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悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!

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それぞれの恨み辛み

 キュリオ学園の馬小屋。

 アナスタシオスはそこにいる人物に会うべく、そこに訪れた。


「……ナーシャ?」


 ラヴィスマンはアナスタシオスを見て、目を丸くした。

 乗馬クラブのラヴィスマン。

 アナスタシオスの存在を予め伝えていた人物。


「お久しぶりです、ラヴィ様。僕です。アナスタシオスです」

「……ああ。ああ。そう、そうじゃった」


 ラヴィスマンはこくこくと頷いた。


「久しぶり……ではなかろう」


 ラヴィスマンは不愉快そうな顔でアナスタシオスを見る。

 アナスタシオスは申し訳なさそうに眉を下げた。


「ええ、何度かアナスタシアの代わりをしたときに」

「ナーシャが亡くなったというのは真か」


 アナスタシオスはゆっくりと頷いた。


「……はい」

「そうか……」


 ラヴィスマンは天を仰いだ。


「アナスタシオス殿、何故、ナーシャは亡くなったのじゃ」

「持病が……悪化して……」


 アナスタシオスはわざと目を泳がせた。


「それは、作り話じゃろう」


 ラヴィスマンは冷たい視線をアナスタシオスに向ける。


「美国の坊主に婚約破棄された直後に亡くなるなど、そんな偶然があるとは思えぬ」

「……そう、ですね。ラヴィ様、貴方にだけ真実を伝えておきます」


 アナスタシオスは改まって言った。


「アナスタシアは学園パーティーで糾弾された直後から、心の調子を崩し、自室にこもって食事を取らなくなってしまったんです……。」


 アナスタシオスはその先の言葉を言うに言えない、という風に口を開けたり閉めたりした。

 一つ息をつき、覚悟を決めて、ぽつぽつと話を続けた。


「ある日の朝、アナスタシアは、ベッドの上で冷たくなっているのが発見されて……」


 ラヴィスマンはため息をついた。


「……やはり、あの出来事が原因だったんじゃな」

「アナスタシアはアデヤ様を愛していましたから。ショックだったんでしょう……」

「なんということじゃ……」


 ラヴィスマンは唇を噛み締めた。


「アデヤ……あの愚か者……。我が無理矢理にでも引き剥がしておれば……」

「ラヴィ様が何をしても、結果は変わらなかったと思いますよ」

「……何?」

「愛は止められないものですから」


 アナスタシオスは力無く笑う。


「……そうじゃな」


 ラヴィスマンは妙に納得した。

 自分も自分の初恋を止められず、アナスタシアに恋をした。

 アナスタシアの気持ちを察することは容易かったのだろう。


「そなたは恨んでおらぬのか。ナーシャを蔑ろにしたあの者達を」

「恨んでいない……と言えば嘘になります」

「やはり、そなたが〝アナスタシオス〟として、学園に来たのは──」

「いいえ。復讐のためではありません」


 アナスタシオスはそう言い切る。

 ふと、キュリオ学園の校舎を見る。


「アナスタシアが愛した学び舎に……僕も通ってみたかったんです。これが一つ。もう一つは……アナスタシアがやり遂げられなかったことを、やり遂げたかったのです」

「ナーシャが……やり遂げられなかったことじゃと?」


 アナスタシオスは笑う。


「このキュリオ学園を卒業することです。中途半端になってしまいましたから」

「……そなたとナーシャは感覚を共有出来るんじゃったな」

「はい」


 ラヴィスマンに伝えたカバーストーリーはそうだった。

 二人は双子で、感覚を共有出来る。


「僕が学園生活を楽しめたら、アナスタシアにも届くんじゃないかって……」

「……知っておろう。ナーシャが学園中から虐げられていたこと。その身をもって」

「ええ」

「そなたも……噂の標的になることじゃろう」

「承知の上です」


 アナスタシオスはラヴィスマンを見た。 


「僕はアナスタシアの悪評を知らんふりするつもりです。学園生活を心から楽しむために」

「……そなたの覚悟は伝わった。このラヴィスマンが、そなたを全力で応援しよう」

「心強いです、ラヴィ様」


 復讐は望まない。

 勿論、嘘だ。

 アナスタシオスは復讐する気満々だ。

──アナスタシオスが復讐しないのなら、自分が代わりに……。

 そう思わせるために、綺麗事を吐いた。

 アナスタシオスは心の中でほくそ笑む。

──ラヴィスマン、俺に協力しろよ?


