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昼休み、チャイムが鳴ると同時に、教室のドアが開く。
「りっくん……」
結がおずおずと教室に入ってくる。
手には弁当箱を持っていて、俺もお揃いの弁当箱を机に出した。
「授業中は、LINEしなかったよ」
「ああ、偉かったよ」
「うん! お昼、一緒に食べてもいい?」
「いいよ、約束したもんな」
結が嬉しそうに笑う。
俺の隣に椅子を持ってきて、弁当箱を開ける。
中身は全て結の手作りで、カラフルなおかずが詰まっている。
卵焼き、たこさんウインナー、ブロッコリーのサラダ……二段の大きい弁当箱にぎっしり詰まっている。
「がんばったな」
「うん……でも、本当はもっと可愛い飾りつけしたかったの……」
「えー? 充分可愛いよ」
鬼丸が横から茶々を入れた。
羽山は相変わらず関わらないようにしている。
「鬼丸くん……ありがとう」
「全部手作りだと大変だから、冷凍食品を使ったら? 」
「そっか……りっくん、それでもいい?」
「いいよ。俺、冷凍食品も好きだし」
「そしたら、スーパーに行って見て来ようかな」
結が自分の弁当も食べ始める。同じおかずだ。
「結ちゃんも同じのなんだ」
「うん。だって、りっくんと全部お揃いがいいから」
そう言って結が笑う。
ここまでお揃いに固執するのは、羽山は異常だと言いそうだ。
でも、卯月の付き合いで女子グループに混ざったりしてた俺からすると、割と普通なんじゃないかと思う。
昼休みが終わる頃、結はようやく弁当箱を空にした。
やっぱり、俺と同じ量は結には多すぎる。
「りっくん、明日はもっと上手に作るね」
「無理すんなよ」
「無理じゃないよ。りっくんのためだから」
結が真剣な顔で言う。
「じゃあ、また放課後ね」
「ああ」
結が弁当箱を片付けて、教室を出ていく。
「なんか、健気って感じー」
鬼丸が言ったけど、彼にしては珍しく含みがあった。
「まあな」
俺は気にせず廊下を眺めていた。結が自分のクラスに戻っていく影が見えた。
*
放課後、いつものように結が教室の前で待っている。
「りっくん!」
「おう」
結と一緒に学校を出る。
「りっくん、冷凍食品だったら何が好き?」
「コロッケ。結は?」
「私は、占いが付いてるグラタンかな」
「結、俺のよく食べてたよな」
「うん、私のお弁当には入ってなかったから……自分用に買うの、ドキドキするね!」
結が嬉しそうに笑って俺の腕を掴む。
校門を出ようとした時、誰かが結に声をかけた。
「結!」
振り返ると、三崎が立っていた。
「一夏、どうしたの?」
結が少し驚いた顔をする。
「最近さ、結、りっくんとばっかりだよね」
三崎が言う。
「うん、そうだけど」
結が笑う。でも、その笑顔は少し硬い。
「前はもっと、色々な人と話してたじゃん」
三崎が心配そうに言う。
「うん……」
「でも最近、私とも全然話さないし」
三崎が寂しそうに言う。
「ごめんね……でも、りっくんといる方が大事だから」
結がさらっと言う。
「え……」
三崎が驚いた顔をする。
「結、友達も大事だよ」
「友達……うん、一夏は大事な友達だよ……でも、りっくんの方が大事」
結が真剣な顔で言う。
「え、でも」
「りっくんがいれば、十分なの」
結が笑う。
三崎がショックを受けた顔をしている。
「結……」
「ごめんね……でも、私にはりっくんがいれば、他に何もいらないの」
結が俺の腕を掴む力が強くなる。
「そんな……」
三崎が困惑した顔をしている。
「じゃあ、また明日ね」
結が笑顔で言って、俺を引っ張って歩き出す。
「結!」
三崎が呼び止めようとしたけど、結は振り返らなかった。
俺と結は歩き続ける。
「結」
「ん?」
「お前、今の、それで大丈夫か?」
俺が聞くと、結が不思議そうに首を傾げた。
「大丈夫だよ。りっくんがいれば、何も困らないもん」
結が笑う。
俺は何も言えなかった。
これでいいのか?
三崎の心配そうな顔が頭に浮かぶ。
でも、結は笑っている。
俺がそばにいれば、結は笑ってくれる。
それでいいんだよな。
……本当に?
俺は自分に問いかけたけど、答えは出なかった。
「りっくん、どうしたの?」
結が俺の顔を覗き込む。
「いや、なんでもない」
「そっか」
結が笑って、また俺の腕を掴んだ。




