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巻き戻った悪役令息の被ってた猫  作者: いいはな


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 「……ん、ぅ……?」

 わずかな唸り声と共にぼんやりと目を開けたルイは寝起きのぼーっとした頭で状況を確認する。

 はめ殺しの窓からは西陽がさしていて、ふんわりとルイの体には薄いブランケットが掛けられていた。どうやら意味もなくこの部屋を探索した時に見つけた、やけにルイ好みのラインナップの本棚からとった本を読んでいるうちにいつのまにか寝落ちてしまっていたらしい。

 最後の記憶がお昼過ぎであったことから数時間ほど寝てしまっていたことに気づいたルイは、流石に寝過ぎだと思いもそもそと起きあがろうとした。

「〜〜!?」

 その時、視界の端に何かきらきらと輝くものが写り込んだ気がして咄嗟にその方向を見たルイは、声なき悲鳴をあげて思わず手が出そうになった。否、気づいた瞬間にルイの手はそちらに向かってまっすぐ飛び出して行った。

 視線を向けた先には、鮮やかに輝くルビーの瞳をこれでもかと見開き、ついでに瞳孔もかっ開いてルイを見つめるアーノルドの姿があった。

 相手が王族であるとルイの思考にブレーキがかからなかったら、それは見事なストレートが炸裂していたであろうルイの右腕はアーノルドの顔面スレスレで寸止めされていた。

「で、でで、殿下!そんなところで何を!?」

「何って、ルイが気持ちよさそうに寝ていたからつい見惚れてしまって……。」

 顔面スレスレにある拳など視界に入らないとばかりに淡く頬を染めながらそう言うアーノルドは言っていることさえまともであれば、それはたいそうな美青年であった。言っていることがまともであれば、であるが。

「見惚れて!?見惚れている人間の瞳孔はそんなに開かないと思いますけど!?」

「やだなあ、ルイ。見惚れながらルイの寝顔を焼き付けようとしただけだよ。」

「うわあ、怖い!」

 その美青年フェイスのまま、今だに瞳孔を開いてルイを見つめるアーノルドに純粋な恐怖を抱いたルイは衝動のままに叫ぶが、アーノルドはどこ吹く風とばかりな様子であった。

 しばらくワーワーと言い合っていたが、ようやくアーノルドへと聞きたい本来の内容を思い出したルイは、空気を変えるように一つ咳払いをした。

「と、とにかく!ここに来たってことは、説明してくれるんですよね?」

「ん?……ああ、そうだったね。」

 誤魔化すわけでもなく、本当についうっかり忘れていたと言うふうに手のひらに拳をポンと乗せたアーノルドは、右腕を収めてベッドへと腰掛けたルイへとようやく瞳孔の開いていない瞳を向ける。

 

 そして、2人の間には沈黙が流れた。

 一向に口を開かないアーノルドに痺れを切らしたようにじと、と視線を向けると、彼はそんなルイの視線に苦笑いを浮かべながら困ったような笑みを浮かべた。

「うーん、説明といっても、どこから話したものか……ルイが聞きたいことに答えていくってのはどうかな?そっちの方が無駄がないだろう?」

「まあ、それもそうですかね。……じゃあ、まず一つ目。殿下はいつから記憶があるんですか?」

 さっそく気になっていた質問をしたルイに答えることはなく、再び2人の間に何ともいえない沈黙が降りる。

 いい加減ぶちっと切れてはいけないものがキレてしまいそうなルイは、自身へと暗示をかけるように相手は王族だと何度も心の中で唱えながら、絞り出すようにアーノルドを呼んだ。

「殿下??」

「……アーノルド」

「は?」

「アーノルドって呼んでくれたら、質問に答えてあげる。」

 ようやく口を開いたアーノルドがそんなことを条件に出してきた瞬間、ルイの中で人生1番の怒りが湧き上がるが、一周回って何だかめんどくさくなってしまった。

 あれだけ恋焦がれ執着し、巻き戻った後はあの冷め切った瞳でぐちぐちと詰め寄られるのが怖いとすら思っていた相手が、ルイからの呼び方一つでもじもじと三歳児のように指をツンツンと合わせてめんどくさすぎる反応をしている。何だかルイの中でのアーノルドの印象が全て崩れ落ちてしまった。それと同時に相手は王族であるとか、小さくはない確執がある人間だとか、そう言うのも綺麗さっぱり無くなってしまった。

