その105 兄と弟の決戦☆
『お前はどうして長男のように強くなれない!?』
二次予選。
今大会での最大の宿敵ともいえる兄と対峙して。
弟であるテオの頭の中には父親の怒鳴り声が何度も繰り返し響いていた。
これまでずっと、テオに味方はいなかった。
父親も母親も、そんな両親の道具として期待される兄エイダンでさえも。
テオに寄り添い、温かい声をかけてくれるようなことはなかった。
しかし――。
『僕はキミに協力したい』
『わたしも協力します』
テオの事情を聞き、優しく味方したくれた友人がいる。
『おれは……西園寺くんより強くなりたいっ!』
『面白い答えだ。確かに俺は、天に輝く太陽のような存在。他人と呼ぶにはあまりに眩し過ぎる』
高すぎる目標を示してくれた友人がいる。
もうテオはひとりではない。
仲間の温かさを知ったテオは、エイダンの前に立っても怖気づくことはなかった。魔力を高め、先制攻撃を仕掛けるために全神経を集中している。
「俺様と戦おうってか」
エイダンは悟った。
――今の弟は、以前までとは違う。
目つきが違う。
心構えが違う。
向けてくる敵意が違う。
今回、相手にすらしていなかった弟との勝負に応じたのも、その数多くの変化を実感したからだ。何が彼をここまで変えたのかはわからない。
だが、エイダンの頭の中には、ひとりの人物の顔が思い浮かんでいた。
(西園寺の野郎か……)
オスカーの顔が頭の中に出てきた瞬間、エイダンの中にあった理性が急激に燃え上がる。
大きな体格に合わせた大剣を抜き、地面を蹴った。
予測しやすい単純な攻撃だが、あまりの威力にテオが後退する。
「「――ッ」」
しかし、それは兄に怯える姿ではなかった。
兄を確実に仕留めるための戦略的後退。
完全に自分を倒す気だと気づいたエイダンは、僅かに頬を緩めた。
「おもしれぇ目してんじゃねぇか」
「おれは兄上を倒して、決勝トーナメントに進む」
「調子乗んじゃねぇ!」
心底面白そうに叫び、再び攻撃を繰り出すエイダン。
今度はテオも対応できた。
オスカーとの模擬試合の際に、大量の魔力が込められた攻撃の流し方を習得していたのだ。
しかし、エイダンの攻撃には魔力だけではなくて異常なほどの腕力も上乗せされている。
少し訓練したくらいでは、完全に流し切ることなどできない。
腕に二割ほどのダメージを食らってしまう。
それでも――。
――テオの瞳の奥にある炎が消えることはなかった。
***
「……ッ」
「俺様に勝とうなんて千年はえーんだよ」
「兄上……おれは――」
二人の戦いが終わった時、テオには深い切り傷があった。
そしてエイダンには、立花リックの帯に加え、脇腹の浅い切り傷があった。
両者の実力の差は一目瞭然である。
だが――。
「強くなったじゃねぇか、テオ」
「――ッ」
相変わらず不愛想で強面な表情のまま、エイダンが呟く。
『強くなるしかねぇんだ……俺達は』
あの時――エイダンに救いを求めた時に言われた言葉が蘇る。
天王寺兄弟は強くなるしかなかった。
それを両親に強要され、今日まで生きてきた。
だから、その辛さを理解できる者は、兄しかいなかった。
「おれは……兄上の弟になれたんですか……?」
傷口から血を流しながらも、必死に答えを求めるテオ。
今のテオには、たとえどんな答えが返ってきたとしても、受け入れる覚悟ができていた。
「最初から弟に決まってんだろ、馬鹿が」
エイダンはそれだけ言い残すと、イライラしたような様子で広場を去っていった。