 □


「お姉ちゃまお姉ちゃまお姉ちゃま。どうしてシルまで置いていなくなっちゃったの……?」


 シルフィトは泣きじゃくる。


「大丈夫か、シル」

「クロは何でそんなに冷静なの!? クロのお姉ちゃまがいなくなっちゃったんだよ!?」

「それは、その……。葬儀のときにそういうのは全部終わらせたから……」


──実際、〝アナスタシア〟は死んでないからな。

 クロードは愛想笑いをする。


「シルはいくらでも泣ける!」


 シルフィトは駄々をこねる。


「あいつのせいだよね。お姉ちゃまがいなくなったの」


──あいつって……レンコのことだよな。

 シルフィトは爪を噛む。


「やっぱり、シルがあのとき守ってあげれば良かったんだ。閉じ込めて、お世話して、あいつの手が届かないところに」


 シルフィトは据わった目でクロードを見た。


「……クロードだけでも、今から」


 そう呟いて、シルフィトはジリジリと近づいて来る。

 クロードはそれに恐怖し、身構えた。


「待て待て待て! おれはレンコの眼中にすら入ってないから!」


 シルフィトは足を止め、ため息をつく。


「……お姉ちゃまも酷いよね。シルのこと、葬儀にすら呼んでくれないんだから」


 シルフィトは手で顔を覆い、しくしくと泣いた。

──このタイミングだな。

 クロードはアナスタシオスと打ち合わせした通りの言葉を口にした。


「……お姉様、自分の近くにレンコの味方がいると疑っていたみたいなんだ」

「裏切り者ってこと……?」

「ああ。だから、家族だけで葬儀を済ませることにしたんだ」

「シルもお姉ちゃまに疑われてたの……?」

「シュラルドルフ王子もゼニファー王子も……アデヤ殿下だって、お姉様を最期まで信じてくれなかったからな……」


──う、上手く演技出来てるかな、おれ!?

 クロードは手に汗をかきながら、必死で嘘をついた。


「そう……そう……。全部、あいつらのせい……」

「……シル?」

「……クロ、ごめん。少しの間、一人にして……」


 シルフィトはフラフラと校舎の外へと歩いていった。

──大丈夫かな、あいつ……。


「シルフィトとは上手く話せたか?」


 アナスタシオスがクロードに声をかける。


「兄さん……見てたのか」

「お前が上手くやってるか心配でよお」


 アナスタシオスはケラケラと笑う。

 クロードは不満そうに口をむっと閉じた。


「……シルフィトには何も言わなくて良いのか」

「おー」

お姉様(アナスタシア)が亡くなって、一番悲しんでるのはシルだ。見ればわかるだろ。正直、見てられないよ……」

「シルフィトには悪いと思ってる」

「本当か?」


 クロードは疑いの目を向ける。


「本当だっつの。あいつに監禁されたこと、未だに恨んでるとかじゃねえ」

「恨んでるんだな」

「……まあ、多少は?」


 アナスタシオスは戯けたように笑った。


「シルフィトにゃあ、『強い恨み』を持って貰わねえといけねえからな。まだ真実は伝えねえ」

「強い恨み……」

「あいつの原動力だ」


 アナスタシオスはニヤリと笑う。


「確かにヤンデレは恨み深いけど……」

「何も言わなくても、シルフィトは勝手に動ける。あいつは賢いから、俺達の不利益になるようなこたあ、しねえさ」

「……だと、良いけど」

「復讐するのは俺達だけじゃねえ。地獄を見せてやるぜ、我が主人公(ヒロイン)サマ」


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