第10話 青い指輪と誓いの牢
王城の地下への通路は、冷たい石の匂いと湿り気で満ちていた。
セラは外套のフードを深くかぶり、足音を殺して進む。
ここにユリウスが囚われている――彼の名を思うだけで、胸がぎゅっと締めつけられた。
階段を下りきると、奥に青い炎が灯る小さな部屋が見える。重たい扉の前には兵士が二人。
セラは懐から小瓶を取り出し、息を殺して床に転がす。
ぱん、と軽い音。
透明の煙が広がり、兵士ふたりはよろめいたかと思うと、静かに倒れ込んだ。
(……今だ)
扉を押し開ける。
青炎に照らされた牢の奥、鎖につながれた男がゆっくり顔を上げた。
「……セラ?」
弱々しい声だったのに、聴いた瞬間、胸の奥がいっきに熱くなる。
どれだけ会いたかったか。どれだけ心配していたか。
「来たよ、ユリウス」
駆け寄ると、ユリウスは縛られたままの手を伸ばし、触れられるぎりぎりの距離まで指先を近づけてきた。
セラも同じように指を伸ばす。
指先が触れた瞬間――
青い指輪が、光った。
ぱぁん、と空気が震え、ふたりの周囲に淡い紋章が浮かび上がる。
「これは……?」
「“誓いの牢”が反応している。セラ、君が来たから……」
ユリウスはかすかに笑った。
「やっぱり、あの日の誓いは本物だったんだ」
青光に包まれながら、彼はゆっくりと立ち上がる。鎖がひとりでにほどけ落ちていく。
セラは息をのむ。
ユリウスは拘束されていたはずなのに、光に照らされるその姿は、以前よりもずっと強く、そして美しく見えた。
「会いに来てくれて……ありがとう」
近づいてきたユリウスが、セラの頬にそっと触れる。
その指先は冷たいはずなのに、不思議と身体の奥まで熱が走る。
距離が、近い。
目が合うと呼吸が乱れて、胸の奥がきゅうっと疼く。
「ユリウス……無事でよかった……」
震える声で言うと、彼はセラの額へ唇を落とした。
触れた瞬間、青い紋章がふたたび揺らめく。
「セラ。ここから出よう。
でも……その前に聞きたいことがある」
彼の指がセラの左手を握る。
指輪が、青く脈打つ。
「君は――今も、俺を信じてくれるか?」
真剣すぎる瞳に、セラは胸がドキッと跳ねた。
この一言が、彼にとってどれほど重い意味を持つのか理解できたから。
セラはゆっくりと首を縦に振る。
「信じるよ。どんなことがあっても」
瞬間、ユリウスは安堵したように目を細め、
緊張がほどけたように、セラをそっと抱き寄せた。
肩と肩が触れ合い、鼓動が重なる。
耳元で囁く声が、危険なくらい甘い。
「……ありがとう。
セラがいてくれるなら、もう大丈夫だ」
その抱擁は短いものだったが、ふたりの指輪の光だけが、いつまでも残るように揺れていた。




