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その日 1

 砂埃と灰茶色の煉瓦の廃墟

 その一帯は、見渡すばかりの地平線と枯草の平原

 かつての大河と沿岸湿地の痕跡 

 ユーフラテスはすでに枯れていた

 まるで古代の預言のごとく


 北のユーフラテス水源へ

 上流へ上流へ切れ切れの隊列

 枯草の中を逃げ惑う損傷車両たち

 砂を巻き上げる車輪に巻き付く枯草

 タイヤからの炎は枯草に、そして大火へ

 充満する臭い、巻き上がる煙と砂嵐

 兵士たちは逃げ去り、燃え落ちる車両たち

 無人のジープ、兵員輸送車

 トラックに戦車たち

 やがて轍の轟音は全て消え去った

 はるかに広がる草原に火が広がり

 燻る煙と焦げた大地

 辺りは静寂と死の荒野となった


 轍の音に代えて蹄の轟音が響く

 蹄の音は四つ脚六つ脚の機械獣たち

 六六六ハニカム)模様の兵士たち

 彼らは焦げた大地を埋め尽くす

 草や木々、車両も道具も

 生きる者も命を失った者も

 すべては蹄の下に叩きのめされた


 彼等はユーフラテスから上流へ

 海沿いを北から南へ

 蹄は水源地を荒らし

 火と煙と硫黄が破壊し尽くす


 彼らを味方と見誤った丘の上の者たちも

 丘を包囲する者たちも、もちろん

 彼らの前の軍勢は激しく打ち払われた

 もう誰もいなかった


 全てを追い払った丘の上

 はためく紫、黄、朱色と黒からなる縞

 北から襲い来た軍勢は2億

 おののく誰もが頼るのは、証人についての預言


 頼りない二人の証人

 彼らの力なき故の苦悩

 打ち破る力を祈り

 弱々しくも覚悟を為す

 

 彼等は恐れつつ

 弱々しくも進む

 ただ古代の預言にのみ頼り

 丘に立つ大軍に向かって

___________________________


「ケン、あなたがたの故郷のペルシア軍、それも月光旅団でさえ敵わないのに、それでも戦いに行くの?」

「マリ それはわかっているよ」

「じゃあ、どうして?」

「すでに、ジャスミンの育ったアメリカでさえ崩壊している...啓典の民たち、敵同士だった者たちでさえ、今は力を失ってしまったんだ...残ったのは私たちだけだ」

「ケン、だからって、私たちが対抗できるの?」

「そうだね、ジャスミン。たしかに私たちにはあの圧倒的な力の前に、対抗する力すらない」

「それなら、私たちも......」

「それはそうかもしれないが......今は古代の預言書を頼りにしよう...今私たちにはそれしかない......」

「ケン、ジャスミン、古代の預言はどこへ私たちを向かわせるの?」

「それは知らない。風の吹くままに、風に任せることが、私たちの今までだった」

「だからって......」

「マリ、これは私たち二人が証人になった時に覚悟していたことだよ......」

______________________________________


 相手への想い

 中断した会話

 二人は厳しい未来を確信しても

 今なおこの場この時を見つめる

 

 明日はないかも知れない

 一人だけになるかも知れない

 二人ともいなくなるかも知れない

 互いに見つめ合い続ける


 視線の一線

 想いを込めた線

 涙で霞んだ一線

 霞んだゆえに二人の一線は

 永遠の先で交わるように見えた


「嗚呼、二人の影は丘へ向かって行く………仲良く、手を取って…我が兄達は未だこない」

 佐美はこう言いながら、

.....このとき、神職(アミール)であった佐美は、遠く丘の上に立つ人影を見て、昔を思い出した......それは、彼の生まれた頃の記憶と、彼の育ての親 絵里(エリ)とその実子 帆船ホフネ陽奈葉ひなはたちが互いに対立を深めていく会話、そして佐美自身が神職(アミール)となる覚悟をした時の絵里の言葉だった......

__________________


 「帆舟ホフネのやつらが、私たち陽奈葉ヒナハの仲間の子供や非戦闘員を殺した。帆舟ホフネのやつらを全滅させろ。帆舟ホフネのやつらの小さな仲間と言えども奴らの存在を許しているのだから、小さな者たちだとしてもその子供や非戦闘員を殺してしまって構わない。私たち陽奈葉ヒナハの仲間は神に選ばれた民だから許されるはずだ」

「私たち帆舟ホフネの小さな仲間によって陽奈葉ヒナハのやつらの非戦闘員が殺されたとしても、陽奈葉ヒナハのやつらによる攻撃が私たち帆舟ホフネの小さな仲間の子供や非戦闘員をも巻き込むことは、糾弾すべきだ。私たち帆舟ホフネの小さな仲間を救え」

帆舟ホフネのやつらが神に選ばれた民だとあなた方は言うのか。彼らはあまりに傲慢な行為を行っているんだぞ」

「小さな者だからといって、神に選ばれるというのか。彼らの仲間の陽奈葉ヒナハのやつらは、私たち帆船ホフネの仲間を全滅させようとしていることを忘れてはならない」

 ついに、彼らは互いに同じことを言い合うようになっていた......

「わが神によって奴らに思い知らせてやるよ。私たちは皆んな戦い抜く。奴らは私たちの神を犯す存在だ。奴らは悪心をもって動いているに違いない。だから、奴らに因る騒擾がすっかり無くなるまで、全世界が私たちの教え一条になるまで、彼の地でもこの地でも、やつらを皆殺しにしなければいけないんだ」


 それでも、絵里は佐美に語り続けた。

「慌ててはいけない...彼等の中にも和平を結ぼうという思いがあらわになる時がくる...その時は必ず来る」

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