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巻き戻った悪役令息の被ってた猫  作者: いいはな


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 あれから時は流れ、約半年が経った。

 あの日、校舎裏で秘密の作戦会議をした彼らは綿密に作戦を練り、それからは一切の関係を断ち切って互いの役割に忠実に日々を過ごしていた。

 良くも悪くもミカエルとルイが共にいるとありもしない噂が流れてしまうし、彼と長い時間を過ごすと悪役令息であるルイの側面が強く出てきてしまい、今回の作戦に支障が出てしまうためである。ルイの主人公でもあり悪役でもあると言う特異な状況を最後まで保つことが今回の作戦の鍵となるため、彼らは作戦を実行するその日までそれまで通りの距離感でいることを選択した。

 相変わらずミカエルはアーノルドにベッタリで、周りをいつも高位貴族たちに囲まれて楽しそうに笑っている。

 ルイも悪名が収まることはなくとも、エミリーとカミルと共に穏やかな日々を過ごしていた。

 そして、卒業パーティーまで残り一ヶ月となったある日。

「それで?いつになったらルイはカミル様と付き合いますの?」

「……ン!?」

 もはや3人の溜まり場となった校舎裏で用事があると言ってどこかへいってしまったカミルをエミリーとルイの2人で待っていた時。

 明日の天気でも聞くような気軽さでそうルイへと問いかけたエミリーに喉にものを詰まらせたような声を出してルイは咳き込んだ。

 息もできなくなるほど咳き込み、流石に見かねたエミリーから背中をさすられながら何とか息を吸ったルイは息も絶え絶えにエミリーに問い返す。

「えっ、と……エミリー、さん?」

「だってあなた方二人ときたら、いつまで経ってもうだうだもじもじ、じれったいったらありませんわ。いい加減どちらかが素直になってくっついてしまえばいいのにと思ったまでですわ。」

 目を見開き、空いた口が塞がらないルイの顔は大層間抜けづらではあったが、自分の顔どころの話ではないルイはポカンとした顔を晒し続ける。

「いや、いやいやいや!待って!」

「別に何も進めていませんわ。」

「いや、そうじゃなくて、違うから!べ、別にカミルのことす、好きとかじゃないから!くっつくも何もそもそも惹かれてないから!!」

 しばしエミリーの言葉を理解することを拒んでいたルイの頭がようやく彼女の言葉の意味を正確に汲み取った瞬間、ルイはそれはもう力強く声を上げた。それはもう大層力強く、腹の底から出した声を。そんなふうに否定すれば逆に怪しく見えてしまうことには残念ながら思い至らなかったが。

「ああ、別にそう言った照れ隠しは必要ありませんわ。見てれば分かりますから。」

「見てれば分かりますから!?!?」

 さっきからエミリーの言ってることが本気で理解できないルイはルイの言葉など聞こえていないかのように話を進めていくエミリーの言葉をそっくりそのまま繰り返してしまう。

 あまりにワーワーとルイが騒ぐものだから、煩わしそうにルイを見るエミリー。その瞳があまりにも雄弁にうるさいと言っている気がして、ルイは混乱のあまりぐるぐると目を回す。

 あれ?僕って一応公爵家の次男なんだけどな?いや、だからって媚びへつらえってわけじゃないんだけど、もう少し何と言うか、こう……手心を加えてくれてもいいんじゃないかな?

 エミリーからの圧が強く、言葉に出すことはせずとも頭の中でそう考えていたルイのことを見抜いたようにエミリーが再び口を開く。常々思うがエミリーはたまに思考を読んでいるのかと思うほどドンピシャなタイミングで話出したりするから、ルイは彼女の前で悪事を考えるようなことはしないと誓っている。まあそもそも、友達といて悪事を考えることができるほどルイは器用な性格でないが。

 少し話が逸れたが、そんなエスパー疑惑のエミリーは口を開くと同時に口出しなどさせないとばかりに話出した。

「では仮に、ルイがカミル様へと好意を抱いていないとして。カミル様は確実にルイへと親愛以上の気持ちを向けていますわ。ルイ、あなただって薄々気づいていたんじゃないこと?カミル様は気のない人とあんな風に近い距離で話すことなどありませんし、四六時中気のない人のことを気にするような人ではありません。」

