第39話 二郎の後のフラペチーノ
制裁を終えた九十九は川崎らが待つ傭兵ギルドに行く気にはなれなかった。
巣文字達の仕置きで楽しくなった気持ちを長く満喫していたかったのだ。
恐怖のどん底に叩き込んでやったぜ、ざまあ! でも感情的になり過ぎずにもうちょっと丁寧に、計画的にやらないとな。少なくとも俺が苦しんだ期間の3倍は地獄を見せてやる!
九十九は楽し気に口笛を吹き、〈移動板〉でブロズローン町の上をただただ旋回する。
しばらくすると自分が興奮すると凶暴化してしまうことに気づき、少し反省し始めたところで、MIAが報告してくる。
「竜、ドラゴンを発見しました。こちらに飛翔してきます。南東の方角、時速120キロで移動、頭から尻尾の長さは76メートル。6分後にここに到達します」
「うほっ! 何て素敵な報告! さすがファンタジー世界!! 良いことが続くね!! 二郎食べた後にキャラメルフラペチーノ決めるみたいだぜ!」
九十九は腕を振り回し、歓喜を現す。ドラゴンを撃つ気満満であった。やはりある意味巣文字達の折檻は縛りプレイをしていたような閉塞感を覚えていた。
「交戦する予定ですか?」
「ああ。向こうに攻撃の意思がないように思えるか?」
「あの速度で町に侵入するとして敵対する意志がないと示していなければ、こちらから攻撃しても問題にはなりません。スタンドオフ攻撃の可能性――または接敵距離の概念から言っても迎撃することに正当性があります」
九十九はMIAの言っていることが半分もわからなかったが、狙撃しても構わないということだけは理解した。
「そうだよね。しかしでっかいな……。もしや〈高精度粒子砲〉が必要か?」
〈高精度粒子砲〉は〈多機能粒子銃〉の数十倍の火力を有する銃器である。「テラープラネット」内では宇宙船や戦車を破壊するのに用いられる。
「間もなくエネミー分析が終わります――結果が出ました。エネミー分析によるとレベル6に該当します」
「レベル6――フル武装カボネイ星人と同等ってことだな? じゃあ〈多機能粒子銃〉でイケるな」
どこから撃つべきか? 九十九が見回すと、おあつらえ向きの場所が見つかった。監視塔だ。
ブロズローン町の城塞の中に高さ30メートルほどの石作りの塔が2つあり、そこがちょうど良いと考えたのだ。
〈移動板〉を操り、ドラゴンの進行に適した方の監視塔を選んで飛翔する。
九十九は塔の上ですぐに腹ばいになり、銃口を塔の手すりに引っ掛ける。
〈狙撃〉モードで〈焼燬〉レベル3を設定し、〈腹ばい射撃〉で〈待ち構え撃ち〉をしよう!!
九十九は〈多機能粒子銃〉を両手で構え、照準をドラゴンに合わせる。
〈狙撃〉モードにすると〈望遠照準〉が銃身から現れる。ゼロインなどの照準調整はMIAが行う。
〈多機能粒子銃〉の最大狙撃可能距離は6500メートルである。
「あとどのくらいで攻撃可能になる?」
「77秒後です。いま、ドラゴンにドローンが張り付きました」
標的にドローンが着くと命中率が格段に上がる。もっともSF系FPSゲーム〈テラープラネット〉の中でドローンに取りつかれる間抜けな敵はほとんどいなかった。
「〈BEMコレクト〉を入念に行いますか?」
「う~ん、あのドラゴンのDNAが特に売れるとは思えんなー。いつものおまかせでいいよ」
モンスターの情報を採取する〈BEMコレクト〉に九十九はやはり関心が持てない。
九十九が狙撃の微調整をしているとMIAが更なる報告を行う。
「こちらに接近する者がいます。人間の少女です」
「はぁ? 塔を登ってくるってこと?」
「いいえ、飛行しています。どうも靴に飛翔できる機能があるようです」
「どんな奴か俺に見せて」
すると九十九の目を覆うディスプレイに、白銀髪の少女が映し出される。全身武装しており、鎧に剣、兜に至るまで銀色に輝いていた。
そして白い革のブーツには鳩サイズの白い羽根を生やしている。
出で立ちも特別ならばその麗しさも桁違いだった。大きな紫の瞳には太陽のような意志が宿り、その唇は満開の桜の如き華やかさが備わっている。顔の作りは柔らかいが正統的な美貌を誇っていた。
美女レベルでいえばリエエミカに及ばないまでもアンライトやレベリア、そして同じクラスの仙川玲菜に匹敵する。
少女はゆっくりと滑るように空を移動していく。
九十九はクラスの誰かかと警戒したがそうではないようだった。一目見るなりその美貌よりも帯びている白銀の剣に目がいく。
「俺と敵対しそうに思うか?」
「わかりかねます。判断するにはデータが不足してます」
「わかった。狙撃を優先させる。外装はリエエミカ達と会った時の烏天狗風の甲冑・兜を被っている感じにして」
「了解しました」
九十九が〈望遠照準〉に集中していると、まもなく白銀の少女がやってきた。




