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第11話 ダメ王子倹約家の心得を叩き込まれる


「何故領主が同行するんだ」


 ランチでの会食を終え、身支度を整えるために用意された客間でエドワードはぶつくさと文句を呟いた。確実にここの領主はエドワードが王位継承権を失っていることを知っている。だから、会食の際に時折ニヤついた嫌な笑い方がやたらと目に付いた。なにしろ会食の場に夫人だけではなく、娘と更に親せきの未亡人まで同席させてきたのだ。

 王族の方との会食なので、できる限り場を華やかにしたかった。という言い訳をまともに信じる訳もなく、エドワードは予めアルゲオによって教え込まれた項目を領主に尋ねることに専念し、振られた話題には定型文で返答するに留めた。なにを勘違いしているのかは知らないが、王位継承権がなくともエドワードは王族であり、しかも王太子殿下の息子である。おかしな夢を見ないで頂きたいものだ。

 そして、慰問に何故か領主が付いてきた。というより、先程の会食のメンバーがそのまま、である。豪奢なドレス姿で孤児院を慰問するなんて、どう考えてもナンセンスである。場違い感が否めないのに、領主の夫人も娘も派手な扇で口元を隠しながら談笑をしている。


「まさかとは思いますが、あなたがたも同行するおつもりですか?」


 つかつかと領主ご一行の女性たちに歩み寄り、トゲトゲとした口調で話しかけたのはなんと書記官のサムエルだった。まさか同行人役人ごときにケチをつけられるとは思っていなかったのか、領主の夫人の肩がワナワナと震えているのが見えた。


「あ、あなた、誰に物を言っているのか分かっていらっしゃるの?」


 キンキンと、甲高い声が耳に響く。王城では聞いたこともないのような下品なら声だ。思わずエドワードの眉間にシワがよる。


「は?そちらこそなに様のおつもりで?今回孤児院へは国からの支援物資を届けに来たんです。まかり間違っても施しではありません。まして、あなたがた領主一族からの品でないことは確かです。王族の慰問にそんなケバケバしいドレスで同行するなんてナンセンスもいいところですよ。王族のエドワード様より目立つなんて不敬にも程がある」


 はっきりキッパリとサムエルが口にしたからから、領主の夫人とそのご一行様は何も言い返すことが出来なかった。もちろん、出立の準備をしていた領主館の使用人たちの耳にハッキリと聞こえてしまったのさは言うまでもない。

 その様子をうえから眺める形になってしまったエドワードは、ホッとした顔をしてしまった。そもそもエドワードはああいったケバケバシイ貴族女性に慣れてなどいない。エレシアはとても上品な上流階級のご令嬢たったし、恋人だったマリアンヌはフワフワとした砂糖菓子のような少女だった。


「小金持ちほどあのような振る舞いをするんです。覚えておいてください」


 窓から見えるく派手なドレスの女たちを一瞥してアルゲオは窓を閉めた。


「サムエルが追い払いましたから、これで安心ですね」


 アルゲオのやや圧のある笑顔を向けられて、エドワードは黙って頷くのであった。

 そうして、荷物がたくさん乗せられた馬車に一人乗りで孤児院へと向かったエドワードであったが、前回同様孤児院で目録を読み上げている最中に、領主御一行様がやってきた。サムエルから指摘を受けたからなのか、全員が、なんとも地味な服装だ。まるで礼拝に来たかのような地味さだ。それはそうだろう、孤児院は教会に併設されている。つまり、神のみ前に立つにあたってはそれなりの服装でいる必要があるのだ。

 この孤児院は領主館から近いこともあり、それなりに良い暮らしぶりではあるようだった。ただ、だいぶ取り繕った感が否めない部分もあるあり、書記官であるサムエルがじっくりと記録を確認したのは言うまでもなかった。領主が、何かと横槍を入れようとしてきたけれど、エドワードが子供たちに飴を与えながら名前の確認をしていくうちに、おかしなことが発覚した。

