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日記08「教科書の謎③」

「『教科書の謎』……?」


 思わず、僕は首をかしげた。


「どうよ?このネーミングセンス!」


 ドヤ顔で言い放った真司に、すかさず茉莉花が切り込む。


「いや、あんた。捻りゼロの直球じゃん。むしろ凡庸」


 ビシッと斬られて、真司がちょっとだけむくれる。


「……ま、まぁいいじゃねぇか。とにかくだ、その話なんだけどよ。後輩のやつ、普段は学校に教科書置きっぱなんだって。で、テスト期間中だけは家で勉強するために持ち帰ったらしい」


「あるあるだね。特に男子って、教科書ロッカー派多いし」


 僕も頷く。何度かやらかしたことがある。


「私は女子だけど置き派だよ。部活の荷物もあるし、教科書ってマジで重いし」


 茉莉花も同意するように続けた。


 確かに、普段持ち歩かないものって、持っていく習慣がないとつい忘れがちだ。


「でさ、まあ、そこまではよくある話なんだけど……」


 真司は声を潜めて、ニヤッと笑った。


「そっからが面白くてよ。休み時間に友達と笑い話にしてたんだけど、トイレから戻ったら──自分の机の上に、その教科書が置かれてたんだと。しかも、手紙付きで」


「手紙?」


 僕が思わず身を乗り出すと、真司はスマホを取り出し、画像を表示させてテーブルに置いた。


「写真撮らせてもらったんだよ。ほら、これ」


 画面に映っていたのは、柔らかい丸文字で書かれた一文だった。


――『この時間は使わないから、使ってもいいよ。授業が終わったら、そのまま後ろの棚の上に置いておいて』


「……可愛い文字。絶対女の子だよ、これ!」


 エリカが声を弾ませた。


「で、その手紙に宛名とか、教科書に名前とかは?」


 茉莉花が真顔で尋ねると、真司は首を横に振る。


「一切なし。完全に匿名だってさ。でも、謎解き部の話をちょっとしたら、ぜひ相手を見つけてくれって頼まれてさ」


「自分でいうのもなんだけど、得体の知れない部活に任せていいの?」


 僕が冗談めかして言うと、真司はため息をついて肩をすくめる。


「いいも悪いも、頼んできたのは本人だしな。それにさ──どう見ても女子の字じゃん?そいつ、浮かれちゃってさ。『きっと俺に好意のあるシャイな女の子が……!』って。練習にも身が入らなくて困ってんだよ。だから、俺からも頼むわ」


 その言葉を聞いた瞬間、バッと立ち上がるエリカ。


「この、ひらめき探偵エリカに!お任せあれっ!」


 腰に手を当て、どこからか湧いてきたやる気オーラで謎のポーズをキメる。


「……ところで、ひらめき探偵ってなに?」


 茉莉花が遠慮のない顔でツッコんだ。


「今ひらめいたの!普通の探偵じゃつまんないし、私の天才的なひらめきを表すにはこれが最適解だと思って!」


 さっきから自分で天才とか言っちゃうあたり、なんだかんだで憎めない。


 僕は真司に向き直る。


「それで、その後輩に話聞けるかな?さすがにこの情報だけじゃ手がかりにならないし」


「おう、明日の部活終わりに時間作ってもらうように伝えとく。俺も気になるし、一緒に聞くわ」


 と、そこへ茉莉花が少し不満げに口を挟む。


「えー、私も気になるけど……明日、バスケ部の後輩の千紘ちゃんから『ちょっと相談したいことがある』って言われちゃっててさ。部活の後は付き合う予定なんだよね」


「大丈夫、あとでちゃんと茉莉花ちゃんにも共有するから!」


 エリカがニッコリ笑ってフォローする。


「ほんと?仲間はずれにしないでよね?」


 茉莉花がちょっとだけ唇を尖らせる。


「よーしよし、仲間はずれは寂しいもんね~。かわいいなぁ、茉莉花ちゃんは!」


 そう言ってエリカが、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「も、もーうっ、やめてってば!そういうんじゃないし!」


 照れくさそうに言いながらも、茉莉花の顔はほんのり赤い。


 二人がソファの上でじゃれ合いながら揺れるせいで──スカートの中が、ちらっと。


 隣で案の定凝視してた真司の頭を、僕は遠慮なくぺちんと叩いた。


 ふと、じゃれ合っていたエリカがぴたりと動きを止めた。


 くしゃくしゃになったスカートの裾をパンパンと直し、服の乱れをササッと整えると、

 何かを思いついたように、唐突に口を開く。


「でも、これだけでも、結構候補は絞れるよ!」


「……え?」

 唐突すぎる一言に、僕は思わずまばたきする。


「え、それどういうこと?」

 茉莉花も髪を手ぐしで整えながら、ぽかんと聞き返した。


「んー?なんでだっけ?」

 エリカは自分でもよく分かってないようで、首をかしげながら言葉を続ける。


「ま、とにかくね。この教科書の持ち主は、同じ日に、その教室で──同じ授業を受ける子だよ!」


 どやっ、とばかりに胸を張って断言するエリカ。


「……って、それだけでどうしてそこまで分かるんだよ」


 真司のツッコミはもっともだ。

 エリカの口ぶりは自信満々だけど、よく考えると「どうしてそうなる?」という感じは否めない。


 エリカのひらめきは、ロジックをすっ飛ばしている。

 いや、恐らく本人でも意識していな思考の結果の結論なのだろう。


 とはいえ、指摘された通り僕たちは、もう一度スマホに表示された手紙の写真を見直した。


 ――『この時間は使わないから、使ってもいいよ。授業が終わったら、そのまま後ろの棚の上に置いておいて』


 確かに、見ようによってはこれから使うという条件が含まれているような気もする。


「……たしかに。“この時間は使わない”って、普通は“自分もその授業を受ける予定だけど、今回は使わない”って意味だよな」


 僕がぽつりと呟くと、エリカは満足げに頷いた。


「そう! だから、この教科書の持ち主は、その授業に出席するけど、それはその時間じゃないってって可能性が高いと思ったの!」


 言い切ってから、自分でも少し満足げな顔になるエリカ。


 その目が、わずかに輝きを帯びていた。


 

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