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悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

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後悔したってもう遅い

「アナスタシア。彼女は間違いなく、我の【博愛の聖女】じゃった。彼女以外、あり得ない」


 しかし、天啓は別の者を示した。


「どうして、あの小娘なのだ。神は何故あれを選んだ? 我の選んだアナスタシアの方が、余程【博愛の聖女】じゃった!」


 ラヴィスマンは大声を張り上げた後、項垂れる。


「……全て終わりじゃ。何もかも」


 ラヴィスマンは消え入りそうな声でそう呟いた。


「ラヴィ……何故、打ち明けてくれなかったんだ。ラヴィの計画はアナスタシアが死んだ時点で破綻しているだろう」


 アナスタシオスは優しい声でラヴィスマンに問いかけた。


「アナスタシアを追い詰めたこと、正直に告白してくれたなら、僕はこんな公の場で追及することもなかった」

「もう、どうだって良い……。アナスタシアは我の全てじゃった……。アナスタシアだけが我の空っぽの心を埋めてくれた……」


 クローンには記憶も人権もない。

 オリジナルの野望を叶えるために作られた存在。

 自由意思などある訳がない。

 アナスタシアと出会って、世界が華やかに色づいた。

 初めて、生きる意味が見つかった。

──貴女といたかった……。それなのに。


「何故、死んだのじゃ、アナスタシア……」


 ラヴィスマンは床にへたり込む。


「怪我や病気なら我が治したというのに……」

「自分を陥れた人間に助けを乞うと思うかい?」


 ラヴィスマンはハッと顔を上げる。

 アナスタシオスは冷たい表情でラヴィスマンを見下ろしていた。


「アナスタシアは薄々気づいていたよ。レンコ嬢とラヴィが手を組んでいると。だから、ミステールを送り込んだんだ」

「そんな訳がない……。アナスタシアが気づいていたなら! 我にあんな笑顔を向けるはずがない!」

「信じたかったんだよ。ラヴィが自分を陥れる訳がないと。だから、必死に取り繕って、笑っていた」


 レンコに協力者がいることは薄々感じていた。

 あのレンコ一人で、アナスタシアの悪評をあそこまで広げられるとは、到底思えなかった。

 レンコがアナスタシアを避けるようになったのも、丁度その頃だ。

 レンコに助言している者がいると気づいたのは。

 それが誰かはわからなかった。

 だから、ミステールをレンコの元に送り込んだ。

 同時に、証言と証拠を集めるように言った。


──ラヴィスマンがレンコと手を組んでいた。


 ミステールからそう聞かされたとき、アナスタシオスとクロードは本当に驚いた。

 まさか、あのラヴィスマンが、と。

 ラヴィスマンはアナスタシアに首っ丈で、アナスタシアを裏切って、レンコに協力するとは到底思えなかったから。


「なんで、ラヴィ様が〝アナスタシア〟を陥れたのか、おれも兄さんも理由がわからなかった」


 クロードは拳を強く握り締めた。


「『アナスタシアを自分だけのものにしたかった』なんて……そんな身勝手な理由で……! おれ達がどれだけ苦しんだかわかってるのか!?」


 クロードは激昂する。

 最初から悪意を持って接してきたレンコよりも、アナスタシアを愛しているのに傷つけたラヴィスマンの方が許せなかった。


「だ、誰よ、あんた! いきなり出て来て!」


 レンコが叫ぶ。


「おれはアナスタシアの弟だ!」

「はあ!? アナスタシアの弟はアナスタシオス様だけでしょお!?」

「あんた、本当におれのこと覚えてないんだな……」


 クロードは呆れる。

 アナスタシアの代わりに校門でぶつかり、クロードが人生初の告白もした。

 そして、アナスタシア断罪の際も、アナスタシアの隣にいたというのに。


「ラヴィ、全て認めてくれるね」


 アナスタシオスはラヴィスマンに問いかける。

 アナスタシオスの堂々とした振る舞いが、アナスタシアの気高い姿と重なった。

 ラヴィスマンは恋をしたような顔で、アナスタシオスの足元に縋り付く。


「アナスタシア……! ここにおったんじゃな! 我の聖女……!」

「ラヴィ、僕はアナスタシアじゃないよ。アナスタシアは死んだんだ」

「我は彼女の遺体を見ておらん。皆で我を騙すつもりなんじゃろう。全てわかっておるぞ。アナスタシアは何処じゃ。美国の坊主のところか? それとも軍国の? 商国か? 賢国の坊主とも親しいようじゃな。聖国民に調べさせたら直ぐにわかることじゃ。正直に言え!」

「アナスタシアはもういないんだよ、ラヴィ!」


 アナスタシオスが何度言っても、ラヴィスマンは聞き分けのない子供のように、首を横に振る。


「アナスタシアは若いんじゃ! 死ぬ訳がない!」

「老いだけが死の原因じゃない。わかるだろう!? ラヴィ……!」


 アナスタシオスはラヴィスマンの肩を掴み、彼に何度も言い聞かせる。

 アナスタシアは死んだのだ、と。

 しかし、ラヴィスマンにはアナスタシオスの言葉が聞こえていないようで、譫言のように呟いている。

「アナスタシアは死んでいない。アナスタシアは生きている」──と。


「……クローン技術が禁忌となったのには、倫理的な問題ともう一つ、理由があるんだよ」


 シルフィトは顔を顰めて言う。


「クローンは長生きが出来ない。直ぐに死んでしまうんだ。原因は不明……。どれだけ研究しても成果は得られなかった」


 シルフィトは憐れむような目で、ラヴィスマンを見た。


「十八年……彼はよく持った方だと思う……」

「じゃあ、これは……」


 アナスタシオスはラヴィスマンを見る。

 シルフィトは首を横に振った。


「耄碌してる」


 クロードの前世でいうところの〝認知症〟。

 それが、既に進行していた。

 アナスタシアが死んでから、加速度的に症状が悪化していっていたのだ。

 ラヴィスマンはもう、何処にもいないアナスタシアを探すだけの老人になった。


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