友達でいたい、いさせて
「……脱出、一日だけ待ってくれないか」
「あ?」
アナスタシオスが「何言ってんだ」という目でクロードを見た。
「おれがシルを説得する。ここから出してくれるように」
「あのねえ、クロードくん……」
ミステールは呆れたように言う。
「脱出のチャンス、もう二度とないかもしれないんだよ?」
「わかってる。シル相手に二度目はないことくらい。でも……ここで何も言わずに出て行ったら、もうシルとは友達でいられなくなる」
アナスタシオスは「そりゃそうだろ」と鼻で笑った。
「誘拐して監禁した相手と、これからも仲良く、なんて出来る訳がねえ。それを選んだのはシルフィトだろ。自業自得だ」
「本当にそうなのか?」
アナスタシオスの眉がピクリと動く。
「……何が言いてえんだ?」
「シルフィトは選ばされたのかもしれない。シナリオの強制力によって」
「それでもだ」
アナスタシオスはため息混じりに言う。
「自分の行動には自分で責任取らなきゃなんねえ。シルフィトももう高等部一年だ。善悪の区別がつくようにならなきゃなんねえ」
「兄さんの言ってることは正しい。どうしても、おれが納得出来なくて……」
「どうしてそう思う? はっきり言え」
アナスタシオスはクロードの目を見て問う。
クロードは自分の気持ちを言葉に落とし込む。
その間、アナスタシオスは待ってくれていた。
「初めての友達なんだ。転生してからの」
今や兄のアナスタシオスもミステールもクロードの味方ではあるが、それ以前は孤独だった。
ゲームの舞台となるキュリオ学園に入学した初日、教室に見知った人はいなくて、クロードは酷く緊張していた。
そこで、最初に声をかけてくれたのはシルフィトだ。
少し生意気で高飛車なところがあったけど、アデヤと決闘することになったときには心配してくれた。
今回の監禁事件も、悪い噂の的になっているアナスタシオスとその弟のクロードを保護するために引き起こしたものだ。
「出来ることなら、まだ友達でいたい……」
その小さな声は、アナスタシオスには聞こえなかったかもしれない。
クロードは首を横に振る。
やはり、自分の我儘に、アナスタシオスを巻き込む訳にはいかない。
「兄さんだけでも脱出してくれ。おれはシルともう一度ちゃんと話してみる……」
アナスタシオスは深いため息をついた。
「そう言われて『はい。脱出します』なんて言える訳ねえだろ。俺がいなくなったら、どう言い訳すんだ?」
「そ、それは……」
「シルフィトも冷静に話を聞いてられねえだろ。俺も残る」
「ナーシャ坊ちゃんまで……」
ミステールは苦い顔をした。
「助けに来た僕とメイさんの苦労をちょっとは考えてくれませんかね?」
「俺の使用人になるってのはそういうもんだ。つうことで、ご苦労だった!」
アナスタシオスはミステールの背中を押した。
ミステールはため息をつき、縄梯子を掴んだ。
「もう一度言っておきますけど、僕達が助けに来れるのはこれで最後だと思って下さいね」
振り向いて、口を尖らせて二人に言った。
「おーおー。わかったって。こっちで何とかするわ」
ミステールはもう一度深くため息をついて、縄梯子を登っていった。
□
監禁生活三日目、夜。
「最後のチャンスだったのにね」
シルフィトは扉を開けて、開口一番にそう言った。
「……何の話だ?」
「シルが知らないとでも? 白昼堂々、人の家の屋根の上に登るなんて。一体、使用人にどういう教育してるの?」
おそらく、ミステールが監禁部屋に訪れたときのことを言っているんだろう。
──気づかれていたのか……。
ミステールの言った通り、二度目の脱出の機会はないだろう。
「主人思いの良い使用人だよ」
クロードはミステールとメイばあやを思い出して笑う。
ここまで助けに来てくれたのだ。
感謝してもし足りない。
「残ってくれたってことは、シルの考え、理解してくれたんだね」
「それは違う。シルとはちゃんと話をしなきゃならないと思ったんだ」
シルフィトは甲高い笑い声を上げる。
「言葉でシルを説得するつもり!? 笑わせないでよ。シルは覚悟を決めてる。言い負かせると思ったら大間違いだよ」
「言い負かすつもりはない。だって、おれとシルは敵じゃないんだから」
シルフィトはピタリと笑いを止める。
「……何を言ってるの?」
「お姉様を守りたい……そう思う気持ちは同じだ。争う必要はないだろ」
「そう。わかってくれたんだね。ライバルのクロなら、シルの気持ちわかってくれると思っ──」
「でもな、シルの計画は穴だらけだ」
シルフィトは怒りで顔を歪める。
「誰に向かって言ってるの? 完璧な頭脳を持つ賢国の王子たるシルの計画が! 穴だらけな訳ないでしょ!?」
「穴だらけだ。シルが一人、悪役になる計画なんて」
シルフィトは黙った。
アナスタシオスの推測通りなら、この監禁はシルフィトの独断だ。
バレてもシルフィト一人の責任になる。
そして何より──。
「監禁なんてしたら、おれ達に嫌われることくらいわかってただろ」
シルフィトの目に涙の膜が張る。
それを隠すように、シルフィトは下を向いた。
その勢いで、涙が零れ落ちた。
「……これが一番、簡単な方法だった」
「簡単な訳あるか。たった一人で二人を世話するなんて、苦労するだろうに」
「苦労なんて苦じゃないよ。シル一人が苦しい思いするだけだと考えたら。二人のためなら……。二人に嫌われたって良い」
「どうしてそこまで、おれ達に……」
シルフィトは頬を赤らめて笑う。
「二人は、シルの理想だったから」




