その106 二次予選終了
二次予選が終わった。
終了の合図が会場中に鳴り響き、戦場にいる生徒及び教師の動きが止まる。俺もその中のひとりだ。
草薙が守っていた帯を獲得し、確実に決勝トーナメントに足を運んだ。
そんな俺は今、二次予選で帯を巡って争った綾小路と並んで歩いている。
戦場からの出口は限られているので、向かう先は同じだ。
「今回は完全にオレの負けっす」
「そうか」
「優勝、狙ってるんすか?」
ここで、綾小路が試すようなことを聞いてきた。
俺の覚悟を知りたい、ということだろうか。
それか、俺がアレクに勝てるだけの自信があるのかを確かめたいのか。
「愚問だな。山の頂を目指さない者がどこにいる?」
「言うっすね。もし一年生で優勝することができたら、歴史的快挙っすよ。伝説の勇者達でさえも、一年での勇者祭制覇は成し遂げてないことっすから」
綾小路の口調はどこか俺に期待しているようだった。
実際に一戦交えて、俺の実力を認めたということだろう。今回こうして戦うまでは、俺の実力に関する噂を耳にしていただけに過ぎない。
だが。
互いに向き合い、剣を抜き、力をぶつけ合ったからこそ、彼は本当の意味で知ったのだ。
――西園寺オスカーという生徒の、底知れない実力を。
無意識のうちに笑みがこぼれないよう、気を引き締める。
綾小路ジャクソンもまた、俺の学園生活を盛り上げてくれる主要人物になっていくことだろう。
「伝説の勇者か、面白い。伝説は後世に伝えられていくもの……だが俺は……語り継がれるわけには……いかない」
特に意味のない台詞をそれっぽく呟く。
口ではああ言ったが、せっかくなら後世まで語り継がれたい。
「西園寺オスカー……それはどういう……」
どういう意味なのか聞こうとしたんだろう。
だが、綾小路がその続きを口にすることはなかった。
彼が残した余韻が全ての答えだ。彼は俺を恐れている。自分には理解できない領域にいる存在だと、俺のことを認識し始めているから。
***
「オスカー」
「その顔は……やり遂げたようだな」
観客席に上がり、一次予選を観戦していた席に戻る。
そこにはすでにグレイソンがいた。
当然ながら、その隣には一次予選で敗退したクルリンがちょこんと座っている。くるっとハート形になっているアホ毛はいつも通りだ。
目を輝かせながら、グレイソンと俺に拍手を送ってきた。
「グレイソン様もオスカー様もさすがなのです!」
二次予選にて、戦場の規模は高度な魔術によって拡張され、王都の街が再現されていた。それだけ広い空間の中で繰り広げられる戦いを、観客が肉眼で確認できていたとは思えない。
おそらく、クルリンは俺達が握っている帯を見て、二次予選突破を確信したんだろう。
グレイソンの顔は二次予選を突破したというのに引き締まっていた。もう少し素直に喜んでいてもいいだろうに。
「今回、僕は運が良かった。神道君と戦わずに済んだわけだからね」
「競争相手よりも先に教師を見つけた、ということか。なに、運も実力のうちだ。勝利であることに変わりない」
納得はいっていないようだったが、考えても無駄だとわかっているようで、グレイソンがこれ以上自分の結果について言及することはなかった。
「オスカーくん!」
ここで、他の二次予選参戦者が上がってくる。
まずは背の高いテオが目に入った。
帯は持っていない。
だが、表情は清々しく、やり切ったという顔をしている。
「おれ、兄上と戦ったんだ」
「――ッ」
ここでまさかの一言。
隣のグレイソンも目を見開き、興味を示す。
「まだ兄上には勝てなかった……でも、ちゃんと向き合えたよ」
「そうか。今はまだ届かなくとも、いずれテオの時代が来る。このまま努力を重ねれば、必ず」
「テオ君なら、すぐ勝てるよ」
俺の言葉に続き、グレイソンもテオを激励した。
つい少し前、テオは過去と向き合ったのだ。
あのゴリラと言葉を交わすだけでも怯えていたテオが、剣を交え、戻ってきた。
彼の成長は、今後さらに加速を続けていくだろう。俺はそう確信した。
「先輩方はやっぱり強いですね。というか、特に生徒会長は」
テオの後ろから、皮肉っぽい一言が聞こえる。
すっかりクールダウンしてしまっているミクリンだ。
不運なことに、彼女は生徒会長と同じ教師を狙うことになってしまった。アリアは今大会の優勝候補だ。
ミクリンの隣にはセレナがいる。
開き直ったようなミクリンとは異なり、相当落ち込んでいる様子だ。
セレナの競争相手は生徒会副会長のアレク。
こちらもまた、今大会の優勝候補。
なんと声をかければいいのかわからない。だが、何か声をかけなければ、二人が自信を失ってしまう恐れもあった。
圧倒的な力の前に、何もできなかった屈辱――二人が二次予選でどんな戦いをしたのかは知らないが、そんなところだろう。
だから俺は――。
「俺を見ていろ」
ただそれだけ。
二人に聞こえるよう、はっきりと言った。
黄金色の瞳が、セレナとミクリンの可憐な瞳と共鳴し、輝く。
今の二人に対し、相手は優勝候補だから負けるのも仕方ないと言って、優しく慰めるのは簡単だ。
だが、今こうして二人の目を見て確信した。
セレナとミクリンが俺に求めているのは、そんな気休めの言葉ではない。
――強さだ。
俺は自分が戦っている背中を見せていればいい。それを目に焼きつけることで、彼女達の中にある、強さを追い求める野心は育っていく。
単純だが意味のある台詞を聞いた二人の瞳は、二次予選が始まる前よりも輝いているような気がした。
「あ、いたいたオスカー君。グレイソン君も、ちょうどよかったよ」
ここでいきなり、最強美少年の声。
またまたテオの後ろからひょこっと現れたのは、セレナを容赦なく敗退させた白竜アレクサンダーだ。
「まずは二次予選突破おめでとうと言っておこうかな。それで早速本題に入るけど、決勝トーナメント表が出たから控え室にカモン!」




