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カボチャ頭のランタン  作者: mm
07.Let Me Kiss You
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 ランタンはそれなりに要領がいい。

 かつて一人で何もかもしなければならなかった所為だろうか、例えば買い物に出かける時にはあらかじめ買う物は決めておくし、どのような順路を辿れば最短か、あるいは効率がよいかを考えて、そのように行動する。

 だから孤児院から探索者ギルドへ向かう途中、少しの寄り道だけで辿り着けるグラン工房に立ち寄ることしたのだった。

 職人街はトンテンカンと賑やかな音に満ちていた。グラン工房ももちろんその合奏に加わっている。

 グランは冬だというのに半袖で、肌は真っ赤に火に焼けていおり、たっぷりと汗を掻いていた。グランからはいつも炎と鉄の匂いがする。

「おう、久し振り。王都はどうだった?」

「お久しぶりです。色々ありましたけど、面白かったですよ。探検がてらグランさんのお店だったところ探したりもしました。見つけられなかったけど」

 グランはそうかそうかと髭を揉んだ。

 そして挨拶もそこそこに戦鎚を、そして二振りの刀の様子を確かめる。

「竜種、……いや竜人か? こっちは酸だな。上手く皮膜が張ってるな。こりゃいいや。ふうん、しかしつくづく大人しくしていられねえな」

 戦いの爪跡を見つけて、にやりと笑った。

「失敬な、僕は大人しくしていましたよ。お客さんですもの、そりゃもう借りてきた猫のように。ねえ、リリオン」

 ランタンが同意を求めるとリリオンは曖昧に頷いた。

 微妙な反応に、まあいいや、とランタンは肩を竦める。

「ただ突っかかってくる奴がいて」

「お、坊主に喧嘩売るのか。すげえ奴がいるな、王都には。ちゃんとぶっ飛ばしたか」

「ええまあ、レティの弟さんのなんですけど」

「……それネイリング公のご子息だろう」

「ちゃんとぶっ飛ばしましたよ。こっちも頭蓋を削られましたけど」

 さすがにグランもぎょっとしたようで、髭に指が絡んだというようにゆっくりと腕を下ろした。

「まあ、なんだ無事ならいい。ちゃんとグラン印って宣伝したか?」

「しましたよ」

「――嘘が下手になったな」

「上手いも下手も、僕は今まで嘘を吐いた事なんてないですよ」

 ランタンはしれっと言って、グランに大いに呆れられた。

「まあ、そんなことはどうでもよいのです。今日はお土産を持ってきました」

 まずグランに渡したのは剃刀だった。

「お前、俺の仕事知らんわけじゃねえよな」

「何でもかんでも自分で作ったものじゃ味気ないでしょう」

 髭剃り用のもので、鍛冶職人は自らの奉じる鍛冶神の髭面に倣ってみな髭を生やしている。わざわざ大聖堂で購入した祝福された剃刀である。

「別に無理に使わなくてもいいですけど」

 他にも竜豆、鰻の乾物、竜鱗のパリパリ焼きなどの珍味も買ってきてある。

 グランはそちらの方をむしろ喜んだ。なんだよ、とランタンは少し思う。どこぞのお偉い老人がむにゃむにゃと祝福を唱えただけの剃刀は、それなりに高かったのだ。

「あと奥さまとエーリカさんには、リリオンから」

「スカーフです。これすっごくきれいで、可愛いの。丸の模様とか、蝶々の模様とか!」

「なんか王都で流行ってる柄なんですって」

「ああ、わざわざすまんな。なんか流行ってるんなら、いい柄なんだろう」

 男二人の反応をリリオンは、なによ、と思ったかもしれない。

 ランタンには目新しくもない総柄は、けれどこの世界では珍しい模様パターンだった。刺繍が手作業のためだろう、この世界の柄は基本的に一つである。ワンポイントであったり、全体を使って一つのモチーフを縫い取ったり。

