その95 友からの励まし
二位でアレクの名前が呼ばれたことで、会場が大騒ぎになった。
何かの間違いだ!
ふざけるな草薙!
そんな乱暴な声も多い。
流石に草薙が可哀想になってきた。
『僕だってびっくりしてるんですよぅ。そんな酷いこと言わないでくださいよぅ……』
しょぼん、と落ち込んだ演技をした草薙だが、実際は何とも思っていない様子。
えへへっと頭の後ろをかいて、何事もなかったかのように進行を続ける。
なかなかの強メンタルだ。草薙を侮っていた。
「まさか、一位通過者が白竜先輩じゃないなんてね」
「なに、これもまた一興だ」
まるでこの結果がわかっていたかのように呟いたが、俺だって驚いている。
だが、ここはあえて平然とすることこそ、俺のこだわっている「かっこよさそう」な表現だ。
『でもでも、一位だって有名人! 一次試験、一位、発表しちゃいますよ~』
アレクに当たっていた光が消え、草薙の声に全生徒が注目する。
アレクは最後まで余裕の微笑みを見せていた。
これにはファンの女子生徒諸君も大喜びだ。発狂している奴もいた。
『合計得点、四百六十七点!』
どよめき。
『――〈2-C〉クラス、みんな大好き生徒会長、八乙女アリア!!』
『きゃぁぁぁぁぁあああああ』
『アリアしぇんぱーーーーい!』
『愛してまぁぁぁあああす!』
一次予選、首位は生徒会長。
アレクに勝つほどの実力者は、彼女でなくてはならない。
ここで今までモブだった初登場キャラクターに出てこられても困るのだ。
『オスカー様、ここにいたのです』
「クルリンか」
〈闘技場ネオ〉が最高に盛り上がっているところで、小さな少女がやってきた。
「やっとみつけたのです。方角にがてなのです」
クルリンの隣には、ミクリンとセレナがいた。
二人ともかなり疲れた様子だ。上位成績者の発表を楽しんでいる感じもない。
「オスカー様、グレイソン様、あたち、ゴーレム二体たおしたのです!」
「ちゃんと見ていたよ。その短剣を上手く使いこなせていた」
グレイソンが柔らかくフォローする。
短剣を使いこなせていたかは別として、先ほどのクルリンの戦いは、彼女自身にとって大きな意味があったはずだ。結果は芳しくないものの、挑戦できたことに収穫がある。
「いずれその短剣も、伝説の短剣として世界に名を刻むだろう」
「ふわぁ。これ、クルリン・タガーっていうのです!」
「ああ、それはもう聞いた。自分の名を武器につけるなど、何かの伝説の前触れのような気がする」
また嬉しそうに短剣を振り回していたが、今度はあえて注意しなかった。
代わりにミクリンが冷静に対処してくれたからだ。
「クルリン以外は、みんな突破できたみたいですね、一次予選」
「むぅ」
「問題は二次予選だね。また別の形式の戦いになると思うけど……」
「とりあえずは昼休憩だ。その間に酷使した体を休めた方がいい。だろ、セレナ?」
「えっ? 私は……」
セレナはずっと黙っていた。
落ち込んでいるように見えなくもない。
ミクリンの発言を踏まえると、彼女も一次予選を突破しているはずだが、何か納得のいかないことでもあるんだろうか。
「どうした? 浮かない顔だぞ」
「別に……」
「一次予選が終わってから、ずっとこんな感じなんです」
答えてくれないセレナ。
ミクリンはこそっと俺に耳打ちしてきた。
まあ、全員に聞こえていただろうが。
「ただ、生徒会長が……」
「アリアか?」
「――ッ。そう……ただ、生徒会長、やっぱり凄いんだな、って……」
八乙女アリアが凄いのは当然だ。
二年生の圧倒的トップなのだから。
それに、生まれ持った魔眼だってある。
だが、そんなことで落ち込むな、とは言えなかった。
それでセレナが塞ぎ込んでいるのなら、「そんなこと」ではない。生徒会長という存在が、セレナの中でどういう立ち位置なのかは推し量ることなどできない。
「確かに生徒会長は凄いけど、まだ一次予選だから大丈夫だよ。それに、勇者は単に敵を倒せるだけじゃない。他にも必要な力はたくさんあるからね」
「グレイソン君……」
「セレナさんの戦いは見事でしたよ。あの腕力は神能の影響ですか?」
「うん……ありがと」
ミクリンの質問に答えてはいないが、セレナは少しだけ笑顔になった。
俺が何か言わなくても、彼女にはグレイソンやミクリンといった友達がいる。ひとりで抱え込む必要はないのだ。
「むぅ。けっこうセレナっちもチョロいのです」
「あんたに言われたくないんだけど」
「調子が戻ってきたな。それでこそセレナだ」
「ちょっと!」
セレナは怒っていない。
むしろ、元気になった。
「一次予選は自分との勝負だ。ゴーレムと戦う際の集中力、確実に勝てるゴーレムを選ぶ判断力――グレイソンも言ったが、勇者には様々な能力が必要だ」
「みんな、ありがと。二次予選も、頑張ろ」
グレイソンも、ミクリンも、慈悲深い微笑みをセレナに向けた。
そして、クルリンは――。
「むぅ。あたちはどうすればいいのですー?」
――クルリン・タガーを再び解放していた。




