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卯月に追い出されたような気分で、俺は羽山の後に着いて自宅近くの公園まで来ていた。
外を歩くのに結が隣にいないのは、随分久し振りなような気がする。
隣が空いているだけで、なんだか変な感じだ。
「戻って来ていいって言われるまで、しばらくかかるかもな」
羽山が言って、ブランコに立ち乗りした。
俺は隣のブランコに腰掛けた。昔からこの公園のブランコで卯月が立ち乗りで一回転をしたがるから、俺は立ち乗りにトラウマがある。
「佐倉のこと。このまま続けるつもりか」
羽山は遠回しな言い方をしない。中学の頃からそうだ。
「続けるって言っても、俺が決めることじゃないだろ」
「そうか? お前が選んで、お前がそばにいるように見える」
羽山の言葉が刺さる。
そうだ、俺が選んだんだ。手錠をかけられて、監禁されて、それでも逃げなかった。
逃げるチャンスはあったのに、結のせいで逃げられない被害者みたいな顔をしている。
「俺は、結が笑ってくれるならそれでいいと思ってた」
俺が正直に言うと、羽山が少し間を置いて答えた。
「それ、お前の本心か?」
「……わからない。でも、俺がいなくなったら結が泣くんじゃないかと思ったら、嫌だ」
「ふーん」
羽山はあまり感心が無さそうに呟いた。
「佐倉も、そりゃああなるよな。唯一の身内の母親が突然死んだから」
羽山は他人事のように言って冷たく聞こえた。
でも、俺だって幼馴染なだけで結とは結局他人同士だ。
俺が結のワガママを全部受け入れてきたから、結との関係がおかしくなっていることに気付けなかった。
「俺が悪かったのか」
「悪いとは言ってない。でも、竜胆はもっと自信を持っていいと思う」
「自信? 何で? 」
てっきり正論で責められるかと思ったのに、意外な言葉だ。
「鬼丸を見てみろよ。あいつ、モテるくせに女子からお願いされてもほとんど断ってるだろ」
「それは、勘違いされないように、丸なりに気を遣ってるんだろ……多分」
丸がそこまで考えているのか、と尋ねられると自信がない。
でも、自他ともにモテる鬼丸が、俺の比較に出て来るのかわからなかった。
「自分を安売りする奴は、信用されない。だから、嫌なことは、ちゃんと嫌だって言わないと」
羽山は、正論をいつも簡単そうに言う。
俺だってそれが正しいのはわかるけど、俺はずっと結に何も言えなかった。
言ったら結が泣くから。泣かせたくないから。
でも、それが結のためになってなかった。
「……難しい」
「そうか? 竜胆、お前、卯月に対してはちゃんと言えるだろ」
「そりゃあ、卯月は姉だから」
「佐倉も似たようなもんだろ。お前にとって」
羽山の言葉に、俺は少し黙った。
そうかもしれない。
俺にとって結は、恋愛とか好きとか、そういうことより前に、ずっとそばにいた人間だ。妹みたいな、家族みたいな。
だから、傷つけたくなかったし、何も言えなかった。
「俺、結のこと好きなのかな」
独り言みたいに言うと、羽山が呆れた顔をした。
「今それを考えるのか」
「なんとなく、気になっただけだよ」
俺がそう言った時、スマホにLINEのメッセージが届いた。
「卯月からだ。もう戻って来ていいって」
「じゃあ、俺は帰る」
羽山はブランコを下りて帰ろうとして、俺は腕を掴んで引き留めた。
「羽山も一緒に戻ろう。夕飯食べてっていいから」
「嫌だ。卯月が何言ってくるかわかんないから」
「俺だってやだよ」
俺一人で戻ったら、卯月に全力で説教をされるかもしれない。
卯月は羽山みたいに優しくないから、正座で朝まで反省文コースだってあり得る。
しかし、羽山は足を止めてくれなかった。こいつは超ど級の偏食だから人の家の飯で釣られない。
「あ、卯月が、ピザ注文したから受け取ってこいって」
「ピザがあるなら行く」
羽山は態度を180度変えて、素直に俺に着いて来た。
羽山が食べられるのは照り焼きチキンだけだけど、卯月のことだからちゃんとメニューに入れてるだろう。
俺は一度空を見上げた。星が出ている。
結はちゃんと泣いて、泣き止んだだろうか。
泣き止んだとしても、それで全部解決するわけじゃない。
でも、今日より少しだけ、前に進めた気がした。




