表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カボチャ頭のランタン  作者: mm
09.Not Alone
199/518

199

199


 リリオンが単独迷宮探索をする。

 ランタンはどうしてそんな考えをするのか理解することはできなかったし、許容することもできなかった。

 もちろんリリオンのことをランタンが支配しているわけではないので、探索をするのもしないのもリリオンの自由であるのだが。

 だがリリオンはあくまでもランタンの許可の下、これをすることにこだわった。

 しかしランタンは許さなかったし、リリオンはひたすらに諦めなかった。

 あまりの長風呂に色んな意味で心配をしたリリララが覗きに来なければ、二人は茹で上がるまで言い争っていただろう。場所が場所もあって、頭に血が上っていた。

 すっかりのぼせていて顔から爪先まで真っ赤になっているふらふらの二人は、リリララに着替えの世話をしてもらいレティシアの私室に運び込まれた。

 廊下は寒かったが、レティシアの部屋は暑くもなければ寒くもない。

 紙とインクと、少し甘い香の香りに満たされていて少しだけ気持ちを落ち着かせた。だが風呂場で溜め込んだ熱が、じわりと肌に汗を浮かび上がらせる。

 ランタンとリリオンは、互いに視線を合わせずぼんやりと立っている。リリララがレティシアに説明をしているのを大人しく眺めていた。

 レティシアはまだ仕事着を身に纏っていた。

 髪をきっちりと纏めていて、控えめな宝石で飾り付けている。かっちりとした詰め襟の上衣がよく似合っていた。

 凜とした厳しい雰囲気は、彼女を前にするものの背筋を自然と伸ばすだろう。

 長風呂でのぼせ上がった少年少女以外は。

 レティシアは支配者の雰囲気を身に纏うようになっていた。若くして議会の一員になり、そこでどのような仕事をしているのか、堂々とした威厳を育んでいた。

 綺麗な緑の視線を二人に向ける。

「ふむ、なるほど。リリオンは単独探索に挑みたい。ランタンはそれに反対している。簡単に言えばこういうことで間違いないな」

「うん」

 ランタンは無言で、リリオンは猫の鳴き声のような、意気消沈したような声で頷いた。

「どういう経緯でそう言う話になったのか聞いていいか?」

 まるで裁判のようだった。リリララが椅子を引き寄せて、脇に座る。レティシアが判事ならば、差し詰め彼女は陪審員か、それとも傍聴人か。

「まずはリリオンから。どうして単独探索をしたいと思ったんだ? ランタンの探索法に不満でも?」

 ランタンはぎくりとした。

 現在の探索は攻略迷宮の選定から、探索中の食事内容までほぼ全てランタンの主導によって行われている。

 しかしすべての迷宮探索を成功させているし、予定を過ぎると言うこともない。それは探索者にとって最上の成果である。

 だが予定を厳守するために、かなりの強硬な探索を行うことも事実だ。

 それにランタンの迷宮攻略の頻度は普通の探索班ならば、不和を生み出して解体しかねないほど高いのも否定はできない。探索中毒と陰口を囁かれるだけのことはあった。

「ううん、ランタンとの探索は楽しいわ。戦うランタンは強くて、格好良くて、頼もしいもん」

「うん、そうだね」

「だからね、わたしが一人で探索してみたいのは、わたしが強くなりたいからなの。ランタンよりも」

「それはなんとも、すごい目標だな」

 レティシアは感心するように頷いた。リリオンは勇気づけられたように、胸を膨らませる。

「それで単独探索と強くなることにはどのような関係があるんだ?」

「ランタンがどうやって強くなったのか、知りたいの。ランタンのことを。だから一人で探索をしてみたいの」

「なるほど」

「わたし、ランタンを守ってあげたいの!」

「――なるほど」

 レティシアは思いを馳せるように目を瞑り、リリオンは胸の前で言いたいことを言いきったとでもいうように拳を握った。

