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巻き戻った悪役令息の被ってた猫  作者: いいはな


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 アーノルドのよく分からない話を聞いて考えて考えて、何だかよく分からなくなってしまったルイはアーノルドにまずそこを聞いた。

 内心、自分の質問にそこじゃないだろと自分で突っ込みながら恐る恐るアーノルドの様子を見る。

 ルイの質問にパチクリと目を瞬かせるアーノルドにルイは先ほどまでの苦悩を忘れ、思わず訝しげな視線を投げかける。彼の態度がどう考えても恋心を言い当てられた場合の反応ではなかったためである。

「うー、ん?好き……ではあるけど。」

 何とも煮え切らない答えにヤキモキしたルイがその先を急かすように見つめる。アーノルドはその視線を受けながら少し困ったように考え込んだ後、なんともまごまごともたつきながら話を続ける。

「何と言うか、キスしたい、とか、そう言う好きじゃなくて……ペットみたいな……?」

「ペットみたいな!?」

 言うに事欠いてルイのことをペットのようだと言い始めたアーノルドに思わず素っ頓狂を声を上げながら彼の肩をガシリとルイは掴む。

「アーノルドは、ペットを虐め倒して軟禁するの!?」

 まだ好きだと言われた方がマシである。誰が、好きな人(愛玩的な意味合いで)だと気づけると言うのか。

 ガクガクと強くルイから肩を揺さぶられながら、うーんとマイペースに唸っていたアーノルドは、どうどうとルイを落ち着かせながら、ルイにとってから言い訳にしか聞こえない弁明を始める。

「ああ、いや、好きではあると思うよ?多分、俺はルイとキスもできるし、抱けって言われたら普通に抱けると思う。でも、別に好き好んでルイとそういったことをしたいとは思わないというか……。分かるかな?」

「抱っ……!?分かるわけないでしょ!」

 分かってたまるか!と叫びながら、モヤモヤと一つ疑問が湧いてくる。アーノルドの言葉をまるっと信じれば、ルイのことを恋愛的な意味で好きではないらしい。ルイは全く信じることができないが。

 とにかく、アーノルドがルイのことを好きではないとしたら、なぜルイは今足首に鎖を繋がれて外の情報を全てシャットダウンされているのか。

 本格的に頭が痛くなり出したような気がして、額に手を当てるようにして、ルイは力無くアーノルドへと疑問をぶつけた。

「じゃ、何で僕にそんな執着してるの?婚約破棄をしてきたのはそっちだし、ミカエルと話してたことが何で僕を軟禁しようってなったのか、僕には全くわからない。」

「……婚約破棄したのは、そうしたらルイが俺のこと見てくれるって知ってたからだよ。前回と同じことをしてれば、ルイは俺のことずっと見てくれるって思ってたから。」

 淀みなくルイの質問に答えるアーノルドは、ちっとも自分の言っていることにルイが理解に苦しんでいることなど知らない。にこにこと何とも気の抜けた笑みを浮かべながら、当たり前のことのように話す彼にルイも何だかそれもそうか……?と考えだしてしまい、慌てて首を振った。

「それと、アレ……ミカエルと話してた時に言ってたでしょ?ルイが俺に断罪されて処刑される必要があるって。だから、卒業パーティーに出られなくして、本来されるはずの断罪がされなかったらまた繰り返すって思ったんだ。」

 またしてもアーノルドはミカエルのことをアレ呼びしたが、ルイがチラリとアーノルドの顔を咎めるように見たため、改めて言い直しながら、またもや常識を語るような声色で説明を続ける。

 なまじ王族であり、生まれた時から人の上に立ってきた立場な人間なだけあって説得力が段違いである。黒を白にすることなど容易いと言われる王族の言葉に、先ほどから気を抜けば納得してしまいそうな自分を必死に引き留めながらルイは話を聞いていた。

 そんなルイを王族然とした顔でにこやかに眺めながら、しかし、先ほどまで確かに光を浮かべていた瞳から全ての光を排除した泥の底よりも暗い瞳をしながら、当然のようにアーノルドはこう言い放った。

「自由に生きるなんて許さない。ルイは俺のものなんだから、素直に俺とまた繰り返して、俺のことだけ見てれば良いんだ。」

 その執着を滲ませる暗い瞳に、ルイはゾッとする。アーノルドは自分が間違っているなどかけらも思っていない。彼の中ではルイが自分の所有物であることは当たり前で常識なのだ。きっと彼にどれほど懇切丁寧に道理を説いて、説得しても、彼は不思議そうな顔をするだけでその主張を覆すことなどできない。そう思ってしまうような瞳であった。