 子供の数が合わない。

 国からの寄贈品は子供の数に合わせて行われる。もちろん、予算もそうだ。子供の数が水増しされているということは、その分の金がどこかに消えていることになる。


「子供が八人ほど足りませんが、どこかで活動でも?」


 わざとらしくアルゲオがシスターに尋ねれば、分かりやすくシスターは俯いた。神に仕える身でありながら、それを見て見ぬふりをしていたのだ。いや、顔を見ればわかる。恩恵を受けていたのだろう。艶のある肌、それに薄化粧だからこそわかる、質の良い化粧品を使っている。


「子どもはこれで全員だ。子どもたち自身がそう言っている」


 エドワードが飴の瓶に蓋をしながらハッキリと答えた。子どもたちは痩せすぎてはいないものの、子どもらしいまるみが足りないように見える。


「帳簿の確認については、王都の方で領主館のものと合わせて審査が入ります。理由はお分かりですよね?」


 サムエルがいかにも国の役人らしい顔をして冷酷に告れば、シスターの一人がわかりやすいぐらいに顔を青くしていた。そうして領主が口にしたのは会食に同席していた未亡人の名前だった。どうやら件の未亡人が領主館に出戻り出来なかったため、教会に住んでいたらしく、自分の派手な暮らしのために領主から寄付金を多く出させ、辻褄を合わせるために子ども数を増やしていたらしい。口止めにシスターたちに高価な化粧品や貴金属を渡していたようだ。女はいくつになっても、どのような状況にあってもその手の欲が抑えられないようだ。今更ながら思い知らされたエドワードなのであった。

 自分の悪事がバレないように同行しようとしていた未亡人は、ひろばでムチ打ちに処された後に山奥の修道院に送られた。二度と世間に顔を見せることは無い。平謝りをする領主であるが、疑いはその夫人たちへも向けられているため、無罪放免となるかどうかはエドワードには分からない事なのであった。


「こちらの孤児院がルクスーク地方最後の孤児院になります」


 若干顔色の悪い領主がサムエルの後を着いてくる。流石にこちらの孤児院には何もなかったようで、最初の孤児院同様に滞りなく慰問が終了した。子どもたちに配った飴は、その都度孤児院に置いてきていた。砂糖をたくさん使う飴は贅沢品だ。だから特別な時に食べるよう神父が管理することになっている。


「エドワード様の慰問が終了しましたので、こちらの馬車を領主に下賜致します」


 それを聞いた途端、領主の顔色がわかりやすいぐらいに良くなった。いや、ハリツヤまで蘇った。突然のことにエドワードは驚きすぎて棒立ちである。


(え?馬車で帰らないのか?)


 心の声を何とか押しとどめ、目線だけでアルゲオを確認する。アルゲオはさも当然という顔をして、どこからともなく目録を取り出した。


「たくさんの荷物を積むために、座席が取り払われています。あなたがた使いやすいように手直ししてくださいね」


 そう言ってにっこりと微笑むアルゲオから目録を渡されたエドワードは、かしこまって領主に目録を手渡した。領主は畏まって目録を受け取ると、満面の笑みを浮かべた。何しろ王族から馬車が下賜されたのだ。黒塗りでピカピカの立派な馬車だ。


「あ、馬はエドワード様の馬なので、運ぶのはご自身の馬でお願いしますね」


 そういうが早いかアルゲオは馬を外し、さっさと鞍を取り付けた。


「さあ、エドワード様帰還しますよ!」


 アルゲオはそう言うとエドワードを馬に乗せ、自分はさっさと自分の馬に乗り込む。書記官のサムエルも大慌てで馬に飛び乗った。なにしろもう夕方だ。まさか午後に2件も孤児院を回り、ついでに不正を暴くだなんて思ってもいなかったのだ。流石にサムエルはこの街に一泊ぐらいするのだろう。と、思っていただけに動揺が隠しきれていなかった。


「トンネルの入口の街まで急ぎます。馬の足なら夕食の時間に間に合いますから」

「空いてなかったらどうするーつもりなんですか」

「大丈夫です。出る時に予約を入れておきましたから」


 併走する馬の背中でそんなやり取りができるのは、やはり元騎士団所属事務所だからだろう。エドワードはそんな2人の後ろをパッカラパッカラとついて行くのであった。

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