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第8話 ダメ王子スパルタ教育を受ける


 バッカラパッカラパッカラ

 街道を三頭の馬が走っていた。早朝すぎて他に誰も居ない。もちろん馬車の一台も見当たらない。ギリギリ夜明け前であるから、朝日がまだ弱く、それでいて影が長く伸びていた。


「は、早くないですか?」


 一番後ろに着いている書記官が一応進言するものの、アルゲオは答えない。何しろこの慰問の日程を組んだのはアルゲオだ。書記官はたまたまアルゲオと同級生だった事で顔が知られていたために抜擢されたに過ぎない。同じ下級貴族の家の出で、家督を継げなかったから平民になったくちだ。だから、たとえ王位継承権が無くなったとはいえ、王族のエドワードの付きそいは大抜擢なのだ。


「モタモタしている暇はないんです。人目が出てくる前にできるだけ移動しなくてはいけないんですから」


 アルゲオの書いた計画書をもちろん読んだ書記官サムエル・ルーデルは黙るしか無かった。何しろアルゲオの書いた計画書に基づき予算を出してもらったのだ。もちろんエドワードにだってサインはしてもらっている。提出したらその日のうちに、と言うよりあっという間に承認がおりて経費がやってきたのだ。サムエルの腰には魔道具の小さなカバンが下げられていて、そこに予算が入っている。もちろん出し入れはサムエルにしか出来ない。出し入れする度に領収書を添えなくてはならない仕組みになっているなんとも恐ろしい魔道具である。


「朝食用にサンドイッチがあります。街道の休憩所で食べますよ」


 アルゲオがそう言うと、エドワードは自然と笑みを浮かべてしまった。何しろ昨夜は王城の仮眠室に泊まったのだ。恐ろしいほど簡素な寝台に、掛布団は一枚だけだった。オマケに朝が早すぎて、食堂が開いていなかった。おかげでほぼ飲まず食わずである。サンドイッチは庶民の食べ物だと思っていたエドワードであるが、実は一度だけマリアンヌに作ってもらったことがある。簡単な作りをしていたが、なんだか美味しかった事だけは覚えている。まぁ、もちろんそのサンドイッチは攻略するためのアイテムだったことは言うまでもなく。ピクニックランチというイベントであったのだったが、今更である。


「昼までに地方都市アゼンバルンに行かなくてはなりません。主要都市ですから、そこで昼食を取りつつ領主に挨拶をします」


 モグモグと、口を動かし続けるエドワードにアルゲオが説明をした。詳しい行程はほぼアルゲオの頭にしか入ってはいないのだ。もちろん、聞けばそこそこエドワードにだって分かるのだが、国の地図がほぼ頭に入っていないため、所要時間も何も分からないエドワードなのであった。それに、アゼンバルンの領主の名前も顔もエドワードは知らない。


「安心してください。先触れは出してあります。アゼンバルンの領主とランチ会食をして経費を浮かせるのが目的ですから」

「先触れなんていつ出したんだ?」


 ようやく口の中の物が無くなったので、エドワードは軽く質問をしてみた。何しろ慰問も何もしてこなかったエドワードである。先触れの出し方なんて当然知らないのだ。


「昨日のうちに手紙を飛ばしてあります。地方都市の領主であれば、女王陛下の息子の息子、つまり孫であるエドワード様とランチとはいえ会食ができるだなんて光栄なことですからね。内容に期待しましょう」


 何故か自信たっぷりなアルゲオであるが、なぜ故アルゲオがそこまで自信たっぷりなのかについては、エドワードもサムエルも、言及しないことに決めたのだった。なんだか面倒くさい気がしたからだ。


「ようこそおいでくださいました」


 お仕着せ姿のエドワードを見て、アゼンバルンの領主は人の良い笑みを浮かべた。領主であるから王位継承権の話ぐらいは耳にしているとは思うが、何よりもエドワードは正真正銘の王子様だ。王族であることに変わりはない。領主邸に王族を招き入れ、会食をすることはステータスとしては最高のものなのだ。


