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「……以上の罪状により、公爵令息ルイ・コレット。貴様の爵位を剥奪の上、処刑とする。」

「……は?」

 煌びやかなシャンデリアが美しく会場を照らし、人々が腹の中にあらゆる思惑を抱えながら、それでも表向きは努めて穏やかに過ごす社交の場。貴族に生まれたからには教養高くあるべしと通うことが義務付けられている学園での卒業パーティーにて、あのコレット公爵家の令息へと衝撃的な断罪が下された。

 コレット公爵家。

 遡れば建国の時から存在し、王族といえど無闇に扱うことができない貴族の中でも名門中の名門。

 そんな貴族から見ても高嶺の花であるコレット公爵家の次男であるルイ・コレットがその日、謂れのあるような無いような罪状により処刑を言い渡された。

 目の前にはルイに処刑を淡々と告げたこの国の第三王子であるアーノルド殿下とその傍らにそっと寄り添う小柄な男。

「アーノルドさまぁ、僕怖いですう」

 そう言ってぎゅっとアーノルドに腕を絡める。その様子に普段なら食ってかかるものの、今は混乱が勝ってしまい、はくはくと口を動かすことしかできない。

「もう大丈夫だよ、ミカ。もう怖い目に遭うこともないからね。」

 そう言って寄り添っていた男の頭を愛おしげに撫で、砂糖を固めたような甘い声で宥める姿は、先ほどルイに処刑を淡々と告げた男と同一人物とは思えなかった。

 そうしてポカーンとしているしか無かったルイはあれよあれよというまに地下牢へとぶち込まれ、視察で辺境へと行っていた父親と長男の帰りを待たずして断頭台へと連れて行かれた。第一、第二王子もこのことへは無言を貫き、唯一この現状へと発言できる国王も今は病にふせっており、まさに四面楚歌、味方など誰1人いないようなものだった。

 断頭台であらためて告げられた罪状は第三王子の新たな婚約者であり、予知の力に目覚めたミカエル・アーギュストへの殺人未遂である。

「これから国を支えて導いていくであろうミカエル・アーギュストを亡き者にしようとしたことは重罪であり〜……」

 朗々とルイの罪を読み上げていた王子の声をボーっと聞きながら、ここに来てようやくルイはハッとあることに気づく。

 (あれ……?もしかして僕って……殺される?)

「以上が罪状である。そして、ルイ・コレット……いや、今は、ただのルイか。最期に言い残すことは?」

「……」

「……こんな時まで、君はお高く止まってるんだな。」

 そう言った彼の顔には軽蔑と怒りと……少しだけ悲しみを湛えているように見えた。

 が、肝心のルイは先ほどの気づきに静かにパニックになっており、それどころでは無かった。

 (さ、ささ、さいごって……!さいごって言った!!えっ、さいごって、最後?それとも……最期?えっ、本当に?えっ、ど、どうしよ!僕殺されちゃう!?助けてアーノルド殿下!あっ、だめだ、アーノルド殿下に殺されそうになってるんだった!)

 どうしようどうしようと今更焦り始めたルイは、あまりの困惑に最後まで声を出すことはできなかった。

「……もういい。やれ。」

 (えっ、ちょ、まっ……!)

 最期にルイが見たものは、自分の首に向かって振り下ろされるきらりと光る剣とアーノルドのなぜか苦しげな顔だった。
















「痛いのは、嫌です!!!!」

 がばりと毛布を跳ね除けそう叫ぶ。

 え……叫ぶ?

 おかしい、自分はさっき何が何だかわからないうちに首と胴体がスパーンと泣き別れしたはずだ。

 それに周りを見渡してみるとそこは断頭台ではなく、見慣れた公爵家の自室だった。

 ルイの頭は爆発した。

 己の理解の範疇を超えたことを悟ったルイの頭は強制的に思考がシャットダウンされた。今彼の頭で考えることができるのは朝日が眩しいなー、程度のことである。

 よーし、決めた。僕はこれから天気のことだけを考えて生きていく!

