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一本食わされたなと飴細工を手にして顔を輝かせるルイとそんな彼を微笑ましそうに見つめるエミリー見て、カミルはそう思う。
先ほどまっすぐにカミルの瞳を見つめながら、これが自分なりの誠意だと話したエミリーの姿に、カミルの中にあったモヤモヤとした気持ちは飛んでいってしまった。
何となくエミリーとルイは似ているのだ。
負けん気が強くて、時々発想がびっくりするほど斜め上の時がある。自分の中で譲れないことがある時は梃子でも動かないほど頑固になるし、自分の過ちをそれはそれは深刻に捉えて、勝手に落ち込んでいってしまう。
勝手に自分で決めつけて、全く彼女のことを見ようとしなかったのはカミルの方であったことに気付かされた。
少しだけ口角を上げて笑ったカミルは、楽しそうな雰囲気を醸し出す2人のそばへと近づいていった。
「おい、エミリー。次はどこいくんだ?」
「え?」
カミルの問いかけにポカンとするエミリーとぱあっと顔を明るくするルイ。そんな対照的な顔をする2人に思わず笑いが込み上げてくるが、何とか飲み下す。
「っ!そうだ!次はエミリーおすすめの場所教えてよ!」
「へえ、それはいいな。オレたちはあんまりここら辺に詳しくないからな。」
勝手に話を進めていくルイとカミルに暫し呆然としていたものの、じわじわと理解が及んできたのか少しだけ震える声で、しかし、嬉しさを隠しきれない様子でエミリーは返事をした。
「ええ……ええ!もちろん、喜んで。」
その後、張り切ったエミリーに連れられて、カミルとルイの2人は城下町をあちこちへと連れ回した。両手に抱えきれないほどの品物をルイへと買い与えたエミリーはカミルからストップがかかって、ようやく一休みすることとなった。
エミリーが景色が綺麗に見えるからとおすすめの場所に連れてきてもらい、腰を下ろしたルイはホッと一息ついた心地になる。学園の授業が終わってから放課後に始まったこの3人での遊びも、夕日が沈みかけるほどの時間が経っていたことに驚いてしまう。
ついつい楽しくてはしゃぎ回っていたが、少しはしたなかったかなとぼんやりと考えるが、カミルとエミリーが少しは仲を深めてくれたようなので、まあ、いいかと思うことにした。
「大丈夫か?ルイ。」
「わたくしったらついついはしゃいでしまって……。ルイ、疲れていませんか?」
ぼんやりとしてしまったルイを心配するように覗き込んでくる2人の過保護っぷりにも少し慣れてきて、思わず苦笑してしまう。
「大丈夫だよ。僕だってそんなにやわじゃないんだし。エミリーも今日は本当にありがとう。おかげですごく楽しかった!」
そう言って満面の笑みで笑ったルイにエミリーとカミルはつられるようにして笑った。
そうしてしばらく、夕日の沈む街並みを眺めながらぽつぽつと会話を交わしていた3人であったが、そろそろ帰ろうと名残惜しい気持ちを残しながら、この場を後にしようとした時。
エミリーがハッとしたようにルイへと向かい合い、小さな箱を渡してきた。
「忘れてしまうところでしたわ!ルイ、迷惑でなければこれを受け取っていただけませんこと?」
反射的に受け取ってしまったルイは、そのまま突き返すこともできずに、ベルベットに包まれたいかにも高級そうな箱を恐る恐る眺める。
「ええと、その……開けてから考えてみてもいい?」
「ええ、もちろん。」
あんまりにも高価そうなものだったら、悪いけどエミリーにちゃんと返そうと意を決して開けた箱の中には、見慣れないアクセサリーが入っていた。トップにはサファイアが輝いており、チェーンの部分は黒く光沢を放つ革でできているそれは、ネックレスのようにも腕輪のようにも見えた。しかし、ネックレスにしては短いし、腕輪にしては少々長すぎる。何よりもチェーンの部分が金属でできていない。思ったよりも高級そうではなかったことに安心しながらも、初めて見る形の装飾品に不思議そうに眺めるルイに気づいたカミルがひょいとルイの手元を覗き込む。
「チョーカーか。」
「ちょーかー?」
