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兄の本音を聞き出そう!計画

──兄さんがあんな目に遭っていたなんて……。

 寝巻きに着替えながら、クロードは気づけなかった自分を責めた。

 アナスタシオスは教師やメイドに馬鹿にされることに慣れていた様子だった。

 でなければ、落ち着いてクロードを宥めることなどしない。

 その兄の行動が余計に腹立たしかった。

──いつもの兄さんなら直ぐにブチギレてたはずなのに……。

 確かにクロード達はど田舎者だ。

 貴族のルールもダンスも初めて知る。

 しかし、いじめられる謂れはない。

 惚れてきたのは向こうの方だ。

──女として振る舞うだけでも相当なストレスなのに、あんな風にいじめられて……。しかも、怒りを飲み込むしかないなんて。

 ゲーム本編では考えられなかった光景だ。

 悪役令嬢アナスタシアは、傲岸不遜で唯我独尊な性格。

 思ったことは直ぐに言うし、思いついたことは直ぐに行動に移す。

 悩みなんてなさそうだった。

 しかし、その認識は誤りだったのかもしれない。

 積もり積もった今までの怒りが、ゲーム本編で爆発していただけの可能性がある。

──だとすれば、怒りを発散させてあげたいけど……。どうやって?

 クロードは「はあ」とため息をついた。


「せめて愚痴でも聞ければなあ……」

「アナスタシオス坊ちゃまのことですか?」


 メイばあやは紅茶の入ったティーカップを机の上に置いて言った。

 寝る前の一杯に、メイばあやはいつも淹れてくれるのだ。


「メイばあや……」


 クロードは唇を尖らせる。


「駄目だぞ、ばあや。これからはアナスタシアって呼ばないと」


 アナスタシオスが男だと知っているのは、国王、父母、弟のクロード。

 そして、昔からフィラウティア家に仕えている唯一のメイド、メイばあやだけだ。

 クロードの家は田舎の貧乏貴族。

 使用人はメイばあや一人だけだった。

 アデヤとの婚約が成立してから、新しい使用人が来たが、彼らには何も伝えられていない。

 何処に噂好きがいるかわからないためだ。

──王子の婚約者が同姓なんて、大スキャンダルだからな。有名人ってのは大変だ。国王もそこまで考えるなら、アデヤに告白した相手が男だって教えてあげろよ……。

 ちなみに、昔のアナスタシオスを知る者達には、

『アナスタシアが美し過ぎるあまり、何処の馬の骨とも知らぬ男から求婚されるのを恐れたため、アナスタシアの両親は男の子として育てていた』

 というカバーストーリーが流布されている。


「今ここにはクロード坊ちゃまとばあやしかいませんよ。アナスタシオス坊ちゃまを本当の名前でお呼びしても良いではありませんか」

「……確かにそうだな」


 クロードはハッとする。

──そうか。二人きりになれば、兄さんは隠し事をしなくて済む。愚痴を吐き出せるかも……。


「なあ、ばあや。おれと兄さんの二人きりで話したいんだけど。いつなら空いてる?」

「そうですねえ……。今、アナスタシオス坊ちゃまは王妃教育でてんやわんやですから……」

「それをどうにか!」


 メイばあやは顎に手を当てて考える。

 少しして、「ああ」と思い出したかのように言った。


「お風呂はばあやとしか入りませんよ。裸を見られると男の子だとバレてしまいますからね」

「兄さんは一応、婚約者のいる女性ってことになってるんだぞ? 弟とはいえ、異性と入るのはちょっと……」

「では、寝室にいるときはどうでしょう? アナスタシオス坊ちゃまの寝室には、ご家族とばあやしか立ち入れないようになっておりますよ」

「そうなのか?」

「ええ」


 メイばあやは頷いた。


「流石に、寝ている間も女のふりをしろ、だなんて無理な話ですもの。朝の着替えのときも、裸を見られてバレてしまいますしね」

「うーん。夜に寝室でこそこそ会う? そっちも怪しいような」


 むしろ、そっちの方が怪しい気もする。

 そう思ったが、十歳にも満たない子供が──しかも兄弟が、寝室で何をするというのだろう。

──おれ、心が汚れている……。これは前世を思い出した弊害だな……。

 そう自分に言い聞かせた。


「……まあ、風呂よりは断然マシか。早速、紅茶とお茶菓子を持って、兄さんの寝室に行こう!」

「今からですか?」

「出来るだけ早い方が良い!」


 クロードは鼻息を荒くして言った。

──足を引っ掛けられて、頭に来てるだろうし。兄さんの性格なら、今直ぐ愚痴を言いたいはずだ!


「承知しました。しかし、一つ問題がありますよ、クロード坊ちゃま」

「え。問題?」


 クロードは首を傾げる。


「アナスタシオス坊ちゃまは愚痴を零してくれるでしょうか。坊ちゃまは何でもないように取り繕うのが得意ですし」

「任せとけ、ばあや。おれに考えがある」


 クロードは胸をドン、と叩いた。

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