「なかなか良い部屋ですね」


 一応は護衛騎士も兼ねているアルゲオが部屋の中を確認した。地方領主がそんなことをするはずは無いが、エドワードは腐っても王子様で王族なのだ。用心はしなくてはならない。


「会食の前にシャワーを浴びて、こちらの服に着替えて頂きます」


 唯一のカバンの中から取り出されたのはいかにも王子様といった礼服だった。


「え?シャワー浴びなくちゃダメなのか?」


 ずっと馬に乗っていたから、椅子に座りたい気持ちでいっぱいのエドワードは、不満を口にした。


「浴びてください。用意されたものを使用するのも招かれた側のマナーです」


 アルゲオはそう言うと、問答無用でエドワードを脱がしにかかった。上げ膳食わぬはなんとやら、ではないが、用意された部屋をちゃんと使わなくてはならない。第一、ずっと馬に乗っていたのだから、それなりに汗をかいているのだ。マナーとして清潔な状態で会食に望まなくてはならない。なにしろエドワードは腐っても王族で、王子様なのだから。

 エドワードの着替えはアルゲオがクローゼットから持ち出したものだった。新たに作成した訪問着ではないようで、袖を通して鏡で自分の姿を確認した時、何となく見覚えがあるので思い出した。在学中にマリアンヌと誰かのお茶会に参加するときに作った礼服だ。その時のドレスコードに合わせて作ったものだから、さし色に黄色が入っていて、少し派手な作りである。だがしかし、いまさらそんなことを言っても仕方のないことだ。無難な作りの服はほとんど差し押さえられてしっまて、もう手元に残っていないのだから。それでも、少し派手と思われる黄色のさし色ではあるが、王子様らしい風貌のエドワードの金の髪の毛によく似合っているので、これはこれで残してもらって正解だったかもしれない。


「山脈が近いけれど、ここがルクスーク地方じゃないのか?」


 ランチ会談を終え、部屋に戻って窓の外を眺めながらエドワードは尋ねた。領主の住む館からでもはっきりとわかるほどに大きな山脈が見える。たいてい、辺境の地と言ったら巨大な森に面しているか、険しい山脈に面しているかだろう。


「何言っているんです?本当にあなたは」


 エドワードの着替えを手伝いながら、アルゲオはあきれたような声を出した。


「学校で習いましたよね?あれはアミナリ山脈です。隣国まで続く巨大で険しい山脈ですよ。その向こうにルクスーク地方があるんです。街道は山脈を避け海沿いを進むようになっています。その街道を使ったら、たとえ馬でも5日はかかりますね」

「え?それじゃあ話が違うじゃないか。3日でつくと言ったではないか」


 三日と五日では全然違う。何しろ馬に乗りっぱなしでの行程である。馬車に揺られるのと違い、大変体力が消耗されるのだ。


「ですから、本当にあなたという人は、お勉強をしてこなかったのですね」


 エドワードが着ていた礼服を丁寧にたたみ、きっちりとカバンに詰め込んでアルゲオはあきれたように口にした。


「アミナリ山脈にはトンネルがあるんですよ。御存じないんですか?」


 言われてエドワードは必死に記憶を探った。

 一応は学園に通って授業を受けた身だ。黙ってくれてはいるが、サムエルは書記官だから、余計なことを記録されては困る。


「あ、ああ、そういえば習ったな。確か二十年ぐらいかけてトンネルを掘ったんだ。魔道具の開発だけで五年ぐらいかかったんだったな」


 ルクスーク地方は海に面した温暖な気候の暮らしやすい地域だ。作物はよく育つし、海からの恵みもある。もちろん、アミナリ山脈からの山の幸もある。大変暮らしやすい土地なので、山脈によって多少分断されているという理由だけで切り離していい土地ではないのだ。生き物が生きていくうえで最も重要な塩を生産するために、海に面しているということがもっとも重要なのである。そのために国は何十年もかけて巨大なアミナリ山脈に巨大なトンネルを作ったのである。そのおかげで交易と貿易が盛んになったのであった。

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