その103 剣姫との激戦☆
グレイソンは自分の学級の担任である、白鳥スワンと対峙していた。
王都を模した広大な戦場。
オスカーたちが酒場で戦っている間、スワンは劇場に陣取り、挑戦者を待っていたというわけだ。
最初にスワンを見つけたのはグレイソンだった。
西側からじわじわと捜索範囲を広げていった結果、こうして劇場に辿り着いたのだ。
スワンはすぐにグレイソンの気配に気づき、深く腰掛けていた客席から立ち上がった。
今回ばかりは適当主義を貫き通すわけにもいかない。
勇者祭はゼルトル勇者学園の伝統的な行事だ。
生徒たちの前に立ち塞がる刺客としての役目を与えられたのであれば、教師相応の強さを見せつけなくてはならない。
「一ノ瀬が1番乗りですか。流石ですね」
「手加減はしないでください」
「その意気です。この勇者祭で、私の学級の評価もさらに上がるでしょう」
「僕以外の生徒は誰か知っていますか?」
ここでグレイソンが探りを入れる。
「私の帯を狙う生徒のことですね。把握していますよ」
特に隠すことでもないと言わんばかりに、素直に頷くスワン。
「教えてくださらないんですね」
「……それは……」
「マスター・白鳥?」
スワンの頬を汗が伝う。
グレイソンはわけがわからず首を傾げた。
「もしかして……名前を覚えていないんですか?」
「そ、そんなわけないでしょう! し、神道……」
「神道ビズミ君のことですか? 彼は――」
「もちろん知ってます。自分が受け持つ生徒のフルネームくらい、知っていて当然です!」
グレイソンは慌てふためく様子のスワンを見て、思わず溜め息をついた。
しかし、神道ビズミが競争相手になると知り、穏やかな気分ではいられない。
同じ学級でありながら、一度も話したことのない生徒であるビズミ。
授業で特に目立つようなことはない。
しかし、こうして二次予選に駒を進めてきている。
実力がないわけではないだろう。
圧倒的な実力を誇りながらも、その実力を隠そうとするオスカーのような生徒だっているのだ。グレイソンの中の、ビズミへの警戒心が一気に高まる。
「他の生徒は誰か聞いてもいいですか?」
「それは……忘れました。自分の学級ではないので仕方ありません。確か二年生でした」
「……そうですか」
すっかり開き直るスワン。
二年生にも警戒が必要だが、今のグレイソンの最大の脅威はビズミの存在。
タイマンで攻略対象と戦える今が絶好チャンスだ。
剣を抜き、構えを取る。
グレイソンの構えは剣術部での鍛錬によって洗練されていた。
オスカーや剣術教師桐生レイヴンには到底敵わないが、無駄がなく、美しい。
攻撃の構えに移ったグレイソンを見て、スワンも剣を抜く。
かつて〈剣姫〉と呼ばれていたスワン。
一年生には〈体術〉を教えているが、三年生の〈剣術〉の授業はスワンが受け持っている。
ルーテン派の使い手で、手首のスナップを利用したスマートな戦い方が特徴的だ。
「よろしくお願いします」
丁寧な言葉と共に、グレイソンが足を踏み込んだ。
二人の間合いが一瞬にして縮まり、剣が交差する。
スワンの剣もグレイソンの剣も学園指定のものなので、性能に大した差はない。
となると、剣術の熟練性と身体能力、魔力の勝負だ。
教師側のスワンには全力が出せないように調整が入っているものの、それだけではハンデとして不十分なほど。
最初から負けるつもりで挑んではいないものの、グレイソンの中で勝てる見込みは大きくなかった。
ただ、生徒からしてみれば教師の帯を奪うことが勝利だ。そういう意味では、グレイソンには自信があった。
「桐生さんがおっしゃっていましたが……随分と剣術の腕が伸びたようですね」
「オスカーのおかげです」
「オスカー……また西園寺オスカーですか」
考えずとも自然に動く体。
グレイソンの攻撃を正確に弾きながら、スワンは余裕の表情で会話を続ける。
「どうやら私は、とんでもない生徒を受け持ってしまったようです」
グレイソンに言葉を返す余裕はなかった。
それもそのはず。
彼の頭の中は次に発動する神能のことで埋め尽くされていた。
魔力を剣に収束し、徐々に大きくしていく。
武神ミノスを信仰することでグレイソンに発現した神能の名は〈超越剣〉。
剣に集めた魔力を可視化させ、さらには具現化することで、剣をより長く、大きくすることが可能だ。具現化部分を操れるかどうかは、グレイソンの集中力次第。
魔力が剣に蓄積してきたタイミングで、後退してスワンとの間合いを取った。
一瞬にして身構えるスワン。
魔力が一気にグレイソンに集まっているのを確認し、それを阻止するべく再び間合いを詰めようとした。
しかし――。
(絶好のタイミングだ――ッ)
スワンは運が悪かった。
まさに都合のいい瞬間に、脅威に接近してしまったのだ。
斜めに振り下ろされる巨大な剣。
それは元々の剣の二倍の長さと太さがあった。
流石の反発力で受け止めるが、威力に耐え切れず、スワンの剣が粉砕する。
そして――。
「ありがとうございました」
グレイソンの一言。
その言葉に皮肉は一切なく、対戦相手への純粋なリスペクトが込められていた。
グレイソンの左手には、スワンの帯がしっかりと握られていた。
***
劇場のステージで戦闘を繰り広げていたグレイソンとスワン。
それを、一番後ろの客席で、誰にも気づかれずに観戦していた少年がいた。
「期待以上か」
低い声でそれだけ呟き、グレイソンたちの視界に入らないまま劇場を後にする。
青紫色の長髪をなびかせ、ゆっくりと歩く不思議な少年こそ、神道ビズミだった。




