その79 ロリとイケオジ☆
オスカーとテオが神殿で愉快に会話している裏で。
クルリンは剣術教師の桐生に連れられ、〈闘技場エックス〉の近くにある武器庫に来ていた。
夏休みが明け、一年生の〈剣術〉の授業も本格的な戦闘を想定したものとなってきている。この段階で自分に合った剣を見つけておくことは、今後の授業でしっかり単位を取るための重要事項だ。
わざわざここまで来たのも、クルリンの小ささ故である。
本来なら、授業で使用する〈闘技場ネオ〉の隣に武器庫があるため、ほとんどの生徒はそこから武器を選ぶことが可能だ。しかし、一般的な規格よりも遥かに小さな少女のための、軽く扱いやすい剣はそこにはなかった。
『昼休み、ここの反対側にある〈闘技場エックス〉まで来てくれないか? なにせ、私もこんな事態は初めてだからね』
クルリンは桐生に軽くディスられているような気がしたものの、自分に合った剣を早く見つけなければオスカー達のところに戻れないと思い、素直に従った。
昼休み、人気の少ない〈闘技場エックス〉。
そこに身長百四十CМほどの少女がひとり、ぽつんと立っている。
澄んだ海のように青いショートボブの髪を揺らしながら、桐生を待つ。
『ああ、よく来たね。さっき少し確認してみたら、君に合いそうな剣が何本かあったよ』
生徒だけでは立ち入ることのできない武器庫。
長らく使われていなかったのか、至る所に埃やクモの巣が。
クルリンはぶるっと身震いすると、桐生に手招きされるがまま、武器庫に入った。
「全部短剣ではあるが、君にはこれくらいの長さがちょうどいいのかもしれないな」
桐生が四本の短剣を取り出し、クルリンに見せた。
その中の一本は剣先がカーブした珍しい形状をしている。オスカーの瞳と同じ、光沢を放つ黄金色だ。
他の短剣は眼中になかった。
「――こっ、これなのです!」
即決。
黄金色に惹かれたのか、カーブした美しい外見に何かを感じたのか。
クルリンはその黄金色の短剣を握り、ブンブン振り回した。
非常に危険なことをしているのだが、桐生は動じない。適当に放たれるクルリンの攻撃を、いとも簡単にかわしていく。
動きに法則性がなくとも、体に染み込んだ剣士の勘が、驚くべき芸当を可能にしていた。
それからしばらくして。
クルリンの興奮が収まり、桐生はようやく安堵の溜め息を漏らした。
「剣は人を傷つける凶器になる。次からはむやみに振り回さないように」
「ふわぁ!」
ようやくクルリンは気づいた。
自分がとんでもないことをしてしまったことに。
相手が熟練教師の桐生でなければ、今頃この武器庫は殺人現場に成り果てていたかもしれない。暗い武器庫の中をきょろきょろと見回し、ぺこりと頭を下げる。
「ごっ、ごめんなさいなのです!」
こんな可愛い生き物に「ごめんなさい」されては、誰だって怒る気になれない。可愛さもまた、罪深きものだ。
桐生は孫を見守るような気持ちでクルリンを見ていた。何も変わっていないような彼女も、入学時と比べると大きく成長している。
(この子も、剣術の訓練に真剣に取り組むようになったな)
桐生が見かねて短剣を鞘に収めてやると、クルリンは両腕で大事そうに新たな武器を抱えた。なぜか誇らしげに。
(確か、一ノ瀬グレイソン事件あたりから変わったような……)
――一ノ瀬グレイソン事件。
それはオスカーがグレイソンと決闘し、彼を改心させた一件のことだ。
桐生はそれを「一ノ瀬グレイソン事件」と呼んでいる。
当然、彼はあの決闘を見たわけではない。しかし、オスカーを信頼し、グレイソンを委ねたのは桐生自身だ。
高慢で傲慢だったグレイソンを、たった一日で変えてしまった西園寺オスカー。その後、よくグレイソンの近くにいた若槻双子姉妹も、彼と同様にオスカーを慕うようになっていった。
(また、オスカーか)
気づけばオスカーの内容に思考が飛んでしまい、呆れる桐生。
そう、彼はオスカーの実力が異常であると確信しているものの、まだその証拠を掴めていない。魔王セトの一件も、もしかしてと思いながら、完全な確証は得られないのだ。
本人に聞いても、きっと意味はない。
(だったら――)
――すぐ目の前にいる、一番チョロそうな生徒に聞けばいい。
「少し聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
優しく語りかける桐生。
クルリンが首をこてっと傾げる。
「どうしたのです?」
「小耳に挟んだことがあってね。オスカーが魔王セトを倒した、という噂だ」
「!」
「君はオスカーの友人だろう? 何か知ってるんじゃないか?」
「むぅ。あたちはオスカー様の親友なのです! ただのともだちじゃないのです!」
意外と細かいことを気にする性格なのか、クルリンはぷんぷんだ。
「わかったわかった。君の親友のオスカーのことだが、彼は本当に魔王セトを倒し――」
「モチなのです!」
クルリンは言ってしまった。
腰に手を当て、なぜか自分が誇らしげに。
あまりにあっけないクルリンの返事に、桐生の両目が見開かれる。
「オスカー様は魔王をかんたんにたおしたのです! 最後はまぶしい光で一撃! あたちもみてたのです!」
――眩しい光で一撃。
桐生はこれで確証を得た。
魔王セト討伐の現場に行っていた彼自身も、魔王を穿つその偉大な光を目にしたからだ。
しかし……。
「――君もあの場にいたのか?」
恐ろしい勢いで問い立てる。
「むぅ。ミクリンもグレイソン様も、セレナっちもいたのです。あたちの〈水追跡〉のおかげなのです!」
「あの惨状で……誰にも怪我がなかったことが信じられない」
「オスカー様が全部守ってくれたのです」
どうだと言わんばかりのドヤ顔。
そんなクルリンを前に、桐生は唇を震わせていた。
(魔王セトとの戦いは……全力ではなかったというのか? 仲間を守る余力もあった、と?)
そのまま崩れ落ちる。
「ふわぁ!」
クルリンもそんな桐生を支えようと踏ん張ったが、効果はない。こてんと尻もちをつき、大事に抱えていた短剣を落とす。
「クルリン・タガーが……!」
いつの間にか短剣に名前をつけていたらしい。自分の名前を頭につけただけという、彼女らしい、単純な固有名称だ。
「すまない……少し、動揺したものでね……」
桐生が顔を強張らせながら、頭をかいた。
(オスカー、君は私の想像以上に、脅威なのかもしれないな……)