「うっ……。」

 そうなのである。

 冒頭ではカミルとエミリーと穏やかな日々を送っているなどと宣っていたが、ここ数ヶ月に注目してみると、カミルの様子が変化していた。

 まず、やたらとルイと距離が近くなった。

 一緒に歩いていると時折手がぶつかってしまうほど近い距離にいるし、お昼を食べている時もルイの口についていた食べカスをひょいとカミルがとってそのまま自分の口元に運んで行った時なんかは、思いっきりルイはむせ返ってしまった。

 そして次に、カミルの目が何だかとってもえっちになっていた。

 このえっちだと言う考えはあくまでもルイの主観であり、本当にえっちであるわけではない。

 例えばついこの間カミルとルイおすすめの本を2人で読んでいた時。つい夢中になってべらべらと1人で語ってしまったルイはカミルが退屈していたらどうしようとハッとして、恐る恐る彼の方を見上げた。

 存外近くにあったカミルの顔に驚くと同時に、ん?と突然話をやめたルイに不思議そうに首を傾げるカミルのその瞳とパチリと目が合ったルイの最初の感想が、えっちだ!であった。

 近くで見たカミルの瞳は瞳孔が爬虫類のように縦に長く伸びており、その野生的な雰囲気と相まって大層色気に溢れていた。その上、彼の瞳にはその瞳が蕩けるほど甘く、愛しいと言う気持ちが溢れたように優しげな色を宿してルイのことを見ていた。

 とどのつまり、普段から色気あふれるセクシーな目元がカミルの気持ちによって、何倍にも色気の溢れたものになっていた。

 そういったものに全くと言っていいほど耐性がないルイがそんなカミルの色気の暴力のような瞳を直視してしまったことで、思考回路がショートしてしまった。

 あわ、あわわわわ……!と意味のある言葉を発することができなくなってしまったルイは指を挟む勢いで本を閉じ、カミルのえっちー!と捨て台詞を吐いてその場から逃げ出した。

 後に残ったのは、突然えっちだと言われた混乱からポカンと目を見開くカミルと最初からいて、その一部始終を目撃していた何とも言い難い表情のエミリーのみであった。

 色々と心当たりのあるカミルの変化にルイが全く何も気づかなかったわけではない。

 仮とはいえ公爵令息として育てられ、社交界を生き抜き、人を導く立場に立つことが多い身分である。人から向けられる感情には敏感であったし、カミルがルイに向けているその感情がいささか友情と呼ぶには深すぎるものであったこともルイは理解していた。

 しかし、そこまで分かっていて、頑なにルイがカミルの感情を認めないのも、ルイ自身の気持ちを見ないふりをしているわけは、目の前にいるルイを叱咤激励してきたエミリーにあった。

「……もし、カミルが僕のことを好きだったとしても、付き合うとかカミルの気持ちに応えるってことは僕はしないよ。」

「どうしてですの?お互いに同じ気持ちを抱いているのに、知らないふりをするだなんて貴方らしくないですわよ。」

「……だって、エミリーもカミルのこと好きなんでしょ。」

 疑問形ではなく、断定するようにそう言ったルイに、それまで厳しい表情をしていたエミリーは虚を疲れたように目を丸くする。

「僕とカミルが付き合ったら、エミリーは傷つくでしょ。それで僕から離れていくくらいなら、このままでいい。それに僕は、もう誰も傷つけないって決めてるんだ。だから、今のカミルとの関係を変えるつもりはない。」

 そうきっぱりと言い切ったルイとしばしの間目を丸くして見つめ合っていたエミリーだが、ふっと解けるようにしてその顔に浮かべたものは呆れだった。

 そんな呆れ混ざりのどうしようもなく頑固な幼い子を見るような慈愛の瞳を見たルイはあれ?と思う。この表情は恋敵に向けるものじゃないな?、とも。

「わたくし、カミル様のことなど好きではありませんわ。」

「だから、そういうのは……!」

「確かに、好きだったような時もありますが、今は何とも思っていません。強がりでも遠慮でもなく、本当のことですわ。」

 まっすぐとルイを見つめる瞳に嘘の色はなくて、ルイは混乱する。そんなルイの様子を一瞥した彼女はバサァッと髪をかきあげるとじとっとした不満のこもった湿度の高い視線をルイへと向けた。

 そもそも、わたくしが好きな人と結ばれなかったくらいで傷つくような性格をしているとでも?それに、痴情のもつれ程度であなたから離れるような軽い女だと思われていたなんて、心外ですわ。

 冗談混じりにそう言って、軽く微笑んですらいるエミリーに今度はルイが目をまん丸に開く番であった。


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