの太ももに頭を乗せる。少年の指が紅い髪を(けず)るとレティシアの眼差しはいよいよ蕩ける。ううん、と甘く呻いた。

「ローサほどさみしがれとは言わないけど、もう少しぐらい惜しんでくれてもいいじゃないか」

 この部屋にローサが嵐のようにやってきたのは昨日のことだ。

 ローサが引っ越しの話を聞かされたのは昨日で四回目になり、それがどういうことなのかを真に理解したのは四回目を聞いた二時間も後のことだった。

「もう二度と会えなくなる訳じゃないんだし。大げさにさよならをすればするほど、恥ずかしくて会いに来づらくなるよ。それでもいいなら泣いてあげるけど」

「むう、それは困る。嘘泣きぐらいじゃ割に合わない」

 今日もローサは別れの挨拶をするのに忙しい。

 言葉を交わしたこともないような雑夫や、すでに別れを済ませたはずのメイドにまで、顔を合わせるたびに眼に涙を溜めて精一杯別れを惜しんでいる。指導のため館に通う約束をしているベリレにまで泣き顔を晒して困らせていた。

 ああいう素直さは侮れない。ランタンがこの部屋に来るまでにすれ違ったメイドには目を充血させたものさえいた。

 あれほどランタンも惜しめば、レティシアも割に合うだろう。

 頬の触れる太ももからレティシアが笑うのが伝わってきた。ランタンが涙ながらに胸元に縋り付く様子を想像するのは楽しく、そして虚しい。

 ランタンはそういうことをしない。

「僕も困るよ」

 さらりとそういうことを言うだけだ。

「困ってくれるなら、それでいい」

「面倒事押しつけられないからね」

「それでもいいさ」

 レティシアは突進するみたいに顔を突き出し、竜角でランタンの脇腹を突いた。そのまま薄べったい腹に顔を埋める。柔らかな腹筋。上下する横隔膜の気配。呼吸に少年の匂いが混じる。

 いつだったかリリオンがそうしているのを見て、いつか自分もしてみようと考えていたのだ。こんな事をする機会も減るだろう。

「今日は甘ったれだね」

「……さみしいと、もう言ったぞ」

「そうだった」

「鍵は開けておく。いつでも来てくれ」

「うん」

「ああ、嫌だ。いつまでもここで暮らしてくれればいいのに」

 ランタンは駄々っ子のように言うレティシアの頭を抱いてやった。

「やだよ。レティがいつか僕の所に来んだよ」

 女の腕が少年の腰に回る。強く引き寄せる。

 下腹部を圧迫されて、ランタンの唇から生温く息が漏れた。

「そのためにも、引っ越しの準備しないといけないんだけど――」

 宝石のような緑瞳が紅髪と竜角の隙間からランタンを見上げた。

「すぐ済む」




 リリオンはもうすっかり自分の荷物を纏めてしまった。

 ランタンは未だに準備を始めようとしない。急かしても、僕は引っ越しに慣れてるから、などと言って先延ばしにするばかりだった。

 慣れている。

 その言葉に嘘はない。

 リリオンと出会う前のランタンは下街の廃虚を転々としていた。時には建物が崩れ、時には恨みを持つものに狙われ、ランタンは居場所を替え続けてきたのだ。影から影に移るように。