「リリオンの考えはよくわかった。またのぼせたらいけない。落ち着きなさい」

 リリオンはそわそわするみたいに、拳を解いたり握ったりして、最終的にスカートを掴んだ。そうしていないと動き出してしまうのかもしれない。

 リリオンの考えはありがたいと思う。

 守られるべき存在であることは、かつてのランタンにとっては耐えがたいことだった。

 守られるということは弱いと言うことで、弱いということは生きてはいられないことだったからだ。

 弱さを受け入れた時、心臓の鼓動は止まってしまうのではないかと言うほど、ランタンはその考えに囚われていた。

 だが今では自分の脆い部分を自覚しているし、守られることに対しての恐怖心も薄れている。

 しかし、かといって弱い存在でいることに甘んじているわけではなく、強くあろうと常に考えていた。

 リリオンの自分に対する庇護欲求が、弱者に対するそれではなく、愛情に基づいていることは身に染みている。

 リリオンは強くなるために探索者になった。彼女の母のように強くなるために。そして自分もその目標の一部分を担うようになったことは、ランタンにとって喜ばしいことだ。

 自らと同じく強くあろうとするリリオンを応援する気持ちは大きい。

 だがそれが単独探索を許可する理由にはならない。

「さてランタン、君はリリオンの単独探索に反対をしているわけだが、その理由は? だめの一言だけでは、リリオンも納得しないだろう」

 風呂場では頭に血が上りすぎていたし、戸惑いもあってただ否定するだけに終始したが、今はそれなりに冷静だ。

 しかし冷静であっても、いちいち理由を言わせるなよ、と思うぐらいに理由は明白だった。

「危険だから。それ以上の理由はないと思うけど」

 ランタンは当たり前のことのように言った。事実、それは当たり前のことだった。

「――いつもの探索だって、危険よ」

「リリオン。今はランタンの順番だ」

 言葉に噛み付いたリリオンをレティシアが冷静に窘める。唇に手を当てて、だが叱るように細められたレティシアの視線に、リリオンはきゅっと唇を結んだ。

「ランタンも、もう少し詳しく頼む。単独探索の実情を知っているのは君だけだ」

 言われてランタンは少し考えた。最後に一人で探索に行ったのはいつのことか。そう遠いことではないのに、何年も昔のことのように思えた。

 きっとリリオンと同じで、リリオンと一緒の探索が楽しかったからだろう。一人の時とは比べものにならないほど。

「単独探索と通常の探索の違いは、単純に探索者の数以外の何ものでもないよ」

「そりゃそうだろうよ」

 脇からリリララが茶々を入れる。彼女は陪審員ではなく、やはり傍聴人のようだ。

「静かに」

 レティシアに注意されて、肩を竦めた。

「結局は探索だからね。一人だからって、やるべき事が変わる訳じゃない。歩いて、戦って、休んで、また歩いて、戦って、休んで、食事の用意をして、眠って、また歩く。一人でも、十人でも、百人でもそれは同じだ」

 かつてリリオンと出会う前、ランタンはよく聞かれた。

 単独探索ってどんな感じなんだ、と。

 ランタンは当時、今以上に警戒心は強かったし、人見知りも酷かったから、ただ()()と回答していた。実際、ランタンにとってはそれが普通で、それ以外のことを知らなかったからだ。

 だが今は違う。二人以上での探索を何度も、何十度もおこなっている。

「迷宮探索の歴史は千年以上になるし、探索者ギルドが誕生して、組織的に探索がされるようになって何百年も経つよね。その間に色んな探索方法が試されて、辿り着いたのが今の探索法だよ。数を恃んで、互いを助け合って、迷宮を攻略する。なぜそうなったか。それが効率的だし、攻略には最善だと判断されたからだ。探索にはっきりとお金が絡むようになって、数が少ないことが高い利益を生むとわかるようになった今でも、四人以下の探索班はほとんど見ない。一人で探索するっていうのは、割に合わない。疲れるし、危険だし、最悪だ。僕は意地悪してリリオンに反対しているわけじゃない。心配しているだけだ」

