その108 初心に返る一回戦
決勝トーナメント。
最初に戦うのは……なんと俺だ。
待ちに待った勇者祭の最終決戦のトップバッターということで、これまでにないほどの歓声だった。
この決勝トーナメントは真剣勝負。
どちらかが戦闘不能になるまで戦いは続く。
反対側の控え室から登場したのは、対戦相手の武田ウィスキー。
三年の男子生徒で、俺より会場からの歓声が大きい。
「お前が一年の西園寺か」
目を細めながら、長めの髪をなびかせて言ってくる武田。
その様子を見るに、俺のことはすでに知っているようだ。
噂の広がり具合はちょうどいい。この勇者祭では、俺が普通の生徒ではないということをこの学園の生徒全員に認知させたいと思っている。
だが、俺が見せるのは単なる強さではない。
――異質さ。
ここで一度、初心に返る。
最近の俺は少し実力を見せすぎていた。
調子に乗っていたわけでもなければ、余裕がなかったわけでもない。
エイダンを倒すこと。
アレクと真剣勝負すること。
優勝して学園長と戦うこと。
簡単に言えば、やりたいことが増えすぎてしまった。
テオやグレイソンといった友の期待に応えようとするあまり、自分の本来のあり方を見失いかけていたのだ。
西園寺オスカーには美学がある。
決して忘れてはならない、この学園生活における最高のシナリオがある。
「まさか、俺が決勝トーナメントに進むとはな」
武田の目の前で、自分でも信じられないというように呟く俺。
この会話は、無論観客席には届かない。
二次予選が終わり、すっかり元に戻った戦場に立つ、俺達二人だけのやりとりだ。
「お前は一体、何者なんだ?」
「俺にもわからない。俺はただ……気付いたらここまで来ていただけだ」
「……」
呆然とした表情で呟きを続ける。
そんな俺を、武田は唖然としながら見ていた。
我ながら完璧な演技だ。
俺が演じているのは、自分の実力に気付いていない、何かを秘めている少年。
「俺は運が良かった。だが……流石にこれ以上は――」
ここで、試合開始の角笛が鳴り響く。
大歓声と共に俺達の真剣勝負が始まった。
我に返った武田が、慌てた様子で剣を抜き、構える。
上等な剣だ。
剣に関しては自分でカスタマイズすることが自由とされている。俺も唯一無二の剣をオーダーメイドしたいところだが、今回の勇者祭ではあえて「いつもの剣」を選んだ。
生徒全員が最初に買わされる、ミスリル製の片手剣である。
俺の剣が刃渡り百CM。武田の剣は明らかに俺のものよりも長い。
「その上等な剣で、俺をどう倒すつもりだ?」
前髪をいい具合に目に流しながら、挑発とも取れる台詞を吐く俺。
武田は驚いたように目を見開き、攻撃を仕掛けてきた。
安定しない足取りを演出し、ちゃっかりその攻撃をかわす。
まだ剣は使っていない。
ただ持っているだけだ。
「――ちっ」
舌打ちを披露し、そのまま一気に間合いを詰めてくる武田。
決勝トーナメントに残っただけはある。
間合いの詰め方に無駄はなく、純粋に美しいと思った。
間合い管理が優れているだけに、パッとしない剣術の腕前が惜しまれる。
不可避の攻撃を、ようやく剣を使って受け止めた。
純粋な剣のスペックは武田の方が上になるだろうが、俺の剣には俺の魔力が込められている。魔力を一切通していないミスリルの二十倍ほどの硬度はあるだろうか。
「――ッ!」
「どうした?」
「……」
つばぜり合いの状況で、またも挑発の言葉を口にする俺と、歯を食いしばって攻撃を通そうとする武田。
観客には、この状況がどう見えているのだろうか。
「悪いが、この勝負、俺はどうしても勝たなくてはならない」
「……なんだよいきなり……」
ここで勝って二回戦に進まなくては、エイダンと直接対決することができない。
俺にとって、この一回戦での目標は、いかにかっこよさそうに勝利を収めるか――ただそれだけ。
「この勇者祭で、俺にはまだ使命が残っているということだ」