 そうして暗い瞳を弓なりに歪めて美しく微笑みながら、ルイの首元に向かって手を伸ばすアーノルドを静止することもせず呆然と見つめることしかできなかった。

 すり、と首元の傷を撫でられる。

 ビクッと思わずルイの肩が震えてしまうほど冷たいアーノルドの手に確かめられるように何度か傷をなぞるように首に彼の手が這う。ドクン、ドクン、と嫌なリズムを刻む心臓の鼓動がやけにうるさかった。糸が張り詰めたような緊張がルイの中に広がり、ぴくりとでも動いたら優しくルイの首元を撫でているアーノルドの手が食い込んでくるような気がした。

 そんな妄想に囚われ、されるがままに指先一つ動かすこともせずに撫でられていたルイは、すっかりアーノルドのペースに巻き込まれてしまったことに気づいて、悔し紛れに震える口を開いた。

「……普通、好きでも何でもない人にここまで重いものはぶつけないよ。」

「普通……?」

 ルイのその言葉にぴたりとアーノルドの手が止まる。

 どうやらルイの僅かな反抗心から投げかけた言葉がアーノルドの何かの琴線に触れたらしい。今にも首を絞められるんじゃないかと不安に駆られるルイを尻目にアーノルドはどこから遠くを見るような目をして、ルイの言葉を繰り返しているようだった。

 そして、ルイにとっては永遠にも感じられる数秒の沈黙ののち、あっけなくルイの首から離れていったアーノルドの手にそっと安堵したルイは、恐る恐る彼の顔を仰ぎ見て息が止まるかと思った。

「ねえ、ルイ。普通って何?俺は普通じゃないからルイのこと手放したくないって思っちゃいけないの?そもそも、ルイがさっきから言ってる好きってなに?」

 先ほどまで確かに柔らかな笑みを浮かべていたはずの顔から表情という表情が抜け落ちたような顔をしていた。

 さながら能面のようなその顔にルイはひっと口から飛び出しそうな悲鳴を必死に飲み下す。

 そして、必死に今彼から言われたことを噛み砕いて、じわりと汗が滲む手をぎゅっと握って、はくり、と口を動かす。

「……好きっていうのは、その人のそばで一緒に生きて行きたいと思えるものだよ。分かち合うもので、一方的に押し付けるようなものじゃないんだ。好きの形はたくさんあるけど、相手が受け取ってくれないものは好意とは言えないんだよ……。」

「……ふーん。」

「普通って言っちゃったのは、ごめん。僕の常識の押し付けだったと思う。けど、僕はアーノルドからの好きを受け取るつもりはないよ。」

 相変わらず表情が抜け落ちたようなアーノルドを必死に見つめながら、自分の気持ちが伝わるように辿々しくながらもルイは精一杯話す。

 そんなルイの様子に何とも軽薄そうな視線を向けたアーノルドは、ルイの話が終わったと同時くらいにはっと漏れ出たように嘲笑った。

「へえ、ルイってば今恋してるんだ?必死に語ってくれたとこ悪いけど、俺はルイが気持ちを受け取ろうが受け取らなかろうが、知ったことじゃないから。ルイはここで死ぬまで俺と生きていくの。残念だね。ルイの恋は叶わないままだ。」

 うっそりと瞳を歪めて笑みの形を作ったアーノルドにルイは歯噛みする。完璧な笑顔に見えたが、実際にその表情から発せられる声としては平坦で淡々としており、彼にルイの言葉が響いていないことがわかる。

 伝わらない。

 彼には、もう何を言ってもルイの言葉は届かないような気がした。それでも、現状何もできないルイにとってできることといえば、アーノルドとの対話一択である。

 尚も言葉を募ろうとするルイを彼は困ったように見ると、ルイが話を切り出す前に腰掛けていた椅子から立ち上がり、この部屋唯一の出入り口である扉へと向かって歩き出す。

「アーノルド!」

「……悪いけど、まだ公務が残ってるんだ。ちょっと喋りすぎちゃったし、今日はこれでお終い。おやすみ、ルイ。」

 咄嗟に呼び止めるように声をかけたルイの方へと顔を向けることなく、アーノルドは部屋を出ていってしまった。

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