その92 無難な戦い方
一次予選で待ち受けている刺客とは、ゴーレムのことだった。
それなりに上級の魔術師しか生み出すことのできない、術者に忠実な人形。
術者が望めば、忠実な召使いにも、護衛にも、暗殺者にもなれる。
この戦場全体にどれだけのゴーレムが配置されているのかはわからない。だが、見渡す限り抜け目なく待ち構えているため、相手に困ることはなさそうだった。
体長は三М程度の個体から、五М前後といったところか。
ゴーレム達の胸の部分には、大きく数字が刻まれている。
三点や十点の個体が多い中、俺の視線の右端に五十という数字を誇る個体がいた。きっとこれは倒して得られる得点のこと。一次予選では、その高さを競う。
自分達より遥かに巨大な刺客に怯え、悲鳴に似たような声を上げる生徒も続出した。足がすくんで動けそうにない奴や、閉じてしまった待機室への扉を泣きながら叩く奴。
――勇者を目指すのであれば、勇敢であれ。
そう諭してやりたいところだが、正直、俺もかなり警戒している。
ゴーレムと戦うのは初めてだ。
まずは目の前の三点ゴーレムで感覚を掴むか。
アレクはすでに俺の視界から外れている。建物を飛び移って反対側の狩り放題のところに行ったのかもしれない。
三点ゴーレムと見つめ合う。
とはいえ、相手の不気味に光る目には、まだ敵意を感じない。まったく攻撃してこないのを見ると、出された命令はおそらく、攻撃されたら攻撃し返す、といった感じではなかろうか。
(試してみるか)
三点ゴーレムに近づき、デコピンをする要領で人差し指を弾く。
そこから生じた空気の波動は、可哀想な三点ゴーレムを粉々に粉砕し、ただの石ころに変えた。
これで三点獲得。
審査員が記録しているはずだ。観客席の生徒達だけでなく、教師陣の遠慮ない視線も多く感じる。
三点ゴーレムは石でできたストーンゴーレムだった。ストーンゴーレムはゴーレムの中でも一般的で弱い部類だが、剣で両断するのは難しい。だから常識的な攻略法は強烈な打撃を繰り出すことだ。
近くで戦っている一年の生徒は、その基本的性質も知らないのか、何度も剣で斬りつけて終わりのない戦いに身を投じていた。
彼はおそらく、脱落するだろう。
次に俺が相手取るのは、土でできたクレイゴーレム。
これもまた三点。
今度は打撃に強く、斬撃に弱い。剣を抜き、一瞬で片づける。
これで六点。
何点取れば突破できるかわからないため、できるだけ多くの得点を稼ぐ必要がある。とはいえ、この一次予選は余興に過ぎない。
右端に見える五十ポイントのアイアンゴーレム。そいつを倒せば、間違いなく注目され、期待の一年生ということで二次予選でも注目してもらえるだろう。
強くて大きい敵を倒せれば、それに応じて称賛される。
単なるポイントの優劣でなく、単体でどれだけ膨大なポイントを得たのかが、観客の興味を引くのだ。
東側、つまり反対側から大きな歓声が上がった。
きっとアレクだ。アイアンゴーレムかそれ以上の刺客を華麗に倒したんだろう。
狂信的なファンが多いだけに、その歓声はなかなか終わりを見せず、今も闘技場を震わせている。
(一次予選、ここは無難に)
俺はふっと息を吐いて、剣を握り締めた。
ゆっくりと歩き出し、三点のストーンゴーレムに近づく。
剣の腹で強烈な打撃をお見舞いし、また確実に三点を獲得した。ゴーレムの目から光が消えれば、戦闘不能の意味を持つらしい。
(弱い者を虐げるのは嫌いだが……)
俺は決めた。
この一次予選、三点ゴーレムの打破だけで、百五十ポイント程度稼ぐ。
周囲のペース、全体的な傾向を一通り確認した上で、それだけ取れていれば、上位三十名には余裕で入れそうだと判断した。
方針を固めれば後は簡単だ。
わざわざ駆ける必要もない。一切焦らない。
冷静に歩みを進め、目の前の道を塞ぐ三点ゴーレムを始末する。
どうやら魔術師がリアルタイムでゴーレムを作ってくれているらしい。狩り尽くして困る、なんてことにはならなそうだ。
時には剣の腹で叩き、時には刃で斬り刻む。
銀の線が一本。僅か一瞬で繰り出された斬撃に、ゴーレムも対応できない。所詮は三点ゴーレム。それは当然のこと。
効率良く、最速で敵を穿つ。
開始前から俺に注目していたような視線はともかく、無難に弱いゴーレムを倒していく俺に向けられる新しい視線は少なくなっていった。
――純粋に面白くない。
彼らはもっと、巨大で強いゴーレムと戦う最高の娯楽を見たいのだ。
その需要に、俺は合わない。
だから注目は自然とアレクに集約されていく。
実はまだ彼が本気で戦う姿を見たことがない。
どんな風に戦うのか、どんな神能を持っているのか。確かに気になるが、それは決勝トーナメントのお楽しみ。
俺は俺のこだわりを持って、この勇者祭に臨んでいる。
弱々しく目の前で散るゴーレムを見て、細々と呟いた。
最弱ゴーレムも積もれば山となる、と。




