その107 決勝トーナメント表
控え室にて。
俺とグレイソンはアレクの隣で決勝トーナメント表を眺めていた。
他の決勝トーナメント進出者はすでに確認が終わったのか、ここには俺たち三人しかいない。
「まずは一回戦を無難に突破することだね」
そう口にしたのはグレイソンだ。
表情は相変わらず緊張している。
それもそのはず。
グレイソンの一回戦の対戦相手は三年生。俺も同じく三年と戦うことになっている。
俺は生徒会幹部のメンバー以外は警戒する必要がないと思っているが、グレイソンに関しては大きな挑戦だ。
「獅子王や東雲は残らなかったようだな」
「レオン君は惜しかったよ。不運なことにガブリエル君と戦うことになっちゃったからねぇ」
俺の呟きにアレクが反応する。
面識のある一年はグレイソンくらいだ。
期待していた獅子王や東雲は敗退していた。
さすがの獅子王も、ガブリエル相手に勝利することはできなかったらしい。だが、どうしてアレクがそんな情報を持っているのか。
まだ二次予選が終わってから少ししかたっていない。
「まさか、見ていたのか?」
「鋭いね、オスカー君は」
嬉しそうに笑うアレク。
「僕の二次予選はあっという間に終わっちゃったから、ついでにみんなの戦いも把握しておこうと思ったんだ」
「流石だな」
「誉めてくれるなんて、嬉しいね」
とはいえ、俺の戦いまでは見ていなかっただろう。
草薙&綾小路との戦いの最中に第三者の視線は感じなかった。
「僕の戦いも見ていたんですか?」
ここでグレイソンが割り込んでくる。
若干の遠慮は感じるが、相当気になっている様子だ。
「残念ながら間に合わなかったよ。ボクが行った頃には、グレイソン君が帯をゲットしてたからね。どうやってマスター・白鳥に勝ったのかな?」
「運が良かっただけです」
「またまたぁ~、謙遜はいいって」
「神能を使いました」
グレイソンの一言に、アレクがニヤッとする。
当然ながら俺は親友の神能を把握していた。だが、アレクは知らないはずだ。
「魔力を具現化することで剣が伸びたりする神能だね。流石の剣姫も不確定な間合いに対応できずにやられちゃったかぁ」
グレイソンは固まり、俺は思わず笑みをこぼした。
俺をよくストーカーしているアレクだが、それなりに実力のある生徒にも同じようなストーカー行為をしているらしい。
グレイソンの神能も把握していた。
つまり、アレクは俺の秘密も――。
「それで、神道ビズミ君はどうだった?」
ここで、少し声を落とし、真剣な顔になって質問するアレク。
この様子だけ見ると、神道のことをかなり警戒しているようにも感じる。
「彼と戦いになる前に帯を奪ったので――」
「なるほど。んー」
「どうかしたか?」
神道の話題になってから、アレクの様子が少しおかしい。
「いや、なんでもないよ。気にしないでくれたまえ」
そう言われたら余計に気にしてしまう。
だが、アレクはこれ以上神道の話をしたくはなさそうだった。
「ボクは決勝でオスカー君と戦うことになるみたいだね」
話題を変えるため、アレクが切り出す。
その一言で、再びトーナメント表に視線を戻した。
グレイソンは二回戦でアレクと当たることになっている。
決勝トーナメントが純粋な決闘であることを考えれば、グレイソンに勝ち目はない。アレクが勝つ前提で話を進めるのもわかる。
対する俺は、おそらく二回戦でエイダンと戦うことになるだろう。
そして、三回戦ではアリア、もしくはルーナ。
そして最後はアレクだ。
ここで純粋に優勝を目指すのも悪くはないが、せっかくなら「かっこよさそう」なムーブをかましていきたい。
西園寺オスカーという少年の強さは、まだ学園全体に轟いているわけではないのだ。
となると、あらゆる展開の戦いに持ち込み、上手に印象操作することだってできる。
「とはいっても、アリア君は強いからなぁ」
「俺がアリアに負けると思っているのか?」
「どうだろうね。きみと同じように、アリア君もまだ本気を見せていない。きみが決勝に進もうがアリア君が進もうが、ボクとしては油断できないということさ」
アレクの目は闘志に燃えていた。
生徒会副会長としても負けられない戦いなんだろう。その瞳が見据える先は勇者祭の二連覇だった。
***
「あ……」
「……」
「ちょっと、無視しないでよ」
「……」
「後輩君!」
グレイソンとアレクは一回戦がまだ先なので、観客席に上がっていった。
俺は一回戦の準備ということで、外の空気でも吸おうと闘技場から出たわけだが。
そのタイミングでちょうど知り合いと顔を合わせてしまった。
深紅色の短髪に、中性的な顔立ち。
夏休みに会った時よりも少しだけ髪が伸びているようだが、すっきりと爽やかであることに変わりはない。
涼風クレアだ。
夏休みが明けてから、実は一度も学園図書館に足を運んでいない。
純粋に勇者祭の準備やエイダンの一件で忙しかったのが主な理由だ。
だが、しばらく会っていなかったので少し気まずかった。
「なんだ?」
立ち止まり、涼風の方を見る。
俺に見つめられ、涼風が一瞬だけビクッとした。
「いや……その……久しぶり」
照れるように目を伏せながら、そう挨拶される。
「久しぶりだな」
とりあえずそう答えておいた。
この空気が続くのも困るので、一旦控え室に戻ることにしよう。
「後輩君って……凄いんだね」
身を翻そうとしたところで、涼風が言ってきた。
これは……まさに俺の望むようなムーブがかませそうな予感がする。
「一年生なのに……決勝トーナメントに進んじゃうなんて」
「なに、たまたまだ。一回戦敗退がいいところかもしれない」
涼風がどこかおかしそうに笑う。
これまで俺に見せてきた態度とはまったく違った。
「勇者祭が終わればまた図書館にも通うことになるだろう。エリザベスにもよろしく伝えておいてくれ」
「……そっか。そうだよね」
何がそうだよねなのかはわからないが、とりあえずこれで話が終わりそうだ。
「うちはさ――」
と思ったら、まだ何か言いたいことがあるらしい。
「――白竜アレクサンダー様推しだけど……その……後輩君にも、勝ってほしいって思ってるから」
「それは決勝を見据えての激励か?」
「後輩君なら、余裕でしょ」
「面白い。何を根拠に言っているのかはわからないが、涼風が俺の勝利を望むなら――その望みを叶えられるのは、俺だけだ」
この退場の演出に神能を使う必要はない。
ただ静かに、立ち去るだけだ。




