ヒロインとランデヴー
放課後、アナスタシオスは校門の前でレンコを待っていた。
「お待たせしましたぁ、アナスタシオス様!」
濃い化粧をして、香水の甘い臭いを漂わせたレンコが現れる。
「こんにちは、レンコさん」
アナスタシオスは顰めそうになる顔を何とか抑え、笑顔を張り付ける。
「もお、遅いですよお!『あとで話そう』って言ってから、何日経ってると思ってるんですかぁ!」
アナスタシオスは眉をハの字にして微笑んだ。
「ごめんね。シュラルドとゼニファーに止められて、なかなか時間が取れなくて」
「アナスタシオス様は悪くないですよう! 人の恋路を邪魔する、あの二人が悪いんですからあ!」
「二人は優しいから、病み上がりの僕を心配してくれてるんだよ。悪く思わないであげて?」
「はぁい」
レンコはうっとりとした顔をした。
「口の悪いアナスタシオス様も良いけど、優しいアナスタシオス様も素敵!」
「口の悪い僕?」
「ええ! 私ぃ、前世の記憶があるんですぅ」
──前世か。上手く転がせば、クロードの知らない情報が聞けるかもな。
そう思ったアナスタシオスは話に食いつくことにした。
「へえ! 前世! 興味深いね!」
「でしょう!? 私達、前世では結ばれたんですよ!」
「そうなんだ! 前世での僕達も、同じような出会い方をしたの?」
「前世では、私が廊下を歩いているときに、アナスタシオス様が声をかけてくれたの! 亡くなったはずのアナスタシアが現れて、本当に驚いたんだから」
「アナスタシアと僕はそっくりだもんね」
「私、アナスタシオス様に一目惚れしたんですう。だから、猛アタックしたんですよお! やっと結ばれるってときに私、死んじゃってぇ」
「え。死んじゃったの……?」
──そういえば、クロードも前世で死んで、転生してきたって言ってたっけな。
アナスタシオスはクロードの死の痛みを想像して、暗い顔をした。
「そんな暗い顔しないで下さい! こうやって、私達ちゃんと出会えたんですから!」
レンコは明るく言う。
「……つん。そうだね」
「にしても、アナスタシオス様は優しいんですね! 前世では、ぶっきらぼうでワイルドな感じだったんですけど」
──ぶっきらぼうでワイルド……。レンコの言う前世の俺は、素の俺っぽいな。
アナスタシオスは会話を続ける。
「僕とは別人みたいだね」
「同じ人ですよお! だって、こんなにかっこいいんですもの!」
レンコはぺたぺたとアナスタシオスの顔を触る。
うげ、と思いながらも、アナスタシオスは表情には一切出さない。
「性格が変わったのはアナスタシアの影響かなあ。まあ、全然良いけどね!」
レンコはグッと親指を立てた。
「ちょっと危険なアナスタシオス様も好きだけど、儚げなアナスタシオス様でも私的には全然オッケーですから!」
「ええと……こういうときはお礼を言うべきなのかな? ありがとう」
アナスタシオスは困惑したように笑った。
レンコがすす、とアナスタシオスに近づき腕を絡めてきた。
アナスタシオスの腕に鳥肌が立った。
「ねーえ、アナスタシオス様? これから街に行きません?」
「街?」
「はい! 私とデートしましょうよ! ね、ね。良いでしょお?」
レンコはこてん、と首を傾げて、可愛い子ぶる。
──レンコとデートねえ……。クロードに言ったら「なんでそんな危ないことをするんだ!」って言われんだろうけど……。
アナスタシオスはニッコリと微笑んだ。
「良いね。まだ街には行ったことがないから、レンコさんに案内して欲しいな」
──『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってなァ。ま、俺だし、何とかなんだろ。
レンコはアナスタシオスの良い返事に、ぱあ、と表情を明るくさせた。
「任せて下さい!」
アナスタシオスはレンコに腕を引かれ、街へと向かった。
□
「アナスタシオス様! こっちに可愛い雑貨屋さんがあるんですぅ!」
レンコはぐいぐいとアナスタシオスの腕を引っ張る。
「ま、待って。レンコさん」
アナスタシオスは足をもつれさせながら、されるがままになっていた。
自分勝手に走り回るレンコには辟易とする。
アナスタシオスは一応、病み上がりという設定なのだが、忘れているのだろうか。
「遅いですよぉ。アナスタシオス様と行きたいところ、まだまだたくさんあるんですよぉ?」
「ごめんね。少し疲れちゃって……」
「あ! じゃあ、カフェ行きますぅ? 私、雰囲気良いところ知ってってぇ」
きゃーきゃー、と周りの目など気にせずにレンコは騒ぐ。
「レンコ……?」
その様子をアデヤが目撃していたらしい。
信じられない、といった顔で二人を見ていた。
──まあ、こんなに騒いでたら目立つわな。
「彼と一体何をしてるんだい……?」
「ご機嫌よう、アデヤ殿下。今、レンコさんに街を案内して貰っていたんです」
アナスタシオスは「下心なんてないですよ」という風に、無邪気に笑って見せた。
「街を案内……」
「はい! 僕、キュリオシティに来たばかりなので」
「そ、そうか……。なら、私が同行しても?」
アデヤは口端を引き攣らせて言う。
「は? 何言って──」
レンコが嫌そうな顔をした。
「是非!」
アナスタシオスは食い気味に言う。
「アデヤ殿下とアナスタシアは街でデートをしていたと聞いています! 二人の思い出の場所、教えて頂きたいです!」
「あ、アナスタシオス様! 何言ってるんですか! 折角、二人きりのデートなのに……!」
「二人より三人の方が楽しいと思って……駄目だった?」
先のレンコを真似て、アナスタシオスはこてん、と首を傾げた。
レンコは「ううー」と唸った。
「だ、駄目じゃ、ないですけど……」
「じゃあ、決まりだね!」
アナスタシオスは無邪気に笑って見せた。




