その104 生徒会幹部の威厳☆
剣術教師の桐生レイヴンは、二方向から同時に繰り出される攻撃を、剣一本で見事に捌いていた。
年を重ねるごとに衰えるどころか熟練度を増していくレイヴンの剣技。
彼と戦うことになった生徒は運が悪い。
東雲ルビーはその中のひとりだった。
剣術に関しては他の生徒よりも秀でていて、そのおかげで二次予選に進むことができていたわけだが、剣聖とも呼ばれていた男と剣を交えるとなると、話が違う。
レイヴンを見つけたのはルビーが最初だった。
気づかれないように背後へ移動し、できるだけ交戦せずに決勝トーナメントへ進むことを目指すも、レイヴンに一瞬で察知されてしまう。
こうして剣を交えることになり、気づけば三年生の競争相手も途中参戦してきたというわけだ。
ルビーとは反対の位置からレイヴンを狙う三年は、細身の男子生徒だった。
経験の差はあれど、剣術の腕自体はさほど変わらないだろうと考えるルビー。
実際、ルビーもその男子生徒も、レイヴンに攻撃を当てることすらできていない。全て防がれ、軽く流されて終わりだ。
「このまま戦いを続けても、私の帯は手に入らないぞ」
挑発するように言い放つレイヴン。
生徒の自尊心を刺激する目的もあったが、純粋な物足りなさから来る自然な発言でもあった。
普段オスカーを相手にすることが多いからか、生徒に求める剣術のレベルが恐ろしいほどに跳ね上がっている。
「――ッ」
ルビーは何も言い返せなかった。
それだけの余裕などないからだ。
息は切れ、すっかり体力を消耗している。
この状態で神能を使ったとしても、不発に終わって負けるのがオチだ。
「あら、少し遅れたみたいね」
ここで、レイヴンの目が細められる。
ルビーと三年の男子生徒の攻撃を弾き、距離を取った。
大人の渋みを感じるレイヴンの瞳には期待の色が映っている。
「ごめんなさいね、その帯、ワタシがもらうわ」
競争相手より遅れた登場になったものの、決して揺らぐことのない余裕を醸し出す美女。
生徒会の幹部にして、今大会の上位が期待されている、月城ルーナの参戦だ。
***
獅子王レオンはブレなかった。
二次予選が始まって早々、自分の標的となった教師の名を大声で叫び、戦場にいる生徒及び教師全員を困惑させたのだ。
自分の標的が誰であるのか。
それを堂々と全員に告知しているわけである。
「哀川ショーンはどこだ! オレがぶっ潰してやるわい!」
レオンが対峙することになっている教師は哀川ショーン。
〈防衛術〉を教えている三十二歳の男性教師だ。
「貴様は阿保か」
「ん?」
大胆なことをやってのけるレオンに対し、頭上から鋭い声が投げられる。
「お、もしやオレのライバルの登場か! はっは! 今のうちにお前をぶっ潰しておくのも悪くない」
「愚かなことを」
屋根の上に立ち、レオンを見下ろすガブリエル。
オスカーを見る時とはまた違う、本気で軽蔑した眼差しを向けていた。
しかし、その裏にはレオンへの関心がある。
(溢れ出る魔力……根拠のない自信というわけでもなさそうだ)
僅かに頬を緩め、ガブリエルが剣を抜いた。
***
王都の観光名所となっている、ボルケー広場。
今回の戦場にも、小規模ではあるが同じような広場が存在していた。
早い段階から広場で生徒を待っていた立花リック。
彼は現在、困った状況に置かれていた。
「……」
「兄上……」
「……」
目の前で起こっている兄弟の対立。
天王寺エイダンと、天王寺テオ。
二人の標的は共にリックだった。
なんと二次予選で、兄弟が直接対決する瞬間が訪れてしまったのだ。
リックはこの二人の事情についてほとんど知らない。しかし、エイダンが生徒会を追放になった一件に、この兄弟事情が関係しているということは把握していた。
(ここは私の出る幕ではなさそうだ)
すっかり本来の目的のことを忘れ、三Mほどの距離を取って睨み合っている天王寺兄弟。
ピリピリとした空気が周囲に充満している。
嵐の前の静けさ。
数秒後には、この広場は炎に包まれ、兄と弟にとって重要な一戦が繰り広げられていることだろう。
ここは教師として、静かに見守ることに決めたのだった。