「あら、カミル様はご存じなのですね。最近この国にも普及され始めたアクセサリーですわ。首元にネックレスのようにしてつけるものです。」
「へえー!さすがエミリー、オシャレに詳しいねえ。でも、どうしてそれを僕に?」
その問いかけに、少しだけ考えるように逡巡したのち、恐る恐ると言ったように話し出す。
「あの、不快にさせたら申し訳ないのですが……ルイ、あなた無意識かもしれませんけど、よく首元を気にするように触っているみたいだったから。」
そう言ったエミリーの答えに心底驚いたのはルイである。ルイの首元には処刑から巻き戻った日から誰にも見えない傷がある。首元をぐるりと囲うように、まるで首を切るための目印のような傷跡が。毎朝鏡を見るたびに嫌でも目に入るそれを気にしたことがないといえば嘘になるが、まさか他の人に気づかれるほど触っていたとは思いもしなかった。
「時々、掻きむしるような仕草もしていたものですから、少し心配になって……。チョーカーをしていればおそらく触った時に気づくでしょうし、かきむしっても革でできていますから直接皮膚を傷つけることもありませんわ。」
少し早口で言い訳をするかのようにそう言い切ったエミリーはおずおずとルイを見てくる。
その瞳に純粋な心配の気持ちが宿っていることに気づいたルイは泣きそうになってしまった。
「……ありがとう。」
込み上げてくる涙を必死にこらえていたルイは絞り出すようにして感謝を伝えることしかできなかったが、エミリーにはちゃんと伝わったらしい。不安げな表情をふっと緩めると、今度は誤魔化すように話し始める。
「そ、それに、わたくしは常々思っていたのですが、ルイは素材がいいのですから、装飾品次第ではもっと輝くと思いますの!……つけてみてくださる?」
「うん……うん、もちろん!」
そう言っていそいそとチョーカーをつけてみようとするルイだが、慣れないからかなかなか金具を止めることができない。1人で焦っているとすっとルイの後ろに立ったカミルがルイの手元からチョーカーの金具をひょいと取り上げる。
「オレがつけてやる。動くなよ。」
「う、うん。ありがと、カミル。」
そう言ってルイがぴたりと体の動きを止めてから僅か数秒。かちゃんと軽い音を立ててつけられたチョーカーは、まるでずっとルイの首元にあったかのかと思ってしまうほどしっくりときた。
「どう?似合ってる?」
少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにそう2人に尋ねるルイ。
「ええ、とっても。」
「ああ、似合ってる。」
2人がそう言って褒めてくれたことにルイは再び泣きそうなってしまう。
初めて、こんな贈り物をもらった。ルイのことを考えて、ルイのために選んでくれたルイへの贈り物。今までの打算に塗れた公爵令息宛のものや、義務的に婚約者から贈られた感情のこもっていないものではない。
家族からももらったことのない、ルイへの気持ちのこもった贈り物。それがこんなに嬉しいものだなんてルイは知らなかった。
そのまま半日は嬉しさに浸れる心地のルイであったが、ついに日が沈み、あたりが薄暗くなってきたとこで、慌てたように2人から帰ることを促された。
比較的治安が良い場所であるとはいえ、昼と夜では全く違うということを教えられて、少しだけこの時間が終わってしまうことに寂しさを覚えながらも、それを上回るほどの喜びと幸せに溢れた時間であったことに満足して、早足に貴族のいる高級街へと戻ってきた。
ここまでくればひとまずは安心だという2人とそろそろ別れようかと話しながら角を曲がった時、ドンっという音と共に体が後ろに弾かれ、気づいたらストンと尻餅をついていた。どうやら前を見ていなかったルイは誰かとぶつかってしまったらしい。慌てたようにルイを助け起こすカミルにありがたく引っ張り上げてもらったルイは、自分の非を謝罪しようとぶつかってしまった相手を見上げて思わず固まる。
「……コレット公爵令息?」
「……アー、ノルド、殿下」
そこには、ルイを冷たげな視線で見下ろすアーノルドとそんな彼のそばに寄り添うミカエルの姿があった。