 そのためか、ランタンはあまり私物を増やさないところがあった。

 最低限の探索装備。

 それがランタンの私物の全てだったのは、ほんの最近までのことだ。

 いつでもいなくなれるように、という考えが癖付いていたのだと思う。いなくなるというのは単純に住処を移すということではない。

 この世界からいなくなる、ということだった。

 リリオンは自分ではとても着られない小さな衣類を箪笥から取り出し、引っ越し用の木箱に移しながら頬を緩める。

 まったく準備を始めようとしないランタンの代わりに、リリオンがその準備を始めている。

 屋敷に用意された二人の部屋は隣り合っているが、リリオンは大半をランタンの部屋で過ごしているので、どこに何があるかはすっかりと把握していた。

 ランタンの私物は最近になってずいぶんと増えた。

 ランタン自身はかつての自分の印象を捨てきれていない。

 探索装備は身に付けられる。ランタンは着の身着のままで、アシュレイから賜った館へ移るぐらいに考えている。

 机の上は隙間なく保存容器で埋め尽くされて、今は床にまで溢れている。当初は植物ばかりだったが、鉱石や魔物の一部さえある。

 リリオンが準備を進めなかったら、ランタンは引っ越し当日に慌てふためくだろう。

 リリオンに泣きついて、手伝ってくれと縋るかもしれない。それもいい、と思わないわけではない。だがリリオンはそれほど意地悪ではない。

 あっという間に箪笥を空にして、リリオンはふと思い出して自室に戻った。すぐに何かを抱えて戻ってくる。そして木箱の底にそれをしまった。

 それはランタンのシャツだった。密かにくすねた、リリオンのお守りだ。匂いを嗅ぐと元気になる。きちんと洗ったそれを返しておく。

「あれ、リリオン何してるの?」

 部屋に戻ってきたランタンは、床に座って木箱に蓋するリリオンを見て首を傾げる。

「お引っ越しの準備」

「してくれてるんだ、ありがと。でも自分の分は?」

「もうすんでるわ。ランタンも当日にあわてても知らないわよ」

「慌てるほど量はないよ。にしても少ないな。僕の服ってそれだけだっけ?」

「そう。それと、ガーランドさんがお洗濯でやぶっちゃったのよ。青い染みが取れないからってムキになったんだって」

「ふうん、ダメメイドめ。クビだな」

 ランタンはその気もなくそんなことを言う。

「一生懸命やってるのよ。ちょっと力加減を間違えちゃっただけよ。それにガーランドさんをクビにする前にやることがあるわ」

 リリオンはガーランドを庇いながら机とその周辺を指差した。

 ランタンは身を投げ出すようにベッドに横になる。

 枕に顔押しつけてひと言呟く。

「めんどーくさい」

「ダメよ。ちゃんとしないと」

「レティにいじめられて疲れてるんだよ。だからちょっと休む」

「嘘吐かないの。レティがランタンをいじめるわけないじゃない」

「電撃責めされた。本当だよ」

「はいはい、手伝ってあげるから」

 リリオンは子猫でも摘まみ上げるみたいに、ランタンを引き起こした。後ろから覆い被さり、手を取って操り人形にする。ランタンは嫌がる素振りも見せずリリオンに従った。

 保存容器には空のものもあった。

 三分の一程度だろうか。せっかく集めたのにもかかわらず、ランタンはまったく執着せずに探索者ギルドや魔道ギルドにそれらを引き渡してしまった。迷宮の物だからといって全てが特別なわけではない。特別であってもランタンの興味を引けるわけでもない。

「これは?」

「いらない、いらない。いる。いらない、いらない、いらない、いらない、いる――かも。あ、蓋開けちゃだめ――、げえ、くっせっ!」

 蓋を開けると、つんとする腐臭が鼻を刺激した。ランタンは大げさに顔を背けて、咳き込む。腕を目一杯伸ばして蓋をする。中には萎んだ果実があり、黒々とした種が露出していた。

 ランタンはリリオンの操り人形になったまま、リリオンを引きずって部屋の窓を開け放った。

「捨てちゃう?」

「いや、取っておく。向こうの庭に埋めるんだ」

 ランタンはさも当然のように言って、リリオンは目をぱちくりさせる。

「埋めてどうするの?」

「育つか調べる」

「調べてどうするの?」

「どうもしないよ。育ったなあって、それだけ」

「ふーん。他のもそう?」

「うん。こっちは実がなったらリリオンに砂糖漬けにしてもらう。美味しかったから。これも。これは酢漬けにして、これは塩漬けにする。リリオンが」

 育つかどうかの確証もないのに、どれほどの年月で結実するかも知らないのにランタンは決めているらしかった。

「リリオンも何か向こうでしたいことはない?」

「んー、なんだろう……?」

「何か育てるとか」

「わたし、ランタンとローサで手一杯よ」

「ローサは兎も角、僕は手がかからないだろ」

「あら、本当かしら。じゃあ残りは自分でするのね」

 リリオンはまだ半分も片付いていない机を指差す。ランタンはリリオンの手から抜け出して、まるで迷宮にでも行くかのように肩を回した。

「しょうがない。やるか」

 舌打ち混じりに言うランタンを、リリオンはベッドに腰を下ろしながら目で追う。

 用意された四つの木箱に、自分なりの分類があるのだろう手早く保存容器を仕分けてゆく。その内の二つは特別に仕立てた木箱だった。一つは箱内を低温に、もう一つは魔精の濃度を一定に保つ機能がある。