「めんどく……ゴホンッ!いえ、何でも。……あー、じゃあ、アーノルド。いつから記憶があるの?あとこの傷見えてるのも本当なの?」

 心の声がつい漏れ出たりしてしまいながらも、色々と吹っ切れたルイはアーノルドを呼び捨てにして、あまつさえ敬語すら取っ払ってしまった。

 もし彼ら2人が人の目があるかもしれない場所で話していればルイもこんな暴挙に出なかったが、なんせ今はルイは王宮らしきところに軟禁されていて、目の前にはアーノルドしかいない。ルイが今アーノルドに向かって不敬丸出しの話し方をしたとしても、第三王子を呼び捨てにしても誰も何も言わない。

 そんな異常で、倫理的に問題のある空間がなぜだかこの2人の関係を良い方向へと変えた。本当に何故かはわからないが。

 ルイに呼び捨てにされ、砕けた口調で話しかけられたアーノルドは瞳をキラキラと輝かせ、喜色で頬を赤く染めながら嬉しそうに口を開く。

「うん!はっきり見えてるよ、ルイの首の傷。似合ってるね。記憶は、ちょうどこの学園に入学したぐらいからあったかな。」

 首の傷が何で見えてるのだとか、似合ってるって何だとか、僕よりも先に記憶があったのに何であんな仕打ちをしたんだとか、色々ルイの中で引っかかるところはあれど、とりあえず最後まで彼の話を聞くべく、無言を貫き話の先を促すように耳彼の話にを傾ける。

 そんなルイの葛藤など知る由もないアーノルドは、記憶を巡らせるようにしてゆっくりと話し出した。彼の話をざっくりとまとめるとこうであった。

 どうやらアーノルドが記憶を取り戻したのはミカエルと同時期。この学園に入学したことをきっかけに前の記憶を取り戻したと言う。それからアーノルドはミカエルやルイとは違い、前回と同じような行動を取り続けていたらしい。

 しかし、ちょうど一年前、婚約破棄をしたルイが自分に執着して執拗に付き纏ってくるはずなのに、パタリと音沙汰が無くなった。それと同時にミカエルへの嫌がらせもなりを潜めたため不思議に思い調べてみたところ、ルイが留学生と仲良くしており、しかも、見たことがない顔で笑っていた。アーノルドはそれはもう慌てたそうだ。何とか前と同じような展開に持っていくべく、わざとルイの前に姿を現しながらそれとなくルイを1人にするために画策したが、そのどれもが失敗に終わり歯噛みしていた。そんな時、コソコソと校舎裏へと向かっていくミカエルを怪しく思いこっそりと後をつけたところ、ルイとミカエルが繰り返しを終わらせるための作戦を練っているのを聞いてしまった。繰り返しを終わらせられると都合が悪いアーノルドはその話を聞いていて、いてもたってもいられなくなってつい衝動的にルイをここに連れてきてしまったのだと言う。

 何とかアーノルドの話を噛み砕きながら、そこまで聞いたルイは、頭痛が痛いと言い出してしまいそうな顔をしながら頭を抱える。

 ツッコミどころが多すぎて、逆に何も言うべきことなんてないのかもしれないとグルグル目を回しながら、考える。そうして考えて考えて、なんだかよく分からなかくなってしまったルイは、アーノルドによく分からない質問をしてしまった。

「……アーノルド、色々と聞きたいことがあるんだけど、とりあえず一個聞いても良い?」

「うん、もちろん。ルイが知りたいのなら何でも。」

 

「……アーノルドは僕のことが好きなの?」

 言ってしまった直後に、まず聞くことはこれではなかったと再びルイは頭を抱えることになってしまった。

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