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巻き戻った悪役令息の被ってた猫  作者: いいはな


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「「ルイ!」」

 完全にアーノルドとミカエルの姿が見えなくなってから、視線を伏せていたカミルとエミリーは弾かれたようにルイへと近寄る。

「何なんだ、あの王子!こっちが黙ってるからって好き勝手言いやがって!おい、ルイ!オレはあんたのこと迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないからな!」

 そういって、いつにないほど顔を近づけてそう力説してくるカミルにルイは頷くことしかできない。初めて至近距離で見た彼の黄金の瞳の瞳孔が完全にかっぴらいており、それほどまでに彼が怒っていることがわかった。

「だいたい……うお!」

「ちょっとおどきになって、カミル様!」

 なおも言い募ろうとするカミルを押し除けてルイの前へと体を滑り込ませてきたのはエミリーである。かなり大柄なカミルをその細腕一本で無理やり押し除けた彼女もまた怒りで興奮がピークに達していた。

「ルイ!あんな性根の腐ったちょっと偉いだけの男の言うことなんて気にしないことよ!それに、公爵家のルイが私を脅して巻き上げられるたかが知れてるお金なんて、足しにもならないことくらいちょっと考えれば分かるでしょうに!あの考えなしが好き勝手言って!決めましたわ!わたくし、絶対に王族よりも偉くなってあのど腐れ性悪を一発ぶん殴ってやりますわ!!」

「いいぞ、エミリー!あのスカした顔面に思いっきりぶち込んでやれ!」

 そう言ってわーわーと拳を掲げる2人をポカンと見つめるルイ。

 怒りのあまりだんだんと口が悪くなっていく2人に、まだそんなに遠くには行ってないからもしも聞かれたら不敬罪だとか、言ってることがちょっとめちゃくちゃすぎるかもと本来なら2人を宥めなければならないのだが、ルイはだんだんと込み上げてくる笑いを抑えることができなかった。

「……ふっ。ふふ、っは、あはははは!」

 弾けるように笑い声を上げたルイに、怒りで我を忘れていた2人が思わず釘付けになる。

 それまで見てきた控えめに声を上げる笑い方でもなく、綻ぶように笑う笑い方でもない。おかしくてたまらないといった、声を上げて全力で笑う、1人の男の子の笑い方。

「あははっ!は、はあっ、え、エミリーってば、王族よりも偉くなるって、神様にでもなっちゃうの?」

 ヒーヒーと腹を抱えて笑うルイに何故だかこちらまで嬉しくなって、つられたように笑うカミルとエミリー。

「いいですわね、神様。」

「ああ、ルイがそんなに笑ってくれるんならなっても良いな。ついでにあの王子を殴れるんだ、良いことずくめだな。」

 キッパリとそう言い切った2人にさらに笑いが込み上げるルイ。だんだんと涙まで滲んできて、目の前がぼやけてくる。ぽろぽろと溢れてくる涙は笑いのせいでもあったが、笑いだけのせいでは無かった。

 目の前にいるルイに向かって笑いかけてくれる2人はルイが望むなら神様にでもなってアーノルドを殴ってくれるらしい。2人ともむしろルイの被害者として見られていたのに、外から見たら加害者であるらしいルイのために本気で怒って、本気で心配して、本気でルイのことを思ってくれる。

 ああ、僕は良い友達を持ったな。

「ありがとう、カミル、エミリー!」

 そう言って満面の笑みを浮かべたルイにカミルとエミリーは優しく笑って頷いてくれた。







 あの後、すっかり暗くなってしまった周囲の景色にあわてて解散して自宅へと戻ったルイは、帰りが遅かったことをベスに叱られた。小一時間ほど説教を聞かされたが、最後には心底楽しかったという顔をしたルイに良かったですねとベスも笑ってくれた。

 そしてベスへと就寝の挨拶をしてベットへと潜り込んでしばらく。

 ベスが部屋を出ていき、その足音も聞こえなくなるくらいの時間をじっと動かずに布団の中で待っていたルイは、音がしなくなったことを確認すると、もぞもぞと枕元のランプを付けた。

 ふわりと手元が見えるくらいの灯りがついて、ルイは少し緊張した面持ちで小さな紙を広げていく。

 その小さな紙はミカエルがルイの横を通り過ぎる瞬間に渡してきたもので、迷ったものの、結局捨てることもできずに持って帰ってきてしまったものだった。

 彼のあの懇願するような瞳が気になったというのもあるが、先ほどアーノルドにぶつかった時、ルイは2人に出会ったことに驚いて軽くパニックになっていたせいであまり気にならなかったが、後から考えてあれ?となったことが一つあった。

