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第7話 ダメ王子更生計画


「そんなわけで、こちらがあなたの初仕事です」


 午後になり、外国からの親書の返事をかき上げて満足しているエドワードに、アルゲオが一枚の紙をちらつかせながらやってきた。ちなみにエドワードが書いていた親書の返事は、おばあさまである女王陛下の代筆である。高齢で、忙しい女王陛下の代筆ができる王族は限られている。王位継承権を失ったとはいえ、エドワードは女王陛下の息子の息子。そんなことを知らない相手国からすれば、なんともありがたい代筆なのである。


「ええと?孤児院への慰問」


 ごくごく当たり前の仕事である。王族であったのなら、孤児院への慰問何て毎月行ってもいいぐらいの仕事である。なにしろ、国中の孤児院を慰問するのは大変なことなのだ。寄付金と贈与品を送り届け、なおかつ健全な経営がされているか、子どもたちは健康か?などなど、確認することは盛りだくさんなのだ。国から監視の目が行き届いていないと、不幸な子どもたちがさらなる不幸に見舞われてしまうのだ。そんなわけで、王族の誰かが定期的に国中の孤児院を慰問するわけなのだが、へき地、いや、国の端っこ、いや、辺境の地、いや、王都から遠い地域はなかなか行きづらい。なにしろ物資を運ぶ馬車と慰問する王族が乗る馬車、それらを警護する騎士、慰問を確認する書記官など、大人数が移動するとなると日程調整が大変で、そうなると孤児院への給付金より慰問にかかる人件費の方が莫大な金額になってしまうのだ。まあ、そんなわけで、王都から離れた孤児院へは目録をもった書記官と監視の騎士だけで行くことが多くなる。そうなると、そう言った地域の地方領主から不満が出てしまうし、孤児院の健全な経理に支障をきたす。

 そんなわけで、仕事のできるアルゲオは、こんな塩漬け案件をエドワードに持ってきたのである。


「あなた、馬に乗れますよね?」


 エドワードの疑問を放置して、アルゲオが言い放つ。


「も、もちろんだ。成人したお祝いにおばあさまから馬をいただいているからな」


 なんとも余計な情報が入ってはいたが、確認が取れてアルゲオは満足そうに頷いた。何しろ、言質をとったのである。

 ちなみに、国のお祝行事のパレードにおいて、成人男性は正装して馬に乗って参加する決まりがある。だから成人すると、馬が贈られるのである。


「それはよかった。ちょっと厩舎に馬を見に行きましょう」


 そう言ってアルゲオはエドワードをグイグイ引っ張っていってしまった。


「こちらがエドワード様の馬にございます」


 厩舎につくと、馬番が丁寧に挨拶をして、エドワードの愛馬を紹介してくれた。エドワードのお祖母様、つまり女王陛下より賜ったばかりの駿馬である。艶のある栗毛のとても良い馬だ。


「なかなか良い目をした馬ですね」


 アルゲオはさすがは元騎士だからなのか、馬の状態をよく観察して褒めたたえた。もちろん、褒められれば世話係の馬番は嬉しいし、何より馬の機嫌が良くなると言うものだ。


「早速乗ってみましょう」


 王族の馬であるから、何時でも乗れるようにベストな状態にはされている。ただ、困ったことがあった。


「エドワード様の鞍がございません」


 なんとも衝撃的な事実である。つまり、エドワードはお祖母様である女王陛下より馬をプレゼントされてから、ただの一度も乗っていないのである。いや、もしかすると


「すまない。お祖母様から頂いてから、今日初めて厩舎に来た」


 エドワードは素直を己の非を認めるしか無かった。何しろうっかりというレベルで言っていいほどではなく、エドワードは馬の存在を忘れていたのだ。本来なら、王族であれば乗馬なんて趣味の一つとして嗜んでおかなくてはならないものだ。王城の祝い事のパレードしかり、収穫祭の行事しかり、王族の男子は乗馬で参加だ。もちろん収穫祭では狩りをするのである。