 だから一つの小さな柄を全面に散りばめた総柄は物珍しく、王都で流行の兆しを見せているらしい。

 妻のカーリナは不在だったが、娘のエーリカはグランに呼ばれてやってきた。

「リリオンさまがお選びになったの? 素敵なセンスですね。こちらではまだ珍しい柄だわ。やっぱり地方ではどうしても流行が遅れますからね」

「ほら、やっぱり似合ってる。わたしの言ったとおりでしょ」

 早速、首元に巻いて見せてくれたエーリカに、リリオンの機嫌が直った。ふふふん、と自慢げにしている。

 つんと鼻を上向かせる。ランタンは笑みの形を作った唇を数秒見て、視線を逸らした。

 リリオンもランタンの視線に気付いて、唇を隠すみたいに下唇を甘く噛んだ。

 前歯に歪む唇、柔らかそうだ。

 しかし探索者ギルドで小迷宮を見繕おうと思っていたのに、エーリカがいたのは予想外だった。

 孤児院でクレアにあのようなことを言った手前、エーリカに相談を持ちかけざるを得ない。後回しにしても良かったが、それができない真面目さをランタンは持っていた。

 心を落ち着ける。

 どうせ今日、迷宮を選択したからと言って、今日中に探索できるわけではないのだ。選択したのが朝一だろうと、夜だろうと、結局探索できるのは明日以降になる。

 焦るな、焦るな、とランタンは自分に言い聞かせる。

 僕はただリリオンとキスがしたいだけだ。あの唇が逃げるわけではない。相談をしたからと言って、それが遅れるわけではない。

「どうかしました、ランタンさま?」

「……ちょっとエーリカさんにご相談があるのですけど、よろしいですか?」

「あら、ランタンさまも? ちょうど良かった、実は私からお話がありまして。お先にどうぞ」

 エーリカは胸元で柔らかく手を叩き、それから掌を見せるようにしてランタンに会話の主導権を渡した。




 人が日々変化していくように、世のあらゆることも変化してく。

 迷宮都市ティルナバンは、まさにその変化の真っ最中だった。

 ティルナバンの中心には迷宮がある。それは迷宮特区という意味ではない。人の流れ、物の流れ、金の流れ、そのすべてが迷宮から始まっている。

 迷宮を求め人が集まり、探索者が生まれ、探索者を当て込んで商売が興り、迷宮からの資源がまた富を生んだ。

 レティシアはティルナバンに戻って、正式にティルナバン議会の議員となった。

 嫁に出たわけでもなければ、領地を得たわけでもない。だがレティシアは独り立ちしたのである。

 レティシアは新米議員として、そして国政に多大な影響力を揺するネイリング公の娘として多忙な日々を送っている。そしてランタンに議会からの情報を流してくれる。

 議会は様々な派閥に分かれており、現状の最大派閥は貴族派である。

 王権代行官のブリューズ王子と商業ギルドの後ろ盾を得て、探索者ギルドが有する迷宮利権に手をつけようとしている。

 昨年起こった迷宮崩壊事件及び探索者ギルド襲撃事件の責任をギルドにとらせ、その過程において、あれやこれやと難癖を吹っ掛け、自らに都合のいい組織に改変しようとしているのだった。

 まだ人々の生活に影響は出ていない。だがそう遠くはない。

 ランタンがレティシアからの情報を、さらに横流しにするとエーリカは次第に真面目な表情になった。幼い子供の悩みを聞くかのような相槌はすぐに失せ、内容を吟味するようにただ黙って頷くだけになった。

 大人の世界は難しい。

 今のエーリカは商工ギルドの人間だが、もともと商業ギルドの出身である。商工ギルドは、商業ギルドと職人ギルドの出資で作られたギルドであり、いつかその二大ギルドが統合するために作られた器であるはずだった。

