デートの後で
それから、レンコとアナスタシオスは急激に仲を深めていった。
「おはようございまぁす! アナスタシオス様ぁ!」
通学中のアナスタシオスにレンコは元気よく挨拶する。
「おはよう、レンコさん」
アナスタシオスは笑顔で挨拶を返す。
「……あれ? 前髪が短くなってる。切ったのかい?」
「あ、気づいちゃいましたぁ? ちょっと切ったんですよお!」
「そうなんだ。可愛くなったから、直ぐに気づいたよ」
「やぁだ、アナスタシオス様ったら! 褒め上手なんだから!」
レンコは照れ隠しにアナスタシオスの背中を叩いた。
アナスタシオスは笑う。
「あれって、アナスタシア様!?」
通りすがりの生徒が二人を見て、小さく声を上げる。
隣の生徒が「しっ」と声を小さくするように言った。
「【博愛の聖女】様と親しげだけど、和解したの……?」
「貴女、知らないの? あの方はアナスタシア様の双子の弟君、アナスタシオス様よ」
「双子の弟なんていたの!? アナスタシア様に似て、お美しいわ……」
「最近、【博愛の聖女】様とよく一緒にいるけど。アナスタシア様の件もあるのに良いのかしら……」
仲睦まじげな二人を見ているのは、女子生徒達だけではなかった。
草葉の陰から、シュラルドルフは眉根を寄せ、恨めしげに二人の様子を眺めていた。
□
昼休みの食堂は賑わっていた。
アナスタシオスとシュラルドルフは向き合い、食事をしながら、会話をする。
とはいえ、アナスタシオスが一方的に話しているだけだった。
シュラルドルフは相変わらず無口で表情一つ変えず、ただ機械的に食事を口に運ぶ。
「それでね、レンコさんが──」
アナスタシオスの口から次いで出るのはレンコの話ばかりだった。
シュラルドルフは暫く黙って聞いていたが、そっとフォークを置くと、口を開いた。
「シオ、レンコ嬢と親しくしているのか」
「ん? ああ。学校のこと、色々と教えて貰っているんだ。彼女は優しい人でね。この前なんか──」
アナスタシオスは再びレンコの話を始めようとする。
「シオ」
シュラルドルフは語気を強くして言う。
いつもと違う彼の様子に、アナスタシオスは話すのを止めた。
「……悪いことは言わない。レンコ嬢と少し距離を取るべきだ」
アナスタシオスはきょとんとした顔で、首を傾げる。
「どうして?」
「レンコ嬢の言動と行動は目に余る」
レンコには不可解な点がある、とまでは言わなかった。
アナスタシオスに無用な心配を生みたくない。
「……ああ。レンコさんは相手が王子でも物怖じしない、天真爛漫な人だからね。王子様にはちょっと馴れ馴れしく感じちゃうのかな……」
そう前置きして、アナスタシオスは言い放つ。
「彼女は平民出身で、貴族のマナーを知らないんだ。非常識なことをしても、優しく諭してやってくれないか」
かつて、シュラルドルフがアナスタシアに放った言葉と、一言一句同じだった。
この言葉を言うために、アナスタシオスはレンコの話ばかりしていたのに違いない。
本当に性格が悪い男である。
この言葉を言われたアナスタシアの気持ち、今ならわかるだろ? とでも言いたげだ。
シュラルドルフは苦虫を噛み潰したような顔をして、黙りこくる。
アナスタシオスは満足そうに笑い、立ち上がる。
「ご馳走様でした。僕、次の授業の準備をしたいから、先に行ってるね」
アナスタシオスは立ち去る。
シュラルドルフ──とクロードを置いて。
──兄さん……おれを置いていくな……!
クロードは眉根を寄せて、下唇を噛む。
シュラルドルフ同様、クロードも昼食をまだ食べ終わってない。
早く食べ終えて、さっさと立ち去ろう、と手を早めたとき、「クロード」と名前を呼ばれた。
「は、はいっ!」
クロードは思わず背筋を伸ばした。
「お前はどう思う」
「どう思うって……【博愛の聖女】についてですか?」
「そうだ」
シュラルドルフは頷く。
「……おれは最初から『お姉様は無実だ』と言っていました」
「……そうだったな」
「何故、おれ達を信じてくれなかったんですか」
クロードの口から次いで出たのは、シュラルドルフ達に対する怒りだった。
クロードはしまった、と思い、慌てて弁明する。
「すみません。シュラルドルフ王子を責めるようなことを言って……」
「いや……君の言う通りだ」
シュラルドルフは頭を下げた。
「君達姉弟を信じてやれなくてすまない」
「あ、頭を上げて下さい! もう、過ぎたことですから……!」
クロードは行き場のない手を上げ下げするしかなかった。
ここは食堂だ。
人の目がある。
軍国の王子が頭を下げたら、目立つに決まっている。
クロードはシュラルドルフの肩を掴み、力づくで頭を上げさせた。
「確かに、お兄様が【博愛の聖女】と仲良くするのは少し不満です。けど、おれがお兄様に何を言っても聞かないので……」
実際、クロードがアナスタシオスに何かを言っても、「お兄様の決定に従え」と一蹴されるだけだ。
アナスタシオスの復讐計画の全貌は聞かされているが、クロードが聞かされていない部分が他にもあるに決まっている。
クロードに言ったら反対するだろう、とか、クロードは隠し事が下手だから、という理由で。
──兄さんの好きにしたら良い……けど、当然不満がない訳じゃない。兄さんが何をしてもおれが許すっていう、絶対的な信頼があるからなんだろうけどさ……。
クロードはその信頼がもどかしくもあり、嬉しくもあったのだ。
「……そうか」
シュラルドルフは少しだけ頭を上げる。
「君達には返しきれない恩がある。許されざる罪も……」
剣術大会で暴走したとき、シュラルドルフを体を張って止めてくれたこと。
そのとき、ゼニファー達と和解するように強く言ってくれた。
罪は……それほどの恩がありながら、アナスタシアを信じなかったこと。
「俺に出来ることは剣を抜くことだ。君達が誰かを消したいと願うなら、俺が叶えよう」
人を射殺すようなシュラルドルフの眼光に、クロードは「ひい」と小さく悲鳴を上げる。
ゲーム上でシュラルドルフの手合わせで、何度もゲームオーバーにさせられた記憶が思い出される。
「剣は抜かなくて良いですから! お、お姉様もそんなこと望んでいませんから!」
シュラルドルフは「そうか」と言い、いつもの仏頂面に戻った。