 リリオンはランタンが語っている間に何度も表情を変化させた。

 真剣に話を聞いていたかと思ったら、自分が大切にされていることに喜び、心配されることに悔しがり、深く考え込む。

 心配されることに悔しがるのに人の心配はする。こういったところはランタンにリリオンは似てきていた。単独探索もあるいはその影響が少しはあるのかもしれない。

「複数で迷宮に行く。単独探索は、その利点の逆のことが全て自分に返ってくる。一人で持たないと行けない荷物の重さ、それを背負ったまま歩き、戦う」

「そうか、運び屋もつけないんだったか」

 レティシアは眉を顰めた。

「何匹の魔物が出ても、自分一人でどうにかしないといけない。怪我をしても手当をしてくれる人はいない。体勢を崩しても、時間を稼いでくれる人はいない。僕には爆発がある。これは追い詰められた時ほど、状況を大きく変えてくれる」

 絶体絶命の時、囲まれても、退路を失っても、戦鎚を落としても、怪我をして身動き一つ取れなくても、爆発は発動させることができる。

 遠距離からの攻撃もこれによって防ぐことができるし、相手が近付いてこれば反撃の手段となる。移動の手段として用いることもできる。

「それでもひどい怪我をしたことは何度もあった。ミシャに運び屋呼んでもらって、ギルドに運んで貰ったりとか」

 リリオンの膂力には一目置いているが、対応力という点においては絶対視することはできない。リリオンには切り札がない。

「質問いいか?」

 リリララが律儀に手を上げて発言の許可を求めた。レティシアが許可を下す。

「そんなに単独探索は大変なのに、なんでお前はそれをしてたんだ?」

「せざるを得なかった」

 果たして本当にそうか。いや、今が恵まれているからこそ、かつての己を疑っているのだ。あの時は、それ以外に手段を見いだせなかった。

「選択したわけじゃない」

 ランタンが念を押すように言うと、リリララは肩を竦め、だが深く頷いた。それから少し茶化すみたいに、歯を見せて笑った。

「それで単独探索に成功しちゃうんだもんな。さっすが」

「どーも」

 今度はランタンが肩を竦め、少し頬を綻ばせた。

「ついでに質問。初めての探索をしたお前と今のリリオンがやった時、勝つのはどっちだ?」

「僕は戦う時は誰にも負ける気はないよ」

 リリララは唇を尖らせて、口笛を吹いた。

 視線をリリオンに向ける。

「それに僕の時とは、状況が違う」

「状況?」

「迷宮が魔物系統じゃなくて、環境に左右されるようになってる。出てくる魔物の種類が豊富だって事は、それだけ多様な状況に対応しないといけない。それに、単独探索で強さを手に入れられるとは思わない」

 迷宮には魔精が満ち、その中で魔物を殺すことで、魔物が有していた魔精が肉体の一部を媒体に結晶化する。そして結晶化から溢れた分の魔精が、行き場を求めて探索者に吸収される。

 もちろん探索者の個体差に左右されるが、それでも迷宮攻略人数が少なければ少ないほど魔精による強化率は向上するとされていたし、ランタンはまさにその実証のような存在だった。

 だがそうして手に入れた強さは、リリオンの求める強さとは違うような気がする。

 リリオンは皺が寄るほどスカートを強く握り締めていて、まだ血の巡りがよく全身が赤みがかっていたのに、爪は真っ白になっている。

 否定されていると感じているのかもしれない。

 もう少し上手に話をすることができればいいのに、と思う。

 ランタンに見つめられたリリオンは心臓を射られたみたいに一度固まり、はらりとスカートを放した。

「――最悪のことを考えるのは正しい。命が掛かっているからね。だけど我々にとって、それは足を止める理由にはならない」

「そうだね。探索者ってのはつくづく業が深いと思うよ」

 ランタンは立っているだけに耐えられなくなって、腕を組んだ。

「レティやリリララは、リリオンを一人で迷宮にやるのは賛成なの?」

「やるもやらないも、それを命令できる立場じゃないだろ。あたしたちは。もちろん心配だけどよ。やりたいことは、やりたいんだよ。馬鹿みたいな言い方だけど。それに女は度胸って言うしな」

