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2004年10月 Part1

 『()()()()』を皮切りに僕は安喰家に引き取られることとなった。

 その前に、八木森での一件もあり再度の入院を経て今にいたる。

 退院後、僕は吾喰家の一室を与えられ、そこから通学することとなった。

 僕の場合、ほぼ一年間に渡る入院生活のせいで学校に通うことができなかった。

 学校側は、天災事故として認知しており、また養療が必要とみなされ病院から特別にリモートでの授業を許可してくれた。

 内容に関しては、問題ない。

 ただ、僕が入院している間に小学校のクラス替えは終了していた。

 だからこそ、必然的に教室で異端となってしまった。

 苗字がアジタに変更され、名簿番号的に筆頭となることもよくなかった。

 僕が指定されたクラスに入ったときは、編入生の気分だ。周りはすでに構築しつつあるコミュニティで固められ、僕が入る隙間はなかった。

 うーん、疎外感。

 加えて左目に眼帯をしているためか腫物をみるような目を向けてくる。

 一般的な子供たちとの『繋がり』が希薄となってしまった。

 透明人間のようだ。

 さらに言えば、放課後は吾喰の手伝いとして佳澄さんが通っている小学校に行かなければならない。

 なんでも護衛が必要らしい。

 「それなら、僕よりも適任な護衛がいるだろうに」

 吾喰家に初めて来た時、割烹着を着た鬼が出迎えてきた。

 正確には鬼面をつけた使用人。

 普通に仰天した。

 しかも、足音どころか声も出さないから怖い。

 ………いつもどこからともなく現れる奇人であり鬼人だ。

 まあ、僕のように背後に立たれて悲鳴を上げたメイドさんを何人も見たし、ミスって窓ガラスを拭いている最中に割ったり、食材を食器ごとスライスしたりで途方に暮れている姿を見た。要するに使用人として致命的にあってない。

 後日、割烹着からメイド姿に変わった。

 理由は、その方が接しやすいと思ったと語られた。

 いや、普通に怖いままだし。

 その仮面をとってくれれば、まだ、ね?

 それにメイド服と親和性が全くあっていない。

 どちらかと言えば———。

 「兄さん!」

 小学校の前につくと、校内から佳澄さんの声が聞こえてきた。

 吾喰佳澄あじた かすみ

 吾喰家の現当主様。

 『十家』最年少の当主。

 まさか、小学一年生の子供が当主になるとは思ってもみないだろう。

 今までの最年少は、『玖条家』現当主らしい。

 それを更新した。いや、無理やり更新したようだ。

 実は八木森での一件で、僕が再入院している間に吾喰家内でいろいろと揉めた結果らしい。

 僕は吾喰家のご両親に、当初呆れた。

 責任ある当主の座をあっさり引き渡すとか。

 が、揉めた理由が僕だったらしい。

 なんでも、僕関係で佳澄さんが本気で怒り、手が付けられない状態となったからだ。

 それでも家督を譲るなんて、と言ったところでご両親が苦虫を嚙み潰したように顔をしかめた。

 聞くと吾喰家は実力主義であり、敗北したのなら歳は関係ないらしい。

 条件は、【能力】ありの格闘術で地面に相手の背中をつけさせること。

 いわゆるなんでもありの格闘術みたいなものらしい。

 大の大人が小学生相手にすることではないと思うが、ご両親曰く佳澄さんは天才らしい。

 ご両親だけでなく、親戚筋全員を連戦で沈めたらしい。

 娘にどれだけ甘いのか。そこは、無理にでも止めないといけないところでしょ?

 ちなみに僕が吾喰家に来て早々に、佳澄さんから家督をかけての模擬試合を申し込まれた。

 大人げないと思いながら、対する佳澄さんには、世の中そんなにうまくいかないことを証明しないといけない。………まあ、模擬試合だから。

 勝負的には、なるべく怪我をさせない程度に加減して最後は足払いで終わった。

 子供相手に本気になるとか、どうかしている。

 ………そのあと、佳澄さんを大泣きさせてしまった。

 う、うーん。

 加減もほどほどにしないと怒られるのか。

 感情の機微に疎い僕の悪い癖だ。

 それから、佳澄さんから悪態をつかれるようになったけれど。

 ちなみに、佳澄さんから家督代理としての命令権をもらったが、それは吾喰のご両親に返権した。

 ここら辺は、僕に馴染みがない。それに吾喰のルールとか知らない。

 その決定事項に、佳澄さんは大いに不服らしく八つ当たりをされた。

 まあでも、元気なのはいいことだよね?