 先程までの怠けた様子とは打って変わってランタンはてきぱきしている。やろうと思えばランタンは一人でなんでもできる。

 迷宮でそうしてきたように、料理も洗濯も掃除も、引っ越しの準備だってできる。

「リリオンこれ」

 保存容器に下敷きにされていた館の見取り図をランタンは投げて寄越す。

 厚みも重みもないそれが真っ直ぐに胸に飛び込んできた。

 リリオンはそれをぐしゃりと胸に抱きとめて、慌ててくしゃくしゃの皺を伸ばした。

「いちばん奥は僕の部屋だよ。アシュレイさまの寝室だったところ。リリオンはどこにする?」

 ランタンはもうすでに仕分けに戻っている。リリオンは図面も見ずに、その背中を見つめたまま早口で答える。

「わたしは隣。だってランタンの部屋に行く扉があるんだもの」

「どんな部屋にする予定?」

「えっとね、えっとね」

「じゃあまず壁紙の色から決めよう」

「えっとねぇ――」

 リリオンの瞳にぱっとランタンの髪色が飛び込んできた。

「――黒!」

「黒ぉ」

 ランタンは怪訝そうに繰り返す。

「もっと明るい色にしなよ」

 リリオンはぶんぶんと首を振った。

「きれいな色よ」

「じゃあ次はカーテン、それとも絨毯を決めようか」

「じゃあ絨毯、絨毯はね、――きゃん!」

 ランタンが振り返ると、興奮のあまり前のめりにベッドから落っこちているリリオンがいた。

 ぴくりとも動かない。

 リリオンはベッドの下に見知らぬ荷物があることに気が付く。

 ランタンが何か隠しただろうか、と思うがどうやらそうではないらしい。それはローサの宝物の一つである。

 手を伸ばして引き寄せる。割れた皿の欠片だった。職人街に廃棄されていたものを拾ってきたのだろう。きれいな色使いをしているが、何の絵が描かれていたのかはわからない。

 こういった宝物が屋敷のあちこちに隠してある。

 リリオンはそれを再びベッドの奥に隠してやった。こういうのは見つかっていないという事実が大切なのだ。ランタンのシャツのように。

 リリオンはそのままランタンに這い寄って、背中に引っ付いた。

 何だか楽しくなって、じっとしていられない。

 壁紙を決めて、絨毯を決めて、カーテンの色を決めると明後日に迫っている引っ越しに現実味が帯びてくる。新しい生活が、すぐそこにまで近付いている。

 ローサが大げさに寂しがるから、リリオンは何だか落ち着いてしまっていた。

 けれど寂しさや不安がなかったわけではない。屋敷の使用人たちはみんないい人ばかりで、ローサが泣いて寂しがらなければリリオンが泣いてしまっていたかもしれない。

 そういった感傷がふと失せてしまった。

 希望のようなものが暖かく胸に広がった。

 握り締めた見取り図を床に広げる。

 お姫さまが住んでいた街外れの古めかしい館。

 昔、それこそ大昔にさえ思えるほど懐かしい、母に聞かせてもらった物語に出てくる館のようだ。今日の夜、ローサの寝物語にしてあげようと思う。

 黒い文字と線だけの見取り図が、突如リリオンの脳裏で立体となって色づく。

 冷ややかな石材の匂い。織り目正しい精緻な模様の絨毯。風に靡くカーテンの揺らぎ。ふかふかのベッド。大あくび。透明の窓硝子。差し込む朝日。木製のテーブル。調理場は大量の食事を作るためにかまどが並んでいるが、使われるのは二つ三つぐらい。さまざまな食材で一杯の食料庫。炎の熱気。出来上がった料理の香り。

 椅子に腰掛けて、まだかまだかと爪先をぶらぶらさせるランタン。

「うわあ、なんだよ」

「えへへ」

 ランタンの身体ごとリリオンは身体を揺らした。

「お料理はローサが運ぶから、その時はちゃんとほめてあげるのよ」

「なんの話だ」

「あのお皿どこで拾ったのか聞かなきゃ」

「だからなんの」

「ねえ、わたしのおこづかいで買うから、わたしが食器をそろえてもいい?」

「……よくわからないけど、いいよ。リリオンが幸せそうなら、それでいい」

 リリオンは勢いよくランタンの頬に唇を押し当てる。

「うふふ、寝て起きたら明後日にならないかしら」

「そんなことになったら引っ越しの準備が終わらないよ。邪魔してくる奴もいるし」

「あら、どこにいるの? 見当たらないわ」

「ああくそ、鏡がもうしまってある。――ほら、馬鹿言ってないで手伝え」

「もうほとんど終わってるじゃない」

「まだ一番大事なものをしまってないよ」

 ランタンは素早くリリオンを抱きかかえる。

「しまった。いい大きさの箱がない」

「――まだわたし、しまわれてないわ。やあん」

 ベッドに投げ落とされたリリオンは、恨めしげな視線をランタンに向けた。

 だが淡褐色の瞳の奥にある笑みを隠しきれない。


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