 リリララはどこか投げやりな雰囲気を言葉に持たせたが、それはリリオンの意志の固さを理解しているからかもしれなかった。

「私も頭ごなしに否定するべきではないと考えている。もちろん単独探索の危険性をランタン以上に知っているものはいないだろう。だが強くなりたい、ランタンを守りたい、――そして知りたいという考えはよくわかる。言葉ほど単純ではないことも」

 リリオンは素直で、少女から紡がれる言葉は常に真実だった。だが少女の心の全てが、言葉になっているのかと言えばそうではない。

 ランタンも、それはわかっている。

「リリオンは、僕の話を聞いても、それでもまだ単独探索をしたい?」

 ランタンの問い掛けに、リリオンはゆっくりと頷いた。

「わたし、ランタンのことを知りたい。一人で探索することが、どういうことなのか」

「それが僕を知ることにはならないと思うけど」

 けれどリリオンは、知ることになると思っている。確信に近く。

 単独探索。それは探索者にとっては特別なことだ。

 ランタンは単独探索者となったことで、多くの探索者からの尊敬と嫉妬を得た。単独探索を成功させることで得られる名誉、大金、力の証明に、探索者は目を奪われる。

 だがそんなものは何も知らない他人の考えだ。

 単独探索とはそういうものじゃない。

 単独探索で得られるものは、碌でもないものだ。

「一人でおやすみするって言ったのに、朝には僕のベッドにいたことがあったよね。一人でお風呂に入るって言ったのに、結局レティやリリララと一緒にお風呂に入ったことがあったよね」