「まったく、あなたという人は」


 額に手をやり、アルゲオが深いため息をついた。そこまでとは思っていなかったのだろう。


「ご両親から鞍がプレゼントされるものでは無いのですか?」


 アルゲオが口にした言葉は、エドワードには少し辛かった。


「母上は、俺に興味などない。父上は、母上の言いなりだ」


 ボソリと呟かれた言葉は、まともに受け止めるには少々重たかった。受け流すにはどうかと思われるが、ここにはもう1人馬では無い存在がいるため、アルゲオはあえて聞き流すことにした。


「鞍を貸してください」


 馬番にそう告げると、直ぐに鞍がエドワードの馬に着けられた。よくある形のシンプルなものだ。


「さあ、乗って」


 アルゲオに急かされ、エドワードは馬に乗った。なんとも久しぶりではあるが、王族の嗜みとして乗馬は一通り習っているため、体が覚えているから自然と様になっていた。


「見た目だけは合格ですね」


 そう行ってきたアルゲオは、いつの間にかに馬に乗りエドワードの隣にいた。


「さぉ、腕前を見せてください」


 アルゲオの馬が動き出すと、エドワードの馬もその後をついて行く。王族の住まう離宮よりの庭であるから、人は居ない。馬はいつもここで遊んでいるのか、慣れた足取りで駆けてくれた。エドワードはたた手綱を握っているだけである。


「まぁ、何とかなりそうですね」

「なんとか?」

「書類、見ましたよね?」

「……ああ」

「行先、確認してませんね?」


 アルゲオに凄まれて、エドワードの目が泳いだ。正確には行先の確認はしたが、そこがどこだか分からないだけだ。国の地理を覚えていないだなんて、王族として致命的である。


「ルクスーク」


 ボソリとエドワードが答えた。


「……まさかと思いますが、場所をご存知では無い?」


 エドワードの受け答えでアルゲオは察してしまった。そう、目の前にいるのは王位継承権を剥奪されたダメ王子なのだ。


「国の端っこなんだろう?」


 エドワードが申し訳なさそうに口にした。


「まぁ、当たってはいます。でも、安心して下さい。王都からか南側です。春先のこの季節は王都よりもか暖かいので過ごしやすいです。コートなんていりません。馬車で行くとなると七日から十日ほどかかります。でも、馬なら三日です」


 いや、全く安心できない事を言われてしまった。アルゲオは今のエドワードの乗馬を見て、大丈夫だと判断したのだ。はっきり言って、何を?どこが?である。


「いや、待て、馬なら三日って」


 さすがにエドワードも驚いた。何か、無茶な事をさせられるのだろう。そのくらいは予想していた。していたのだが、まさか王族なのに馬である。


「言いましたよね?あなた今月赤字なんです。マイナスなんですよ。予算。つまりおうちでご飯が食べられないんです。今朝出したお茶、あれば王族の品位のために支給された唯一の嗜好品です。ねぇ?分かります。お茶の缶を渡された時の私の気持ち。飯が食えなくても優雅にティータイムをしろってことですよね?驚きすぎて何も言えませんでしたよ」


 どこにアルゲオの沸点があるのか分からないが、支給されたお茶の缶はアルゲオの沸点を刺激したらしい。


「ですからね。出張してしまえばいいんです。誰もやりたがらない仕事をすればいいんです。特に女性は遠方へは行きたがりませんからね」

「わ、わかった」


 よく分からないが、アルゲオの勢いに押されてエドワードは返事をしておいた。余計なことを口にしたら、どんな説教が帰ってくるのかわかったものでは無い。


「では、私は街で買い物をしてきます。あなたはこのまま乗馬の練習をしておいて下さい」


 そう言い残し、アルゲオは馬に乗ったままいなくなってしまったのだった。後に残されたエドワードは、愛馬と共に王城の庭を散策したのだった。ちなみに愛馬の名前はユンゲルである。名付けはもちろんエドワードのお祖母様である女王陛下である。

 

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