表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い瞳の王子さまに手を握られましたが、優しく髪を撫でられるので心も体もメロメロでどうにかなりそうです  作者: ちぃたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第3話 秘密の花園での約束



 王宮で花の手入れを任されてから、もう数日が経った。

 セラ・フローレンは朝から晩まで花と土に向き合い、

 そのたびに、どこかから視線を感じる。


 ――やっぱり、見ている。


 そっと顔を上げると、少し離れた回廊の影に

 青い瞳の王子――ユリウス・ルーヴェンが立っていた。


 白い制服に風が流れ、金糸の刺繍が光を反射する。

 まるで絵画から抜け出したような姿なのに、

 視線だけは、ひどく真っ直ぐで。


「……そんなに見つめられると、落ち着きません」


 つい口をこぼすと、ユリウスが小さく肩を揺らした。


「俺が見たいものを見てはいけないのか?」


「へっ……?」


「おまえが花に触れると、空気まで柔らかくなる。

 ……それが面白いと思っただけだ」


 表情こそ冷たいのに、声がどこか優しい。

 それが余計に胸に響く。


「殿下は……やっぱり、ずるいです」


「ずるい?」


「だって、そんな言い方をされたら――」


 言葉の続きを飲み込む。

 頬が熱くなって、目を合わせられなかった。


 そんなセラを、ユリウスはしばらく見つめていたが、

 やがて小さくため息をついた。


「……ついてこい」


「え?」


「少し、見せたい場所がある」


* * *


 辿り着いたのは、王宮の奥にある誰もいない中庭。

 石の壁に囲まれたその空間には、

 ひときわ美しい花が咲いていた。


「……青い、薔薇?」


「ああ。王家の象徴だ」


 ユリウスが静かに答える。

 青い薔薇――それは、“奇跡”の花。

 存在しないはずの色を咲かせる特別な花だと、セラは知っていた。


「きれい……。まるで、夢みたい」


「この庭を知っているのは、限られた者だけだ。

 本来なら、おまえをここに連れてくることも許されない」


「えっ……では、なぜ……?」


 ユリウスは少しだけ視線を伏せた。


「理由は……自分でもよく分からない。

 けれど、おまえになら、この花を見せたいと思った」


 その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。


 青い瞳の奥に映るのは、冷たさではなく、

 まるで花のように儚い温もりだった。


「セラ」


 初めて“殿下”ではなく、名前で呼ばれた。


「……っ」


 驚いて顔を上げた瞬間、

 彼の指がそっと自分の髪に触れる。


 指先が花びらを撫でるように、優しく。


「おまえに触れると、王子としての自分が消える気がする。

 それでも……今は、構わない」


 距離が一気に近づく。

 息をするのも忘れてしまいそうだった。


 青い瞳がすぐそこにあって、

 世界中の音が、遠のいていく。


「殿……ユリウス様……」


「名前を呼べ。俺のように」


 低く甘い声。

 セラの唇が震える。


「……ユリウス、さま」


 その瞬間、ユリウスがふっと微笑んだ。

 ほんの一瞬、少年のように柔らかく。


「そう。……その声が、好きだ」


 頬に残る彼の指先の温もり。

 青い薔薇の香り。


 胸の奥が、痛いほどにときめいた。


* * *


 その夜、セラは眠れなかった。

 名前を呼んだ時の彼の微笑みが、何度も何度も蘇る。


「……ユリウス様」


 小さく呟いた名は、

 夜風に溶けて、静かに消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