「……うん」

「迷宮では一人だよ。それでもリリオンは、単独探索をするの?」

 迷宮のあの寂しさを、あえてリリオンが知る必要はないとランタンは思う。

「考えるだけで、さみしくて、怖い。でも、する。わたし、一人で迷宮に行く。行きたい。行かせてください」

 お願いランタン、とリリオンは腰を折った。まだ少し濡れた髪が、重たげに肩を滑り落ちる。白銀の髪は、濡れて雪のように白い。

「わたしは迷宮に行く必要があるの」

 ランタンはリリオンの旋毛を指で押した。

「僕は単独探索する時、誰かにお願いしますなんて言わなかったよ」

「うん。でもわたしは、ランタンに行ってらっしゃいって言ってほしい」

 ランタンが指を離すと、リリオンは身体を起こした。

「ランタンにがんばってねって言ってほしい。そうすればわたしは、ひとりでもがんばれるもん」

 ランタンが単独探索者にならざるを得なかったように、リリオンはリリオンでその必要に迫られているのだった。

 リリオンにはリリオンの、決して揺るぎない理由があるのだ。

 リリオンはランタンが止めても、遅かれ早かれ単独探索に行くだろう。

 この少女は旅に出ることを躊躇わない。母を失い、今よりも遥かに幼い頃に、密航までして極北の地から飛び出して、身体一つでここまでやってきたのだ。

「幾つか、条件を出していい?」

 ランタンは絞り出すような、苦々しい声で言った。眉間に皺が寄っている。

 リリオンは初めその言葉の意味するところを理解できないようだった。だがそれが単独探索のための条件であると理解すると、涙を流しそうなほど目を見開いた。

「いいの!?」

「よくはない。だけど行くんでしょ? じゃあせめて、安全性を高めたい」

 ランタンは言わなかったが、リリオンがいなくなったら自分は生きてはいけないんじゃないかと、これほど明瞭な言葉ではなかったけれど、感覚として思っている。

「条件ってなに?」

「色々あるけどまず一つ。絶対に生きて帰ってくること。これは約束じゃなくて命令だから。憶えてる?」

「迷宮では絶対服従! 忘れないわ! わたしはランタンの言いなりよ!」

 それは最初の約束だ。

 リリオンは喜色満面にして答えた。

「よろしい」

 頷いたランタンは、しかし溜め息を吐く。

「あーあ、この議論、風呂場じゃなくて迷宮ですればよかった。それならリリオンに単独探索なんて馬鹿なこと諦めさせられたのに」

 腹を見せる犬のように頬を緩めるリリオンを見て、レティシアとリリララは何とも微妙な顔をしていた。

 リリララがレティシアに近寄って、ひそひそ話し始める。

「迷宮では絶対服従……?」

「まあ、迷宮にゃ人目はないからな」

「くっ、一体どんなことを命令したり、されたりしていたんだ。気になるっ」

「そりゃいやらしいことに決まってるぜ。あいつけっこうあれだし、すけべだし」

「私にはぜんぜんそう言うところを見せてくれないからな、なぜなんだ」

「襟、上から四つぐらいまで外しちゃおうぜ。おっぱいの大きさは今ならまだリリオンより分がある。色仕掛けだ」

 ランタンは眉間に皺を寄せ、二つ目の条件を出した。

「その二、そこの二人の言葉を無視すること」

 ランタンは麗しの主従を指差し、極めて冷たい声で言う。




「条件は、もうちょっと揉むから。迷宮によって、変わってくるし」

「うん」

 ランタンの出した条件は、意地悪な小姑のように細々として多岐に渡った。

 ランタンの無視命令を解いて貰うために判事から書記へと役割を変えたレティシアが条件を紙に書き出したが、あまりにも限定的すぎる条件や、半ば重複しているような似通った条件も散見しだしたため、今日の所はそれまでとなった。

 レティシアが腱鞘炎になりかねない。

 しかし大枠は決まった。

 一つは、もちろん無事に生きて帰ってくること。

 一つは、攻略迷宮はランタンと選ぶこと。そしてそれは小迷宮であること。

 一つは、初回の探索はランタンが同行し、探索計画をきちんと練ること。

 一つは、探索そのものが目的であり、攻略を目的としないこと。

 最後の条件は、最初の条件を補完するようなものであった。

 通常、迷宮探索は手段であり、その目的が攻略となる。探索者としてそれは当たり前のことだ。だが単独探索の場合、攻略よりも、帰還に比重を置かなければ生きて帰ることは出来ない。

 過小戦力での迷宮探索は無茶をしがちだが、無茶をすれば道は開ける。だが単独探索はそれ自体がすでに無茶であり、ここからさらに無茶をすると、それは地獄へ突き進むのと同意となる。

 最終目標を討伐できなければ迷宮攻略は失敗だが、生きて帰ってこられれば単独探索は成功と言える。

「今日は一緒に寝るけど、明日からは一人で寝る訓練だよ」

「……うん」

「迷宮で寂しくなっても、僕はいないからね」

 迷宮で一人でめそめそするリリオンを抱きしめられないことは、ランタンにとっては想像するだけで苦痛だった。

「……ランタンはいるのよ。わたしのここに。いつでも」

 リリオンはランタンの手を取って、自らの胸に重ねた。

「ランタンの手、優しくて、気持ちいいから、わたし好きよ」

 寝間着の布一枚がもどかしいのか、ボタンを一つ外し、リリオンはその隙間にランタンの手を導いた。そのまま胸の中にしまい込むように、ランタンの小さな手を抱きしめる。

 こんなに寂しがりなのに、どうして単独探索なんかに、という思いは今もまだあった。

 鎖に繋いで、諦めるまで閉じ込めておきたいという支配的な衝動も、心の底にはある。

 失うことへの恐怖だった。

 けれどランタンはもう理由を聞かなかったし、引き止めもしなかった。

「ふふっ、ランタン、くすぐたいわ」

「ああ、そうだった。揉むのは条件だった」

 親父っぽい冗句を、ランタンは眠たそうに呟いた。

「もう、何言ってるのよ。やあん、もー、甘えんぼさん」

「リリオンには負けるよ」

 明日からは一人で寝るのか、とランタンは思う。

 寝れないかもしれないな、とランタンはちょっと真剣に思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