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帰国

今日、我が主の一人が留学先のトリバーから帰ってくる。




この日を、どれだけ待ちわびていたことか。



双子のご両親が亡くなられてから、屋敷は変わってしまった。今では面影を残すものは建物だけとなっている。双子の父の義弟であり、叔父であるオルガ様によって、人も、昔は屋敷を包んでいた柔らかな雰囲気も、変えられてしまった。




元は屋敷の執事だった自分も、彼によって今では郊外にある別邸の管理者でしかない。

オルガ様に仕えたいとは思わなかったが、それでも、歴代フォレスト家に執事として仕えてきた父や、祖父、そして祖先たちに申し訳がなかった。




執事解雇の命に抵抗することもできなかった。その悔しさと言ったら、このまま命を絶とうかと思ったくらいだ。


しかし執事の地位を解雇された次の日、絶望していた私のもとへやってきた人物がいた。



もはやなんの価値もない自分に会いに来る人などいないと思っていたのに、彼はきた。



それが、シュバルツ様だった。







「ラギ、何年かかるかわからない。でも僕はまた必ずここを取り戻す。

僕が力をつけて戻ってくるそのときまで、待っていてはくれないだろうか。

取り戻したそのときには、また君にこの屋敷の執事となってほしい」






そう、シュバルツ様がおっしゃったとき、わたしはシュバルツ様に、彼の今は亡き父親の面影を見た気がした。彼は亡くなる瞬間、何を思い死んでいったのだろう。

私の絶対の主人であり、幼なじみであり、親友であった彼は、家族を、何よりも大事にしていた。

早くに父親を亡くした私に、「おまえも家族だ」と言ってくれた。

その彼が、死ぬ瞬間、思ったのはやはり家族のことだろう。

自分たちが亡くなった後の子供たちのことを、心配したのではないだろうか。






私はシュバルツ様にその台詞を言われるまで、忘れていた。







『では双子は、いったい誰が守るんだ』





オルガ様は・・・正直言って、彼はあまり信用できない。




兄が亡くなってすぐにこの屋敷に移り住み、今まで屋敷で働いていた私含め古くからの使用人たちをばっさりと解雇した男だ。とても、情に深い人物だとは思えなかった。




では、だれが。そう考えたとき、すぐにその結論は出た。







『私が、彼らを守るのだ』と。







シュバルツ様が留学へと言ってしまった後、私は密かにオルガ様が来るまで屋敷で一緒に働いていた使用人仲間たちに連絡をとって、シュバルツ様の伝言を伝えた。






みな、思いは一緒だ。いつか、あの屋敷にまた戻りたい。たくさんの思い出の残る、あの場所に。








あの日から、早いもので6年という月日が経っていた。










留学へ旅立つ日、シュバルツ様から「リディアのことを頼む」とそう頼まれたのに、ひっそりと様子を見ることしか私にはできなかった。





その間に、リディア様は城へと居を移し、剣を手に取るようになっていた。






何か、あったのだろう。その何かがなんなのかも、自分には分からない。








別々の道を行くお二人の姿をじっと見つめることしかできない自分を何度呪ったか分からない。











あの仲の良かったお二人が、引き裂かれるなど、本当はあってはならないことだったのに。


















しかし今日で辛苦の日々は終わる。


」シュバルツ様が、戻られた。それは双子が再会するという喜びと共に、また別の意味も持つ。シュバルツ様が戻られた・・・それはつまり。




向こうから輝く銀髪を風にたなびかせてやってきたのは6年ぶりの主の一人、シュバルツ様だった。



「シュバルツ様」


「ラギ、来てくれたのか」




シュバルツ様はもう青年と呼べるようになっていた。

肩幅は広く、細身ではあるが確かな力強さを感じさせる。




ああ、確かにあの日から6年の月日がたったのだと実感する。




あの日から、自分は親友だった彼の子供たちを守るために存在する。

私は、彼らの力になることができるだろうか。




「もちろんでございます。わたくしがこの日をどれだけ待ち望んでいたことか」






この6年を思うと、思わず顔がゆがんだ。








すると、シュバルツ様は私の肩に手を置き、「苦労をかけてすまなかった」と謝ってくださった。6年前と変わらないその優しさに、思わず涙がにじんで視界がゆがみそうになった。







「元気そうで何よりだ。またあえてうれしいよ」






「もったいないお言葉にございます。シュバルツ様もたくましくなられて・・・ますますお父上に似ておられるようになりましたね」






私がそういうと、シュバルツ様は少し悲しげな表情になり、しかしすぐに元の表情に戻ると周りを見渡した。探しているのは、きっと。







「・・・・・・リディアは」






「リディア様でしたら今日は剣の練習があるから迎えにはいけない、と」






「・・・・・・そうか」





シュバルツ様のそういったときの悲痛な表情は、私がリディア様に「シュバルツ様の迎えに」と言ったときの表情によく似ていた。それは思わず目をそらしたくなるほどの痛々しさだった。実際私は2回とも目をそらした。






しばらくそのまま沈黙が続いたが、シュバルツ様がため息をついたことでその沈黙は破られた。






「リディアが剣はじめたということは手紙できいていたが・・・ほんとうだったんだな」






「・・・・・・はい。驚かれるのも無理はあるません。以前のリディア様では考えられませんでしたから」





「以前のリディアでは・・・って、そんなにリディアは変わったの」






「少なくとも、あのおっとりとした空気はもうございません」






シュバルツ様が行かれて、何かに追われるように剣の練習を始めたリディア様。

その心を察することはできないが、「何か」がそこにはあるのだと分かる。

私はそんなリディア様に何もできなかった。



「とにかく、まずは城に挨拶にでも行くか」



「ミリア様が自分の元によるようにおっしゃってました」



「ははっ。それはこっぴどくしかられそうだな」






シュバルツ様は、そう言って苦笑した。


















******************************





「・・・・・・それであちらの動向は」






「間者を数人忍ばせております。報告は屋敷にて」






「僕が戻ってきたからには、もう好きにはさせないさ」







シュバルツ様が戻ってきた。それはつまり、シュバルツ様が力をつけ戻ってきたということ。そしてそれは、また運命が回り出す時でもあった。






二度と、双子に辛い思いをさせないように。それだけを胸に。私は、どんなことでもしよう。後悔の日々は終わり、復讐するときが来たのだ。




時は、満ちた。






                         <第二話、終>



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