表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/79

地獄に落ちた嘘つき共

「アナスタシアが……冤罪だった……?」


 アデヤがよろよろと、真っ青な顔でアナスタシオス達に近づいてくる。


「僕はレンコに……その女に騙されていたのか……?」


 アナスタシオスは呆れたようにため息をつく。


「これでわかったでしょう、アデヤ殿下。レンコは、あんたが嫌いな、醜いだけの女だ」

「あ、ああぁ……」


 アデヤは膝から崩れ落ちる。


「アナスタシア……。僕の女神(マ・デエス)……。僕だけの女神……」


 □


 アナスタシアはアデヤの初恋だった。

 八年前に出会ってから、ずっと光り輝いていた。

 笑顔も、怒った顔も、悲しげな表情も、全て、美しかった。

 最初、キュリオシティに来たとき、アナスタシアは田舎者の男爵令嬢だと馬鹿にされた。

 それでも、アナスタシアは挫けずに向かって行った。

 いつの間にか、アナスタシアは皆に好かれる存在になっていた。


──僕が最初に見つけたのに。


 自分の中で燻る嫉妬心を自覚した途端、駄目になった。

 自分はこんなにも心が狭く、醜いのに。

 アナスタシアだけが気高く、美しくなっていく。

 アナスタシアを取り囲むもの達への、アナスタシアを渡したくないという独占欲。

 アナスタシアへの対抗心。

 美国の王子としてのプライド。

 その全てが混ざり合い、自分の心はごちゃごちゃになっていった。

 いつしか、目で追うのは、アナスタシアの醜い部分だけになっていた。


 アナスタシアがレンコを誘ったお茶会の当日。

 レンコにだけ、渋い紅茶が淹れられた。

 そのときのアナスタシアの表情は、美しさの欠片もなかったように見えた。

──……ああ、君にも、そんな醜い一面があったんだな……。

 そう気づいたとき、酷く心が高揚したのを覚えている。


 その後、ゼニファーとシュラルドルフが話しかけてきた。

 アナスタシアの所業に関することだった。


「……先日のお茶会で、気づかれたと思います。アナスタシア嬢の本性を。今のアデヤ様なら、真実を受け入れることが出来るでしょう」


 そう言われ、証言と照らし合わせた証拠の数々を目の前に出された。


「そんな……まさか。あのアナスタシアが……」


 アデヤは信じられない、と言うように首を横に振った。

 しかし、アデヤの口端は引き攣り、上がっていた。

──なんだ、アナスタシアも僕と同じ……醜い嫉妬心を持っていたんだな。

 ゼニファーがアナスタシアの罪を詳らかにする舞台を用意してくれた。

 それが高等部二年、年末の学園パーティーのアナスタシア断罪劇だった。

 アナスタシアは罪を認めることはなかった。

 その姿が更に醜かった。

 対照的に、レンコが美しく見えた。

 これが本当の恋なのだろう。

 レンコはアナスタシアほど外見が美しくないのに、こんなに好きなのだから。


 □


 アナスタシア断罪から一年後。

 同じく、学園パーティーにて。

 アナスタシアの潔白が証明された。

 それと同時に、レンコの醜い本性が明らかとなった。


 アデヤはふと、床を見る。

 反射して映った自分の顔が目に入った。


「なんて、醜い……」


 顔の輪郭は歪み、鼻は大きく、瞳が小さい。

 これは自分の顔なのか、と頬に手を当てる。

 自分の醜く歪んだ顔にも、手が添えられた。


「ああ……そうか」


──醜かったのは、僕だけだった……ずっと。

 アナスタシアは美しいままだった。

 美しいまま死んだのだ。

 醜く歪んでいたのは目だった。

 それを認識する自分の脳だった。


「アナスタシア……すまない……。すまない……」


 只管謝り続けるアデヤを、アナスタシオスは冷たい目で見下ろしていた。


「……シオ殿、続きは別室でしましょう」


 ゼニファーの言葉に、アナスタシオスは頷く。


「……そうだね。ごめん。ここで追求するつもりはなかったんだけど。ついカッとなっちゃって」

「いえ、謝る必要はありません。我々も一年前、同じようなことをしてしまいましたから……」


 アナスタシオスは階段の一番上から叫ぶ。


