第1講 2種類の魔力について
「魔力には二種類存在し、人間や生物が保有し使用できる有機魔力と水や土、大気などの生命が宿っていないものがもつ無機魔力です。」
小さな町ヤコビアンのヤコビアン総合学校で行われている魔法学の教室では、ルベーグ先生が講義している。
「人間や魔物が魔法を使用すると有機魔力は無機魔力に変化しますが、無機魔力から有機魔力には変化しません。また、無機魔力を有機魔力に変化させる魔法は魔法理論学において重要な命題であり未解決問題です。」
「ここまでで質問や疑問はありますか?」
「はい」
私は気になっていることがあったので挙手した。
「ではエミリーさんどうぞ。」
「有機魔力が無機魔力に変化するが、無機魔力は有機魔力に変化しないならば有機魔力はいずれ無くなってしまうと思うのですがーーーーーー。」
「よい気づきですね。実は今の魔法学においてこれが正解という答えはございません。仮説はいくつもありますが、一番有力な説は植物による作用であるというものですね。この説が一番支持されている理由としては食物連鎖の一番下にいる生物であるということからです。人間は食事をすることで魔力を回復します。つまり有機魔力を他の生き物から摂取しているわけです。」
「その説が正しいとしたら、植物が少ない海ではどうなんでしょうか?」
私のとなりに座っているソフィが続けて質問した。
「そうですね、この説は植物が陸の食物連鎖の始まりであることが根拠になっている説なので、海では当てはまりません。つまり、海において食物連鎖の始まりがどこであるかを考えるといいでしょう。エミリーはわかりますか?」
私は少し考える。魚はなにを食べるだろうか。小さなエビとかかな。でもエビはなにを食べているんだろうか。
「わかりません。ちいさなエビとかでしょうか?」
「実は、まだ教えてはいないのですがプランクトンと呼ばれる生き物が海にはいます。小さなエビなどはそのプランクトンを食べているのです。つまり、プランクトンが無機魔力を有機魔力に変えていると考えるのが妥当であると言えます。しかし、これはあくまで仮説であり実験や観察によって証明されているものではありませんので間違えないようにしてください。」
なるほど、確かにこの説が有力視されている理由がよくわかる主張だった。もしこの説が正しいのならエルフや精霊が森に住む理由もよくわかる。そんなことを考えていると授業のチャイムが鳴った。
「今日はここまでですね。明日は、魔力を魔法に変換する仕組みについて学びましょう。実技にうつるまでは座学が多くて退屈な人もいるでしょうが今年は興味を持ってくれている人が多くて私も嬉しいです。では、また明日。」
「また明日」
午前中も終わり。私はお昼を食べに校舎を出て広場に向かった。
「お疲れ、エミリー。お昼は広場で食べるのかい?一緒にどう?」
広場でどこに腰を下ろそうか考えているとソフィが追っかけてきた。
「もちろん。じゃあ、あそこの木陰にしよう。」
私たちは木陰に腰を下ろし弁当を開けた。
「初日から積極的に授業に参加していたね。エミリーは座学が好きなのかな?」
「ソフィこそ。」
多少雑談をしながら、私たちは食事をする。ヤコビアン総合学校の授業は午前中までで授業が終わる。大変素敵である。他の町では夕方までだったりするらしいが私は他の学校はおろかヤコビアンから出たことがないので真偽は定かではない。
「エミリーはこの後どうするの?帰るのかい?」
私は少し考える。図書館に行くのもいいが、学校を探検するのも面白いだろう。この学校にはクラブというものがあるらしくその見学もありかもしれない。
「ソフィはどうするつもり?」
「私は、クラブを見ようかなと考えてるよ。魔法理論を数学的なアプローチで解明しようとしているクラブがあるらしい。」
私は決断した。
「私はソフィについていこうと思う。いいかな?」