 そこに出向させられたエーリカは将来を嘱望された有能な人材に間違いなく、だがランタンの語ったこれらの情報は厳しく統制され、エーリカの耳には届いていないようだった。

 たいへんだな、と半ば他人事のように思う。レティシアからの情報提供も、半分ぐらいは彼女の愚痴を聞いているようなものなのである。

「なるほど」

 腑に落ちた、と言うようにエーリカが呟いた。

「だからですのね」

「うん、これは確定。探索者証登録の審査が厳しくなる」

 探索者は大半が問題児だ。ランタンも自分がその一人であるという認識はある。

 現状、幾許かの銀貨さえあれば誰であろうと探索者になることができる。老いも若きも、男も女も、人族も亜人も、そして善人も悪人も区別はしない。

 開かれた組織であると言えば聞こえはいいが、実際は無節操なだけだ。

 探索者は日夜、迷宮に果てる。無節操でなければ、迷宮に対する探索者の数が足りなくなるからかもしれない。

 だが暴力を生業とする仕事であるがゆえに、探索者の反社会傾向は極めて高く、探索者による犯罪は迷宮特区を有する大都市の悩みの種であった。

「僕からしてみれば遅すぎって感じだけど」

 とは言え、登録審査が厳しければ、ランタンもリリオンも今頃探索者にはなれず野垂れ死んでいただろう。

「居住証明書ですか」

「うん」

 審査の厳格化によって、登録の際に居住証明書が必要になるのはまず確実だった。

 かつて下街の廃虚で暮らしていたランタンには、とてもではないが提出できるものではない。

「今まで根無し草だった探索者が、こぞって正当な住処を求めるよ。それを見越しての土地取得だね。エーリカさんは出遅れてる?」

「ええ、まあ、そうですね。商業ギルドの行動はわかっていたのですが、根拠が不明ではなかなか行動に移せなくて。私どもが所有している不動産は個人向けのものがほとんどですからね、上物を立て替えるにしても……」

 エーリカは悔しそうな顔をする。

「そこでご相談の本筋に入りたく思うのですが、よろしい?」

「はい、なんなりと」

「適当な思いつきですけど、本当にいいですか」

「――はい、どうぞ。お話しください」

 あまりにも無責任な前置きをするランタンに面食らった様子ながらもエーリカは頷いた。

 グランが熱い茶を啜り、髭に付いた滴を拭った。

「おい、俺は聞かない方がいいんじゃないか。これでも職人ギルドの人間だぞ」

「グランさんのお店を間借りしているわけですし、お好きにどうぞ」

「っていうか居て、お父さん。お父さんに頼ることがあるかもしれないから」

 グランは浮かしかけた腰を、再び椅子に下ろした。




 数多の闘争を経て、現王朝が興り二百余年、社会は未だ未成熟であると思う。

 国土は王家のものであり、貴族の領地はあくまでも王家から統治権の行使を認められた支配範囲の総称に過ぎない。つまり貴族の領地は、王家から預かった土地である。

 そして貴族はその土地を国民に又貸しすることで税という名の収入を得ている。

 だから王家の反感を買えば、貴族の領地は取り上げられるし、貴族の反感を買えば市民はその土地からの追放処分を受けことになる。

 王と貴族、貴族と市民の間には様々な契約が結ばれている。だがそれが文言通りに履行されることは少ない。忠誠や責任、信頼や信用、あるいは金銭、それらの上にある力が武力であった。

 基本的に王家以外に土地の所有権は認められていない。

 だが教会だけは別だった。

 教会は土地の統治権ではなく、明確に土地の所有権が認められている。それは教会が王家の正当性を担保しているからだった。教会によって、王家は支配者たり得ている。

「下街の、孤児院ですか」

「うん、正確には教会だけど」

 下街の土地の権利関係は曖昧だ。見捨てられた土地であると同時に、あまりにも混沌としていてどのように手をつけてよいかがわからなくなっているのだ。レティシア曰く、再開発計画が持ち上がっては消えているらしい。

