表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/79

理想の姉弟

 賢王が統治する国、賢国。

 賢国では、三ヶ月に一度、賢国民共通テストが行われている。

 そのテストの結果によって、次期賢国王が決定する。

 この国をより良いものにするため、自身の野望のため、皆、このテストに人生を賭けるのだ。

 賢国王の子は生まれたときから最高峰の教育を受けることとなる。

 シルフィトもその一人。

 彼は八人兄弟の末っ子に生まれたが、成績は兄弟の誰にも劣らなかった。

 次期賢王の筆頭候補だと噂される程に。

 当然、兄と姉からは嫉妬された。


「どうして、一番最後に生まれたあいつが……」


 嫉妬に駆られた兄姉は、シルフィトの勉強の邪魔をし始めた。

 シルフィトが勉強している横で騒音を立てたり、彼の参考書を隠したりという、幼稚な嫌がらせが続いた。

 シルフィトは相手にしなかった。

 兄姉達は次期王になるべく、カンニングや答案の入手など、不正を働く馬鹿ばかりだと知っていたから。

 いつか必ずボロを出し、自滅するとわかっていた。

 そして、いつしか、七人もいた兄姉はシルフィトの前から姿を消していた。

 賢い賢国王のことだ。

 彼らの罪を暴き、処罰したのだろう。

 シルフィトにとってはどうでも良いことだった。

 だから、知ろうとも思わなかった。


 □


 そんなある日、外に出る機会があった。

 そこで初めて、平民の暮らしを見た。

 書物を読んで、どのような暮らしをしていたかは知っていたが、実際見るのは初めてだった。

──みんな、阿呆みたいな顔してる……。

 勉強に追われず、伸び伸びと過ごしている彼らを見て、シルフィトはそう思った。


「姉さん、姉さん! ぼくね、テストで満点取ったんだよ!」


 シルフィトと同じ年頃の少年が、姉であろう少女に笑顔でそう言った。

 平民とはいえ、勉強がない訳ではない。

 学校は至る所にあるし、テストも頻繁に行われている。 


「テストで満点!? 凄いじゃない!」


 そう言って、少女が少年の頭を撫でていた。

──良いなあ、あれ。

 シルフィトは二人のような、『普通の兄弟』に強く憧れた。

 シルフィトの兄と姉は、彼を蹴落とそうと必死で、可愛がってはくれなかった。

──いつか、『お姉ちゃま』か『お兄ちゃま』と呼べる人と、お勉強が出来たら……。

 そんな淡い期待を込めて、キュリオ学園に入学した。

 教育の質は高いとは言えないが、国を問わず、様々な人と会える。

 理想の『お姉ちゃま』か『お兄ちゃま』に会えるかもしれない。

 しかし、理想の人はそう簡単に見つからなかった。

 馬鹿ばかりで、話も合わない。

──つまらない。

 これでは、ここに来た意味がない。


 そんなとき、クロードが転校して来た。

 馬鹿みたいな面をしていると思ったが、意外と勉強が出来るようで驚いた。

──彼なら、友達になってやっても良いかも。

 そう思って声をかけた。

 そうしたら、なんと、噂の美しい人──アナスタシアが姉だと言うではないか。

 噂を聞く限り、彼女の印象はあまり良くはなった。

 しかし、会って話してみたら、全く印象が違った。

 シルフィトに微笑みかけ、優しく接してくれた。

──正に、理想のお姉ちゃまだ……!

 アナスタシアを自分の姉にしようと目論んだこともある。

 しかし、アナスタシアはクロードの姉。

 奪ってはいけない。

 シルフィトは二人が好きだ。

 ライバルのクロード。

 優しい姉のアナスタシア。

──シルはクロのお姉ちゃまをしてるお姉ちゃまが好き。この姉弟を守るためなら……。


「シルは悪役になったって構わない」


 シルフィトはそう言葉を綴った。

 彼の話をアナスタシオスとクロードは黙って聞いていた。


「二人の幸せを守る。絶対に。誰にも理解されなくてもやり通す。ここに閉じ込めて、卒業したら二人を賢国に連れて帰る。そうしたら、一生、シルが二人を守れる!」


──バチン!