 とんでもない方向に思考が飛んでいたが、不意にコンコンとドアをノックする音でハッとする。

「あれ、もう起きてたんですか?おはようございます。坊ちゃんにしては早起きですねー」

 そう言って主人の返事も待たずに入ってきたのは使用人のベス。ルイが小さい頃から兄弟のように育ってきた幼馴染であり、ルイの素を知る数少ない人物である。

「……おはよう、ベス。ところで僕は今日から天気のことだけを考えて生きていこうと思うんだけど、天気のことっていざ考えると難しいものだと思わない?あれ?というか、僕はさっき死んだんだけど、ベスはいつ死んだの?あ、考えて生きていくじゃなくて、考えて死んでいくが正しいのかな?」

「…………ルイ、寝ぼけてるのか、ついに頭がおかしくなったか、とんでもない熱があるか。俺に正直に言ってみて。」

 ベスは基本ルイにはズケズケと遠慮なく接しているが、最低限の主従関係は守っている。それが崩れルイのことを名前で呼び、敬語が無くなるのはとんでもなく怒っている時か、とんでもなくルイのことを心配している時だけである。

「ベス、残念だけど僕は寝ぼけても、頭がおかしくなったわけでも、熱があるわけでもないよ。それより、僕の首は繋がってる?頭だけ取れるようになったりしてないかな。頭をとったら体はどうなるのかな?あ、頭だけの時に食事をしたらどうなるんだろう?気になるなあ。ベス、ちょっと見ていてよ。」

「……医者を……医者を呼んでくる!!」

 バタバタと走り出したベスは普段は音もなく丁寧に開け閉めするルイの部屋の扉をものすごい音を立てて開け放ち、とんでもない音を立てて閉めた。

 誰か!誰かぁ!医者を、医者を呼んで!坊ちゃんが、坊ちゃんが!!!!

 分厚いはずの部屋の扉を貫通して聞こえるくらいの大声を出しながらベスが走り去っていく音が段々遠くなっていく。それもパタパタなどと可愛らしい音ではなくドドドドと地面に穴でも掘っているのかという轟音である。

 そんな地響きと共に走り去っていったベスはコレット公爵家お抱えの医者を俵のように担ぎ地響きと共に戻ってきた。

 かと思うと、テキパキと世話を焼かれベッドへとルイは逆戻りした。何度自分は大丈夫だと繰り返しても聞く耳を持たず、終いには俺が、俺が悪かったんです……なんてルイの手を握りしめながら泣き出したから、仕方なく大人しく寝て過ごすことを約束した。

 朝から騒がしかったルイの自室にようやく静寂が訪れた。

 (ここは、あの世では無かったのかな…)

 ぼんやりと思い返すのは、ベスが珍しく泣きべそをかきながらルイの手を握り、俺が俺がと懺悔?していた時のことだ。ベスの手はあったかくて、とても死人の手とは思えなかった。

 それならば考えられるのは、ベスは生きていて、ルイもなぜか生き返っていて、ここは天国ではなく現実であるということだ。

 ううむとしばらく考え込んでいたが、途中でめんどくさくなってやめる。ルイはもう天気のことだけを考えて生きていくと決めたのだ。天気の話以上に難しい話はもう考えない。きっと夢だったのだ。何もかもがぜーんぶ夢。妙にリアルだったが、きっと夢。明日からまた、いつものようにアーノルド殿下に付きまとうあのミカエルに食ってかかりながら公爵令息のルイ・コレットとして生きていくのである。

 ああ、色々考えていたら喉が渇いたな。

 むくりと体を起こし、ベスが置いていってくれた水差しへと手を伸ばす。

 その時、ふと水差しのガラスに反射した自分の顔に違和感を持った。否、正確にいうと顔より少し下、そう丁度首のあたり……。

 ガバッと布団を跳ね除け、姿見のそばまでの短い距離を足をもつれさせながら進む。普段なら10秒とかからずに辿り着くのに、やけに鏡が遠く思えた。震える体を押さえ込み、そっと鏡に映る自分の姿を見る。

 見慣れた姿だ。さらりと揺れる黒髪にサファイアと称賛される濃い青色の瞳、母親に似ていると言われるが、あまり自分では気に入っていない年齢の割に幼く見える顔立ち。

 その中で一つだけ見慣れないものがあった。

 首元に一本の線が走っている。

 ぐるりと首を囲うように一周しており、まるで鋭い刃物で斬られて、そのまま傷となって残ってしまったような……。

「ゆめ……じゃ、ない……?」

 

とりあえずここまでです!

亀更新にはなりますが、続きを書くつもりはあります。

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