2 道程
アレックスがフューイを訪ねてから、一ヶ月が過ぎようとしたころ、フューイたちはヴェルサ火山のふもとまでたどり着いた。
件の『火の儀』のためである。
「フューイ、かなり暑くなってきましたね。そんな大きい甲冑を着ていて大丈夫なのですか?」
明らかに高貴なる人物が乗っていると思われる絢爛豪華を体現したような馬車から小さくも響く、どこか心地よい声が聞こえてきた。
王国最大の火山がある、この東部地域には自然温泉や間欠泉がおおく湧いており、湯気があたりに立ち込めていることは不思議なことではなかった。
「ええ、姫様。フューイの身体は特別頑丈にできていますゆえ。」
フューイの身体は決して大きい方ではない。むしろ平均よりも小柄だった。多くの人間はその体躯からどうしてあのような剣技を出せるのか不思議だった。
フューイは馬車の外を付き添うように歩き、不意の襲撃から警戒している。
「もう、そんなかしこまった言い方しないでよいのですよ?昔みたいにルーシィと呼んでください。」
「いいえ、あの時とは立場が違います。あなたは王女で、ぼくは守護騎士。今回ばかりは話し相手になることを許されていますが、本来なら必要最低限の会話しか許可されていないです。」
「そうですか...」
どこか悲しげで、弱々しい声色だったが、それにフューイは気づかなかった。気づけなかった。
その後はルーシィのほうから話しかけることはなく、たまにフューイが話しかけたことに、
「そうですか」
などと、そっけない態度で反応する程度だった。
◆ ◆ ◆
中腹まで来た。ここからは馬車は道が荒れているので使い物にならないから歩いてゆかなければならない。
普段から歩くことが少ないはずの姫君だったが、意外にもひょいひょいと山道をのぼってゆく。護衛の騎士たちの方が置いてきぼりにされそうなほどの健脚だった。
(それも灰となってしまう...)
ルーシィはときどき冗談で騎士たちの空気を和ませていたが、フューイの心は痛々しいほどに沈んでいた。
「よおし、今夜はここで更かすぞ!」
騎士隊長の合図で騎士たちが一斉にもってきていた骨組みと布を合わせてテントを組み立ててゆく。
そして、あるものは温かいスープをつくって振る舞い、あるものは日々の鍛練を見せつけあう。
というか、言ってしまえば上腕二頭筋をフン!ってやったりハッ!ってするだけだ。彼らに言わせれば筋肉は裏切らないらしい。
そこから、少し離れた王族専用のテントの前でルーシィとフューイは短くも会話を交わしていた。
「姫様はお疲れでしょう。今日のところは早めに休憩をとられては?」
ルーシィは露骨に機嫌を悪くして
「フューイもおんなじことを言うんだ?みんな私は明日居なくなるってわかってるのに...」
できることなら、もっとこの時間を噛みしめたい...
けれど、現実は待ってはくれない。ルーシィに残された時間は少ない。
「...もう寝る」
ふてくされた姿も、もう見られなくなる。寂しい気持ちもあったが、それが使命だった。
◆ ◆ ◆
夜の見張りは交代制だ。フューイは最高位の騎士であるので、見張り番は一般の騎士にさせてしまえばよかったのだが、どうしてか眠れないので、当番の騎士に代わってもらった。
この火山は生き物がほとんどいない。地下から湧いてくる温泉が強い酸性のため、ほとんどの植物は根を張ることすらできない。必然的にそれを食べる草食動物もいない、肉食動物もいない。
ましてやこんな辺鄙で不毛なところに山賊など出るはずもない。
念には念をという意味で見張りを置いてはいたが、皆談笑するばかりだった。
フューイだって一人焚き火の真ん前で考え事をしているのだから責められない。
フューイがいまさっきから考えていることはただひとつ、ルーシィのことだった。
(なぜルーシィが死ななければならないんだろう...。ルーシィが死ねばこの国は守られるのか?ルーシィはそれに納得している?)
(......ルーシィだって本当は...)
自分の思うまま生きたいのでは?
とは声に出さなかった。
そろそろ交代の時間が迫ってきたころ「グスン、グスン」と、すすり泣きのような声が聞こえてきた。
フューイは声のもとを探す。
ルーシィのテントらしかった。
聞き耳をたてる。
盗み聞きが良くないことぐらいフューイもわかっていたけれど、そんなことも考えさせないほどのナニかがフューイをそうさせた。
かすかに聞こえる。
(死にたくない)
と、