「もちろん。エミリーは興味を持つと思ったよ。」
お昼を食べ終わり、私たちはクラブを見て回ることにした。
大まかにクラブを分類するなら、魔法にかかわるクラブと魔法にかかわらないクラブで分かれる。さらに、実技的であるか座学的であるかでわかれる。例えば、剣術を行うクラブは実技的クラブである。魔法を戦闘において扱うことを学ぶ魔術は魔法実技クラブである。というような感じである。ソフィの言っていたクラブは魔法座学クラブにあたるだろうからクラブ活動区画の4号館にあるだろう。
「とりあえず、1号館から順にいこうか。」
「・・・・・・。そうだね。」
私的には一番興味あるクラブから見たかったのだが、まあ最後にとっておくのもいいだろう。
1号には、実技クラブが入っている。剣術や格闘術などのほかにもサッカーという足を使ってボールをゴールまで運ぶスポーツやラグビーというクラブもあった。見学をしているとサッカークラブに所属している人物がクラブの紹介のために話しかけてきた。
「サッカーやラグビーは転移者と呼ばれる異世界から迷い込んだ人物たちがもたらしたスポーツと呼ばれるものの一種です。2チームにわかれルールにのっとり争う戦術的な要素が強いクラブになっています。残念ながら女性のみのサッカークラブはヤコビアンにはありませんが、興味がおありなら体験していきますか?」
確かに、ただでさえ他の町に比べて少ない学生数であるヤコビアンでは女性のみのサッカークラブを作るのは難しいだろう。
「いえ、見学だけで結構です。」
私はきっぱりと断った。
次に2号館に向かった。2号館は座学クラブである。絵画や音楽などの芸術的なクラブ。人語学、獣人語学、エルフリアン語学などの言語学クラブ。数学や歴史などのクラブが存在していた。
「興味のあるクラブはあるかい?」
ソフィに私は尋ねた。
「エルフリアン語学と数学かな。」
「じゃあ、その順に回ろう。」
エルフリアン語学クラブに向かうと部員が話かけてきた。
「初めまして。私はエルフリアン語学クラブの副部長であるヨンレストです。見ての通り、私は母がエルフで父が人間のハーフエルフです。エルフリアン語学クラブではエルフリアン語の読み書きや会話をみんなで学びます。古い魔法理論や魔術の専門書はエルフリアンで書かれているものも多く魔法学科も多く在籍しています。」
なるほど、確かに興味深い。クラブの掛け持ちが可能なら是非入りたいと思うプレゼンテーションである。
「初めまして。魔法学科1年のエミリーです。確かに、興味深い活動ですね。ただ他のクラブをまだ見ていないので他のクラブを見てから決めたいのです。」
「もちろんです。是非他のクラブも見学していってください。どこのクラブも勢力的に活動していますので、楽しい見学になると思いますよ。」
続いて数学クラブに足を運んだ。女性が声をかけてきた。
「初めまして。私はススリン。数学は好き?」
「ソフィです。私は数学割と好きです。」
「エミリーです。私も好きです。」
「でも魔法学科ってことは、クラブの本命は魔法数理学クラブでしょ?」
「・・・・・・そうです。」
二人同時に答えた。
「なら安心して。うちは、掛け持ちオッケー。というよりは魔法数理学は数学を基盤にしているから、魔法数理学クラブいくなら、入って損しないよ。」
「それは素敵ですね。魔法数理学クラブに入った暁にはそうさせてもらいます。」
「私もそうさせていただきます。」
「是非そうしてくれ。」
こうして私たちは2号館をあとにした。いよいよ魔法系のクラブを訪ねることにしよう。魔法学科の先輩たちのほとんどは魔法系のクラブに所属しているから少し緊張するな。
そして、私たちは3号館に向かった。
「それでは、魔術による肉体強化を用いた剣術の模擬戦を行います!はじめ!」
3号館につくといきなり魔法剣術クラブの模擬戦が始まった。