 あの時、アーノルドとミカエルもルイと出会ったことに心底驚いたという表情をしていた。しかし、よくよくその時のことを思い返してみればアーノルドは確かにルイを見て驚いていたが、ミカエルはルイではなく、()()()()()を見て驚いているように思えた。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()に驚いているように。

 そして、これはこう考えることもできる。

 ミカエルはルイがあの曲がり角でアーノルドとぶつかることを()()()()()、と。

 ルイはベスのお説教を聞き流しながら、あの違和感のことを悶々と考えていたのだ。そうして、おそらくミカエルは何かを知っていることを確信した。だからこそ、その手がかりが掴めるのではないかと考え、この小さなメモを捨てることができなかった。

 何が書かれているのかと恐る恐ると開いた紙には、簡潔に一言だけこう書いてあった。

 "校舎裏で"

「校舎裏……。」

 ミカエルの言っている校舎裏とは、ほぼ確実にあの校舎裏である。全ての始まりの場所と言っても良い。アーノルドをミカエルに取られたと嫉妬して彼に当たり散らした場所、校舎内で迷子になったカミルから声をかけられた場所、エミリーから言葉のビンタを喰らった場所。

 苦い思い出も嬉しい思い出も、思えば全てあの場所からはじまったような気がする。

 ミカエルからのメモには一言しか書いていなかったが、おそらく彼はルイとこの場所で再び会おうとしている。

 不安がないと言えば嘘になる。しかし、ミカエル・アーギュストはおそらくルイ・コレットが避けては通れない存在である。

 会おう。会って、話を聞こう。

 そう決意を固めたルイだったが、その日の夜、ルイはあまり良く眠ることができなかった。





 次の日、うっすらと隈をつけたルイにエミリーが悲鳴をあげたり、混乱したカミルが膝枕をしてこようとしたり、小さくはない事件はあったものの、なんとか無事にその日1日は終わった。

 心配そうにこちらを見る2人に隠し事をすることに罪悪感を覚えながらも、今日は早く帰ると言ってその日の放課後は早々に2人と別れた。

 そうして、こっそりとやってきた校舎裏にはルイよりも先にミカエルがいた。

「へえ、本当に来たんだ。」

 そう言ってひょいと腰を上げたミカエルはルイへと対峙する。ルイより身長は低いにも関わらずまるで見下ろされているかのように感じるその視線に、思わず眉が寄りそうになるのを今までに鍛えられた表情筋で何とか耐える。

「……君が呼んだんでしょ。僕は、話をしに来たんだ。」

 そう言って、まっすぐミカエルを見るルイに彼は苛立ったように舌打ちをすると、ボソリと何かを呟く。

「……んで。」

 ミカエルのペリドットの瞳は翳り、輝かんばかりの銀色の髪を無造作にぐちゃぐちゃとかき混ぜる。焦燥感ともどかしさに突き動かされたように様子のおかしくなっていくミカエルをついついルイは心配げに見てしまう。

「え?」

 その様子に気を取られ、かなり近い距離にいたにも関わらずミカエルの呟きを聞き逃してしまったルイは思わず聞き返した。次の瞬間苛立ちが爆発したようにミカエルが叫ぶ。

「何で!!!何でルイがカミルとエミリーといるわけ!!??」

 その言葉にポカンとしたのはルイである。ミカエルが2人の名前を知っていたことにも驚きを感じたが、それ以上にルイが2人といることに何故こんなに怒りを感じているのかがわからない。呆然としているルイを置いてミカエルは耐えきれないとばかりに叫び続ける。

「あああもう!!なんで、なんで!?今までカミルもエミリーも出てきたことなんてなかったのに!ずっとずっと()()()だったのにっ……!なんで、なんで!()()()()のお前と!!」

 なんで、なんでと子どものように地団駄を踏み、髪を振り乱して喚くミカエル。

「悪役令息……?」

 先ほどからミカエルが叫んでいることがこれっぽっちもルイには理解できない。しかし、ミカエルが声を枯らし、泣きながら叫んだ次の言葉にルイは大きく目を見開いて、驚くことになった。

「死にたくない!!もう、おれ、死にたくない……!繰り返しなんて、もう嫌だ……!」

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