 「兄さん」

 「ん?」

 どうしたのだろう。

 佳澄さんと向き直ると手を差し出された。

 あー、そう言うことね。

 「はいはい」

 「『はい』は、一回でいいんです」

 差し出された手を握って一緒に歩き出す。

 今年で小学一年になるのに、他の生徒たちの目が気にならないのだろうか。

 もうそろそろ多感な時期になるだろうから、なるべく避けてあげたのに。

 今は同世代の友達と横のつながりをつくることは大切なことだと思うのだけど。

 実際、僕の場合は疎遠どころか隅っこにいる影の薄い人くらいだろう。

 そんなとき———。

 「あぶないっ!」

 そう言う言葉をかけられた。

 そちら側をみると野球部員がこちらに向かって叫んでいた。

 予想はついている。

 僕の方向に跳んでくるボールを捉えていた。

 まあ、問題ない。

 佳澄さんとつないでいる反対の手を接点位置座標に持っていく。

 秒数にして二秒と少し。

 ボールを掴む瞬間、勢いをそのまま殺すのではなく同調してそのまま腕を振り下げて体幹で体重移動を行う。腕を回転させて下降させた腕を今度は跳ね上げる。

 そのころには、ボールの勢いは死んでいる。

 あとは、腕に急制動をかけてボールを空中に浮かばせる。

 ポーン、と手の中にはおとなしくなった野球のボールが。

 「すいませんっ!」

 そういって校庭側から野球部らしい刈り上げられた少年が頭を下げていた。

 「問題ないよ」

 そういって、ふっと思った。

 ボールが飛んできたということは、反対側の隅にいるのがキャッチャーか。

 こっちに来る外野の子に渡してもいいけれど、それはかわいそうだ。

 この距離は()()するほどじゃない。

 ボールを右手に掴み、遠投の要領で角度と位置を意識する。

 振りかぶったフォームを見て外野の子は焦っていたが、別にいいだろう。

 君の仕事を代わりにやってあげるのだから。

 射角、力の制御、佳澄さんへ不要な振動をかけないためのフォーム。

 体の計算で補う。

 射出されたボールは、一直線に夕暮れの空へと消えていった。

 そのまま、何事もなかったように佳澄さんと帰路へ戻る。

 少し歩いたところで後方から何かが割れる音が聞こえた。

 ガラス製のモノではなく、プラスチック製のものが割れる音だ。

 ざわざわと騒がしいが気にしない。

 そんな僕を佳澄さんが白い目で見ていた。

 「普通に渡してあげればよかったのに」

 「ホームランを打たれた後、悔しそうだったから」

 「だからって、ホームプレートを踏ませないためにプレートを粉砕するのはどうかと思うよ?」

 「野球って、悔しいときバットに八つ当たりしている人がいるでしょ? それと同じくプレートに八つ当たりするピッチャーがいてもおかしくないんじゃない?」

 佳澄さんのジト目が僕に刺さる。

 またおかしなことをしたかな?

 感情の機微に疎いのが、僕の欠点だ。

 でも、ボールはキャッチャーに返せたから。

 それでいいでしょ。

 で、だ。

 「今日の仕事は?」

 「もう、兄さん。外では仕事の話はしないように、って言いましたよね?」

 むくれていた。

 そんな話はしたことがない。

 「なら、今日からです。下校中は限られた時間を大切にしましょう」

 「そうはいかないよ」

 佳澄さんが家督を簒奪したとはいえ、発言力を得ただけで未だにご両親に支えられて吾喰家。また安喰家を支える分家によって成り立っている。その中に八木森家もいるのだが、この前の親戚会議では見かけなかった。まあ、僕も気まずいからよかったけれど。

 だからこそ、支えられているからには、与えられた役割はしっかりこなさなければ。

 こなさなければ、新参の佳澄さんへの求心力が落ちる。

 小学生の勢いだけの力に負ける方も問題だが軽く考えている佳澄さんもどうかと思う。

 社会の前では、歳は関係なく一度引き受けた責任は果たさなければ。

 例えるのであれば『幼い子供が刃を持ってしまった』といったところだろう。

 大人であれば、必要なとき以外は鞘に納めるだろう。

 だけど、無知な子供はむき出しの刃を楽しく振るうだろう。

 どうにも、ご両親からは僕自身が鞘役となってほしい………らしい。

 「それで今日の仕事は?」

 「ぶー」

 頬をわざとらしく膨らませながら佳澄さんは話し始めた。

 「今日は、仕事とかじゃなくて他家との打ち合わせ。連携強化とからしいよ」

 ………え?

 いや、それもっと早く話してくれないといけないやつじゃない?

 つまり今回は、佳澄さんが当主になってからの初めての他家とのお目通りとなる。

 おそらく十家の人達がくる。

 現在の筆頭が吾喰家。

 順位別にいくと、次が御錠みじょう

 玖条くじょう

 久峨こが

 茂野辺ものべ

 この5つが裏の家業で有名なところ。

 あとは、栗栖くりす

 キリエ。

 姫条きじょう

 と、言った具合だ。

 あとの二つはもうすでに存在しない。

 名前だけが残っているだけだ。

 だから逆算して、今日来るのは———。

 「栗栖家とキリエあたりですか?」

 あの二つの家は元々この国に帰化した家だ。

 まあ、教会を維持しながらお布施によって活動を維持しているからプラスマイナスでいうとほぼゼロ。それどころか予算が合わなくなると他家からお金を借りなければ、取り潰されてしまうような危機にさらされている。

 しかし、そんな二家がどうして存続できているのか。

 答えは、簡単でこの国に根ざしたものと相性が悪いものを担当しているからだ。

 だからこそ、他家にお金を求めることを許されている。

 まあ、そこまで理不尽にお金を巻き上げようとせず、活動にかかった費用の領収書などを持参してくるので使用理由なんかも理解できてありがたいけれど。

 「いや、()()くるよ」

 「大問題じゃん⁉」

 どうして、そこで焦らないのか。

 急いで帰らないと。

 ドレス………いや、着物か?

 ご両親に相談しなきゃ。

 採寸………いや、何着か予備の衣装を持っているらしいから仕立て直しを———。

 どちらにしても急いで帰らないと。

 「パーカーとジーンズでしょ」

 隣にいるご当主様を無視する。

 ここから家まで、二十分と少し。

 時間は午後五時。

 おそらく他家の都合を考えると会合は午後七時と予想。

 ———時間がない。

 「わ、わおっ!」

 佳澄さんを両手で抱えてダッシュする。

 多少は筋肉がついたとはいえ、まだ退院を済ませた体にはきついものがある。

 「あの坂、心臓もつかな」

 そんな心配が頭をよぎった。

 

 

 


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