 突如、シルフィトの頬に平手が飛んだ。

 アナスタシオスがシルフィトを叩いたのだ。

 シルフィトはじんわりと熱くなる頬を抑えて、目を白黒させた。


「……え。え? 今、叩い……?」

「シルフィト、貴方、大馬鹿者ね」

「し、シルは賢国の次期王なんだよ!? いくらクロのお姉ちゃまでも、シルを馬鹿にするなんて……!」

「わたくしは何も間違ってないわ」


 アナスタシアは髪を手で払う。


「シルフィト、何故わたくし達が脱出出来たにも関わらず、ここに残ったかわかる?」

「えと。シルの考えが理解出来たから……?」

「違うわ」

「じゃあ、なんで……」


 シルフィトの賢い頭でいくら考えても何も思いつかない。

 アナスタシオスは呆れたようにため息をつく。


「貴方が好きだからよ」

「……え」

「貴方はわたくし達を誘拐して監禁した。わたくし達が脱出して、然るべきところに報告したら、貴方は罪に問われる。……それは、嫌なの」

「だったら! ……ずっと、ここにいてよ」

「それは出来ないわ。もう、外部にこの監禁が知られているもの」

「……ミステール・ウィッシュ・プラグマ……」


 シルフィトは爪を噛む。

 ミステールを黙らせるには、一筋縄ではいかないだろう。

 シルフィトはそのことをわかっているらしい。


「今なら、まだ間に合う」


 クロードは前に出る。


「おれ達はシルの別荘に招待されて、連絡も忘れて遊んでいたことにしよう。これなら、誰も、悪役にならずに済む」

「もうなってるじゃん! 学園で! お姉ちゃまが悪役にさ!」


 シルフィトはその場に蹲る。


「シルは、これ以上、二人に傷ついて欲しくない……!」


 ぐすぐすと鼻を鳴らす音が聞こえる。

 クロードはシルフィトの肩に、そっと手を置いた。


「シルは悪役なんかじゃない。おれ達はわかってる。シルは誰よりも優しい奴だ。だから、進んで悪役になるなよ」

「クロ……」


 シルフィトは顔を上げた。


「そうよ、シルフィト」


 アナスタシオスが笑いかける。


「嫌いになっても良いなんて、寂しいこと言わないで。わたくし達が貴方のことを大好きな気持ちは変わらないわ」

「クロのお姉ちゃま……」

「数日間、わたくしと弟を守ってくれてありがとう」

「う、うう……」


 シルフィトは声を上げて泣いた。

 ごめんなさい、ごめんなさい、と叫びながら。

 それに釣られて、クロードも涙を流した。


 □


「久しぶりの外だ……」


 二重扉を開けた先は、予想通り、シルフィトの別荘の中だった。

 別荘の外に出て、大きく深呼吸をした。

 外の空気を肺に入れる。


「アナスタシアお嬢様! クロード坊ちゃん!」


 ミステールとメイばあやが屋敷の中から現れる。


「無事脱出なされたようで」

「ミステール! どうして、屋敷の中から!?」

「監禁部屋から引き上げた後、外で待機していたメイさん共々捕縛されましてねえ」

「捕縛!?」


──マジか! あのとき脱出してたら、結局監禁部屋に逆戻りだったんだな……。

 結果論になるが、残ってて良かった、とクロードは思った。


「それから、屋敷の中で丁重にもてなされてました」

「もてなされるな」

「勿論、一週間経っても出て来ないようなら、強行突破するつもりでしたよ?」

「どうやって?」


 シルフィトが「聞き捨てならない」と言うように尋ねる。

 ミステールは唇の人差し指を当てる。


「それは企業秘密ですよ」

「……やっぱり、ミステール・ウィッシュ・プラグマは油断出来ない」

「僕はもうただのミステールです。シルフィト王子」


 ミステールはへらへらと笑った。

 シルフィトはクロード達に向き直る。


「クロ、クロのお姉ちゃま。本当にごめんなさい」

「良いの。わたくし達の身を案じてくれたんでしょう?」

「シル、結局二人に何も出来なかった。閉じ込めて困らせて……何も解決しなかった。シル、大馬鹿者だったね」


 シルフィトは自嘲気味に笑った。


「いいえ。わたくしも覚悟を決めたわ」

「え?」

「流れに身を任せてるだけじゃいけないと気づいたの。わたくし、レンコちゃんと戦う」

「クロのお姉ちゃま……! シルも協力する! 何でも言ってね!」

「ありがとう。心強いわ」


 アナスタシオスは笑った。


「そ、それでね、クロのお姉ちゃま」


 シルフィトは指をもじもじとさせながら言う。


「シルのお姉ちゃまになって貰えない?」

「ごめんなさい。お姉ちゃまにはなれないわ」


──男だし。

 そう思って、咄嗟に口に出た。

 シルフィトは下を向く。


「そう……だよね。クロがいるもんね」

「でもね、シルフィトのことはもう一人の弟だと思ってるわ」


 アナスタシオスはシルフィトの頭を撫でる。


「クロードと同じくらい、シルフィトも大切よ」

「お姉ちゃま……シル、嬉しい!」


 シルフィトはアナスタシオスに抱きつく。

 クロードはぎょっとした。

──大丈夫? 男だってバレない?

 目でアナスタシオスに問いかける。

──平気平気。

 アナスタシオスは笑顔で返した。


「じゃあ、戻りましょうか。わたくし達の学園に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