「皆様! パーティーを楽しんでいるところ、騒がしくして申し訳ありませんでした!」


 そう叫び、頭を下げる。


「レンコ嬢、こちらへ」


 ゼニファーがレンコを引っ張る。

 レンコがアナスタシオスの前を通り過ぎた瞬間、アナスタシオスはレンコに小さく耳打ちする。


「残念だったなァ、クソ女。あの男達は全部、《《わたくし》》のものですわ」


 アナスタシアを想起させる口調に、レンコはバッとアナスタシオスの顔を見た。

 アナスタシオスは嘲笑っている──アナスタシアと同じ顔で。

 レンコの顔が怒りでカッと赤くなった。


「死ねっ……この悪役令嬢が!」


 レンコはドンとアナスタシオスの胸を押した。

 アナスタシオスの後ろは階段だ。

 下にいた人達が悲鳴を上げた。


「兄さんっ!」


 クロードが弾かれたように駆け出した。

 しかし、どうやったって間に合わない。

 頭に過ぎるのは、アナスタシアの死亡フラグだ。

 届かないと知っていながら、クロードはアナスタシオスに手を伸ばした。

 ここまで来て失うのか──そう思った瞬間、シュラルドルフが床を蹴り、弾丸のように飛び出した。

 シュラルドルフはアナスタシオスを抱き止める。


「シュラルド……!」


 アナスタシオスは目を見開き、シュラルドルフを見上げた。


「……怪我はないか、シオ」


 シュラルドルフは涼しい顔で声をかけた。


「う、うん……。ありがとう。助かったよ……」


 アナスタシオスはシュラルドルフにお礼を述べる。


「──レンコを捕縛しろ! 殺人未遂の現行犯だ!」


 ゼニファーは声を張り上げる。

 周りにいた生徒達がレンコの肩を掴み、床に押さえつけた。


「離しなさいよ! 私は【博愛の聖女】よ! この世界の主人公(ヒロイン)なのよ! あんた達、ただで済むと思ってんの!?」


 レンコは手足を動かし、体を捻り、逃げようともがく。

 シュラルドルフはアナスタシオスをそっと床に下ろした。


「レンコ、これ以上、抵抗するならば、俺が相手になる」


 シュラルドルフはレンコの前に立ちはだかった。


「さあ、手合わせ願おう」


 シュラルドルフのその言葉に、レンコの顔が恐怖で歪んだ。

 数々のプレイヤーをデッドエンドに追い込んだ男・シュラルドルフ。

 レンコもプレイヤーなら知っているはずだ。

 現実にコンティニューはない。


「どうして、私がこんな目に遭わないといけないのよ……!」


 レンコは鼻を鳴らしながら泣く。

 主人公(ヒロイン)の面影はない。


「それもこれも全部、あんたのせいよ! 悪役令嬢アナスタシア!」

「僕はアナスタシ《《オス》》だ。アナスタシアは死んだ」

「アナスタシアは生きてた! あんたがアナスタシアだったのね! だから、アナスタシオス様のキャラが違ったんだ! 私のアナスタシオス様は何処!? 出しなさいよ! クソ女!」


 レンコは罵詈雑言をアナスタシオスをぶつける。


「彼女は何を言っている?」


 ゼニファーは得体の知れないものを見るような目でレンコを見ていた。


「……大方、アナスタシアの幻覚でも見たんだろう」


 アナスタシオスは思わず笑ってしまう。


「レンコさん、罪を認める気はないんだね。……だけど、少しでも罪の意識があるのなら……それで良い。君はまだやり直せる」


 アナスタシオスは優しく笑う。

 階段から突き落とされたばかりだというのに、レンコやアナスタシアを気遣う姿に、周囲の人間は見惚れた。

 対して、彼を罵り続けるレンコに侮蔑の目を向けた。


「……良い加減にしろ、レンコ」


 アデヤがよろよろと立ち上がる。


「お前の醜い嫉妬で、アナスタシアがどれだけ傷ついたことか。僕がアナスタシアを信じていれば……生きる希望を持てていたならば、彼女はまだ生きられたかもしれない……」


 アデヤは顔を上げ、連呼を睨みつけた。


「アナスタシアはお前の──いや、《《僕達のせいで》》死んだんだ!」


 アデヤの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで──美しさの欠片もない顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