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巻き戻った悪役令息の被ってた猫  作者: いいはな


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新キャラ2人目の登場です!

この世界は男性同士の婚約が可能ではありますが、一応異性も存在しております。

 アーノルドに曲がり角で肩をぶつけられてから2日。今だにルイの気分は晴れず、悶々とした日々を送っていた。

 初めて友達ができたことに浮かれ切ってしまい思い至らなかったが、よくよく考えればルイは何も知らないカミルに頼み込んで友達になってもらったのだ。初めて校舎裏でカミルと出会った時、彼はルイのことを知らないようだった。それはつまり、今ルイが学園でどのような噂をされているか分かっていなかったことを意味する。

 そもそも彼はルイの噂を知っているのだろうか。今だに休み時間の度に人だかりができているから、全く知らないという訳ではないだろうが、カミル本人の口からルイの噂のことは聞いたことが無かった。

 それもまたルイがもんもんとする理由の一つである。カミルがルイのことをどう思っているのかが今になって全くわからなくなってしまった。

 皮肉なことである。カミルを友達にしようと決めた時、カミルの意思など関係ないと思っていたのに。友達になれて、しかもかなり順調に仲を深めることができた途端、彼がどう思っているのか気になって仕方ない。

 もし、カミルが僕のこと嫌ってたらどうしよう。

 本人に確かめるのが1番手っ取り早い方法ではあるのだが、もしも直接カミルから嫌いだと言われて、友達の約束もなかったことになど言われたら立ち直れない自信がある。何せルイは一度期待して裏切られたことがあるので。猫をかぶって心を殺していてあれだけ傷ついたのだ。それなりに素を曝け出している上に二度目ともなれば、多分ルイは耐えられない。ある日突然カミルから嫌いだと言われてしまったら、多分ルイは一年を待たずとして心が死んでしまう。でもルイからカミルに直接聞くのはちょっと勇気が足りない。

 そんなわけでルイはカミルを避け始めてしまった。

 朝は授業ギリギリに教室に滑り込み、昼は彼が囲まれている隙に気配を消して教室を出る。

 何度か追いかけられそうにはなったが、方向音痴を巻くことなどこの学園に2年はいるルイにとっては容易いことだった。そうして避けて避けて、時折カミルから何か言いたげな視線を感じることはあったが、ルイはそれを全て無視した。

 初めて友達ができたルイは、こんな時にどうすればいいかが分からなかった。

 

 そんな日々が続き、今日も今日とてカミルを上手い具合に巻くと、一人で校舎裏へとやってきた。もそもそといつもより味がしない気がする昼食を食べていると、どこかから突然声をかけられた。

「もし、そこの貴方!」

 校舎裏では突然人に話しかけることが流行なのかもしれない。

 例にもれず、ルイはその声に驚いて昼食を落としかける。しかし、3回目ともなるとコツを掴んだように素早く握り締め、落下は免れた。

 ほっと一息つき恐る恐る顔を上げると、目の前には不快なものを見たとばかりに顔を顰めた一人の女生徒が立っていた。緩く巻かれた茶髪に気の強そうな少しくすんだカーネリアンの瞳、ツンと顎を上にあげたそばかすの残る顔。気位の高い猫のような雰囲気を纏うその女生徒は、ルイには見覚えのない顔であった。

「えー……と、僕に何か用ですか?」

「……貴方、ルイ・コレット公爵令息であってますの?」

「え、ええ、そうです。」

「ふーん。貴方が、ねえ……。」

 ルイの問いかけなどまるっきり無視して、言葉を続けた彼女は、まるで品定めをするようにルイの姿を上から下まで睨め付ける。公爵令息としてはあまり受けることのない遠慮のない視線になんだかルイは少しドギマギしてしまう。

 よくよく見ると彼女は至る所に大粒の宝石を使ったアクセサリーをセンスよく身につけており、着ている服も学生として派手すぎることはないが、流行を抑えた華やかな格好をしている。この学園にいる貴族とは少し雰囲気が違うなあとぼんやりとルイが考えていると、満足いくまでルイを見尽くしたのだろう、ふんっと鼻先で笑うと、バカにしたようにルイを見下す。

「50点。」

「……はい?」

「貴方、50点よ。まず、何よその野暮ったい前髪。それに何より、その表情!素材はいいくせに何よ、そんなこの世で1番僕が不幸です……。みたいな顔しちゃって!」

 ポカーンと呆気に取られることしかできないルイの前で彼女の話は止まらない。

「それに服の着こなし方も気に入らないわ。なんでもきちっと着ればいいってもんじゃないのよ。せっかくいい生地を使ったオーダーメイド品のくせに、服が泣いてるわ!それにアクセサリーの一つもつけていないなんて、さぞ自分の顔に自信があるようね!言っておくけど、今の貴方の顔よりよっぽど宝石の方が綺麗だわ!」

「はあ……。」

 彼女の言っていることの三分の一も理解できなかったルイは曖昧にそう返事を濁すことしかできなかった。

 バサァッと髪をかき上げ言いたいことは言ったとばかりに満足げに腕を組んだ彼女は、呆気に取られたルイの顔を見てはっとしたかと思うと、少し気まずそうに咳払いをする。

「……ごめんあそばせ。少々悪い癖がありまして。……まあ、名乗りもせずに申し訳ありません。わたくし、ハートベル男爵家のエミリー・ハートベルと申します。今日は少しコレット公爵令息様にお話がありまして探していたところ、たまたまこちらに座ってらっしゃるのが見えて、お声がけさせていただきましたわ。」