 だからこそランタンの考えは、教会の権威を盾に土地を好き放題に切り取ってしまおうというものだった。

「ほら、あら不思議。そうすれば上物の値段だけでいいでしょ。探索者寮みたいなの」

「まあ、そうなんですけど、いいのでしょうか……?」

「いい。僕が許す。悪いことをしようってんじゃないんだし、エーリカさんも教徒なんでしょ。神さまの仕事のお手伝いだよ。困ってる人とか、お腹空いてる人とか助けるんだから」

 ランタンは教徒ではないので神さまの手伝いはしない。だがベリレ一人では荷が重いだろうから、その友人として彼を手伝うのだ。

 開き直ったようにランタンが言うと、エーリカは緊張が解れたように微笑む。

「うふふ、ランタンさまに言われると、本当になんでも()()に思えてしまいますね」

「なんでも()()だよ」

 なんたってこの世界には迷宮が、魔物、亜人族が、魔道が存在する。その上、何かもわからない、自分(ランタン)という存在までもが、確かにここにあるのだ。だから何でもありに違いない。

「それで孤児の子をそこで働かせるの」

「無給で、ですか?」

 冗談めかしてエーリカが言う。

 実際に孤児の、あるいは孤児に限らずの奴隷労働は冗談ではない問題だった。孤児たちはそもそも真っ当な職に就くことは難しい。それを雇用側も、そして被雇用側も理解しているから劣悪な環境の奴隷労働がまかり通る。

 またそれゆえに探索者ギルドがその受け皿になっている現実もある。

「採算が取れないならそれもしかたないけど、できれば正当な対価を払って。住み込み、食事付きで。そこで働きながら、働き方を憶えればいいかなって。探索者寮だから、探索に必要な施設も併設してさ」

 例えば寮での仕事、掃除、洗濯、食事、探索者の世話。

 もしそこで料理の才能が見つかれば料理人になれるかもしれないし、掃除なら掃除夫になれるかもしれないし、人の世話ならどこかのお屋敷に勤めることができるかもしれない。

 例えば探索者関連の職、鍛冶、調薬、医療、鑑定など様々な職に触れる機会があれば、何か一つぐらいは得意なものが見つかるかもしれない。

 もしかしたら探索者になるかもしれないし、あるいは現実を知り、若くして迷宮で果てるはずの命が長らえるかもしれない。

 孤児たちは、普通の子が当然のように親から教えられる働き方を教えられず育つ。

 ランタンは孤児院が単なる保護施設ではなく、教育施設を兼ねればいいと思う。

「都合のいい机上の空論だけどね。必要なのは教育だよ。貧困層を減らしていけば、その内に労働階級とか中産階級が増えるでしょ。そうすればエーリカさんのお客さんも増えるから、商工ギルドも納得してもらえないかなあ」

 黙って聞いていたグランが感心したように溜め息を吐いた。

「坊主は偉いことを考えるんだなあ」

 エーリカは祈るみたいに手を組んでいる。

「ランタンさまこそ、神さまみたいですわね。ぜひその考えをお手伝いさせていただきます」

 思いつきの無責任な発言にいたく感激されて、ランタンはばつが悪くなった。

「やめてよ、本当に神さまだったらエーリカさんに頼ってないよ。自分じゃどうにもできないし、どうしていいかわからないし、適当なこと言ってるだけだし」

 それに嫌らしい人間だし、とは口にしなかった。エーリカに言っても意味不明だからだ。

 きっと神さまは、変なことばかり考えて悶々とすることはないだろう。




 そしてエーリカの相談は、ランタンへの迷宮攻略依頼だった。

 探索者は特定の迷宮の攻略を依頼されることがある。理由は様々で、例えば崩壊により地上に多大な被害が予想される場合であったり、あるいは迷宮資源を必要としているが迷宮攻略の手段を持たない人物が探索者を頼ったりという場合である。

