3 どうしようか?
夜が明けた。
今日が『火の儀』がおこなわれる日付だ。つまりルーシィの命日となるわけでもある。
...それはフューイには赦せなかった。決して恋慕ではない。あくまで主君として、自らが仕えるべき存在としてその死の間際に立ち会わなければいけないことにどうしようもない憤りがあった。
フューイは少し前を歩くルーシィにそっと囁く。
(あなたは火口に飛び込んでゆくことに納得しているのですか?)
ルーシィが僅かに横に首をふる。
(じゃあ...生きたい?)
ルーシィは小声で
(それじゃあ...妹たちが犠牲になる)
ルーシィには二人の異母妹がいる。ルーシィになんらかの事故があって儀式に参加できない場合、妹たちが犠牲にされると思っているのだろう。
(そうじゃない、ルーシィ自身の気持ちはどうなんだ?)
ああ、もうルーシィは答えてくれないのかと思いはじめたころ。
(生きたい...生きたいよ...)
かすかで、たよりない反抗心だった。
誰に言うでもなく、
「わかった」
と喉が先に発していた。
あとは、先述のとおり。
◆ ◆ ◆
司教は顔をしかめていた。神聖な儀式に血に染められた騎士に乱入されたとなれば責任の半分はこの場を取り仕切る司教にやってくるのだから。
この始末をどうつけるか。護衛の責任者はアレックスだった。
「ハーヴェイ殿...?」
アレックスはわなわなと震えていた。その目は憔悴ではなく好奇と興奮に染まっている。
「あいつら...生きてる...」
司教の体にしびれるような衝撃が走る。
「...まさか。私たちは確かにあの者たちが火口からまっ逆さまに落ちてゆく姿を見た!」
するとアレックスは振り返りざまにブレスレットを見せつけた。
「これは『命の護章』といって、対応する髪飾りをつけている者が生きている場合、魔力をこめれば光るってシロモンなんだけど...」
光っている。
それは少なくとも姫が生きていることの証明だった。
司教の顔がみるみる青くなってゆく。禿げ上がった頭には大粒の脂汗がみなぎっていた。
「では、どうやって生き残ったのでしょうか?」
当然の疑問だった。
「...かつて古代ドワーフはこの山脈を中心に坑道を掘り、西方から侵攻してきた『神の尖兵』に備えたらしい。そのときの跡地があったのかもしれん。」
「にわかには信じがたいですな。」
「うん、俺もだ。」
アレックスの口元が僅かに綻んでいたことに司教は気付かなかった。
◆ ◆ ◆
「いったあ~ぁ」
「だいじょぶですか?姫様。」
「うん...ところでここは...?鉱山の跡地のように見えるんだけど...」
火口の真ん中の突き出るような形の岩の上に二人はいた。そして岩壁の方をみると、柱と梁をとおして支えてある、先の見えないトンネルがあった。
「ご名答です。おそらく古代ドワーフがつくったものでしょうね。彼らはこのあたりを縄張りのしていたそうだから。」
「妙にくわしいんだ?」
「興味があったので。」
すまし顔で言われると少し可笑しい。
「さて、まずはここから脱出しないといけないですね。」
ルーシィが首をかしげる。
「この中を進めるの?どこかで落盤しているんじゃあ...」
「そのときはそのときですよ。それよりは後のことが心配ですね。おそらく追っ手は『六剣神』級の大物かもしれません。」
フューイは少し身震いしてみせた。
「まあ、フューイならなんとかなるんじゃない?」
「ずいぶんと余裕がありますね。じゃあ、せいぜい死なないように祈っててください。」
二人は坑道へ進んでいった。