 そう言って淑女のカーテシーをするエミリー。

 ルイはというと話の展開に全くついていけなかったが、彼女の口にしたハートベルという家名に首を傾げる。

 ルイはアーノルドの婚約者であった時からありとあらゆる貴族の家名を叩き込んできたつもりだが、ハートベルという貴族の名前が咄嗟に出てこなかった。しかし、どこか別のところで聞いた名前のような気がして、記憶を辿っていくが、どこで聞いたのかが全く思い出せない。とりあえず、淑女の礼には反射的に猫をかぶる癖がついていたルイはポカンとしていた顔を引き締め、よそ行きの感情を感じさせない淡い笑みをとっさに貼り付ける。

「……ご丁寧にありがとう。知っているようだけど、私はルイ・コレット、貴方が探しているというコレット公爵家の者だ。それで、ハートベル嬢?今日いったいどんなお話があって私を探していたのですか?」

「恐れ多くも申し上げますわ、コレット公爵令息様。この学園の留学生であるカミル・バドゥール様の件について、一つ、お耳に入れていただきたいことがございます。」

「……カミルについて?」

 タイミングがいいのか悪いのか分からないが、今もっとも悩んでいる名前が飛び出してきてルイは戸惑う。そんなルイの表情をチラリと見たエミリーは、先ほどの傍若無人さなどおくびにも出さず、粛々と言葉を続ける。

「はい。貴方様はご存知でしょうか。最近密やかに囁かれているカミル・バドゥール様のよくない噂を。……なんでも、()()ルイ・コレット公爵令息様と手を組んで、殿下から寵愛を受けるミカエル・アーギュストを害そうとしている、という噂でございます。今はまだ根も葉もない噂程度のものではありますが、わたくしはその内誰もが知るような大きな話となるのではと危惧しております。」

 そう告げる彼女の瞳は真摯で、強い光を宿しており、思わずルイは気圧されてしまう。

 カミルがルイと仲良くしていたことで、今までのルイの悪名と合わさってそんな噂ができたのだろう。彼女のいう通り、その噂は遅かれ早かれ学園内で確実に広がっていくはずだ。何せそこそこ名の知れた二人の新しいゴシップだ。常に娯楽を欲している彼らにとっては格好の話題となるだろう。ただの噂と言ってしまえばそれまでだが、貴族の世界で噂は時に真実へと変わってしまう。

 今までルイにだけ何か言われるのは耐えられた。だってルイの噂は、誇張は入ってるとはいえ事実も混じっている。いずれ処刑されてしまうほどのことをやっていたのだ。ある意味自業自得でもあるから、ひそひそと囁いている人たちを見つけても、特に何も言わず放置していた。だが、カミルはダメだ。やってもないことで他国の人間である彼が評価を落とされることなどあってはならない。しかも、ルイのせいで。

「カミル・バドゥール様は遠い国からこちらの国に留学してきたとお話を聞いております。そんな彼の評判が悪くなってしまうのは、由々しき事態であると思っております。……そこで、わたくしは貴方様に彼との交友を改めていただきたく思い、貴方を探していました。」

 そのことを彼女も正確に理解している。他国の人間が自国の貴族によって不当に評価を貶められる。それはこの国にとっても、カミルの国にとっても良いことではない。

 分かっている。ルイだって、そんなこと分かっている。 分かっているからこそ、そこまで正確に理解している彼女が次に何を言うかを容易に想像できてしまい、続きを聞きたくないとルイは耳を塞いでしまいそうになる。

「はっきりと申し上げますわ。ルイ・コレット。これ以上カミル様に関わらないでちょうだい。」

 キッパリと言い切った彼女は、悪名高いとはいえ、あのコレット公爵家に物申したという事実に恐れながらも、怯えてはいなかった。

「貴方の気に触れたのならば、どうぞわたくしへの処罰は如何様にも。何をされようとも、全て、覚悟の上でやって参りました。それに、わたくしの生家は元は平民の成金男爵家ですわ。どんな罰が下っても、痛くも痒くもありません。貴方がカミル様のことを諦めないのであれば、諦めるまで何度でも何度でも、このエミリー・ハートベル、貴方に警告しにきて差し上げますわ。」

 そう言い切って、キリリとカーネリアンの瞳に強い光を宿してルイと視線を合わせた彼女は気高く、そして、心からカミルのことを思っていることが伺えた。

「ああ、お話が長くなってしまいましたね。わたくしが言いたいことはただ一つ。貴方が()()()()だということを少しでも自覚できているのであれば、身の程をわきまえてはいかが?コレット公爵令息様?」

 皮肉をたっぷり交えたその見下すその視線に、多分コレット公爵家の者としてルイは怒り狂うべきだったのだろう。

 コレット公爵家をそこまでコケにするなんて、なんて傲慢な令嬢だろう。何がなんでも彼女には重い罰を与えるべきだ!

 だか、そんな考えも怒りもルイの中には一ミリも浮かんでこなかった。

 あるのは、やっぱり僕に友達はできないんだという諦念と無力感、そして止まることを知らない悲しみだった。

「……」

「……ちょっと、何か言い返してみなさい、よ……!?」

 最後まで反論の一つもなく黙り込んだままのルイに訝しげな視線を向けたエミリーが見たものは、サファイアの瞳からボロボロと大粒の涙を垂れ流すルイの姿だった。

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