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放課後、俺のクラスのHRが少し長引いてしまった。
結は先に帰ったかと教室を出ると、廊下の隅に結が立っていた。
俯いて待っていた結は、俺を見つけるとぱぁぁぁと分かりやすく表情が明るくなる。
「りっくん!」
「悪い。待ったか?」
「ううん、全然! あのね、帰りにスーパーに寄っていい? お弁当の材料買いたいの」
俺が結の家に帰ることは当たり前に決まっているようだ。
まぁそこには触れないで俺が頷くと、結が嬉しそうに笑う。
「じゃあ行こ!」
結が俺の腕を掴んだ。
廊下を歩いていると、すれ違う生徒が俺たちを見る。
「佐倉さん、りっくんとラブラブだね」
「えへへ……うん! 」
女子がすれ違いざまに言うと、結は照れたように笑う。
否定しないのか。
「竜胆、明日までの課題って……」
羽月が教室から出てきて、俺が結と一緒にいるのを見て言葉を止めた。
俺と同じく、羽月と結も中学校が同じだ。
当然顔見知りだし、そこそこ仲良しだった気がする。
それなのに、結は羽月に対して警戒心を露わにした様子だった。
散歩中に自分より大きな犬に牙を剥いている小型犬を思い出す。
「いいなー、りっくん。結ちゃんと毎日デートじゃん」
「デートじゃねーよ」
俺が他の生徒と話すのが嫌なのかと思ったけど、続けて顔を出した鬼丸に対しては結は普通の様子だった。
「りっくん、デートだよ。りっくんと放課後デートだもん」
「はいはい、わかったよ」
羽月に後で連絡する、と結に聞こえないように言って、二人から離れた。
結は機嫌が悪いわけではないようで、羽月から離れると嬉しそうに俺の腕を振っている。
「羽月が、どうかしたか?」
俺が尋ねると、結は途端に表情を険しくした。
「……何でもないよ」
「何でもなくないだろ。何か気になるなら教えろよ」
学校で俺が一番よく一緒にいるのが羽月だ。
結と羽月がこじれると面倒なことになる。
笑わないから、と結を宥めてしばらく尋ねていると、結は渋々口を開いた。
「……羽月くんに、卯月、盗られた」
「卯月?」
「りっくんも、盗られるかも」
結はよくわからない事を言っているが、その表情は真剣そのものだ。
俺は少し考えて、ふと思い出した。
中学校の時、頭の良い卯月と羽月の相性が良くて、周囲から付き合っているのかと噂になった。
本人たちも満更ではなかった様子だったが、俺の目の前で冷静な話し合いが繰り広げられ、その結果、付き合わないことになったのを俺は知っている。
「大丈夫だよ。卯月は誰とも付き合ってないし、俺は結が一番大事だ。誰かに盗られたりしないよ」
「……本当? 」
「本当だよ。ていうか、俺にそんなに興味あるの結くらいだから、全然心配することないって……」
「そんなことないよ!! りっくん、人気者だもん!」
結が必死に言ってくれるのが、逆に泣ける。
スーパーに着くと、結はカゴを持って野菜売り場に向かった。
「ブロッコリーとプチトマトは絶対入れるよね」
「そうだな」
「あと、卵焼きも! りっくんは甘い卵焼きと塩味の卵焼き、どっちが好き?」
「甘い方」
「わかった!」
結は卵のパックを入れると、お弁当のおかずコーナーに向かう。
「ウインナーも入れようかな。りっくん、お肉好きだよね」
「まあ、嫌いじゃない」
「じゃあお肉たくさん!」
結がウインナーのパックを三つカゴに入れた。
「多すぎだろ」
「ううん、りっくんにはたくさん食べてほしいの」
結が真剣な顔で言う。
「お弁当箱に入りきらないぞ」
「じゃあ、大きいお弁当箱買う!」
結が弁当箱売り場に走っていく。追いかけると、結は二段の大きい弁当箱を持っていた。
「これなら入るよね!」
「運動部じゃないんだから」
「でも、りっくんは大きいから」
結が俺を見上げる。
俺の身長は平均くらいだから、そんなに大きくない。結が小さいだけだ。
「普通のサイズでいいだろ」
「やだ。りっくんにはたくさん食べてほしいもん」
「わかったよ」
「やった!」
結がカゴに弁当箱を入れた。二つ。
「なんで二つ?」
「私の分も」
「お前も二段弁当なのか」
「だって、りっくんと同じものを食べたいから」
結が笑う。
さっきの不穏な発言を思い出した。同じものを食べて同じ体になりたいとか言ってたな。
「結、お前やっぱり……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
結が不思議そうに首を傾げる。
「りっくん、何か言いたいことあるの?」
「別に」
「そっか。じゃあ、次は調味料見よ」
結が調味料コーナーに向かう。俺もついていく。
「お醤油と、お砂糖と、お塩と……あ、マヨネーズも買っとこ」
結がカゴに次々と入れていく。
確実ではないけれど、マヨネーズとかは棚にストックがあった気がする。
やっぱり、結はあんまり料理が得意じゃないよな。
「結、そんなに買って大丈夫か?」
「大丈夫。お弁当作りに必要だもん」
「まあ、そうだけど」
結が嬉しそうに買い物をしている。その顔を見ていると、俺も悪い気はしなかった。
レジで会計を済ませると、結が袋を持とうとした。
俺は横から手を伸ばして袋を持ち上げる。
「俺が持つよ」
「でも……」
「いいから」
俺が袋を取ると、結が少し残念そうな顔をした。
「ありがとう、りっくん……そしたらさ」
結がまた俺の手を握った。
さっきの子どものような握り方じゃなくて、指を絡める恋人同士のような握り方だ。
「りっくん、こうやって手を繋いでもいい? 」
高校生の俺には、少し刺激が強い気がする。
でも、結に気後れしたと思われたくなくて、俺は平気な顔で結の手を握り返した。
「ああ、いいよ」
「うわぁ……! りっくんと、恋人みたいだよ……! 」
結の顔が真っ赤になる。
言っていることもやっていることも変わっているけど、やっぱり、結は可愛い。




