計算高い魔王のカレンダーは汚い
『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
魔王は、月めくりカレンダーの月を、線で何度も囲んだ。
勇者一行が出立したと、側近のハトメから報告があった。彼らの村と、この城までは、人間の足でおよそ9カ月かかる。
この月が、決戦となる。魔王はその日に備え、軍備の増強を決めた。屈強な魔人を雇い、この場で勇者一行をひねりつぶし、魔王の強大さを知らしめる計画を立てた。
勇者一行が村を出て1週間後、ハトメが魔王に報告した。
「勇者が部隊と交戦、全滅いたしました」
魔王は、玉座の肘掛けを握る。
「さすが勇者だ」
「全滅したのは勇者のほうです」
魔王は、玉座から滑り落ちそうになる。
「あの部隊は、出来が悪く左遷した者ばかりのはずだが」
「しかし、これで魔王様に歯向かう者などいなくなるでしょう」
「それでは困る。さっそく死なれては、私の強さが伝わらんではないか。復活させてやれ」
魔王は、戸惑う表情のハトメをにらむ。側近はうなずくと、下がった。
1カ月後、ハトメが魔王に報告した。
「また全滅いたしました。崖から足を滑らせたとのことです」
「何度目だ。魔物で、食中毒で、強盗で。弱すぎないか」
「それが、偵察部隊によると、勇者一行は、10歳の子供ばかりだそうで」
「口減らしのためか。かわいそうに。あのあたりは獣道しかないから、道を整備してやれ」
「しかし、資金はどういたしますか。魔人の雇用にかなり使い込んでおりますが」
「勇者が来なければ、雇用も無駄になるだろうが」
魔王は、ハトメをにらむ。側近は、下がった。
「この調子では、厳しいか」
魔王は部屋に戻ると、丸のついたカレンダーをめくり、次の月に丸をつける。
勇者一行は、遅々として進まなかった。
カレンダーには次々と丸がついていく。魔人への給与で、資金が減っていく。
「給与の削減で、魔人たちが抗議しています」
「こらえろと伝えろ。勇者は、着実に進んでいるのだ」
「大魔王様からもお叱りの声が。資金の浪費に加えて、勇者に利益供与するとは何事かと」
それから3年が経過した。
「魔王! 覚悟しろっ!」
勇者一行が魔王城に乗り込んだ。
城内はもぬけの空だった。資金が尽き、軍が崩壊し、上司の大魔王の怒りを買った魔王は、夜逃げしていた。
魔王の部屋の床には、カレンダーが落ちていた。ホコリまみれのカレンダーには、大きなバツ印がついていた。