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昼休み。
チャイムが鳴ると同時に、教室のドアが開く。
「りっくん……」
結がおずおずと教室に入ってくる。
クラスメートは「あ、佐倉さん」と俺の席まで結が来るのを温かい目で眺めていて、もう慣れた雰囲気だ。
「あの、一緒にお昼、食べてもいい? 」
「いいよ」
「そしたら、購買行こうか! 明日から、ちゃんとお弁当作るから……」
「おにぎりでいいなら、作って来たけど」
俺は鞄からラップで包んだおにぎりを取り出した。
朝ご飯を作るついでに、作ってきたものだ。中身は冷凍のから揚げと炒り卵。
「え……!? りっくん、いつの間に……」
「勝手に材料を使わせてもらった。これで良ければ結の分もある」
「ありがとう……」
結はおにぎりを受け取った。
俺の基準で作ったから、結が食べるには1つでも大きかったかもしれない。
結はラップを開けて、小さな口でかじる。
「美味しい!」
結が目を輝かせる。
「普通のおにぎりだろ? 」
「ううん、りっくんが作ってくれたから、すっごく美味しいよ!」
小さな口で巨大なおにぎりを食べている結は、ハムスターのように見える。
必死で食べている様子が可愛い。
「りっくん、料理できるんだ」
購買のパンを食べていた鬼丸が羨ましそうに言う。
「何でもできる竜胆家の姉が、唯一できないのが料理だからな」
羽月はいつものカロリーメイトを食べながら答えた。
卯月は味付けが極端なだけで料理が下手なわけではないと思うけど、羽月は卯月の料理に付き合わされてよく腹を壊していた被害者だ。
「いいなー俺も、りっくんをお嫁さんに欲しいなー」
「丸は彼女に作ってもらえばいいだろ」
先輩後輩からも告白されまくっているのに全部断っている鬼丸は、超美女大学生の彼女がいると噂されている。
「りっくん、料理上手……でも、明日からは私が作る!」
「え?」
「お弁当、私が作るから! りっくんの分も!」
結が拳を握りしめる。
その顔はやる気に満ちていた。でも、結は料理が作れるけど、そんなに手際がいい方じゃないような気がする。
「無理しなくていいぞ」
「ううん! 無理じゃないよ! 私、りっくんのためにお弁当作りたいの!」
「結ちゃん、えらーい」
結が大きな声で宣言をして、鬼丸と羽月は無責任にぱらぱらと拍手をした。
「それにね……りっくんが私が作った同じものを食べてると、だんだん私と同じ体になってるみたいで、嬉しいよね……ふふっ」
結が不穏な事を言って嬉しそうに笑う。
俺は助けを求めて鬼丸と羽月を見たが、二人揃って聞こえないフリをしていた。
*
午後の授業が始まって、お腹が満たされて眠くなりそうな中で必死に我慢して黒板を睨む。
その時、スマホが振動して目が覚めた。
結からのLINEだ。
『りっくん、ちゃんと授業受けてる?』
授業中なのにスマホをいじるなんて、結はそんな不真面目な奴だったか。
でも、一応返信する。
『受けてるよ』
すると、すぐに返信が来る。
『良かった。りっくん、真面目』
それで満足したのかと思ったけど、結からのLINEは止まらない。
『りっくん、今、何の授業?』
『数学』
『難しい?』
『普通』
『そっか。頑張ってね』
結が俺のことを気にかけてる。それは少し嬉しい。が、授業に集中できない。
授業が終わって、次の授業が始まる。
次は化学室に移動だ。教科書をまとめたが、また結からLINEが来る。
『りっくん、今度は何の授業?』
『化学』
『得意?』
『普通』
『そっか。実験するの?』
俺が返信しようとすると、羽月が背中を押した。
「竜胆、もう行かないと。チャイム鳴る」
「分かってるよ」
教室の中は俺以外みんな移動している。
俺はスマホを鞄に入れたが、すぐに振動する。
また、結からだ。我慢できずに見る。
『りっくん、返信ないけど、大丈夫?』
「結、心配しすぎだろ…」
そのままにしておけなくて、俺は急いで返信をした。
『大丈夫。授業だから、後で返信する』
『そっか。ごめんね』
結からのスタンプが送られてくる。可愛いウサギのスタンプ。
廊下を駆けながら俺は苦笑した。
スタンプで終わるかと思ったら、結からまた返事が来た。
『りっくん、大好き! 』
思わず、顔が熱くなる。
いつも言われていることだけど、こうやって文字で見ると違う気がする。
周囲を見ても、誰も気づいてない。
『結も、授業だろ』
『ごめんね。でも、言いたかったの』
『わかった。放課後、一緒に帰ろう』
『うん!』
結からスタンプが送られてきて、ようやくLINEが止まる。
授業に集中しないと。
でも、頭の中は結のことでいっぱいなままだった。