 これは商工ギルドとしての依頼である。

「私どもの目的は、迷宮の構成材になります。その迷宮では石炭の存在が確認されております」

「石炭、ですか」

「はい」

 この場合の依頼目的は迷宮の攻略と言うよりは、魔物排除による採掘の安全性の確保だろう。

「僕ら以外の探索者にはあたりましたか?」

「ええ、ですがなかなか、受けて下さる探索者さまが見つからず。そこは高難易度迷宮なのです」

「ああ、なるほど」

 高難易度迷宮を攻略可能な探索者は、膨大な数いる探索者の中でも選りすぐりの一握りだ。そんな一握りの高位探索者は、わざわざ依頼仕事などしなくても食べていける。個人ならばまだしも、それを班単位で雇うことはさらに難しい。

 納得するランタンに、しかしエーリカは喉に小骨が刺さっているような、微妙な表情を見せた。ランタンは安心させるように言う。

「トライフェイスのことは知っていますよ。ギルドの中で、一大探索団を築いているようですね」

 迷宮崩壊事件で活躍した探索団であるトライフェイスは人族と亜人族混合の大探索団であり、今も着々と団員数を増やしている。副長は狼人族の探索者ギデオンであり、その団長は貴族の三男坊であるノーマンである。

 実力の足りないノーマンが団長の座に就いている理由は、大探索団の維持費を彼が捻出しているからであり、ノーマンの背後にはティルナバン議会貴族派が控えている。

 つまりトライフェイスの影響下にある探索者には、商工ギルドの依頼は通らないと言うことだった。トライフェイスの団員でなくとも、面倒事になりそうなら依頼を断るだろう。

「お耳が早いのですね」

「お耳の長い知り、……女の子が近くにいるので」

 知り合いと形容したら、尻を蹴っ飛ばされそうだな、とランタンは思いすんでの所で言葉を改めた。

「――ふふっ、リリララさまですね」

 ランタンは肩を竦める。

「エーリカさん、あんまり気を使わなくていいよ。僕は僕のしたいようにするだけだから。僕って結構、我が儘で自分勝手みたいだし」

「お、なんだ坊主、旅に出てようやく気が付いたのか」

「ようやくってなんですか。僕はいつだって素直でしたでしょう」

「そうだよ。素直ってのは、自分に正直だってことだ。つまり我が儘で、自分勝手。違うか?」

 自分が思う自分と、自分がこうありたい自分と、他人から見た自分にはずいぶんな乖離があるようだった。

 おう、どうなんだ、と笑われてランタンは口答えをする気を失った。なるようにしかならない。

「僕はエーリカさんの依頼なら断りませんよ」

「――ねえ、ランタン」

 リリオンが小声で囁き、ランタンの袖を机の下で引いた。

 ランタンが振り向くと、何とも言えない不安げな顔をしている。

「なに、どうしたの?」

「わたし、いやな予感がする」

「嫌な予感?」

「うん……、わかんないけど」

 顔を寄せ合ってひそひそ話をしていると、エーリカがおずおずと遠慮がちに口を挟んだ。

「あの、やはりご迷惑なのでは」

「いえ、そんなことはないです。その迷宮を詳しく教えてください」

 リリオンがぎゅうっとランタンの手を握った。エーリカが口を開く。

「はい、では、――探索者ギルドの予測では、高難易度水棲系中迷宮となっております」

 中迷宮。それは攻略までに一週間以上、場合によっては一ヶ月前後はかかるだろう迷宮のことを指す。

 ランタンは表情を強張らせた。

「やはり、何か不都合が……?」

「いえいえ、大丈夫です。けど石炭で、水棲系なんて珍しいですね。ははは」

 外面の良い、格好付けのランタンには、キスしたいから、と言う理由で今さら言葉を翻せるはずもなかった。

 リリオンがちょっと頬を膨らませて唇を尖らせる。

 丁度いい感じに尖ったというのに、その唇は遠ざかったのである。


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踏破に時間かかっちゃうねぇ☺️
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